賞味期限が切れようが、サ終が発表されようが

wannai

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49 火曜

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 結局昨日はあれから、怖くなって逃げるようにログアウトしてしまった。
 公式からの『ソロコロで共闘は禁止です』という返答が欲しくて質問フォームから問い合わせを送ってみたが、今朝方返ってきたのは『ゲームの詳細はすべて公式サイトに書いてある通りです』という定型文だった。
 これではまるで、『違反と書いてない事はやっていい』とお墨付きを貰ってしまったようなものだ。
 ギルドぐるみで共闘をやらかすのはまあ、良い。
 あの人たちと一緒なら、ゲーム内掲示板でどれだけ叩かれようが笑い飛ばせる気がする。
 けれど、俺が大将というのはどうにかならないのか。
 俺は目立つのは好きじゃないし、なんなら亀砂と呼ばれるほどに隠れ潜む方が性に合っている人間なのに。
 日替わり定食のイカ人参を箸で摘み、ため息を我慢して咀嚼する。
 HAYATOさんの言った、「こうなったこいつらはムリ」というのを思い出し、そうだよなあ、と一人頷いた。
 面白いことに目が無い彼らが、下剋上なんて面白いに決まっている事を中止する理由が無い。
 俺とブラパのいさかいなど、きっかけに過ぎないのだ。
 
「あ、いたいた。えーっと……スズキ先輩!」
「ももちゃん、違います。コバヤシ先輩です」
「あーそうだった。コバヤシ先輩。こんにちわぁ~。聞きましたよ、下剋上企ててるんですって?」

 学食の端の端、窓の外を見ながら食べられる特等席でゆっくり昼時を過ごしていたのに、彼女たちはお構いなしに声を掛けてくる。

「こんにちは。俺が企画したわけじゃないですけどね」
「でもやる気ではあるんですね」

 右側に席が無く左側は柱を挟んで少し遠くにあるという最高の席をわざわざ選んだのに、倉本さんは俺の背後に並んだ長テーブルの方に持ってきたトレイを置いて「先輩もこっち座って下さい」と当たり前みたいに指示してくる。

「俺はもう食べ終わるから……」

 やんわり断ろうと首だけで振り返ると、そこには倉本さんと御堂さんだけでなくもう1人居た。
 倉本さんの隣、おそらくは俺が座れと言われた席の正面に大盛りの唐揚げ丼を置いているのは、忘れもしない、武内だ。

「……ども」
「……あ、その、どうも、こんにちは」

 気まずく思っているのは俺だけではないらしく、小さな挨拶と共に会釈されたので会釈を返すと彼はすぐ目を逸らして箸を持った。

「ども、じゃないでしょ。アンタ、今日こそ謝るって言ってなかった?」

 横から頭頂部に手刀を落とした倉本さんが言い、武内はウッと嫌そうに顔を顰めた。

「……っせーな」
「は? 今なんつった?」
「あ、あの、謝罪なら必要無いですから。前にも言いましたけど、あれはむしろ俺が不慣れでご迷惑をお掛けしたので、武内さんは全然悪くないですから」

 今にも喧嘩を始めてしまいそうな雰囲気に慌てて席を立って、もう8割食べ終えたトレイを持って彼らのテーブルへ移動する。

「隣、失礼しますね」

 今日はハンバーグ定食の御堂さんに断りを入れると、彼女は持っていたフォークをきゅっと指先で握り直して大きな目玉で俺を見た。
 なんだろう。俺を非難するような目だけれど、思い当たることが無い。

「日曜の、倫との試合、見た」

 武内が話し始めたのでそちらに視線を戻すと、彼は俺ではなく御堂さんを睨みながら口を動かした。

「あんな動き出来んなら、もっと見せた方が良いんじゃねーの」
「えっと……あれが出来る、って分かってる相手に気軽に奇襲、かけますか?」

 日曜に初披露した奇襲対策を言っているんだろう。
 しかしあれは、隠していたからこそ効いたのだ。
 御堂さんに目配せすると、拗ねたような顔のまま、

「気軽じゃない奇襲でもダメでした!」

 とサフランライスにフォークを突き立てた。
 それは御堂さんが俺の警戒心の範囲を気取るのが上手だからこそなのだけど、まだ土曜にも使うテなので黙っておく。
 武内に視線を戻し、汁椀を持ち上げた。

「御堂さんには攻略されずに済みましたけど、他の人……例えばDragOnさんなんかだったら、一度見せれば二度目は通じないでしょう。対策されない為には極力見せないのが一番なんですよ」
「じゃあなんで今、つーか、土曜の試合前に使ったんだよ? それも、誰でも見れる野良試合なんかで」

 説明した理由では不満だったのか、武内は今度こそ俺を睨んで言う。
 俺も問い返したい。なんで今俺は責められてる?

「えぇと……まあ、そのほら、それも作戦のうちなので……」
「スズキ先輩が何の理由もなくやるわけないでしょ。アンタじゃないんだから」
「戸林です」

 この場に4人しかいないなら、あのテは1対1でのみ有効で1対多では使えないからだ、と馬鹿正直に答えてしまってもいいのだけど、学食には数え切れないほどの人が居る。
 そのうち何人が週末のイベントに関わってくるか分からない状況で弱点を晒せるほど、俺は自分に自信はない。
 倉本さんが口を挟んでくれたので有り難く頷くと、武内は口をへの字に結んで怒ったように丼に目を落とした。

「あー、だめだ。本当素直じゃないね、考多は」
「……」
「あのね、スズ……コバヤシ先輩。コイツが言いたいのはね、ああいうプレイいっぱい見せれば色んな人に舐められずに済むんじゃないの、って事だから」
「舐められずに……?」

 交代とばかりに倉本さんが武内の代弁を始めたが、よく意味が分からない。

「コバヤシ先輩の立ち回りって、正直言ってコロシアムやってない勢からするとおりされてる芋砂なわけじゃない?」
「はあ」

 その通りなのだけど、直接言われると苦笑してしまう。
 横で御堂さんが「やってなくても、ちゃんと見てれば守ってるのがどちらか分かると思いますけど」とフォローしてくれた。
 良い人だよな、本当に。

「だから自分みたいにヘタクソで周りの見えない初心者プレイヤーにも分かるように派手なことしてくれたら、馬鹿にする人も減るんじゃないのー、って」
「……はあ」
「…………分かってる?」
「え、……っと、何を……でしょう」

 俺の立ち回りが弱そうに見える。分かる。
 派手な立ち回りは初心者にも分かりやすく馬鹿にされない。分かる。
 派手に立ち回れば俺も初心者に馬鹿にされなくなる。分かる。
 ……え、それで? 俺はどう答えるのが正解なんだ?
 味噌汁のじゃがいもを上顎で崩しながら考えたが、今の会話のどこに比喩や暗喩が含まれているのか分からずオロオロと3人の顔を順番に窺った。

「……った」
「え?」
「悪かった。前に、弱いとかコネ加入だとか言って……すみませんでした」

 頭を下げた武内の姿に、俺だけでなく倉本さんと御堂さんも驚いた顔をする。
 どうやら武内は普段からかなり強情な性格の人のようだ。

「あの、さっきも言いましたけど、あれは俺が悪かったんです。もっと効率の良いポイントの稼ぎ方があったのに、思い付けなかった俺のミスです。助けを求めてくれたのに応えられなかったんですから、ああ言われても仕方なかったです。武内さんが文句を言うのは当然ですよ。全然気にしないで下さい」

 自分でも不思議だけれど、今は心底からそう思っている。
 ブラパに叱られたからもあるし、倉本さんが俺に共感して怒ってくれたからもある。
 それから、恥ずかしさに身悶えながら何度も見返したおかげで、視界録画に映る嘘偽りない自分の情けなさを認めることが出来たから、も。
 次に同じような状況になったら、出来るだけ冷静に、頼ってくれた人の期待に添えるよう最善を探すつもりだ。
 失敗したからこそ、次に活かせる。
 むしろ武内が文句を胸の内に仕舞うタイプの人だったら、今頃俺の鼻っ柱はどれだけ長くなっていたか分からない。
 そう思うとゾッとする。

「いや、でも」
「もうやめて下さい。あの日のこと思い出すの本当に恥ずかしいんですよ。忘れて下さい。あ、いや、忘れたからって掛けたご迷惑が消えるわけじゃないんですけど」

 まだ何か言わんとする武内を両手を振って止める。
 武内は眉をピクピクと動かして、それから倉本さんに如何を問うように視線を動かした。

「うわ~、ビックリした、考多が謝るなんて」
「ここまでの浴びると考多くんでも反省するんですね」
「ね~」

 御堂さんとコソコソ話していた倉本さんは、自分に話の鉢が回ってきたとみると「んじゃ、まあ」とえくぼを作って笑う。

「その話はここまでって事で、本題入っていい? さっきの」
「ああ、いえ。ダメです。ここでは」

 本題というのが下剋上の話なら、と思い至って唇に人差し指を立てた。
 ソロコロが共闘可なのもうちのギルドが下剋上を予定しているのも、出来れば外に漏らしたくはない。

「あとで地球さんかマシューさんに直接聞いて下さい。2人のどちらかなら全体を把握してると思うので」
「オルテガさんじゃダメ? あの人が一番話しかけやすいんだけど」
「オルテガさんは……内緒事に向かないらしいので」

 昨日地球さんがオルテガさんを評した時を思い出し、確かに彼はバレるのを恐れてブラパと顔を合わせないようにする人だろうな、と納得した。
 そういえばギルドに入って初めて皆と組んで行ったチムコロでも、彼は面倒がっているのを悟られないうちにプレイアウトしようとしていた。
 まだ半年も経っていないのに、懐かしい気持ちになる。

「じゃあ私の話をしたいです」

 待ってましたとばかりに御堂さんが手を挙げたので、飲み切った汁椀をトレイに置いて「ごちそうさまです」と手を合わせた。

「それでは、俺はこれで」

 ロキワの話が終わったならもう俺は行きますね、と立ち上がろうとする手を、横から掴まれる。

「ちょっ……コバヤシ先輩、もうフラれたんですよね!?」

 キンとした声に叫ばれ、周囲の数人が何事かと視線を向けてきた。
 と思われるのはわりと恥ずかしく、逃げるように俯いた。

「倫、声でかい」
「ご、ごめんなさい。だって、コバヤシ先輩、まだ倫を避けるから……」

 倉本さんに叱られて謝る御堂さんだが、その口は自分は悪くないとばかりに尖っている。
 外見も内面も可愛いとは思うが、……ひしひしと、合わないな、と実感した。

「御堂さん」
「! なんですか、コバヤシ先輩。なんでも聞いて下さい。私、なんでも答えます。5月7日生まれのおうし座、A型、趣味は2対2以上の対戦ゲーム全般で、好きな物はパン屋さんのクッキー、今好きな人はコバヤシ先輩です!」

 名前を呼んだだけで顔を明るくしてキャッキャと話してくれる様子は、とても和む。
 犬だったなら家で飼ってもいいけれど、あいにくと彼女は人間なので。

「俺の好きな人は兎村さんって言います。身長が2メートル近くあって、すごく大柄で、顔が怖くて、耳に9つと唇に3つピアスの穴が開いている、俺のことなんか全然好きじゃない人です」

 にこ、と笑うと、みるみる御堂さんの顔が凍りついていく。
 俺の手首を服の上から掴んでいた手がゆるんだので、「それでは」とトレイを持って立ち上がった。
 返却所に向かう背中に、倉本さんの「もう諦めな」という声が聞こえた。








 バイトは休みだったので大学からまっすぐロキワにインしたけれど、その日も結局ブラパはマイルームから一歩も出てこなかった。


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