隣り合うように瞬く

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 開いたドアの向こうには、二人の大人の姿があった。
 俺のパパが前に、その少し後ろに澄晴の父親。

「な……」
「威圧で言うこと聞かして何処連れてくつもりだ?」

 まさか部屋の前で親が待機しているなんて思ってもみなかった澄晴は戸惑うように後退り、しかしパパが部屋に踏み込んでくると俺をその背に隠すように立ちはだかった。

「なんですか? 俺はただ、こいつが発情ヒートし始めたから家に送ろうとしてただけで……」
「そうかよ。だったら手間が省けたろ。さっさとこっちに寄越せ」

 パパの威圧に気押けおされるように、澄晴の威圧が薄くなる。すると抑え込まれていた発情の感覚が戻ってきて、ぎゅっと澄晴の腕にしがみついた。

「星」
「おい星。こっち来い」
「……や」 

 ふるふると頭を振って、伸ばされるパパの腕から逃げるように澄晴を盾にして隠れる。
 頭がぼんやりして、微熱がある時みたいに上手く働かない。だけど、さっきよりはマシだ。こわいな、発情期。思考しようという意識すら削がれてしまっていた。
 言いつけを破ると烈火の如く怒るパパが、しかし今は怒っていない。威圧フェロモンは滲ませているけれど、それは澄晴に対してで、俺に対してじゃない。
 そして、何故だか澄晴の家にいて、それも澄晴の父親と一緒にタイミングよく現れた。
 出来すぎている。何かおかしい。なにか。

「……うぅ」

 考えなきゃいけないのに、靄のかかる頭はうまく動いてくれない。
 苛立ちに任せて澄晴のTシャツをぐいぐい引っ張ると、澄晴は戸惑ったように俺の頭を撫でた。

「悪い、星。もう少し待っててくれ」
「待つも何も、親の俺に引き渡して終わりだろうが」
「……俺が連れて行きます。俺のフェロモンに反応したんで」
「無理やり『させた』んだろ。番でもねぇのにフェロモン当てて強制発情させて威圧で黙らせて、何処に連れてくつもりだったんだ、クソガキが」

 ずい、と澄晴に寄ってくるパパの顔には微笑みが浮かんでいて、なのに俺も澄晴も本能的に震え上がってお互いの腕をぎゅっと掴んだ。
 澄晴と数センチしか背丈は違わない筈なのに、パパがやたらと大きな化け物に思える。澄晴の握り拳がぶるぶる震えているのを感じて、勇気づけようと上から握った俺の手まで震えてしまって意味がない。

「……っ、俺、は」

 袋小路に追い詰められた小動物のような気持ちで一言も出せないでいるのに、澄晴が反抗するような声を出した。
 うわ、すごい。
 αならこの威圧にも耐えられるんだろうか、と澄晴を見上げると、しかし彼の顔は苦悶に満ちていた。

「どうするつもりだったんだ、って訊いてんだよ」
「お、れは……、星を、家に」
「連れてって?」
「鍵、鍵……を、開けて、首輪を」

 違う。澄晴もパパの威圧で喋らされているだけだ。
 答えたくないのか歯列を噛みしめて耐えようとして、それでも殺気混じりの威圧に負けてぶつりぶつりと言葉を落としていく。

「首輪外して? んで、嫌がる星を無理やり噛んで、番にしちまうつもりだったか?」
「……ちが、……星は、っ」
「番にしてどうすんだよ。うちとお前んちじゃ、誰もお前らの番婚を祝わねぇだろ。ヤクザとハッキリ縁繋ぎしちまったお前は議員職なんか出来ねぇし、お前の親も暢気に市長なんかしてらんねぇ。俺も自分のガキ一人躾らんねぇのかって評判ガタ落ちで今の地位から降ろされる。自分一人の感情で周り全部不幸にして、それでその先はどうするつもりなんだよ」

 澄晴を責めるパパの言葉は怒っているというより呆れたようで、唇の片端だけ上げて聞き分けのない子供に言い聞かせるみたいだ。
 ……やっぱり、変だ。パパが叱る時はいつも、俺に反論の余地どころか回答権すら与えてくれないのに。
 まるで澄晴にその先の、もっと先を見据えた答えを促しているみたいで──。

「ぁ」

 そうして、気付いた。澄晴に訊いているようで、これは俺へも質問しているのだ。
 叱ってるんじゃなく、考えろと促しているんだ。だから答える権利をくれている。
 ああ、そうだ。今澄晴と番になっても、周りの迷惑になるだけだ。どうしてか。家の相性が悪過ぎるからだ。そう、家。俺達の間にある問題は、家柄だけ。……そっか。

「澄晴! 俺と逃げよう!」

 思い付いたまま叫ぶと、ぶはっ、とパパが噴き出した。

「は? 星……え、逃げる?」

 肩を震わせるパパは威圧フェロモンを維持出来ずに散らして、それで拘束が解けた澄晴が戸惑ったように俺を振り向いて眉間に皺を寄せる。
 その二の腕を掴んで、良い案を思い付いた喜びのままにぴょんぴょんと飛び跳ねた。

「そう! あ、今じゃないぞ? 今逃げてもどっちも中卒で生きてくとか無理だし! 高校……、いや、大学出てからかな。俺達の家のことなんか誰も知らないようなめちゃくちゃ遠くに就職して、そっち行ってから番になればいいんだよ!」

 日本国内だと何かの拍子にバレるかもしれないからいっそ海外の方がいいかな、と俺が目を輝かせると、澄晴は最初何を言われているか分からないみたいに目を瞬かせて、それから自分の父親へ視線を向ける。
 俺達のやり取りを黙って見ていた彼は、澄晴に対して頭痛を我慢するみたいに眉間を揉んで重いため息を吐いた。

「……どうしてこんな簡単な事を、何年も思い付かないんだ……?」
「いやー、どっちも子育てが上手すぎたんじゃねぇか? 親がダメって言ったらダメ、なんてこの歳まで馬鹿正直に従うとか、普通思わねぇって」 

 ひとしきり笑ったパパは馴れ馴れしく澄晴の父親の肩に手を置き、「あー笑った」と言いながら首をコキリと鳴らした。澄晴の父親は邪魔そうにしながらも文句は言わず、まだ吐き足りないみたいにため息を吐く。
 親しげな様子の二人に俺と澄晴が目を丸くしていると、パパがニィと悪い顔で笑った。

「お前よぉ、俺の子なんだから表裏の使い分けくらいもっと上手くやれるようになれや」
「……!」

 あれだけ口を酸っぱくして「時柴のとこのは駄目だ」なんて言っていた人が、まさかその親と懇意にしているなんて思うわけがない。しかも、二人の様子を見るに、俺達の気持ちは筒抜けだったようだ。

「パパ……、俺が澄晴のこと好きだって、いつから……」
「いつから? いやお前ら、保育園入れた頃からずっとべったりだったじゃねぇか。坊主の方はまだフェロモンも出ねぇのにお前のうなじ噛みまくるしよ。小せぇ頃のお前、首の後ろ歯形だらけだっただろうが」
「え……」 

 確かにずっと仲は良かったが、そんな記憶はない。マジで? と少し引くのに、澄晴は顔を引き攣らせて目を泳がせた。どうやら彼の方には覚えがあるらしい。

「お前の噛み癖が直らないうちは登園させるな、と言われてな……困ったぞ、あの時は。母さんと二人して、何冊も『よいこのつがい』みたいな本読み聞かせて、相手の了承を得ずに噛んではいけないと何度も教えて、なのに星くんを見ると飛んでいって噛み付いて」
「あんまり覚えが悪ぃから一時期転園させたら、今度は星が「すばるくんいないならいかない」って毎朝駄々こねるようになるしよ。本っ当にあの時期は面倒くさかったな」
「小学校に上がってからは星くん以外のΩを集めたクラス編成になるように手を回したのに全くなびかないし、どころか虹くんと取引してお互いの虫を払うことを条件に星くん狙いのαを排除し始める始末」
「そのくせ度胸が無ぇからいっつまでも告白の一つもしやがらねぇ。星の発情期が来た時にいっそ適当なα見繕って番わせちまうかって話もしたよな」
「さすがに星くんが可哀想だ、って止めたが」
「いや、お前んとこのヘタレ野郎と番うのも可哀想じゃねぇか?」
「言うな、情けなくて泣きたくなってくる」

 親二人が自分たちについて愚痴るのを、どんな気持ちで聞いたらいいのか分からず澄晴と小さくなって身を寄せ合う。
 彼らの話通りなら、保育園の頃からずっと俺達は両想いだったらしい。それはもう、親が不安になるくらいに露骨に。
 知らなかったのはお互いだけか。
 恥ずかしくて俯くしかない俺の手に、横から澄晴の手が乗ってくる。ぎゅ、と握られて、視線を上げると顔を赤くした澄晴と目が合った。

「……星、俺のこと、好き?」

 もう聞かなくたって分かるだろうに、この状況でなお不安そうな表情で訊いてくる澄晴に胸がきゅんとしてしまう。
 かわいい。この、ちょっと情けない所がすさまじく俺のツボに入る。可愛さを噛みしめてふるふると震える俺を見て、パパが小さく「趣味悪ぃとこまで似なくていいんだよ」と呟いた。

「す……」
「ちょい待て、盗聴器だけ回収させろ」

 好きだよ、と答えようとしたのを遮ったパパは俺の首の後ろへ手を伸ばしてきて、聞き捨てならない単語に固まる俺の首輪をガチャガチャと弄ってから小さな金属部品みたいな物を取り外した。

「っと、盗聴器……!?」
「言っとくけどな、万が一に備えて付けようって言い出したのは虹だからな。キレんならあいつにキレろよ」

 なんでそんな物を、と湧き上がる怒りをパパにぶつけようとして、虹の名前が出て行き場を失ってから、ふと気付いて青褪める。
 ──さっき、さっきの……澄晴との、会話……とか、その他色々も、全部……?
 何をされたり言ったりしたか思い出して顔から火が出そうだ。親に聞かれた。あんな恥ずかしいこと言ってるのを、親に。

「……ううぅぅ~、澄晴~、死ね、今一緒に死ね、来世に賭けろぉぉぉ」
「は? なんだいきなり」 

 しゃがみ込んで顔を覆って恥じ入る俺に、しかし察しの悪い澄晴はどうしてなのか気付いていない。慰めるように肩を撫でる澄晴とさめざめと泣き真似する俺を見て、澄晴父とパパが「どうして星くんの方が理解が早いんだ……」「遺伝子たからの持ち腐れだな」なんて溢した。

「あー、まぁそういうワケだから、あとは好きにやれ」

 ひらひらと手を振って、澄晴の父親の背を押して部屋を出て行こうとするパパに首を傾げる。

「……? 一緒に帰るよ?」

 二人分の威圧フェロモンを浴びせられた身体は今は表面上落ち着いてくれているが、熾火のように奥に隠れただけなのがなんとなく感じとれる。
 一人で帰って帰路の途中で発情が再開したりしたら目も当てられない、とパパについて帰ろうと立ち上がりかけたのを、澄晴が腕を引いて止めた。

「星」
「うん、分かってる。話は今度ちゃんとしよう。今はさっさと帰って薬飲み直さないと」

 俺から好きの言葉を引き出したいのは分かるが、今はとにかく早く薬を飲んで火照る身体を鎮火させたい。
 宥めるように澄晴の手を叩くが、しかし彼は眉間に皺を寄せて顔を横に振った。

「なんだよ、じゃあ一緒に来るか? 薬飲んでからどれくらいでちゃんと効くか分かんないけど、それでいいなら……」
「あーーーーもう、見てらんねぇな本当! 坊主はお前とヤりてぇんだろ、アホ星!」

 急に怒鳴ったパパに驚いて固まった俺の視線の先で、バタンとドアが閉められる。
 取り残された部屋には、俺と澄晴の二人きり。

「い、……いやいやいや、無理、無理無理っ!」

 慌てて澄晴を突き飛ばしてドアの方へ走るのに、ノブに飛びついた所で後ろから澄晴が追いついてきてドアを押さえるように俺の頭の上に手をついた。

「何が無理だよ」
「だっ、無理だろ、これからヤんの親に把握されてるとかマジで無理っ」

 ドアと澄晴の間に挟まれながら必死にドアノブを引くのにビクともしない。
 澄晴は体重を掛けてドアを押さえ込みながら、俺に身体を寄せて頭に顔を埋めてきた。匂いを嗅ぐみたいに深呼吸されて、髪が熱くなったり冷たくなったりする。

「澄晴っ!」
「しねーから。お前がしたくないならしないから、……もう、逃げんなよ」

 悲しげな声音に、恐る恐る振り向いた。
 困ったように眉根を下げた澄晴は片手を下ろして俺の頬を撫でて、もう一度「しないから」と言う。

「……でも、俺、もう発情しちゃってるし」
「威圧かけてりゃそのうち落ち着くだろ。落ち着くまで、それまででいいから」

 な、と言いながら澄晴は威圧フェロモンを出してきて、また頭に薄靄がかかったみたいになる。

「こっち来い」

 手を引いてベッドへ連れて行かれ、端に二人で腰を下ろした。横に座った澄晴は背中側から腕を回して俺の腰に手を置いて、こめかみにキスしてくる。顎下をくすぐるように指で撫でられて目線を上げると、目を細めてふんわりと微笑む澄晴がいた。
 笑顔が珍しいわけじゃないけど、澄晴のそんな表情を見るのは初めてだった。

「星。好きだ。……お前も、だよな?」

 目を合わせたまま頷くと、澄晴は唇を震わせて視線を逸らす。目元が朱に染まって、口角が上がった顔は喜びを噛みしめているみたいだ。

「嬉し……。うん、いい、十分。お前が俺を好きだってだけで、今は満足」

 ちゅ、と音を立てて額にキスされて、顔が熱くなる。

「……っていうか、澄晴って虹が好きなんだと思ってた」
「は?」
「ほら、先週中庭で虹に告白してたじゃん。あれ、なんだったんだ?」

 澄晴の態度を見れば疑う余地なんて無いけれど、そうなるとあの状況が謎すぎる。
 俺の頬をぽよぽよと撫でながら記憶の糸を辿っているような顔をしていた澄晴は、ややあってから「あ、あれか」と思い出したように呟いた。

「お前が虹の好きな奴に手紙渡しに行った日か?」
「そう、それ」
「あれな。お前に好きな奴が出来たのかも、って焦って、そしたら虹に「もう告白しちゃいなよ」って唆されて、でも俺、お前の顔見るとそういうの出来なくなっから……」
「……だから?」
「練習台にしていい、って言われたからやっただけだ。でもなぁ、あいつ相手なら全然緊張しねぇんだよな。求愛フェロモンもちゃんと匂いが分かる程度に抑えて調整して出せたし。なんの練習にもならなかった」 
 ぶつぶつ呟く澄晴は俺の顔をじっと見てから、またちゅっと頬にキスしてくる。
「かわい……。なんでお前、そんな可愛い顔してんの」
「えぇ?」
「つか、やべー。キスしてんのにお前が嫌がんないとか、嬉しすぎて理性キレそう。ちょっと抵抗しててくんね?」
「は?」
「いつもみたいに塩対応しててくれ。ほら、腕でぐいっと押しのけろ」

 抵抗しろと促され、動きの鈍い頭で控えめに澄晴の胸を押すと彼の目が不愉快そうに細められて息が詰まる。

「あー……可愛い。あんな俺の事どうとも思ってないですー、みたいな顔してたお前が俺にベタ惚れだったとか、マジでほんとにどうにかなりそう。なぁ、こういうのも照れ隠しだった?」
「ちょっ、澄晴」
「俺のこと好きっぽい感じはしてたけど、お前のことだから友達の延長線上みたいなすっとぼけた気持ちしか無いんだと思ってた。ちゃんと『好き』なんだよな? 俺のこと、キスされても嫌じゃないくらい好きなんだよな?」
 一人で喋って段々息が荒くなっていく澄晴が怖くて思わず腰が引けるのに、澄晴は俺の身体を抱き寄せて服の上から執拗に撫でてくる。澄晴の唇は頬から首筋に下り、そこにある首輪を八つ当たりみたいに噛んでから鎖骨の上を舐めた。
「っ、澄晴!」
「しねーって。触るだけ。……触られんのも嫌?」

 窺うように上目遣いで見つめられ、うっと返事に詰まる。
 嫌なわけがない。ないのだけれど、触られるとせっかく小さくなってきた火が再燃しそうだ。

「ふ、服の上から、なら……」

 直接肌を触られると絶対また発情するから、と念押しするように言うと、澄晴は顔をくしゃくしゃにして抱き締めてきた。

「すば……」
「好きだ、星。ずっと好きだった。どうやったら好きになってくれるか分かんなくて、好きになってもらえないうちに告白すんの怖くて、ずっと言えなかったけど……好きだ、星」

 ぎゅう、と力を籠められると苦しくて、だけど不快じゃない。どころか、もっと苦しくしてくれてもいいくらいだ。もっともっと強く抱き締めて、ずっと俺を腕の中に入れていてほしい。
 俺も腕を回して澄晴の背中を抱き締めると、すぐそばの澄晴の喉がゴクリと鳴るのが聞こえた。

「……服の上から、だけだぞ?」
「分かってるっつの」 

 そうは言いつつも、澄晴の手は真っ先に俺の股間を撫でてくる。盛大に濡れてしまっているそこは、上から触れられるとぐちゅりと音を立てた。

「漏らしたみてぇ」
「お前のせいだろっ」

 フェロモンぶち当てて発情させておいて、と怒りたいのに、澄晴は息を荒くしながらそこを掌全体で撫でてくる。半勃ちだった陰茎は数回撫でられただけでむくむくと育ちきり、服の布地を押し上げて主張し始めた。

「おい、澄晴」
「服の上からだ」

 息を荒くした澄晴は片手で股間を撫でながら俺をベッドに押し倒して、胸に頬をすり寄せてくる。

「……っ……」

 肉を擦られているだけでキャパオーバーなのに、しばらく俺の胸に頬ずりしていたかと思うと、不意うちみたいに乳首を噛んできた。

「っな、なに、してっ!」
「かわい……」
「おい、澄晴……っ!」

 布越しに擦られて反応して立ってしまったのか、ぽつっと小さく膨らんだ所に澄晴が唇を寄せてぺろぺろと舐めてくる。Tシャツの薄い布一枚を挟んで、けれど澄晴の唾液が染みて色を変えて、白い布の向こうに俺の乳首の色が透けるのが見えて恥ずかしさに目を逸らした。

「馬鹿っ、服の上からなら何してもいいって意味じゃねぇよっ!」
「……」
「吸うな!」

 ぼかぼかと澄晴の背中を叩くのに彼は夢中みたいに無言で俺の乳首に吸い付いて、どころか上に乗り上げて彼の股間を俺のそこに押し付けてくる。ぐりっと硬いもので肉を擦られて、耐えようと思う間もなく上り詰めてまた下着を濡らした。

「~~……っ」

 びくびくと震える腰を澄晴の手が掴んで、容赦なく俺の裏筋に押し付けて擦ってくる。

「あ、待っ……、待って、澄晴」
「俺も星でイきたい」

 達したばかりで敏感な陰茎は布が擦れると痛い。そこを硬いものでゴリゴリ擦られると思わず背が浮くほど刺激が強く、頭を振って嫌がるのに澄晴は止めてくれない。
 俺の腰骨に手を置いて腰を振る澄晴はまともな声が届くほど余裕があるようには見えず、迷った末に下から膝で蹴り上げた。

「……ッ、な、なに……を……」
「痛ぇんだってのに」

 ちょうど玉の辺りに入ってしまったのか俺の上に崩れ落ちた澄晴は股間を押さえて呻き、申し訳なくはあるが仕方なかったよな、と思いながらごそごそと自分のズボンのファスナーを下ろした。 

「星?」

 いぶかる澄晴の頭をひと撫でし、べちゃべちゃに濡れて気持ちの悪い下着とズボンをずらして膝まで脱ぐ。下半身を露出させ始めた俺を見下ろし、澄晴は戸惑うような顔をした。

「あーうん、無理、降参。ちゃんと触って抱いて、澄晴」
「は……」

 一度イッただけでは足りないとばかりに、身体の熱が上がってきている。それに、こんなに興奮している澄晴に俺の勝手な見栄でお預けするのはなんだか可哀想だ。
 そう思って白旗を振るのに、どうしてか澄晴はオロオロと視線を彷徨わせて困ったように眉根を下げた。

「なんだよ、早く抱けよ」
「いや、その……本当にいいのか?」
「いいって言ってんだろ」
「でもその、俺、星がそんなん言うなんて……。嬉しくてちょっと、加減出来なくなりそうなんだけど」
「はぁ?」

 加減ってなんだ。フェロモンの放出量のことなら、いっそ遠慮無く出してくれた方がいい。本能に任せてしまえば恥ずかしさも軽減されるだろう。

「しなくていいから、早く」
「……マジか」

 いいのか、と訊いてくる澄晴の目はすでにぐらぐらと茹だったように揺れていて、ちょっと言い方マズかったか? と反省する間もなく唇を塞がれた。
 割り入ってきた舌が俺の舌に絡み、唾液を染み出しながら俺の唾液を吸っていく。舌の裏も口蓋も歯列も、余すところなく全てを舐めたいみたいに澄晴の舌が縦横無尽に口の中で動き回って溺れそうだ。
 酸欠になりかけて鼻から吸った空気に、ひどく甘ったるい匂いがして目眩がした。威圧を止めた澄晴は今度は求愛フェロモンをダダ漏れにしてきて、腐る寸前みたいな濃い匂いに胎が沸騰し始める。

「すば……っ、すばる、すばる……っ」

 頭に濃く重い靄がかかって、けれどその靄は脳みそを蕩かすように甘い快感を呼んでくる。
 キスの合間に名前を呼ぶ俺に澄晴は応えるように唇を吸って、吐息混じりに「星」と呼んだ。
 口付けながらいつの間にか服を脱がされ、足を抱えられたと思ったら下半身に熱い痛みが走った。

「ひ……っ、い、たい、痛い、すばる……っ」
「ごめんな、星、痛いの、ごめんな」

 頭がグラグラ揺れて、今何が起こっているのか分からない。
 身体を無理やり押し開かれるような鈍痛は、しかし澄晴が腹を撫でてくれているうちに少しずつ和らいでくる。しかし、痛みの後に今度は腹を焼くような快感が襲ってボロボロと涙が溢れた。

「──っ」
「星、星、好きだ、星」

 俺を抱き締める澄晴が動く度に、身体の内側に太い杭が打ち込まれるような心地がする。俺の身体を割り開いて、真っ二つに裂こうとしているみたいに深くまで埋まってくる。

「あ、あ、やぁ、すばる、すばる……っ」

 助けを求めたくてしがみついたのに、澄晴は強く俺の身体を抱き締めたかと思うと更に奥まで穿ってきた。壊される。本能的な怖さは、しかしそれを上回る快感に覆われて掻き消されてしまう。
 ぐちゃぐちゃに叩き壊されて、だけど澄晴の腕の中の俺の頭には気持ちよさしかない。強請るように腰を振って、乞われるがままに啼いた。叫ぶように好きだと言ったのに、声ごと澄晴に飲まれた。
 本能に任せて獣のような発情期を過ごした俺が正気を取り戻したのは、それから三日後のことだった。


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