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白鷺雨月

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第三話 坂道の向こう

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 大阪府岸和田市に浜工業公園という大きな公園がある。
 海沿いの地蔵浜町にあり、テニスコートや野球グラウンドがあり、いわゆる市民の憩いの場であった。

 今から約三十年前の話だ。
 小学校五年生の僕はついに念願の大人が乗るサイズの自転車を両親に買ってもらった。
 自転車をてにいれた僕の世界は確実に広がった。
 図書館にも行けるし中央公園にも行ける。東岸和田のサティにだっていくことができる。校区外にいくことは校則違反だったが、そんなことはお構いなしだ。

 自転車を買ってもらった僕はとある遊びにはまっていた。
 それは地蔵浜町にある浜工業公園の松林の中を自転車で走る抜けるという単純な遊びであった。
 その松林には一本の道があり、かなりのアップダウンのある坂道であった。距離的には五キロほどあると思われた。
 その松林の道を買ってもらったばかりの新品の自転車で全力疾走するのだ。
 坂道をブレーキもかけずに疾走する爽快感とスリルに僕は虜になった。
 クラスの男子生徒の大半がこの遊びにはまっていた。
 クラスメイトと共に走ったこともあるし、一人でも走ったことがある。
 どれだけブレーキをかけずに走り抜けることができるのか。
 それがこの遊びのポイントだ。
 糸目で黒髪の担任にそんな遊びはやめなさいといわれたが、子供のころの僕はもちろん聞く耳なんかもたない。


 夏休みのとある日、僕はひとりで浜工業公園の松林にでかけた。
 いつものように松林を全力疾走する遊びをするためだ。それは無料のジェットコースターだ。
 僕は夢中で自転車のペダルをこぐ。
 クラスメイトのなかには最後までブレーキをかけずに走り抜けた猛者がいる。
 僕もその記録に挑戦した。
 勢いよくペダルをこいでいた僕だったが、ブレーキをかけないといけなくなった。
 目の前にある男の人が現れたからだ。
 僕は前のめりになりながら、ブレーキをかける。
 自転車はききぃと音をたて、止まる。
 いったい誰だろうか。
 ここは昼間はほとんど人が来ない。
 だからこそ、このような遊びができるのだ。
 知らない人だったら怖いので逃げようか。
 そんなことを考えていたら、その人が僕に声をかけてきた。

「こんにちは、S君だよね」
 優しそうな声であった。
 僕はその人の顔を見上げる。
 その男の人は同級生のF君のお父さんであった。たしか岸和田市の市会議員をしていたはずだ。

「こ、こんにちは」
 僕は挨拶する。

「怪我したらあかんから、そんな遊びはやったらあかんよ」
 F君のお父さんは僕にそう語りかける。
 諭すような優しい話し方であった。
「はーい」
 僕はF君のお父さんにそう言い、自宅に帰った。
 でも平日の昼間にF君のお父さんはあんなところで何をしていたのだろうか。


 それから数日が過ぎたある日の朝のことだ。
 新聞にとある記事が載った。
 父は驚いた顔で新聞にみいっていた。
 その小さな記事は岸和田市の市会議員が自殺したというものであった。
 記事にかかれた日付をみるとあの松林でであった日だった。
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