狡猾な狼は微笑みに牙を隠す

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狡猾な狼は舌の裏に隠した我儘を暴かれたい

我儘⑦ 一番奥まで飲み込んで

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「じゃあ、相談すれば出来なくてもオッケーなんですか?」

 薄目を開けると目線の少し上にあった尋の顎に髭の先が出始めていて、そういえばまだ風呂に入ってないみたいだった、と思い出す。明日に響くからあまり夜更かしはよくない。時刻を確認しようと頭を動かそうとしたら、尋は邪魔するみたいに覆い被さってきた。

「いや、全力でヤる方向に言い包めるよ」
「相談する意味が無いじゃないですか」
「相談することに意義があるのー」

 額と、頬と、首筋と。尋の唇が、音を立てて吸っては少しずつ下りていく。

「尋、明日からまた仕事なんですから、そろそろ風呂に……」
「終わったら入るよ」

 終わったら、って。胸の方まで尋の頭が下りてきて、やっと壁の時計が視界に入った。二十二時少し過ぎ。ゲームへログインを試みたのは確か二十一時頃で、けれどまだ一時間ほどしか経っていないことに驚いた。もっとずっと長い時間話し込んでいたような気がしたのに。

「ィ……ッ」

 胸にビリッと痛みが走って、思わず声を上げた。ピアスを開けられたばかりのそこを舐められたらしく、視線を落とすと尋が残念そうに眉尻を下げて突起の横を強く吸ってきた。噛まれたような鋭い痛みに呻く。

「まだ痛いか。化膿しちゃうとまずいから、今日は弄らないであげるね」

 尋が唇を離したそこは赤く色付いて、それでやっと今の痛みがキスマークによるものだと気付いた。

「そういえば、今までこういう事しませんでしたよね」
「うん?」
「キスマークとか、ピアスとか……、そういう『俺の物!』みたいなの、好きそうなのに」

 乳首の横に付いた鬱血を指で撫でて問うと、尋も一緒にそこを撫でてきた。愛しげに目を細める彼の頭を空いた方の手で撫でると、甘えるみたいに俺の掌に擦り付けてきた。

「好きだよ、大好き。……だけどね、いつか久斗くんが俺以外の人を好きになった時に、俺の跡なんて付けてたら後悔するでしょ」

 だからだよ、と言われて唖然とする。

「え……っと、俺が他の人とどうこうなる未来もあり得る、と……?」
「十分あったでしょ?」
「いや、だって……俺を手放す気があったんですか……?」

 あれだけ俺が死んだら生きてる意味が無いだの、一緒に死んでだの痛々しいことを言っておいて?
 信じられないものを見るようで、ポカンと開いた口が閉じられない。

「言ってるじゃない、俺は久斗くんが大好きなんだって。久斗くんが俺を必要としなくなったら、俺の存在意義も何にもないんだよ。久斗くんが俺を邪魔だと思う前にいなくなってあげるつもりだったよ」

 俺って優しいでしょ、と脇腹を撫で下ろされて、乾いた指の感触が俺と真逆で動悸がしてくる。嫌な気持ちに汗の滲んだ手で尋の髪を掴んで奥歯を噛んだ。

「久斗く……」
「じゃあ、どうして今日付けたんですか」

 俺の為に、なんて綺麗事を言うなら、どうして今日、怒りに任せてピアスだなんて取り返しの付かない方法をとったのか。
 じっと見つめると尋は視線を泳がせて、それからポリポリと頬を掻いて細く息を吐いた。

「……怒らない?」
「感情を殺すな、って言ったのは尋でしょ」

 不安そうに窺いを立ててくるのが鬱陶しく、返事を急かすように尋の前髪を握った指に軽く力を込めた。

「痛い痛い」
「あ、すいません。力加減が分からなくて」
「いや、たまには俺が虐められる側に回るのも悪くないけどね。……ピアス開けたのはね、久斗くんが後悔すればいいと思ったから、だよ」

 握っていた髪を離して謝るついでにそこを撫でると、尋は目を伏せたまま答えた。

「いつか他の人を好きになった時に、俺と付き合ったことを後悔すればいい。穴だらけにされた恥ずかしい身体を好きな相手に見せなきゃならないことに苦しんで、穴だらけにした俺を恨めばいいって思った。俺を忘れさせたりしない。誰かで上書きなんてされたくない、って」

 ごめんね、と呟かれて、ホッと息を吐いた。なんだ、そっか。それならいつも通りだ。

「怒らない?」
「今さらそんなことで怒りませんよ。言ってるでしょう、俺は尋に我儘を言われるのが好きなんだ、って」

 本気で反省しているような表情の尋の頭をわしゃわしゃと掻き混ぜて、それから頭を持ち上げて彼の額に口付けた。

「尋のそういうとこを好きになったんですから、変に我慢しないで下さい。調子が狂いますし、そもそも貴方がそんな変な気の回し方をしなければ俺だって浮気を疑ったりなんてしませんでしたし」
「え、俺の所為?」
「はい、そうです。もう色々全部ひっくるめて尋の所為です」

 俺がにっこり笑って言うと、尋は目を丸くして「久斗くんのは我儘っていうより横暴だね」と呟いた。

「ああもう……いいから、早くしましょうよ。挿入れてくれるんでしょ?」

 これ以上ぐだぐだと話すのも焦ったくて尋の股間を足で軽く踏むと、そこは予想に反してまだ一向に兆しを見せていなかった。
 部屋着のスウェットの下の柔らかいそれを足裏で撫でると、尋が眉間に皺を寄せて嫌がる。

「久斗くん、あんまり触らないで。暴発しそう」
「……暴発どころか、やる気が見えませんけど?」

 あまり乗り気ではないのか、と痛くしないように足で撫でてみるけれど、尋の股間が擡げてくる気配は無い。やはりあまり俺の見た目には興奮しないのか、と首を傾げると、足首を掴まれて持ち上げられて、べろりと裸足の足裏を舐められた。

「ちょっ……! くすぐったい!」
「……きっつい。今すぐ挿入れたい」

 俺の足の指を口に含みながら片手でズボンと下着をずり下ろした尋は露出させた陰茎を自らの手で擦りながら独り言ちる。

「気を遣われると逆に傷付くんですけど?」

 彼の手の中の肉は擦られても柔らかいままで、先走りだけを滲ませてぽとりと俺の太腿に透明の汁を落とした。

「勘違いしないでね。これ、萎えてんじゃなくて緊張で勃たないだけだからね」
「……え」
「やばいよ、タマの方触ってみなよ。イく前みたいに迫り上がってきてて、勃起してたらもう出てる」

 手貸して、と言われてそっと尋の睾丸に触れると、袋の中の二つの玉が収縮して上の方でガチガチになっていた。普段は袋の中で遊んでいるそれらが脚の付け根の方へ引っ張られているのを感じて、本気で尋が苦しんでいるのを知る。

「えっと……、口でしましょうか?」

 萎えたままだと挿入は無理そうだし、だからといってそのままにしておくのは可哀想だ。
 口でして緊張が解けて勃起したら挿入すればいいし、今日は時間が無いからそのまま口で果ててくれてもいい。一年も待ったのだ、次の休みまでくらい、待つうちにも入らない。
 俺が身体を起こすと、必死で肉茎を扱いて勃たせようとしている尋は恥ずかしそうに首を振った。

「ちょっと待って、すぐ挿入れてあげるから」
「尋」
「あーもう、俺のなのに、なんで言うこときかないかな」

 柔らかいままの肉を握って尋が忌々しげに呟いて、一層荒っぽく擦る。露出した亀頭が滑りも無しに擦られて真っ赤になっている様は痛そうで、尋の手に手を重ねてそれをやめさせた。
 そして、自分の喉の付け根あたりから人差し指で上に向かってツンツンと押していって、思わず震えがきたところで指を止める。

「尋。尋の、ここまで届きますか?」

 外側から押した刺激にすら感じたソコに尋の指を持ってきて充てがうと、彼は数瞬意味が分からないように戸惑う顔を見せた。俺が尋の指を上から押して、また走った震えにうっとりと目を閉じてやっと、察したように息を呑む。

「久斗くん、喉、気持ち良いの? でも、今までイラマさせても全然……」
「足りなかったみたいです。もっと奥、ここまで挿入れて擦ってくれたら気持ちよくなれそうなんですが……」

 無理ですか? と訊くと、ス、と尋の目が細められる。

「届くよ。けど、絶対痛いし、苦しいよ。耐えられる?」

 俺の首を指で撫でて目測を付けた尋はあながち誇張でもなくそう言って、俺の唇を割って指を入れてきた。人差し指と中指、二本の骨張った指が俺の舌を撫でて奥へ進んでくる。微かに塩辛くて、俺の口の中の方が熱い所為だろうかひんやりと冷たい。

「……エッ……」
「こんなもんじゃないよ。吐き気がしてもいつもみたいにすぐ抜いてあげられないし、息もほとんど出来ない。それでもされたい?」

 舌の根辺りを指に強く押されただけで嘔吐感が込み上げて、えずいた俺に尋の冷静な声が掛けられる。やっぱり、基本は俺の安全第一なんだな。ふふ、と思わず笑うと、ずぼ、ともっと奥まで一気に入ってきた。

「っ、げ、……っぁが」

 思わず縋りつくように尋の手首を掴むけれど、彼の指は抜かれることなく俺の喉の中でぐねぐねと動く。狭い喉を拡げようとするような動きに何度も吐き気を催して、けれど肝心の奥の気持ちよくなれるところまでは届かない。
 痛みはないけれど苦しいのばかりで目に涙が浮かんで、瞬きで溢れてやっと尋は指を抜いてくれた。

「ぅ……っく」
「指じゃ全然届かないな。……無理やりはシュミじゃないんだけどなぁ」

 どの口が言うのか、と呆れるのに、尋は立ち上がって服を全て脱ぐと、俺を手招いた。

「えっと……?」
「座ってる姿勢だと奥まで入らないから。久斗くんは蹲んで、大きくお口開けててね。俺を気持ち良くさせようとかそういうの考えなくていいから、本当に死ぬ、って思うまでは噛まないようにだけ気を付けてて」

 立っている尋の股間に奉仕するのは初めてだ。
 膝立ちで尋の前に移動して、ちゅ、と彼の肉の先にキスをすると少しだけ熱が集まってぶるりと震えた。

「勃つまでは好きに舐めていいよ」
「ん……」

 柔らかい肉を口の中へと迎え入れて、言われるがままに舐め回す。すべすべした肉が少しずつ膨らんできて、さっきはあれだけ酷く扱かれても無反応だったのに、と嬉しくなった。

「上手だね、久斗くん。美味しそうにしゃぶってくれるのも最高」

 すり、と尋の手が耳横から頬を撫でてきて、視線だけを上げると一層口の中の肉が膨らんだ。

「いいよ、そのままこっち見て。俺の方見たまま吸って」

 言う通りにするけれど、結構恥ずかしい。俺を見下ろす尋は嬉しそうにしきりと頬を撫でてきて、舌で露出した裏筋を舐めると小さく震えて息を吐いた。
 口の中いっぱいに尋の肉が埋まってきていて、そろそろ苦しい。けれど、いつも咥えている感じからしてまだ半分ほどだろうか。
 いつもしっかり勃起した状態でも届かなかったけれど、どうやって奥まで入れてくれるんだろう。立っていれば入るとかいう問題なんだろうか。疑問符を浮かべたまま無心で奉仕していると、不意に「もうそろそろかな」と声が掛けられた。

「いい? 久斗くん。絶対口閉じないでね」

 絶対だよ、と念を押されて頷いた。そんなに痛いんだろうか、と若干の不安は過ぎるが、そもそも俺が言い出したことだ。
 尋の手が移動していって、俺の頭を鷲掴むように力が籠もる。

「んぐ……ッ」

 始まりは唐突だった。股間に叩き付けられるみたいに勢いよく喉まで突き立てられて、えずいた次の瞬間には抜かれて、そしてまた喉奥まで押し入られる。抜かれる時に必ず吐き気を催して俺の身体が跳ねるのに、尋はそれを気にもせず乱暴に繰り返す。
 抜かれて、入れられて、また抜かれて。
 回数が増すごとに段々尋の肉が硬くなって、喉に入ってくる長さが深くなってくる。
 だけれど、まだ足りない。まだ届かない。
 これまで尋は手加減していたのか、いつもよりは深くまで飲み込んでいる気がするけれど、それでもまだ、気持ちよくなれる所までは擦ってもらえない。
 やはり現実では無理なのか、と勃起したのなら普通に後ろへ挿入してもらおうと尋の太腿をひたひたと叩くのだけれど、彼の動きは止まらない。
 ごじゅ、ごじゅ、と酷い水音をさせながら俺の口で扱く尋を見上げると、目を細めて「もう少し」と微笑んだ。
 喉で扱くのが気に入ったのだろう。苦しいけれど息をするタイミングにだけ気を付ければ痛みはあまり無く、フェラと違って技巧を凝らす必要も無いから楽なくらいだ。
 口を開けてされるがままに使われて、段々頭がぼんやりしてきた頃、俺の頭を掴む尋の指が軽く叩いてきた。

「いくよー」

 ああ、一度出すのか、と思って飲み込む準備をした喉に、一層奥まで肉が押し込まれてきて身体が跳ねた。

「ん、っんんぐ」

 尋の茂みに俺の頭を押し付けるように頭を掴んで強く押されて、暴れるのにがっちり固定されていて少しも逃げられない。喉の奥、待ち焦がれた粘膜が熱い肉の先に擦られて気持ち良さにそれだけで自分の股間が張り詰めたのが分かる。

「力抜いて。ほら、もっと奥でしょ」

 ご、ご、と乱暴に尋の腹に俺の頭をぶつけるように奥まで飲み込まされた状態でほとんど抜いてももらえず、鼻から息を吸おうにも気管が潰されていて酸素が通ってこない。えずこうにも喉には常に陰茎が埋まっていて収縮すら出来ず、めりめりと狭い喉を陰茎に犯されて拡げられていく。

「ぅぐ、ん、ん、ん」

 呻くと酸素が減るのに、そんなことにすら気を使っていられないほどに喉を肉に愛撫されるのは強烈だった。俺の唾液でぬるついた陰茎が喉奥で擦れる度、腰まで快感が直撃してきて魚のように身体がびくびくと痙攣する。

「あ~……すっごい。クセになりそう」

 尋が俺に言うでもなく呟いて、そして一層強く押し込んできた。捻じ込まれた肉が一番気持ちいい所で止まって、そこから動きたくないみたいに尋が頭を抱えてぶるりと震えた。

「ん……っ!」

 喉の更に奥へ熱いものが流し込まれて、痛みと同時に一瞬頭が真っ白になった。腰が大きく波打って、触れてもいない陰茎から射精した感覚がある。喉を犯されたまま下から吐いて、俺に全て飲ませた尋が抜いた頃には彼の足の甲は俺の白濁に塗れていた。
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