隣り合うように瞬く

wannai

文字の大きさ
9 / 10

09

しおりを挟む

「おかえりー、星」
「おかえり」
「……ま」

 着替えを持って迎えに来てくれたパパに連れられて帰宅した俺が虹と父さんに答えると、二人は顔を見合わせてニヤニヤと笑った。
 何も言われないのが余計に恥ずかしく、けれど言い訳する為の声が出ない。喘ぎ過ぎで喉が嗄れるなんて思わなかった。
 ぶすくれて靴を脱ごうとすると、横にいた澄晴が俺の足下にしゃがみ込もうとしてきて慌てて首を振った。
 靴脱ぐくらい出来るから、と示すのに、澄晴は俺の遠慮を無視して靴の踵に指を差し込んで脱げと促してくる。

「うわー、完全にもう番扱いじゃん。良かったねぇ」

 虹の揶揄うような台詞はどちらへ向けてのものなのか、じろりと睨むと彼は楽しくて仕方ないみたいにコロコロと可愛らしい声で笑った。

「あー良かった。星と澄晴がくっつかないなんて、そんなの悲しすぎるもん」
「……」

 顔を合わせたら盗聴器について絶対怒ろうと思っていたのに、出鼻を挫かれて文句を言える雰囲気じゃない。
 澄晴に目配せすると、一つ頷いてから虹に「ありがとな」と答えた。違う、そうじゃない。返事を代行して欲しかったわけじゃない。
 うー、と唸ると澄晴は首を傾げて、虹はくっくと笑っている。くそ、文句言われるの分かって先に言ったな虹のやつ。

「おい、邪魔だ。さっさと入れ」 

 睨もうとすると、後ろからどんと突き飛ばされた。前にべしゃりと倒れ込みそうになったのを、隣の澄晴と、予知していたみたいに一瞬先に俺の前に滑り込んできた父さんが受け止めてくれる。
 無言でじとっと睨む父さんに、しかし俺に後ろから膝蹴りを入れたパパはしれっと俺を押しのけて靴を脱いでリビングの方に入っていった。

「……寂しがる満さん、かわいい」
「え?」
「ん? あぁ、ごめんね、ひとりごと。それより体は大丈夫?」

 やっと靴を脱いで上がり框に登った俺に、父さんが心配そうに訊いてくる。うん、と頷いてみせて、それから口を開こうとした俺の顔の前で父さんは両手で×マークを作った。

「……?」
「えーと、報告とかはいいから。俺たち親サイドは星たちが番うのに反対してる、って設定だからね。俺口下手だから星から聞いたことどっかでボロ出しちゃいそうだし、何か相談したくなったらパパの方にして」

 ごめんね、と父さんは申し訳なさそうな顔をして、それから澄晴の方を見る。

「んと……、澄晴くん、星のこと、ちゃんと見ててあげてね。強がって大体の事は笑って我慢できちゃう子だから」
「……はい」
「星も、やせ我慢しないで必要な時は澄晴くんに頼るんだよ」

 うん、と頷くと父さんはポンと手を叩いて、にっこりと笑顔を作った。

「さ、じゃあご飯食べよう。パパね、君らのお迎え行く前にいっぱいご馳走作ってたんだよ。嬉しいね~」

 澄晴くんも食べて行くよね? と質問しながらも答えを聞かずに父さんは待ちきれないみたいにリビングの方へパタパタと走って行ってしまって、虹も「俺も配膳手伝う」と言いながらそれを追い掛けていった。
 数秒後にリビングとキッチンに続くドアの方から「包丁持ってる時に飛びつくなって言ってんだろうが!」というパパの怒鳴り声が聞こえて苦笑する。
 澄晴も上がれ、と声が出ない代わりにシャツの裾を引くと、彼は軽く屈んでから唇を合わせてきた。

「……っ、ち、が」
「ん? 違ったか?」
「~~っ!」

 かすかすの声で暴言を吐いて澄晴の胸をぼかぼか叩くのに、澄晴はそんなことすら嬉しいみたいに目を細めて笑って、そしてまたキスした。

「これからはもっと、ちゃんと話そうな。……声が出るようになったらだけど」
「すば……の、せい、……ろっ!」

 出ない声の代わりにダンダンと足踏みして、それからお返しとばかりに澄晴の唇に噛み付く。痛みに呻いた澄晴は、けれど困ったように笑ったまま俺を抱き締めて背中を撫でた。温かい掌が俺の背骨の形を一本一本なぞるようにゆっくり撫で下ろして、腰までくると引き寄せるように押してくる。

「……来世も予約してあんの、忘れんなよ?」

 くす、と低く笑った澄晴は前に言った冗談を今さら掘り返してきて、目を丸くした俺にまたキスをした。

「……ら」
「ん?」
「にんげん、だったら」

 魚介類とかだったら知らん。
 照れ隠しに目を逸らすと、澄晴は急に真面目な顔をして俺の頬を両手で掴んだ。

「???」
「そういや言われてねぇ」
「は?」
「好きって」
「……あ」

 そういえばそうか。
 期待に満ちた目に見つめられて、うーんと考えてから内緒話をするように澄晴の耳に顔を寄せた。

「つがいになるまで、おあずけ」

 にぃ、と悪戯っぽく笑うと、澄晴は思いきり顔を顰めて恨めしそうに睨んでくる。
 そんな顔すんなって。今から大学卒業までの六年ちょっとは遠く感じるかもしれないけど、死ぬまで隣にいるならそんなの誤差の範囲内だ。
 声が出るようになったら、『好き』の単語を使わずに好きを伝えまくってやるからな。
 デレデレとだらしない笑顔で愛を伝える俺にどんな返事をしてくれるのか、期待に胸を膨らませながら澄晴の顔を掴んで飛びつくようにキスをした。
 




End.
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。 ◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。 ◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。

処理中です...