ホソイヒトミという女性を探しています。情報をお持ちの方はご連絡ください。ダイレクトメールを@sirasagitukikoまでお送りください。

白鷺雨月

文字の大きさ
61 / 81

第六十一話 インビジブルの異邦人②

しおりを挟む
 僕はにこやかに話しかける細井瞳という女を疑いの目で見る。
 僕は普段から無視されることに慣れている。
 僕をまともに認識できるのは陽菜子ぐらいだ。
 今では両親すらもあやしい。
 陽菜子だけがこの世界との接点だといっても過言ではない。
「そう警戒しないでくれ。そうだな、そのベンチで少し話さないかね」
 細井瞳は自動販売機で缶コーヒーを購入する。影山君も何か飲むかねと訊いてきた。
 僕はコーラをおごってもらった。

 僕たちは並んで駅前のベンチに腰掛ける。
 コーラのプルタブを開け、炭酸を喉に流し込む。この刺激がたまらない。
「こっちの世界はコーラがあるのがうらやましいよ」
 不思議なことを細井瞳は言う。
 まるで違う世界から来たような言い方だ。
「そうだよ。私は並行異世界からこちらにやってきたのだよ。君のような人間を探し出すためにね。故に探索者《シーカー》と呼ばれている」
 にこやかに細井瞳は微笑み、缶コーヒーを一口飲む。
 並行異世界とか厨二病すぎる単語だけど何故かこの女が言うことは本当だと思ってしまう。
 それに妙な親近感を覚える。両親よりも近くに感じてしまう。
「はるか昔にこの世界と私たちの世界は接近遭遇した。神話の昔と言ってもいいほどの昔だ。私たちの世界とこの世界の人間はそのときに一時交わったのだ。やがてそれぞれの世界は元の位置に戻り、二度と接近することはなかった。その時に我々人類とこちらの世界の人類との間に混血児が生まれた。そう、君はその混血児の遺伝子が強く表に出たのだ。我々の同胞と言って良いだろう」
 細井瞳は言った。
 なんだか支離滅裂な話をされている気がするけど僕は納得してしまった。
 僕は並行異世界の人間の血を引いているからこちらの世界の人間ではないから、認識されないのだと。
「だから僕は誰にも見つからないのか」
 いろいろと言いたいけど言えたのはそれだけだった。
「君は賢明だね。そうだよ。だから影山君はこの世界では異邦人なのだ。この世界の人間ではないから認識されない」
 細井瞳は缶コーヒーを飲み干す。
 それをゴミ箱に投げ入れた。
「やがて君は誰にも気づかれなくなる。いや、もうなっているのではないかね」
 僕はその言葉に頷く。
 いや、でも……。
「陽菜子、陽菜子は僕を見つけることができる」
 そうだ。幼馴染みの陽菜子だけは僕を見てくれる。大好きな陽菜子だけは僕を見つけることができる。
「その日向陽菜子という少女は審問官の血を引いているのだろう。かつてこの世界の残された子孫たちは見つからないことをいいことにかなりの悪さをしたのだ。まあ悪魔や魔女のモデルとなったのは彼らだ。そこでこちら側の人間は残された子孫たちを見つけることができる者たちである組織をつくった。それが教会の異端審問官なのだ。日向陽菜子という少女はその審問官の血をひいているか、その才能があるということだろう」
 常に笑っていた細井瞳が苦い顔になる。
 たしかに僕の能力をつかえばいろいろと犯罪行為ができる。正直、考えたことはあるが陽菜子に怒られそうなのでやめておいた。陽菜子はそういう曲がったことが嫌いなのだ。

「さて、そこで提案なのだが……」
 細井瞳は言葉を一度区切る。
 何を提案されるのだろうか。
「影山君、私たちの世界に来てみないかね。そこは本来君が住むべき世界なのだ。そこでは君は異邦人ではない。本当の人間として扱われる。普通の生活ができるのだよ」
 細井瞳はそう提案した。
 彼の言葉がすべて真実だとしたら、僕はこの世界のイレギュラーだ。
 普通の生活にあこがれもある。
 陽菜子がいなければどうにもならないのは、やはり不便すぎる。
 それに陽菜子に彼氏でもできたら、僕は誰にも見つけられずに独りぼっちになってしまう。

「そうだ。見学してみてはどうかな。我々の世界を一度見てみたらいい。並行異世界というのを体験したいだろう」
 細井瞳の提案は男子の心を動かすのに十分であった。
 そうだ、細井瞳の世界に行くのは見てから決めてもいい。
 学校に進学するのにも会社に就職するのにも見学はつきものだ。
 一度、実際にその世界を目で見て、判断するのがいいだろう。
 善は急げということで僕は細井瞳について彼女の世界に行くことにした。
 細井瞳はスーツの胸ポケットから一本の黄金の鍵を取り出す。
 それは文字通り、異世界への扉の鍵であった。
「君らの世界が戦争に明け暮れている間に我々は時空移動の研究をしたのだよ。ある特定の分野の科学技術はこの世界をはるかに上をいっている自信はある」
 自信満々に細井瞳は言う。
 その黄金の鍵を何もない空間に差し込む。
 そうすると豪華な鉄の扉が一瞬にして姿をあらわす。
 細井瞳が鍵をひねるとぎいっと鈍い音をたて、鉄の扉が開く。
「さあ、ついてきたまえ」
 僕は細井瞳の後に続いて、並行異世界への扉をくぐった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

処理中です...