王太子に婚約破棄された幼馴染をイケメン暗黒騎士と超美麗エルフが奪いに来てた〜キケンな寵愛も秘密のレッスンもいらないから俺の初恋邪魔しないで〜

甘糖めぐる

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三章

38話 決戦前のひととき

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 礼拝堂に静寂が戻る。

 眉を吊り上げていた王太子は、ゆっくり、長い時間をかけて、疲れたように全身の力を抜いた。

「……いいだろう。そこまで言うなら、その命を賭してみよ。柔軟に評価してやる。……はは、生きていればの話だがな」

 リセナと必要な書類を取り交わすと、彼は、礼拝堂を出て行く彼女の後ろ姿に声をかける。

「その、なんだ、リセナ……私に、自分の意見を言えるじゃないか。それなら……はじめから、突き離してほしかった」
「殿下……。申し訳ございません。私は、あなたと、どのように接すればいいかわからなかったんです。――でも、今度からは、この国の未来のために、たくさんお話しましょうね」

 とびきり素敵な笑顔を残されて、王太子はもう何も言えない。そこに付き添っているレオンたちのことが嫌でも目に入って、彼は――ベンジャミン・グランディオールは、隣の老執事と二人きりになってから尋ねた。

「なあ。リセナは一年共に過ごした私のことを、一ミリも受け入れてくれなかったのに、どうして三人も男を侍らせているのだと思う……? そんなに、私の顔は気持ち悪いか? それとも、私が卑怯な男だと見抜いていたのか?」
「……いえ、殿下。人の心は、時間や理屈だけでは決まりませんから。致し方ないことかと」
「……はあ。あの幼馴染とやらが、どこまで他のやつらと張り合えるか見ものだな。フラれたら笑ってやる」

 老執事は、失恋した友達を慰めるかのように、ベンジャミンの肩に手を置いた。

 そして、

「そういえば、殿下。先ほど連絡が入ったのですが、協力者のダン博士が行方不明になったそうですよ」

「……もういやだ。城に帰る」

 うなだれるベンジャミンの背中を押して、彼は礼拝堂から出た。

 ◆

 テミスの街中まで来たリセナは、地面にしゃがみ込んで天を仰いでいた。
「うわぁあ~緊張したぁ……!!! 私、商人向いてないかも……交渉できない……」
 グレイが黙って彼女の頭をわしゃわしゃとなで、メィシーは隣にしゃがみ込む。
「いえ、立派でしたよ。よくがんばりましたね」
「……うう、お二人の協力のおかげです。ありがとうございます……!」

 ひとり蚊帳の外にいたレオンの元へ、リセナは心配そうに歩み寄った。
「あの……あなたが殿下に言っていたこと、無理はしないでくださいね……。魔王を倒すのは簡単じゃないだろうし、異星生物だって、得体の知れないものが空から降って来るのに……」
「……ごめん。それは、約束できない。無理は、たぶん、すると思う」

 レオンは、彼女の目をまっすぐに見つめる。

「オレの人生は、きみばっかりになっちゃったから。きみがそばにいない未来なんて、考えられない。オレは、そのために、あいつに認められなくちゃいけないんだ」

 そして(これはほとんど告白であることに気付かず)やっと肩の力を抜いて笑った。

「まあ、そんなこと言っても、結局きみの力を借りないといけないだろうけど。格好つかなくてごめんね」
 それに対して、リセナは肩をすくめて笑う。
「人間は、助け合わなくちゃ大したことできない生き物ですよ。一人で格好つけるなんて、無理です」

 二人が見つめ合っているのをしばらく眺めていたメィシーが、にこやかにリセナの肩へ手を置く。
「さあ、次は魔王討伐ですか? しっかり英気を養ってから行きましょうね」

 その日のうちに、彼女は大自然に囲まれた保養地へと連れて来られていた。そこで、魔王との決戦前とは思えない癒やしの時間を次から次へと提供される。

「静かな湖畔のコテージ……!」「メィシーさんの手料理……!」「広くてあったかいお風呂……!」

 リセナが浴室から大広間に戻ったとき、他の三人がテーブルに出した地図を囲んでいた。最初にレオンが顔を上げる。
「あっ、リセナ。次の街が最後の補給ポイントだから、買うもの決めておこうと思うんだけど――きみの収納魔法って、どのくらい入るんだっけ」
「ああ、これ、私の部屋のカバンに繋げてるだけなのであんまり入らないんですよ。もう、あとは、手のひらサイズのものが限界かなあ」
 彼女はそう言いながら、空中に指で線を引き、裂けるように現れた光の帯に手を入れ中身を引っ張り出す。

 その様子を、メィシーが間近でのぞき込みにきた。
「うーん、やっぱり……おかしいな。リセナは、魔法は得意ではないと以前言っていましたよね。普通は、そのくらいだと、空間に干渉する魔法なんて使えないんですよ」
「ああ、たしかに、学園でも他に見なかったですね。でも、なんとなく、感覚的にできるんです」
「なるほど……。たしか、あなたが胎児の時に、お母様が世界樹の実を食べたと言っていましたよね。これは仮説ですが――魔力増幅アンプリフィエというのは、空間の隔たりを超えて世界樹と繋がった結果、使える能力なのではないでしょうか?」

 完全に理解した顔のリセナとは対照的に、レオンは眉を寄せる。
「え、なに? 実を食べたら、体が世界樹と繋がるの? んん???」
「そうだね。ただし、体を形成している途中の胎児期だからこそ、奇跡的な確率で起こる現象だと思う。元から空間へ干渉している体だから、空間魔法も感覚的に使えるのかもしれない」

「つまり」リセナが、他に残っているものはないか収納魔法の中を漁る。「私は、この体が耐えられる限り、ほとんど無尽蔵に魔力を増やすことができるんですね。――あれ、」
 最後につまみ出したのは、メィシーから預かっていた紙切れだった。元は、グレイが魔王の側近から渡されたものだ。
「忘れてた……。グレイ、あの、これに描かれた魔法陣と似たものをエルフの里で見かけたんです。そっちは、転移門の陣でした」
「……そうか。魔王城の周辺に転移する方法は、限られているはずだが」
「なんだか、魔王の側近も知らない間に、新しく魔法陣が描かれていたって感じでしたよね。あのあと、結局どうなったか知ってます?」
「いや。あいつは、必要な連絡もあまり寄越さないやつだからな」

 お前が言うのか? という目をしたレオンが口を挟む。
「まあ、怪しいけど、魔力が込められてるのに発動してないんだろ? どこか間違えてるんじゃないの? どのみち、行かないことには始まらないしさ――とりあえず、普通の回復薬を買おう!」
 リセナが出した物品を見て、レオンがテーブルをぱんぱん叩く。
「これ、替えのローブと、急激に老化する薬じゃん! まともな回復薬が! ほしい!」
「あっ、一応これだって高速回復薬なんですよ! 老化するのは副作用です!」
「わかったから押し付けないで……! フツーのでいいから、まともなやつ買おう!」

 じゃれ合う寸前の二人の間に、メィシーが、やんわりと割って入った。
「はいはい、そういうことは後にしてね。――リセナ、今夜は僕たち一人ずつに、あなたの時間を分けていただけませんか? まずは、僕から」
「はい、大丈夫ですけど――」

 一体何かと思いながら、手招きをするメィシーの後について行くと、彼は脱衣所の扉を開けた。
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