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しおりを挟む「おかえりー、星」
「おかえり」
「……ま」
着替えを持って迎えに来てくれたパパに連れられて帰宅した俺が虹と父さんに答えると、二人は顔を見合わせてニヤニヤと笑った。
何も言われないのが余計に恥ずかしく、けれど言い訳する為の声が出ない。喘ぎ過ぎで喉が嗄れるなんて思わなかった。
ぶすくれて靴を脱ごうとすると、横にいた澄晴が俺の足下にしゃがみ込もうとしてきて慌てて首を振った。
靴脱ぐくらい出来るから、と示すのに、澄晴は俺の遠慮を無視して靴の踵に指を差し込んで脱げと促してくる。
「うわー、完全にもう番扱いじゃん。良かったねぇ」
虹の揶揄うような台詞はどちらへ向けてのものなのか、じろりと睨むと彼は楽しくて仕方ないみたいにコロコロと可愛らしい声で笑った。
「あー良かった。星と澄晴がくっつかないなんて、そんなの悲しすぎるもん」
「……」
顔を合わせたら盗聴器について絶対怒ろうと思っていたのに、出鼻を挫かれて文句を言える雰囲気じゃない。
澄晴に目配せすると、一つ頷いてから虹に「ありがとな」と答えた。違う、そうじゃない。返事を代行して欲しかったわけじゃない。
うー、と唸ると澄晴は首を傾げて、虹はくっくと笑っている。くそ、文句言われるの分かって先に言ったな虹のやつ。
「おい、邪魔だ。さっさと入れ」
睨もうとすると、後ろからどんと突き飛ばされた。前にべしゃりと倒れ込みそうになったのを、隣の澄晴と、予知していたみたいに一瞬先に俺の前に滑り込んできた父さんが受け止めてくれる。
無言でじとっと睨む父さんに、しかし俺に後ろから膝蹴りを入れたパパはしれっと俺を押しのけて靴を脱いでリビングの方に入っていった。
「……寂しがる満さん、かわいい」
「え?」
「ん? あぁ、ごめんね、ひとりごと。それより体は大丈夫?」
やっと靴を脱いで上がり框に登った俺に、父さんが心配そうに訊いてくる。うん、と頷いてみせて、それから口を開こうとした俺の顔の前で父さんは両手で×マークを作った。
「……?」
「えーと、報告とかはいいから。俺たち親サイドは星たちが番うのに反対してる、って設定だからね。俺口下手だから星から聞いたことどっかでボロ出しちゃいそうだし、何か相談したくなったらパパの方にして」
ごめんね、と父さんは申し訳なさそうな顔をして、それから澄晴の方を見る。
「んと……、澄晴くん、星のこと、ちゃんと見ててあげてね。強がって大体の事は笑って我慢できちゃう子だから」
「……はい」
「星も、やせ我慢しないで必要な時は澄晴くんに頼るんだよ」
うん、と頷くと父さんはポンと手を叩いて、にっこりと笑顔を作った。
「さ、じゃあご飯食べよう。パパね、君らのお迎え行く前にいっぱいご馳走作ってたんだよ。嬉しいね~」
澄晴くんも食べて行くよね? と質問しながらも答えを聞かずに父さんは待ちきれないみたいにリビングの方へパタパタと走って行ってしまって、虹も「俺も配膳手伝う」と言いながらそれを追い掛けていった。
数秒後にリビングとキッチンに続くドアの方から「包丁持ってる時に飛びつくなって言ってんだろうが!」というパパの怒鳴り声が聞こえて苦笑する。
澄晴も上がれ、と声が出ない代わりにシャツの裾を引くと、彼は軽く屈んでから唇を合わせてきた。
「……っ、ち、が」
「ん? 違ったか?」
「~~っ!」
かすかすの声で暴言を吐いて澄晴の胸をぼかぼか叩くのに、澄晴はそんなことすら嬉しいみたいに目を細めて笑って、そしてまたキスした。
「これからはもっと、ちゃんと話そうな。……声が出るようになったらだけど」
「すば……の、せい、……ろっ!」
出ない声の代わりにダンダンと足踏みして、それからお返しとばかりに澄晴の唇に噛み付く。痛みに呻いた澄晴は、けれど困ったように笑ったまま俺を抱き締めて背中を撫でた。温かい掌が俺の背骨の形を一本一本なぞるようにゆっくり撫で下ろして、腰までくると引き寄せるように押してくる。
「……来世も予約してあんの、忘れんなよ?」
くす、と低く笑った澄晴は前に言った冗談を今さら掘り返してきて、目を丸くした俺にまたキスをした。
「……ら」
「ん?」
「にんげん、だったら」
魚介類とかだったら知らん。
照れ隠しに目を逸らすと、澄晴は急に真面目な顔をして俺の頬を両手で掴んだ。
「???」
「そういや言われてねぇ」
「は?」
「好きって」
「……あ」
そういえばそうか。
期待に満ちた目に見つめられて、うーんと考えてから内緒話をするように澄晴の耳に顔を寄せた。
「つがいになるまで、おあずけ」
にぃ、と悪戯っぽく笑うと、澄晴は思いきり顔を顰めて恨めしそうに睨んでくる。
そんな顔すんなって。今から大学卒業までの六年ちょっとは遠く感じるかもしれないけど、死ぬまで隣にいるならそんなの誤差の範囲内だ。
声が出るようになったら、『好き』の単語を使わずに好きを伝えまくってやるからな。
デレデレとだらしない笑顔で愛を伝える俺にどんな返事をしてくれるのか、期待に胸を膨らませながら澄晴の顔を掴んで飛びつくようにキスをした。
End.
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