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「俺とすんの、抵抗無いわけ?」
そっち座って、と今度はベッドの方を指差され、逡巡したもののそちらへ歩いていく。カーディガンをソファの背に掛けてアイマスクを握り締めると、靴を脱いでベッドの上に上がった。
スプリングは硬めで、沈み込むことはない。真っ赤な色がどぎついシーツも、洗濯はしっかりされているのか手触りは悪くなく、微かに柔軟剤の花の匂いがした。
「誰とでもいいから出会い系を使ったんですよ」
他人行儀に聞こえるように敬語に戻し、相手が僕だという事にまだ抵抗があるらしい潮島に見せるようにアイマスクを着けた。耳に引っ掛けるゴムが緩い。これまでこの部屋で何人がこのアイマスクを着けてセックスに興じたのかと考えると、喉元にゾクゾクした感覚がくる。
瞼にかかる布は内側が滑らかになっていて負担はない。触った感じでは薄く感じたが、瞼を開けてみても真っ暗闇で、照明の光さえ通してはくれなかった。目を閉じていた方が明るく感じるくらいの闇。少しだけ身震いした。
「どうぞ」
「……お前ね」
準備出来ましたよ、と正座の膝を叩いて潮島を呼ぶと、気が抜けたような声と共に潮島が近付いてくる音がした。
ぺたぺたと床を素足が踏み、ベッドが軋み、シーツを彼のデニムが擦る音。
視界が真っ黒なので音を頼りにするしかなく、一つ一つの音に過敏になっている気がする。
「っ、わ」
前触れなく手に触れられて、逃げようとした腕を掴んで引っ張られた。
ぎゅ、と前にも後ろにも温かい感触がある。背中にあるのは腕だろうか。ゆっくりと撫でられて、知らないうちに詰めていたらしい息を緩く吐いた。
抱き締められているらしい。僕の頰に彼の着ていたシャツの感触がある。少しふわふわで、デコボコしていて、ああ、確かコーデュロイだったような。
「見えないの、怖いだろ」
「……いえ」
本当は若干怖いけれど、それを言ってまた不機嫌になられても困る。潮島の豹変のトリガーが分からない状態で下手な事を言うまいと、平静を装った。
が、僕の返事は不正解だったらしい。
「じゃあこれも平気?」
抱き締めてくれていた体温が離れて、潮島の手に肩を突き飛ばされた。
咄嗟の事で反応出来なかった僕は、手をつく間もなく後ろに倒れる。
後ろ、後ろって何があったっけ? 僕はどの辺に座ったっけ? ベッドのヘッドボードまでどのくらいの距離があった?
後頭部を強打するかもしれない恐怖にヒュッと息を飲んだが、僕の背と頭はシーツのぽよんとした感触の上で跳ねただけだった。
一気に息が上がって、動悸がした。皮下の血が熱くなって、逆流したみたいにざわめいている。
「怖かったろ」
一も二もなく頷いた僕に、潮島の笑う声が降ってくる。あの嫌な声。馬鹿にする笑い声って、それだけで判別できるんだと知った。
「俺もお前が高久田だって事は忘れる。だから、お前もさっきみたいに素直でいろ。──出来るな、モルちゃん?」
「はい……」
ベッドに倒れた俺の畳まれていた脚を、潮島が掴み上げて開かせる。
左右に開かされた足の間に、体温がある。太腿を指でなぞられると、声が出そうになって息を止めて誤魔化した。
「モルちゃん、声は我慢しちゃダメ」
優しげな声音になった潮島は、Tシャツ越しにまた僕の胸を揉んだ。手癖なのだろうか。おっぱい好きみたいなのに、今日の相手が男の僕で申し訳なくなった。
「で、でも……男なのに、変な声出て、気持ち悪く……ないですか」
「……」
それも、僕を相当嫌っているらしいのだ。嫌いな男の喘ぎ声なんて、気持ち悪くて聞きたくない筈だ。
潮島は黙って胸を揉んでいたが、しばらくして「じゃあ」と耳もとまで屈んできて、低い声で囁いた。
「気持ちよくなったら、ごめんなさいしよっか」
「……?」
言われた意味が分からず、返事に困る。ごめんなさい、する? 小さな子に謝らせる時みたいな言い方に困惑した。
「気持ち良くなっちゃったら、ごめんなさい、って謝って。俺に」
耳に触れそうな近さで囁かれると、背筋が反るくらい感じてしまう。視界が無い分、潮島の声の良さが本領発揮されるみたいでたまらない。
Tシャツ越しに乳首を擦られて、くすぐったさに身を捩る。女の子じゃないのに、そんな所を弄らないでほしい。普段なら絶対に触れないようなところを執拗に捏ね回されて、変な感覚が芽生えそうで頭を振った。
「あ、の……っ、その、それ、胸、ヤです」
「嫌?」
「変な感じで、落ち着かなくて」
「……はい、じゃあごめんなさい、だね」
「え、……っあ、やぁ」
布越しに乳首を摘まれて、我慢しきれず声が漏れた。
今の何、なんで乳首摘まれて変な声出たの!?
驚く僕に構わず、潮島はそれを続けてくる。敏感になった先端をくりくりと指で挟んで捏ねられて、腰の方まで痺れが走った。
「やぁ……、それ、やですっ」
「モルちゃん、ごめんなさいは?」
「ご、ごめんなさ……っ」
「そうだね。男なのに乳首で気持ちよくなって、可愛い声出して、悪い子だね?」
ほら、自分で言ってごらん、と。潮島が言った恥ずかしい台詞を復唱しろと言われて、唇を噛んだ。
でも、だめだ。素直じゃないと、また怒られる。怒られるのは嫌だ。冷たくされるのも怖い。だから言わないと。
「男、なのにぃ……乳首で、っ、ぅ、あ……気持ちよくなってっ、ごめんなさい……」
初めは違和感しかなかった感覚も、慣れてくるとその甘い疼きがたまらない。潮島の指は優しくて、ひたすらに僕の乳首を気持ち良くしてくれる。
「あっ、乳首……気持ちいいです……。指でされるの、好きになっちゃいましたぁ……」
息も絶え絶えに素直な気持ちを吐露する僕に、潮島は笑ったみたいだった。でも、さっきみたいな嫌な笑い方じゃない。吐息が柔らかくて、更に「可愛いね」と頰に口付けられて嬉しくなった。
「いいよ、その調子。俺は素直な子が大好きだからね」
「はい……、ごめんなさい、乳首好きで、ごめんなさい……っ」
「シャツ、捲るよ」
腹の方から、Tシャツとタンクトップのインナーが捲られて首元まで露わにされた。空調が効いているからか部屋の温度はそれほど低くないけれど、素肌が空気に触れると少し冷える。
それより何より、僕の裸の胸が潮島に見られているのだと思うと、恥ずかしくて逃げ出したくなった。
「う……」
彼に弄られ続けた乳首が硬くなっている気がする。寒さで立つ事はあったけれど、弄られて立ったのは初めてだ。そこがどんな形をしているのか、それを見て潮島がどう思っているのか分からなくていたたまれない。
「あんまり、見ないで」
見えないのに、潮島の視線を感じる。ひゅうひゅうと荒くなって落ち着かない呼吸に合わせて胸が揺れるのを、じっと見られている気がする。
「ほんとに見ないでほしい?」
「ひゃっ」
ぴん、と直接乳首を指で弾かれて、危うく漏らしそうになった。小の方じゃなくて、気持ち良くなると出る方のやつを。
ヒッヒッと短く呼吸する僕を嘲笑って、潮島は分かっているみたいに適確に僕の股間を掴んだ。
「イきそうだった? ごめんなさいは?」
「あっ、ご、ごめ……なさ……ぁ、あ、あ、揉まな、で」
「覚えが悪いなぁ。ごめんなさい、でしょ」
勃起したせいで窮屈なデニムの上から扱く真似みたいに揉まれて、必死で我慢しながら膝を閉じようとしたら、間に入っていた潮島の体を強請るみたいになった。太腿の後ろに彼の股間の膨らみを感じて、彼も興奮してくれているのだと安心した。
「ごめんなさ、い、ごめん、なさ……」
直接触られる乳首は、Tシャツ越しなんかよりもっと鮮烈な刺激で僕を翻弄する。ごめんなさいと繰り返しながら、この気持ちいいのが永遠に続いたら頭がおかしくなると思った。
「あーあ、こっち染みになっちゃってるよ」
すごいね、と潮島が僕の股間のジッパーを下げる音がする。溢れた先走りでボクサーブリーフが僕の陰茎に張り付いているのを、その布越しに撫でながら揶揄われた。
「ごめ、なさ……、も、お願い、一回……」
「一回、なに?」
「い、イきたい、です……」
「うん、ダメ」
潮島は優しい声音のまま言ってぺろっと下着を捲って中の物を取り出すと、片手で僕の根本を絞って、もう片手でその上を擦りだした。
「ふぁあ、やっ、ああぁ」
僕のカウパーでトロトロになっていたそこは、手で擦られる強烈な刺激に一瞬で達しそうになった。なのに、肝心の根本を堰き止められていて出来ない。ちゅこ、ちゅこ、と小さく音を立てて擦り立てられ、喉をのけ反らせて大きく声を上げてしまった。
「モルちゃん?」
「やぁあっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」
気持ち良くなったら、ごめんなさい。躾けられた僕が何度も謝るのを、潮島は満足気にして耳にキスしてきた。そのまま舌が耳の中に入ってきて、ぺちゃぺちゃと舐め回されてその音にまた催す。
イきたくて勝手に腰を振ってしまうのに、潮島が根本を握っているせいでそれはいつまでも叶わない。声を我慢している余裕なんて無くなって、喘いでいるのか謝っているのか分からなくなりながら頭を振った。
「あぁあっ……も、やぁ、ごめ、なさ、僕、気持ちよくて……っ、おねが、しますっ……! しぉ、じまぁ……っ」
僕が名前を叫んで懇願すると、陰茎を擦っていた手が止まった。もしかして、また怒らせちゃった? 胡椒さんって呼んだ方が良かった?
「ごめんなさ」
「ご主人様、だよ。モルちゃん。俺はモルちゃんのご主人様」
舐め回された耳の中に、潮島の吐息と共に甘い声が流し込まれてくる。良かった、怒ってない。
「ご主人様……」
口に出すと、その単語の薄寒さに背筋が戦慄いた。潮島が、僕のご主人様。怖いのに、だけどそれを言えばもっと気持ちよくしてもらえるだろうかという期待で胸に熱いものが込み上げる。
「ご主人、様ぁ、僕、もうイきたいです……っ」
「……すごいね、本当に言っちゃうんだ」
「ぇ……」
もっとして貰えるかと思ったのに、吐きかけられたのは潮島の冷たい声。馬鹿にしてはいない。ただ、呆れたみたいな感情が混じってるのが感じられて悲しくなった。言う通りにしたのに、なんで冷たくするんだろう。
「ごめんなさい……ごめんなさい。気持ち良くなって、ごめんなさい……」
目元が熱い。ああ、涙だ。泣くのなんていつぶりだろう。今日は本当に感情が色々忙しい。こんなに振り回されるのは久しぶりだ。
ずずっと鼻をすすりながら半泣きで謝ると、急に口の中に潮島の舌が入ってきた。舌を引っ張り出されて、絡ませるように舐められて腰が浮いた。
「あ……っ、ふぁあ、ごめ、なさ」
「ごめんね。俺ね、甘やかしてから冷たくして泣かすの大好きなんだ。……さ、モルちゃん、いっぱいイこうね」
キスされたまま、潮島は僕の根本から指を離して茎の全体を擦り立てた。僕の声は全部潮島に飲み込まれて、そのまま呆気なく股間がはち切れた。達して恍惚に震えているのに、潮島の手は止まらない。もう片手で乳首を捏ねられて、喘いだ声も彼の舌に攫われた。
口と乳首と陰茎と、三箇所を同時に責められて、頭の中は真っ白だ。気持ちよさだけでぐちゃぐちゃになった視界が白黒に瞬く。
「はぁー……ぁ、あう、あぁ、あ」
ごめんなさいと言えなくなった僕を、しかし潮島は叱らない。
そのまま何度もイかされて、身体がふわふわして力が入らなくなった。
三回目くらいでやっと潮島の口が離れて、彼は僕の腹に溜まった精液を撫でて低く笑った。
「俺も、一回だけ使わせてね」
脱力した俺の下肢から服が脱がされる。
まだ霞がかかったままの頭で、ああ、初体験かぁとぼんやり考えた。
が、潮島は俺の膝の頭を掴んで閉じさせると、太腿の付け根の隙間に彼の陰茎を捻じ込んできた。
「……?」
「大丈夫だよ、挿入れないから」
安心させるみたいに僕の頭を撫でて、潮島は腰を振り出した。睾丸の裏を彼の肉で擦られて、その刺激に達したばかりの陰茎が勃った。
「ん? モルちゃん、これも好きなの?」
セックスするみたいに脚の間で擦られて、潮島の先端で俺の陰茎が突かれてたまらない。お腹に溜まった精液を掬い取られて、僕と潮島が擦れる間に塗り込まれて高い声で鳴いた。
「やぁ、あっ、ごめんなさっ、好き、ですっ」
「……はー、アレと同一人物とは思えないねぇホント」
小さな声で言われ、それが僕に聞かせるつもりでないのが分かっているので聞こえなかった振りをする。大学での僕と印象が違うというなら、確かにそうだろう。僕だって、自分がこんなに素直に、感情豊かになれるなんて知らなかった。
「まだ気持ちよくなれる?」
「んん……っ、分から、ない、です」
「だよねぇ。じゃ、頑張ろうね」
短時間に三回もイかされて、勃起はしているけれど達せる気はしない。だからそう素直に言ったのに、潮島が笑った気がした。吐息の緩さに安心する。
潮島はそのまま腰を振るのを続けて、僕はされるがままに喘いだ。根本を掴まれていなくても、もうイけない。ただ気持ちいいだけが天井無しに続いて、また頭が真っ白になった。
「……ん、そろそろイくよ、モルちゃん」
「は、はい……っ」
「俺がイッたら、ありがとうございます、だよ。言える?」
はい、と頷くと、潮島の動きが速くなった。腰をぶつけてくる強さが増して、僕の膝を閉じさせたまま掴んだ指に力が籠る。
「いーい? 今から、モルちゃんの中に出すからね」
「な……なか……?」
「つもり、つもり。はい想像してー。モルちゃんのお尻の中に、俺の精液中出しされるんだよ。どう? どんな気持ち?」
「えっ……え……?」
どんな、って。急にそんな事を言われても困ってしまう。
「今もさ、俺はモルちゃんの中に挿入れてるつもりでヤってんだよ? 分かる?」
「へ……」
「……それ、外そっか」
急にアイマスクを鷲掴まれたと思ったら、剥ぎ取るみたいにされて視界に光が戻ってきて思わず目を瞑った。薄暗かったはずの部屋は、しかし真っ暗闇に慣れた僕の目には眩しい。
「ほら、こっち見て」
お腹を撫でられて、薄目を開けて言われた通りそこを見た。飛び散った僕の精液の量は想像以上で、恥ずかしくなって顔を背けた。
「見て」
潮島は僕の額を髪の毛ごと掴んで、強制的にそこに視線を向けさせる。そのまま腰を動かされると、僕の太腿の間を潮島の陰茎が出たり入ったりしていて一気に顔が熱くなった。
「やっ……」
「ヤじゃないでしょ。ほら、これがモルちゃんのお尻の中に入ってるんだよ。モルちゃんのお尻で、こんなにおっきくなって……中出ししたくてたまんない」
耳を塞ぎたくなるような事を言われて、でも視線を逸せない。潮島のソレは、真っ赤になって勃起して、僕の太腿で先から少し垂らしていた。
そんなに? 僕の中、そんなに気持ちいい?
ぞくぞくと背筋が震える。なんでこんなに嬉しくなってしまうんだろう。変だ。おかしい。訳の分からなさにただ首を振って、口から勝手に言葉が漏れた。
「だ、出して、下さぃ……っ」
「んー?」
「僕の、中にっ……ご主人様の精液、いっぱい……っ」
ぎゅう、と太腿に力を入れると、潮島が呻いた。痛かっただろうか、と思ったら、僕の腹にびゅるっと彼の精液が吐き出された。びゅ、びゅ、と痙攣するように白濁が飛んできて、僕のお腹に落ちるのを見て息が詰まる。
──僕で、イッた。それがとんでもなく嬉しい気がして、頬が熱くなった。
自然と口角が上がっていたみたいで、こちらを見た潮島が僕の口元を指でぐにぐにと撫でて変な顔をする。
「……嬉しいの?」
「……たぶん、そうです」
「変わってんねぇ」
達した潮島は急に冷めたみたいで、僕から離れるとすぐにシャワーを浴びに行ってしまった。
そうか、そういえば彼は僕を嫌いなんだった。
自分も彼を嫌っているのだ。それを思い出して、なんだか少し寂しくなった。
そっち座って、と今度はベッドの方を指差され、逡巡したもののそちらへ歩いていく。カーディガンをソファの背に掛けてアイマスクを握り締めると、靴を脱いでベッドの上に上がった。
スプリングは硬めで、沈み込むことはない。真っ赤な色がどぎついシーツも、洗濯はしっかりされているのか手触りは悪くなく、微かに柔軟剤の花の匂いがした。
「誰とでもいいから出会い系を使ったんですよ」
他人行儀に聞こえるように敬語に戻し、相手が僕だという事にまだ抵抗があるらしい潮島に見せるようにアイマスクを着けた。耳に引っ掛けるゴムが緩い。これまでこの部屋で何人がこのアイマスクを着けてセックスに興じたのかと考えると、喉元にゾクゾクした感覚がくる。
瞼にかかる布は内側が滑らかになっていて負担はない。触った感じでは薄く感じたが、瞼を開けてみても真っ暗闇で、照明の光さえ通してはくれなかった。目を閉じていた方が明るく感じるくらいの闇。少しだけ身震いした。
「どうぞ」
「……お前ね」
準備出来ましたよ、と正座の膝を叩いて潮島を呼ぶと、気が抜けたような声と共に潮島が近付いてくる音がした。
ぺたぺたと床を素足が踏み、ベッドが軋み、シーツを彼のデニムが擦る音。
視界が真っ黒なので音を頼りにするしかなく、一つ一つの音に過敏になっている気がする。
「っ、わ」
前触れなく手に触れられて、逃げようとした腕を掴んで引っ張られた。
ぎゅ、と前にも後ろにも温かい感触がある。背中にあるのは腕だろうか。ゆっくりと撫でられて、知らないうちに詰めていたらしい息を緩く吐いた。
抱き締められているらしい。僕の頰に彼の着ていたシャツの感触がある。少しふわふわで、デコボコしていて、ああ、確かコーデュロイだったような。
「見えないの、怖いだろ」
「……いえ」
本当は若干怖いけれど、それを言ってまた不機嫌になられても困る。潮島の豹変のトリガーが分からない状態で下手な事を言うまいと、平静を装った。
が、僕の返事は不正解だったらしい。
「じゃあこれも平気?」
抱き締めてくれていた体温が離れて、潮島の手に肩を突き飛ばされた。
咄嗟の事で反応出来なかった僕は、手をつく間もなく後ろに倒れる。
後ろ、後ろって何があったっけ? 僕はどの辺に座ったっけ? ベッドのヘッドボードまでどのくらいの距離があった?
後頭部を強打するかもしれない恐怖にヒュッと息を飲んだが、僕の背と頭はシーツのぽよんとした感触の上で跳ねただけだった。
一気に息が上がって、動悸がした。皮下の血が熱くなって、逆流したみたいにざわめいている。
「怖かったろ」
一も二もなく頷いた僕に、潮島の笑う声が降ってくる。あの嫌な声。馬鹿にする笑い声って、それだけで判別できるんだと知った。
「俺もお前が高久田だって事は忘れる。だから、お前もさっきみたいに素直でいろ。──出来るな、モルちゃん?」
「はい……」
ベッドに倒れた俺の畳まれていた脚を、潮島が掴み上げて開かせる。
左右に開かされた足の間に、体温がある。太腿を指でなぞられると、声が出そうになって息を止めて誤魔化した。
「モルちゃん、声は我慢しちゃダメ」
優しげな声音になった潮島は、Tシャツ越しにまた僕の胸を揉んだ。手癖なのだろうか。おっぱい好きみたいなのに、今日の相手が男の僕で申し訳なくなった。
「で、でも……男なのに、変な声出て、気持ち悪く……ないですか」
「……」
それも、僕を相当嫌っているらしいのだ。嫌いな男の喘ぎ声なんて、気持ち悪くて聞きたくない筈だ。
潮島は黙って胸を揉んでいたが、しばらくして「じゃあ」と耳もとまで屈んできて、低い声で囁いた。
「気持ちよくなったら、ごめんなさいしよっか」
「……?」
言われた意味が分からず、返事に困る。ごめんなさい、する? 小さな子に謝らせる時みたいな言い方に困惑した。
「気持ち良くなっちゃったら、ごめんなさい、って謝って。俺に」
耳に触れそうな近さで囁かれると、背筋が反るくらい感じてしまう。視界が無い分、潮島の声の良さが本領発揮されるみたいでたまらない。
Tシャツ越しに乳首を擦られて、くすぐったさに身を捩る。女の子じゃないのに、そんな所を弄らないでほしい。普段なら絶対に触れないようなところを執拗に捏ね回されて、変な感覚が芽生えそうで頭を振った。
「あ、の……っ、その、それ、胸、ヤです」
「嫌?」
「変な感じで、落ち着かなくて」
「……はい、じゃあごめんなさい、だね」
「え、……っあ、やぁ」
布越しに乳首を摘まれて、我慢しきれず声が漏れた。
今の何、なんで乳首摘まれて変な声出たの!?
驚く僕に構わず、潮島はそれを続けてくる。敏感になった先端をくりくりと指で挟んで捏ねられて、腰の方まで痺れが走った。
「やぁ……、それ、やですっ」
「モルちゃん、ごめんなさいは?」
「ご、ごめんなさ……っ」
「そうだね。男なのに乳首で気持ちよくなって、可愛い声出して、悪い子だね?」
ほら、自分で言ってごらん、と。潮島が言った恥ずかしい台詞を復唱しろと言われて、唇を噛んだ。
でも、だめだ。素直じゃないと、また怒られる。怒られるのは嫌だ。冷たくされるのも怖い。だから言わないと。
「男、なのにぃ……乳首で、っ、ぅ、あ……気持ちよくなってっ、ごめんなさい……」
初めは違和感しかなかった感覚も、慣れてくるとその甘い疼きがたまらない。潮島の指は優しくて、ひたすらに僕の乳首を気持ち良くしてくれる。
「あっ、乳首……気持ちいいです……。指でされるの、好きになっちゃいましたぁ……」
息も絶え絶えに素直な気持ちを吐露する僕に、潮島は笑ったみたいだった。でも、さっきみたいな嫌な笑い方じゃない。吐息が柔らかくて、更に「可愛いね」と頰に口付けられて嬉しくなった。
「いいよ、その調子。俺は素直な子が大好きだからね」
「はい……、ごめんなさい、乳首好きで、ごめんなさい……っ」
「シャツ、捲るよ」
腹の方から、Tシャツとタンクトップのインナーが捲られて首元まで露わにされた。空調が効いているからか部屋の温度はそれほど低くないけれど、素肌が空気に触れると少し冷える。
それより何より、僕の裸の胸が潮島に見られているのだと思うと、恥ずかしくて逃げ出したくなった。
「う……」
彼に弄られ続けた乳首が硬くなっている気がする。寒さで立つ事はあったけれど、弄られて立ったのは初めてだ。そこがどんな形をしているのか、それを見て潮島がどう思っているのか分からなくていたたまれない。
「あんまり、見ないで」
見えないのに、潮島の視線を感じる。ひゅうひゅうと荒くなって落ち着かない呼吸に合わせて胸が揺れるのを、じっと見られている気がする。
「ほんとに見ないでほしい?」
「ひゃっ」
ぴん、と直接乳首を指で弾かれて、危うく漏らしそうになった。小の方じゃなくて、気持ち良くなると出る方のやつを。
ヒッヒッと短く呼吸する僕を嘲笑って、潮島は分かっているみたいに適確に僕の股間を掴んだ。
「イきそうだった? ごめんなさいは?」
「あっ、ご、ごめ……なさ……ぁ、あ、あ、揉まな、で」
「覚えが悪いなぁ。ごめんなさい、でしょ」
勃起したせいで窮屈なデニムの上から扱く真似みたいに揉まれて、必死で我慢しながら膝を閉じようとしたら、間に入っていた潮島の体を強請るみたいになった。太腿の後ろに彼の股間の膨らみを感じて、彼も興奮してくれているのだと安心した。
「ごめんなさ、い、ごめん、なさ……」
直接触られる乳首は、Tシャツ越しなんかよりもっと鮮烈な刺激で僕を翻弄する。ごめんなさいと繰り返しながら、この気持ちいいのが永遠に続いたら頭がおかしくなると思った。
「あーあ、こっち染みになっちゃってるよ」
すごいね、と潮島が僕の股間のジッパーを下げる音がする。溢れた先走りでボクサーブリーフが僕の陰茎に張り付いているのを、その布越しに撫でながら揶揄われた。
「ごめ、なさ……、も、お願い、一回……」
「一回、なに?」
「い、イきたい、です……」
「うん、ダメ」
潮島は優しい声音のまま言ってぺろっと下着を捲って中の物を取り出すと、片手で僕の根本を絞って、もう片手でその上を擦りだした。
「ふぁあ、やっ、ああぁ」
僕のカウパーでトロトロになっていたそこは、手で擦られる強烈な刺激に一瞬で達しそうになった。なのに、肝心の根本を堰き止められていて出来ない。ちゅこ、ちゅこ、と小さく音を立てて擦り立てられ、喉をのけ反らせて大きく声を上げてしまった。
「モルちゃん?」
「やぁあっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」
気持ち良くなったら、ごめんなさい。躾けられた僕が何度も謝るのを、潮島は満足気にして耳にキスしてきた。そのまま舌が耳の中に入ってきて、ぺちゃぺちゃと舐め回されてその音にまた催す。
イきたくて勝手に腰を振ってしまうのに、潮島が根本を握っているせいでそれはいつまでも叶わない。声を我慢している余裕なんて無くなって、喘いでいるのか謝っているのか分からなくなりながら頭を振った。
「あぁあっ……も、やぁ、ごめ、なさ、僕、気持ちよくて……っ、おねが、しますっ……! しぉ、じまぁ……っ」
僕が名前を叫んで懇願すると、陰茎を擦っていた手が止まった。もしかして、また怒らせちゃった? 胡椒さんって呼んだ方が良かった?
「ごめんなさ」
「ご主人様、だよ。モルちゃん。俺はモルちゃんのご主人様」
舐め回された耳の中に、潮島の吐息と共に甘い声が流し込まれてくる。良かった、怒ってない。
「ご主人様……」
口に出すと、その単語の薄寒さに背筋が戦慄いた。潮島が、僕のご主人様。怖いのに、だけどそれを言えばもっと気持ちよくしてもらえるだろうかという期待で胸に熱いものが込み上げる。
「ご主人、様ぁ、僕、もうイきたいです……っ」
「……すごいね、本当に言っちゃうんだ」
「ぇ……」
もっとして貰えるかと思ったのに、吐きかけられたのは潮島の冷たい声。馬鹿にしてはいない。ただ、呆れたみたいな感情が混じってるのが感じられて悲しくなった。言う通りにしたのに、なんで冷たくするんだろう。
「ごめんなさい……ごめんなさい。気持ち良くなって、ごめんなさい……」
目元が熱い。ああ、涙だ。泣くのなんていつぶりだろう。今日は本当に感情が色々忙しい。こんなに振り回されるのは久しぶりだ。
ずずっと鼻をすすりながら半泣きで謝ると、急に口の中に潮島の舌が入ってきた。舌を引っ張り出されて、絡ませるように舐められて腰が浮いた。
「あ……っ、ふぁあ、ごめ、なさ」
「ごめんね。俺ね、甘やかしてから冷たくして泣かすの大好きなんだ。……さ、モルちゃん、いっぱいイこうね」
キスされたまま、潮島は僕の根本から指を離して茎の全体を擦り立てた。僕の声は全部潮島に飲み込まれて、そのまま呆気なく股間がはち切れた。達して恍惚に震えているのに、潮島の手は止まらない。もう片手で乳首を捏ねられて、喘いだ声も彼の舌に攫われた。
口と乳首と陰茎と、三箇所を同時に責められて、頭の中は真っ白だ。気持ちよさだけでぐちゃぐちゃになった視界が白黒に瞬く。
「はぁー……ぁ、あう、あぁ、あ」
ごめんなさいと言えなくなった僕を、しかし潮島は叱らない。
そのまま何度もイかされて、身体がふわふわして力が入らなくなった。
三回目くらいでやっと潮島の口が離れて、彼は僕の腹に溜まった精液を撫でて低く笑った。
「俺も、一回だけ使わせてね」
脱力した俺の下肢から服が脱がされる。
まだ霞がかかったままの頭で、ああ、初体験かぁとぼんやり考えた。
が、潮島は俺の膝の頭を掴んで閉じさせると、太腿の付け根の隙間に彼の陰茎を捻じ込んできた。
「……?」
「大丈夫だよ、挿入れないから」
安心させるみたいに僕の頭を撫でて、潮島は腰を振り出した。睾丸の裏を彼の肉で擦られて、その刺激に達したばかりの陰茎が勃った。
「ん? モルちゃん、これも好きなの?」
セックスするみたいに脚の間で擦られて、潮島の先端で俺の陰茎が突かれてたまらない。お腹に溜まった精液を掬い取られて、僕と潮島が擦れる間に塗り込まれて高い声で鳴いた。
「やぁ、あっ、ごめんなさっ、好き、ですっ」
「……はー、アレと同一人物とは思えないねぇホント」
小さな声で言われ、それが僕に聞かせるつもりでないのが分かっているので聞こえなかった振りをする。大学での僕と印象が違うというなら、確かにそうだろう。僕だって、自分がこんなに素直に、感情豊かになれるなんて知らなかった。
「まだ気持ちよくなれる?」
「んん……っ、分から、ない、です」
「だよねぇ。じゃ、頑張ろうね」
短時間に三回もイかされて、勃起はしているけれど達せる気はしない。だからそう素直に言ったのに、潮島が笑った気がした。吐息の緩さに安心する。
潮島はそのまま腰を振るのを続けて、僕はされるがままに喘いだ。根本を掴まれていなくても、もうイけない。ただ気持ちいいだけが天井無しに続いて、また頭が真っ白になった。
「……ん、そろそろイくよ、モルちゃん」
「は、はい……っ」
「俺がイッたら、ありがとうございます、だよ。言える?」
はい、と頷くと、潮島の動きが速くなった。腰をぶつけてくる強さが増して、僕の膝を閉じさせたまま掴んだ指に力が籠る。
「いーい? 今から、モルちゃんの中に出すからね」
「な……なか……?」
「つもり、つもり。はい想像してー。モルちゃんのお尻の中に、俺の精液中出しされるんだよ。どう? どんな気持ち?」
「えっ……え……?」
どんな、って。急にそんな事を言われても困ってしまう。
「今もさ、俺はモルちゃんの中に挿入れてるつもりでヤってんだよ? 分かる?」
「へ……」
「……それ、外そっか」
急にアイマスクを鷲掴まれたと思ったら、剥ぎ取るみたいにされて視界に光が戻ってきて思わず目を瞑った。薄暗かったはずの部屋は、しかし真っ暗闇に慣れた僕の目には眩しい。
「ほら、こっち見て」
お腹を撫でられて、薄目を開けて言われた通りそこを見た。飛び散った僕の精液の量は想像以上で、恥ずかしくなって顔を背けた。
「見て」
潮島は僕の額を髪の毛ごと掴んで、強制的にそこに視線を向けさせる。そのまま腰を動かされると、僕の太腿の間を潮島の陰茎が出たり入ったりしていて一気に顔が熱くなった。
「やっ……」
「ヤじゃないでしょ。ほら、これがモルちゃんのお尻の中に入ってるんだよ。モルちゃんのお尻で、こんなにおっきくなって……中出ししたくてたまんない」
耳を塞ぎたくなるような事を言われて、でも視線を逸せない。潮島のソレは、真っ赤になって勃起して、僕の太腿で先から少し垂らしていた。
そんなに? 僕の中、そんなに気持ちいい?
ぞくぞくと背筋が震える。なんでこんなに嬉しくなってしまうんだろう。変だ。おかしい。訳の分からなさにただ首を振って、口から勝手に言葉が漏れた。
「だ、出して、下さぃ……っ」
「んー?」
「僕の、中にっ……ご主人様の精液、いっぱい……っ」
ぎゅう、と太腿に力を入れると、潮島が呻いた。痛かっただろうか、と思ったら、僕の腹にびゅるっと彼の精液が吐き出された。びゅ、びゅ、と痙攣するように白濁が飛んできて、僕のお腹に落ちるのを見て息が詰まる。
──僕で、イッた。それがとんでもなく嬉しい気がして、頬が熱くなった。
自然と口角が上がっていたみたいで、こちらを見た潮島が僕の口元を指でぐにぐにと撫でて変な顔をする。
「……嬉しいの?」
「……たぶん、そうです」
「変わってんねぇ」
達した潮島は急に冷めたみたいで、僕から離れるとすぐにシャワーを浴びに行ってしまった。
そうか、そういえば彼は僕を嫌いなんだった。
自分も彼を嫌っているのだ。それを思い出して、なんだか少し寂しくなった。
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