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神を裏切り貴方と繋ぐ
Sー27、我慢比べ
しおりを挟む隣の染井川さんから、規則正しい寝息が聞こえてくる。
あの日以降、染井川さんは俺と寝るようになった。寝るっていっても、文字通り同じ布団で寝るだけだ。抱いてくれって言っても、前よりすげなく拒否られるようになってしまった。乗っかって挿れようとしても、数度抱いたら飽きてしまったのか、勃起すらしなくなったので不可能だ。だから、ここ数日染井川さんとエロい事はしていない。
上手く眠れなくて体を起こしたら、寝ぼけたまま染井川さんが俺の腕を掴んでくる。
「トイレ行ってくる」
「ん……」
俺の声を聞いて、すぐに指は離れていく。染井川さんの掛け布団の乱れを直してから、そっと布団を抜け出した。トイレで小用を足して、部屋に戻ってきてから布団には入らず窓の傍に腰を下ろす。
外は真っ暗で、窓の向こう側はひっきりなしに降り続ける小雨で濡れていた。冷たいガラスに触れ、視界のチャンネルを変える。
まずは、家の外周を覆うように掛かった紋を読み解く所からだ。染井川さんが掛けた紋は巧妙に視界を歪めるように描かれていて、その正確な形を視るだけで精神力が必要になる。布団に入ってからは目を閉じてじっとしていたから、昨夜よりは集中が保つだろうか。
淡い光を追うように指を動かす。多重に掛けられた紋は見ただけでは理解出来ないだろうから、一つ一つなぞって読んでみるしかない。まず、壁。染井川さんが志摩宮に掛けた見えない壁の紋は記憶にあるし、これがベースなのは間違いない。それから、時間制限。これは紋の本で見た覚えがある。この時間制限の紋が複数掛けられて、残り二つの紋と繋げられている。この、残り二つが読めないのだ。染井川さんの部屋にあった紋の本はほぼ全てに目を通した筈だが、この二つと該当する紋は無かった。
染井川さんのオリジナルだとしたら、解くのはほぼ不可能だ。重なっているせいで正確な形すら分からないのに、それを解くなんて。神様の加護ぐらいの力量差があれば無理やり壊すのも可能だろうが、今の俺には出来ないし。
なんとか指でなぞってみようとするが、途中で間違えたのか、視覚化していた紋が霧散した。集中が切れて、溜め息を吐く。紋を視ていただけなのに霊力を馬鹿喰いされた。もしかしたら、時間制限の影に霊力を吸うのも隠されているのかもしれない。俺が紋を解こうとしているのは知っている筈だし、陰湿な染井川さんなら有り得る。
「う……ん」
染井川さんが寝返りを打ったので、ゆっくり振り返る。たまに染井川さんは苦しそうにうなされる事がある。撫でてやればすぐに止まるから、俺が起きている時はいつもそうしていた。今日は違ったらしく、また穏やかな寝息が再開される。
染井川さんは、生まれた時は自力ではまともに動けないほど体が弱かったらしい。それを自らの霊力と術師だった父親からも霊力を受け渡して貰ったりして、どうにか動かして生きていた、と。父親が呪物の箱で死んで箱に囚われてからは大量の霊力量を保有するその箱から吸い出していたらしいが、年々、体を動かすだけに使う霊力量が増えてきたという。そして、箱に残存する霊力量もここ数年減り続けていて、おそらく数年以内に枯渇する。
だからそれまで。自分が死ぬそれまでだけ、一緒に居てくれ、と言った染井川さんの顔が思い出されて、喉の奥が重苦しくなる。
ほだされたわけじゃない。理由があれば誘拐監禁が許されるわけもない。けれど、実際目の前で死を眼前にした染井川さんを責められるほど、俺は無神経でもなくて。結局、それまで通り染井川さんの愛玩ペットとして飼われながら、こっそり脱走計画を練るのがせいぜいだ。
「ふあ……」
耐え切れず欠伸が出て、ぐっと伸びをした。
神様に見捨てられてから、やっと最近俺は俺自身の霊力量が分かるようになってきた。最大量も多くないし、回復にも時間が要る。食事で回復が早まるみたいだけれど、それでも即回復する訳でもない。術師としてはそれほど優秀な素質は持ってない。
だから、染井川さんの紋を読み解けるのは一日に一回だけだ。疲れるから。
大量の霊力を喪失したからか、眠気が襲ってきて静かに布団に戻った。染井川さんが寒そうに震えてから、暖を求めて俺に手を伸ばしてくるので大人しくその腕の中に収まって寝ることにする。
染井川さんの大きな手が俺の髪を撫で、首を撫で、背中を撫でて尻まで下りてきて少し体が反応してしまう。唇を噛んで、静まれ静まれと念じてなんとか眠りに落ちた。
翌朝起きた時には、もう布団に染井川さんは居なかった。玄関に靴も無くて、外に車の影も無いから今日は仕事に行ってしまったようだ。
一人の日は特につまらない。染井川さん自体、もともと話し好きじゃないけれど、会話する相手がいるだけで全然違う。一人きりだと、一日中ずっと本を読んでいるしかない。
紋の本はもう飽きたので、他の本が無いかと染井川さんの部屋を漁る事にした。窓とドアのある二面以外の壁は本棚になっていて、大量の本と書類を纏めたファイルがぎっしり詰まっている。染井川さんは大雑把にしか整理していないらしくて、大体の区分でしか纏まっていないけれど。
紋の本じゃなければ何でもいいや、と手に取った本は、どうやら呪札の本のようだった。大量の付箋と、綺麗な字で注釈まで振ってある。これ、染井川さんの字だろうか。繊細な字が意外で、染井川さんの机から書き掛けらしい書類を見つけて確認してみたら、どうやら間違いないらしかった。ぐじゃっと読めない字を書きそうなタイプだと思っていたのに。
「今日はこれにしよ」
その本と、ついでに机からボールペンとコピー紙を拝借していく。
部屋に戻ってちゃぶ台を出し、読みながら呪札の模様をボールペンで描いていく。
「お? これは……」
呪いの模様は、呆気ないほどすらすらと書けてしまった。紋に比べて、描く時の霊力の消費量がかなり少ないのだ。
最初のページの模様は結界を作る為の札で、その辺に貼ってももとから染井川さんの結界の張られたこの家では機能しているかを確認出来ないので、次のページの空間を浄化する札を書いてみることにした。これなら、貼る時に多めに霊力を注げば光るから見やすいだろうと思ったのだが。
「あれー?」
書き上げた札を貼る時に霊力を篭めようと思ったら、それ以上入らずに紙が破れてしまった。
コピー紙にボールペンなのがいけなかったのかと、面倒だけれど染井川さんの部屋に行って和紙と筆ペンを出してきた。染井川さんがこれで呪札を書いているのを見た事があるから、道具としては十分の筈だ。
なのに、二度目もやはり、霊力を篭めようとすると破れてしまった。
それならばと書く時に吸われる分より多く注いでみたら、書き終える前に紙が破れてしまう。仕方なく普通に書いただけの札を貼ってみたが、やはり作用せず光が見えない。染井川さんの紋でガチガチに清浄にされたこの家では、こんな小さな浄化札では浄化しようにも何も無いのだろう。
何か分かりやすいの無いかな、とペラペラと捲ると、人を動けなくする呪札があった。邪魔そうな一般人、術師に使う、と注釈が書いてある。綺麗な字だけど、やっぱり染井川さんだ。この模様はそこそこ霊力が必要だった。
書き終えて、軽い気持ちで自分の膝に貼ってから、やばい、と気付いた。
足だけじゃない。全て動かなくなってしまった。幸いだったのは、『身動きを封じる札』だった事だろう。腕や足は微塵も動かないが、呼吸は出来るし心臓も動いている。呼吸に合わせて自分の胸が動いて、瞬きが出来る事にも感謝した。
俺の手は膝に呪札を貼ったまま止まってしまっていて、足はあぐらのまま。
これは、染井川さんが帰ってくるまでこのままかな。絶対馬鹿にされるな、とげんなりした。今日の帰宅は何時頃だろう。あまり遅くないといいのだけれど。
そして、帰宅した染井川さんの第一声はやはり、
「お前、本当に馬鹿なんだな」
という、心底から呆れた声だった。
動けない俺の前のちゃぶ台と、広げられた本と何枚かの書き損じを覗き込んで、「呪札に霊力は注げねぇぞ」と、先に言っておいて欲しかった事を教えてくれる。
だけれど、今はそんな事はどうでもいいのだ。
早く剝がしてくれ。
睨む余裕なんて無い。ただ見つめて、早く、と祈るしかない。
限界なのだ。主に膀胱が。
だというのに、染井川さんは悠長に俺の横にしゃがみ込んで、揶揄うように俺の膝を指で叩く。
「何時間このままだったんだ? 俺が泊まりの仕事だったらどうするつもりだ、馬鹿が」
言葉はきついが、その顔は楽しそうだ。動けない太腿を叩かれて、とっくに感覚を無くしていた膝がビリビリ痺れて叫びそうになるのにそれすら叶わない。漏らしそうなのをぐっと我慢して必死で見つめたら、ようやく膝の札を剥がしてくれた。
「……っ」
「おいおい、大丈夫か?」
慌ててトイレに走ろうとするのに、痺れて縺れた脚では立てなくて、倒れ込んだ俺の太腿を染井川さんが立ち上がって踏んでくる。痛みと痺れでのたうつ俺を見下ろして、染井川さんは一層笑みを深めた。爪先で膝を蹴り開けられたと思ったら、開いた股間を踏まれて小さく悲鳴を上げた。
「ひっ」
痛みはそれほどでも無かったけれど、限界だったそこには十分過ぎる刺激だった。じゅわあ、と溢れた小水で下着が濡れていく。見る間に浴衣も染井川さんの靴下にも俺の小水が染みて、畳に黄色い水溜りが出来た。
「あーあー、こんなとこで漏らしやがって。畳に染みるじゃねぇか」
叱るみたいに言う癖に、染井川さんは俺の小水で濡れた足を見て笑い、スーツのスラックスまで汚れるのに膝をついて俺の下着を脱がせようとする。
「自分で、着替える……っ」
逃げようとするのに、染井川さんは素早く俺の根を掴みとった。きゅ、と指で締められると、まだ奥に残っているのが出そうで泣きそうになる。染井川さんは片手で俺の浴衣と下着を脱がせて丸めたそれらで畳を拭くと、おもむろに俺の陰茎を口に含んだ。
「ひゃっ」
「指で弄って勃たねぇんだから、まだ残ってんだろ? 出しちまえ」
そう言って音がするほど強く吸われて、催しそうになったけれど必死に耐える。染井川さんの頭を掴んでそこから離そうとするのに、彼はじゅうじゅうと更に強く吸ってきて、まるで俺のおしっこを飲みたいみたいだ。
「やだぁ、染井川さっ、……や、あぁっ」
吸われながら先っぽを舌で舐められて、こそばゆさに耐え切れずまた失禁してしまった。ちょろろ、と染井川さんの口の中に出してしまったのを、目を閉じた染井川さんがごくごくと飲んでいるのが信じられない。漏らした上に飲まれるなんて恥ずかしいし最悪な筈なのに、あまりに抵抗無くそんな事をされるので、結局全部彼の口に注いでしまった。もう出ないのにお代わりを催促するみたいにちゅっちゅと吸われて今度は血が集まってきてしまう。
「ごちそーさん」
「染井川さんの、ド変態っ……!」
勃起し始めた俺の肉茎を手で扱きながら染井川さんは満面の笑みでそう言ってきて、さすがに怒鳴った。ド変態じゃ足りない。ドドドドド変態くらいだ。っていうか、満足そうな顔がエロ過ぎる。なんでおしっこ飲んでそんな嬉しそうなんだ。
「ついでだから、違う方も出しとけ」
な、と囁やかれてまたその口に咥えられそうになって、嫌々と首を振る。
「……そうか」
染井川さんはアッサリ諦めて俺から手を離した。丸めた浴衣と下着を持って部屋から出て行く。
「うぅ……」
中途半端にされた肉を掴み、自分で強く扱いた。まだ染井川さんの唾液と口の感触が残ってるうちに。手早く追い上げ、掌に精を吐いた。自分でするだけなら、一度で十分だ。
部屋の隅に転がっていたティッシュ箱からティッシュを取って拭ってそれをゴミ箱に捨てていると、染井川さんが雑巾片手に戻ってきて目を細める。が、何も言わない。
嫌なんじゃない。逆だ。挿入れて欲しいのにしてくれないから、だったらエロいこと全部無し、と俺が突っぱねて、今のところ染井川さんはそれを受け入れている。さっきの無理やりな変態行為といい、我慢が効かなくなるのも時間の問題だとは思うのだけど。
早くまた挿入れて欲しい。窄まりに捻じ込まれる熱を思い出して染井川さんを横目で見るが、もう彼は畳を水拭きして洗面所の方に戻っていく所だった。
「飯、まだだろ? 今晩は牛丼だからな」
シャワー浴びたらちゃぶ台片付けとけ、と言われて、また今日も俺の負けだと肩を落とした。
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