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白鷺雨月

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第三十三話 最も美しい女④

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 翌日、超大型の台風は私の住む地域を直撃した。
ガタガタと私の住むマンションが揺れる。まるで地震のようだ。
 私はベッドから出て、テレビをつけた。
 ちょうどテレビではその台風がいかに大きいか、アナウンサーが気象予報士にきいていた。その台風は数十年に一度の規模だという。
 テレビの画面にはいくつもの警報が流れる。
 そらに避難警報も流れる。私の住む地域の名前もそこにあった。
 窓から外を見ると突風と共に横殴りの雨が窓に叩きつけられている。
 そして私はブチンという音を聞いた。
 さっきまでついていたテレビが消えて、照明も消えた。エアコンもシュウウという音をたてて、その動きをとめた。

 なんてことだ、停電してしまった。
 僕が一番最初に頭をよぎったことは美しい妻の頭だ。
 僕は急いでキッチンにむかう。
 冷蔵庫を開けて、妻の頭を取り出す。
 愛おしくて仕方ないそれを私は抱きしめた。
 どうしようか?
 冷蔵庫がとまってしまったら妻は腐ってしまう。やっと美しい妻と幸せに暮らせるようになったのに。
 私は美しい妻を失いたくない。


 一時間ほど私は途方もなく、なす術もなく妻の頭を抱きしめ続けた。
「はーやっと溶けたわ」
 それは幾日ぶりにきく妻の声であっただろうか。
私は妻の顔を見た。
 真奈美は目をぱっちりと開けて私を見ている。
 これはいったいどういうことだろうか?
 疑問だけが頭を駆け巡る。
「私は人間じゃないのよ。いわゆる吸血鬼なの。いつも夜に血を吸いに出かけていたのよね。さすがに氷漬けにされたらどうしようもなかったからね」
 そう言い、真奈美はがぶりと喉元にかぶりつき、私の血を吸っていく。
 私は血を吸われながら意識が遠退くのを覚えた。
 まあいいだろう、妻が無事なのなら。
 私は消えいく意識の中でそう思った。


 首だけの真奈美を黒スーツを着た細い目の女が抱きかかえる。
「あら、こんにちは細井瞳さん」
 細井瞳の腕の中で真奈美は言う。
「首だけだと不便ですよね」
 真奈美はそうねと言う。
「私の知り合いに腕の良い人形師がいます。かりそめの体としてどうでしょうか?」
 細井瞳は真奈美の霜が溶けて湿った黒髪を撫でる。
「そうね、そうしてもらえるかしら」
 真奈美は顎をくいっと下げて、頷く。
「わかったわ。じゃあ、行きましょうか。あなたには力のタロットカードをさしあげますね」
 細井瞳は言った。

 半年後、ミイラ化された男の死体がとあるマンションで発見された。
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