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第五話 烏次元の頼み事
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烏次元の屋敷にやってきたその日の昼、明鈴は一月ぶりの風呂に入った。
小梅が遠く西の国からとりよせたしゃぼんで髪と体をあらってくれた。
このしゃぼんは宮廷医である滋恩がとりよせ、竜帝国にひろめたものだ一緒に風呂に入りながら、小梅は説明した。
「あららっ、こんなに痩せているのにちゃんと出ているところはでているじゃありませんか。これでもとの体にもどったらどれほどのものになるのやら」
どこか下品な笑みを浮かべながら、小梅は軽口をたたく。
しゃぼんをあわだて、それを乾燥したへちまにつける。
そのへちまで明鈴の体をすみずみまできれいに洗う。
「ちょっちょっと変なところ触らないでよ」
あまりのくずぐったさに明鈴は笑いがこみあげてくる。
「ほらほら、笑って笑って。そうしているほうが可愛いですよ」
結局、明鈴は小梅に体の隅々まであらわれてしまった。かなりくすぐったかったが、さっぱりした気分になった。あの石牢での生活でついた汚れだけでなく、心の穢れのようなものも洗い流されたような気分になった。
着替えは麻伊が用意してくれていた。
薄い桃色の服で清潔なものであった。
その服に着替えて、髪を乾かし、ていねいに髪に櫛をいれる。
明鈴の黒髪を麻伊が三つ編みに結い上げてくれた。
この髪型は帝都で最近流行っている髪型だと麻伊は言った。
麻伊は明鈴の黒髪にビロードのかんざしを指す。
「さて、どうでしょうか?」
明鈴に化粧をほどこし、麻伊は手鏡を差し出す。
その鏡にうつる人物は本当に私なのだろうかと明鈴は思った。
「きれい……」
そう自分の顔を見て言ってしまい、明鈴は恥ずかしい気持ちになる。
自分で自分のことをきれいだなんて……。
「まあ、私らにかかればこのくらいはちょちょいのちょいですよ」
自慢気に小梅は笑い、麻伊は満足そうに頷いた。
明鈴は小梅に連れられ、屋敷の大広間につれてこられた。
そこで烏次元が茶を飲みながら、本を読んでいた。
本も茶も高級品である。
それがこの屋敷には日常的に存在するようだ。
さすがは大秋長の屋敷だと明鈴は思った。でもと明鈴が思考したとき、小梅がささやく。
読書と喫茶はほとんど贅沢をしない烏次元の数少ない楽しみだと小梅は明鈴に説明した。
たしかにこの部屋には華美なものはほとんどない。
室内を見渡し、明鈴はそう思った。
するりと立ち上がり、烏次元は明鈴に近づく。
間近に見て、明鈴は烏次元は自分よりも背が頭二つはたかいなと漠然と思った。
明鈴の背が低いのではない。烏次元の背が高すぎるのだ。
烏次元はすっと指をのばし、明鈴に顎先にふれる。
「美嶺……」
それは聞こえるか聞こえないかの小声であった。
触れられたことによりまたあの温かさが心の中に流れ込んでくる。
さきほど入ったお湯のように温かで気持ちいいものだった。
こんなのずるいわ。
こんなの知ったら、もうあと戻りできないじゃない。
その優しさが自分にむけられたものではないとしてもだ。
「見間違えるように綺麗になったな」
眼の前の美丈夫にそう言われて、明鈴は耳の先まで赤くしてしまった。
それと同時に一瞬だが自分によく似た女性の姿が脳裏をよぎる。
きっとその女性があの牢屋で語っていた美嶺という人物のことであろう。
あらためてよく見るとたしかに自分によく似ていると明鈴は思った。
でも違うところがある。
それは美嶺という女性が浮かべている柔らかな笑みであった。
すべてを優しく包み込むような笑みであった。
自分にはこんなまねはできない。
明鈴は思った。
そして烏次元は自分を通じてその美嶺という女性をみているのだと思うと言いようのない暗い気持ちになった。
そんな事を考えているとお腹が盛大にその存在を証明すべく音を鳴らした。
さすがにこれは恥ずかしすぎると明鈴はお腹をおさえた。
「はははっ、そうだな。麻伊、昼食をとろうか」
くすくすと笑い烏次元は麻伊にそう命じた。
「はい、かしこまりました」
麻伊が台所に消える。
「明鈴、食べながらでいい早速で悪いが聞いてもらいたい話がある」
椅子に座った烏次元はそう言った。
小梅が遠く西の国からとりよせたしゃぼんで髪と体をあらってくれた。
このしゃぼんは宮廷医である滋恩がとりよせ、竜帝国にひろめたものだ一緒に風呂に入りながら、小梅は説明した。
「あららっ、こんなに痩せているのにちゃんと出ているところはでているじゃありませんか。これでもとの体にもどったらどれほどのものになるのやら」
どこか下品な笑みを浮かべながら、小梅は軽口をたたく。
しゃぼんをあわだて、それを乾燥したへちまにつける。
そのへちまで明鈴の体をすみずみまできれいに洗う。
「ちょっちょっと変なところ触らないでよ」
あまりのくずぐったさに明鈴は笑いがこみあげてくる。
「ほらほら、笑って笑って。そうしているほうが可愛いですよ」
結局、明鈴は小梅に体の隅々まであらわれてしまった。かなりくすぐったかったが、さっぱりした気分になった。あの石牢での生活でついた汚れだけでなく、心の穢れのようなものも洗い流されたような気分になった。
着替えは麻伊が用意してくれていた。
薄い桃色の服で清潔なものであった。
その服に着替えて、髪を乾かし、ていねいに髪に櫛をいれる。
明鈴の黒髪を麻伊が三つ編みに結い上げてくれた。
この髪型は帝都で最近流行っている髪型だと麻伊は言った。
麻伊は明鈴の黒髪にビロードのかんざしを指す。
「さて、どうでしょうか?」
明鈴に化粧をほどこし、麻伊は手鏡を差し出す。
その鏡にうつる人物は本当に私なのだろうかと明鈴は思った。
「きれい……」
そう自分の顔を見て言ってしまい、明鈴は恥ずかしい気持ちになる。
自分で自分のことをきれいだなんて……。
「まあ、私らにかかればこのくらいはちょちょいのちょいですよ」
自慢気に小梅は笑い、麻伊は満足そうに頷いた。
明鈴は小梅に連れられ、屋敷の大広間につれてこられた。
そこで烏次元が茶を飲みながら、本を読んでいた。
本も茶も高級品である。
それがこの屋敷には日常的に存在するようだ。
さすがは大秋長の屋敷だと明鈴は思った。でもと明鈴が思考したとき、小梅がささやく。
読書と喫茶はほとんど贅沢をしない烏次元の数少ない楽しみだと小梅は明鈴に説明した。
たしかにこの部屋には華美なものはほとんどない。
室内を見渡し、明鈴はそう思った。
するりと立ち上がり、烏次元は明鈴に近づく。
間近に見て、明鈴は烏次元は自分よりも背が頭二つはたかいなと漠然と思った。
明鈴の背が低いのではない。烏次元の背が高すぎるのだ。
烏次元はすっと指をのばし、明鈴に顎先にふれる。
「美嶺……」
それは聞こえるか聞こえないかの小声であった。
触れられたことによりまたあの温かさが心の中に流れ込んでくる。
さきほど入ったお湯のように温かで気持ちいいものだった。
こんなのずるいわ。
こんなの知ったら、もうあと戻りできないじゃない。
その優しさが自分にむけられたものではないとしてもだ。
「見間違えるように綺麗になったな」
眼の前の美丈夫にそう言われて、明鈴は耳の先まで赤くしてしまった。
それと同時に一瞬だが自分によく似た女性の姿が脳裏をよぎる。
きっとその女性があの牢屋で語っていた美嶺という人物のことであろう。
あらためてよく見るとたしかに自分によく似ていると明鈴は思った。
でも違うところがある。
それは美嶺という女性が浮かべている柔らかな笑みであった。
すべてを優しく包み込むような笑みであった。
自分にはこんなまねはできない。
明鈴は思った。
そして烏次元は自分を通じてその美嶺という女性をみているのだと思うと言いようのない暗い気持ちになった。
そんな事を考えているとお腹が盛大にその存在を証明すべく音を鳴らした。
さすがにこれは恥ずかしすぎると明鈴はお腹をおさえた。
「はははっ、そうだな。麻伊、昼食をとろうか」
くすくすと笑い烏次元は麻伊にそう命じた。
「はい、かしこまりました」
麻伊が台所に消える。
「明鈴、食べながらでいい早速で悪いが聞いてもらいたい話がある」
椅子に座った烏次元はそう言った。
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