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白鷺雨月

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第六十七話 ハングドマンコレクション③

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 早川さんに会うのはかなり久しぶりだった。

 僕は仕事帰りにとある喫茶店に立ち寄った。

 四人がけの席で一人、アイスコーヒーを飲んでいる人物がいた。
 それが早川さんであった。
 彼の職業は殺人課の刑事であった。
 警察官であるが、見る限り童顔の優男でまったくそれらしく見えなかった。丸眼鏡に安物のスーツが特徴的だった。
 年齢は四十代半ばらしいが、それよりはずっと若く見えた。貫禄がでないというのが早川さんの悩みであった。

 僕はそんな早川さんの向かいに座った。
 店員に僕はオレンジジュースを注文した。
 ほどなくしてそれが僕の目の前に置かれた。
 僕はそのオレンジジュースを一口飲んだ。


「どうやら一区切りつきましたよ」
 早川さんは僕に言った。
「あの事件の犯人の刑が昨日執行されました。ニュースや新聞で知ると思われますが、一応報告をと思いましてね」
 早川さんは言った。
「そうですか、ようやくですね。人の死を知って喜んではいけないのでしょうが、これだけは別です。そうですか、やっとあの男がいなくなったのですか……」
 僕と早川さんが言うあの男というのは、
 妹の葉子を誘拐し、殺害した犯人のことだ。

 ここでは犯人Aと呼ぶことにしよう。

 犯人Aは妹の他にも合計十八人もの少年少女を誘拐し、性的虐待を加えたうえ殺害した凶悪犯であった。
 彼が捕まったのは今から約五年前のことであった。
 その逮捕劇は少なからず社会を震撼させた。
 そのAという男は、とある大企業の重役であった。
 それだけでなく女性の社会進出を応援するNPO法人に出資したり、有害図書の社会に対する影響を啓蒙する社会活動を熱心におこなっていた。
 僕も何度かテレビでその顔を見たことがある。
 彼は特に暴力的または性的表現を含むゲームやアニメ、コミックを標的にして強い規制をかけるように国にうったえていた。
 ネット上でも持論をよく展開していて、彼には信者のような支持者が数多くいた。
 アニメやゲームを好むような者は犯罪者の予備軍だと強い口調で語っていた。

 早川さんは地道に証拠を積み上げ、ついにその犯人Aを逮捕したのである。
 家宅捜索の時、早川さんはその犯人Aの隠された自室を見たという。
 そのすさまじい光景に歴戦の刑事である早川さんも吐き気を覚えたという。
 その部屋には今までに殺害した少年少女たちの詳細なデータと瓶に入った体の一部が並んでいたという。
 取り調べでその犯人Aはそのコレクションを捨てないでくれと言ったらしい。
 その言葉を聞いた早川さんは一人壁を殴り、手を怪我したという。


「もうあの男と同じ空気を吸わなくていいのですね」
 妹をひどい目にあわせて死に追いやった人間はようやくこの世を去った。
 あの男が生きているだけで僕は憎しみで気が狂いそうだった。
 あの男がいなければ僕の家庭はどこにでもある普通の家であった。
 あの男のせいで壊された家庭は、皆やつの死を望んでいただろう。
 人の死を喜ぶことは悪いことかもしれない。
 僕はだから善人にはなれないだろう。
 だが、善人になんかなれなくていい。
 僕はその犯人Aの死を喜ぶ。
 人の死を嬉しいと思う。
 この死を今は亡き、妹に報告しよう。
 やつはもうこの世にはいないと。
「ありがとうございます。早川さん……」 
 僕は涙を流し、そう言った。
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