言の葉

句 好奇

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言の葉

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 「やっぱり当たるんだな……」
僕はソラマルがあの天気予報士と一緒に出ている夕方の天気予報で外れたのを見たことがない。
3月9日、晴れ。少しだけ風が強いが最高の卒業式日和だという例の天気予報士の言葉通り日本人なら容易に想像しやすい空模様だった。
「涼! 卒業式くらい制服にシワつけないで朝準備しなさいよ!」
この3年間で制服にシワから始まる言葉を何万回聞いたかわからない。僕だってバカじゃないからしっかりハンガーにかけてある。
あれ……心なしか裾のところにシワがあるような気がする……
でもここで慌てては大人の男ではない。大人の男というのはドシッと構えておくものだ。
「ちょっと涼! 聞いてるの?! ……何このシワ! だから言ったのに!」
母親は偉大だ。何も言い返せない。
「後で直すから! 大丈夫っ大丈夫っ!」
女性に対して強く反抗出来ないのは父親譲りらしい。
「おはよ~」
父親はいつも通りの席で新聞紙にコーンスープというオヤジセットと一緒に机の前にいた。
「卒業式くらいしっかり髪の毛とかやってけよ」
なぜ卒業式というのは本人の僕より親の方が楽しそうなんだ。
 いつも通りの流れを一通り終え起床から約1時間で家を出ることができる準備が出来た。
「それじゃ行ってくるね」
「行ってらっしゃい また後で学校でね」
いつもと違って玄関で両親にお見送りされるのは少し恥ずかしい。
家から学校までは電車を使って約35分。電車の中では特にすることがないのでスマホの画面を見ながら揺られていく。最寄駅に着いてからはなぜかわからないが急な寂しさを覚えた。これで最後かと実感が湧いたのだろう。
「うっす」
後ろから165cmの僕より15cm高い山上が声を掛けてきた。山上とは高校一年生の時、学校終わりのCDショップで会って少し話したところからの付き合いである。
お互い部活に入っていなかったので基本的に毎日一緒に帰っていた仲だ。最近は彼女が出来たのでそっち優先みたいだが。
「やっと卒業だな。こんな学校早く辞めたいしか思ってなかったけど昨日からなんか少し寂しく感じてさ。涼もだろ? 」
「別に俺はそうでもないよ。山上と違って彼女とかもいないし」
そういうと山上はニィィと笑って髪の毛をかけている左耳に輝くピアスを揺らして少し前を歩いた。
「涼は結局あの幼馴染の……なんだっけ?あの子」
「歩美だよ」
「あ、そうそう。歩美ちゃんに言うのか?好きですって」
「言わないよ。あいつまだ元カレ大好きだし」
歩美とは小学校からずっと一緒の学校に通っていて家も近所なのもあり俗に言う幼馴染という間柄だった。
歩美のことを好きなんだと自覚したのは高校2年生の文化祭の時だった。好きということがわからなかった僕は文化祭の時、歩美に好きな人いるの?と聞かれてから何故か歩美のことが好きなんだと自覚したっぽい。
前々からずっと好きだったのだろうがはっきりと自覚したのはその時だったと思う。
卒業式まで何も伝えてこなかったのにはちゃんと訳がある。僕がヘタレとかじゃない。彼氏がいたのだ。
歩美が別れたのは高校3年生の時の9月だ。夏休み中に他校の女の子と浮気しているところを歩美の友達が発見。それで歩美から別れを切り出したらしい。
ただその後も歩美と話すと決まって、元彼がまだ好きだとかあんな奴最低なのにとか。僕には浮気されてるのに?と理解が追いつかない。
「でもここで言わないといよいよ言うタイミングなくなるぞ」
それくらい分かってる。ただ今更なんて伝えればいいのかわからない。
そんなことを考えているといつの間にか学校についていた。
8時30分のチャイムから卒業式は昨日の予行練習通りスムーズにどんどん進んでいった。
終わりに近づくにつれ体育館の中にズルズルッと鼻を啜る音が少しずつ増えている気がした。

 「お前たちにはなんだかんだ言って感謝している。楽しい一年だった」
担任からの最後の言葉でクラスの半分が鼻を赤くしている時に何故かふと歩美の言葉を思い出していた。
「元彼は最低なの。辛いこといっぱいだったし。それで今は男の人のこと信じられないっていうか、好きとか一緒にいたいとか素直に受け止められないの」
遠回しに好意を伝えたときに返ってきた返事は予想以上に僕の心をボコボコにしていった。
ため息をつくのと同時にチャイムが鳴り僕の深い息はクラスの人に聞こえる前に消えた。
この後は、体育館にて各クラスごとの記念撮影を行い、生徒たちの自由解散となります。という説明を聞
いて荷物を持ちながら移動することになった。
山上とこの後飯どこに行く?なんて話していたら奥に歩美を見つけた。友人たちと写真を撮っているみたいだ。
「行かなくていいのか?」
山上に無言で頷きクラスの集合場所に移動しようとしていた時、左目の隅に歩美が元彼とツーショットを撮っている光景が見えた。
クラス写真を撮り終えた後、無意識のうちに歩美を探していると1人教室に向かう後ろ姿を見つけた。
「山上! ちょっと悪い!」
荷物を置いていく事とご飯に遅れる事を一言で伝え、駆け足で後を追った。

 教室に入ると目を赤くした歩美が驚いた顔で僕を見てきた。その姿を見たら大丈夫か?なのかどうした?なのか言葉が見つからなかった。
「ほんとに涼は優しいよね。 追いかけてきてくれたんだ」
そういうと右手で目元を拭うと、行こ!とだけ言ってまた体育館に向かおうとした。
「ちょっと待って」
今伝えなければ。僕が持てる限りの力で伝えられる言葉を伝えなければ。
「歩美が前に付き合ってた奴のせいで辛い思い、悲しい思いしたのは知ってる。だからね僕が歩美に伝えたいことがあるんだ。もう歩美が好きって言葉に疑いを持たないように。一緒にいるって言葉に不安を抱かないように。もう2度と恋人のせいで悲しい涙を流さないように。僕があなたの恋人になりたいんだ。もうこれからの人生で辛いこと、悲しいことがあってもそれを少しでも軽くできるように僕が努力する。だからあなたの笑顔を守らせて欲しい。」
その後の言葉は僕自身よく覚えていない。ただ歩美が嬉しそうに頷くのを見て僕の視界がどんどんぼやけていったのは一生忘れないだろう。



 「パパ~」
振り返ると娘のめいがいた。5月生まれで嫁の美しいという字を使ってめいと読む。
今日はこの辺にして美と歩美と公園に行こうと思う。
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