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あたしってなんだろう
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魔法。
人間は誰しも多かれ少なかれ魔力を持っているんだとか。
生まれた土地や血筋によってどの属性の精霊に気に入られるか決まっており、火の精霊に気に入られていれば火の魔法が、水の精霊に気に入られていれば水の魔法が使える。
なので血筋を重んじる貴族には魔力が強い人間が多い。
使える魔法の属性は精霊から受けている加護に依存するため一つのみ。
訓練すれば、例えば火だったら壁のように一面を覆ったり火の玉にして飛ばしたりはできるが、火が出来る事以上の能力は使えない。
それは水属性だろうが地属性であろうが同じ。
けど中には特殊な魔法を使える人も居て、あたしがそれに該当する。
あたしが使えるようになった魔法は変わり種で、人に魔力を分けることができるというものだ。
更に相手の限界値を越え分けることができ、体に対しての負担やリスクも無い極めて珍しい魔法らしい。
しかし使えるのはその魔法一つのみという汎用性の無さが欠点。
ちなみに大地の属性だと聞いてるけど、三か月――うち三週間は薬の影響でダウンしてた――で急いで詰め込んだ知識だから、所々怪しいしよく理解できない部分もある。
「それじゃあ行って来る」
「アンヌ、もし外出するなら必ず誰かと一緒にね。明るいからって油断しちゃ駄目よ」
「うん気を付ける。いってらっしゃい」
あたしの使える魔法は自分の魔力を譲渡すること。だから勇者様と女神さまに魔力を十分に渡すためにしっかり休憩を取らなければならない。
加えて剣は使えないし魔法で攻撃ができる訳でもないあたしが、魔物の出現している聖地にまで一緒に行くことはできない。ただの足手まといもいいとこである。
そうなればもう、あたしに出来る事は留守番だけ。
ジグとマリン様が出掛けるのを、無力感に苛まれながら見送る。
「あの、なにか手伝えることあります?」
ただ二人を待つのも苦痛で侍女の人たちに聞いてみても、
「いえそんな!アンヌ様は大役を担っておいでなのですから、勇者様と聖女様のためにもゆっくり休息ください」
「そうですよ。次に周る聖地も遠いですし。あ、よろしければ紅茶とお菓子をご用意しましょうか?」
「この宿場湯あみができるみたいです。良ければお手伝いを…」
「いやいやいやお菓子も湯あみも大丈夫です!仕事中にごめんなさい!あ、じゃ、じゃあ買い物にでも行って来ようかなー!?」
この調子でとことんあたしを休憩させようとするのだ。
譲渡するための魔力を溜めておけばそれだけ二人のためになるのは確かだけど、下手したら重病人くらい過保護にされそうになるから困るのよね。
今にもティータイムとお風呂の準備をしそうな侍女さんたちから逃げて、あたしの部屋の前を見張ってくれてる女騎士のサーニャに買い物に付いて来て欲しいと頼む。
「何かお目当てのものがおありで?」
「ううん…始めて来た街なのにただ休んでるだけだと勿体ないから、ちょっとぶらぶらしたかっただけなんです」
「左様ですか。ではあちらに川沿い歩ける場所があるようなのでご案内しましょう」
「わあ、ありがとうサーニャさん!」
どこもかしこも舗装されている、大きな街。
王都が近いのに山村からの流通も盛んなためこんなに発展してると聞いた。
サーニャさんと綺麗に整備された道を歩きながら、さっき露店で買った飴を一つ口に入れる。
「あ、あれ…」
「アンヌ様、危険です。あまり近付かないように」
川の一部が不気味な紫色に変色している。
いや、変色しているだけじゃない。沸騰させた水のようにこぽこぽと泡が湧いて、嫌な匂いが漂ってくる。
「あれって聖地から力が無くなってる影響なの?」
「おそらくは」
「こんなに酷い状態になるなんて…あれじゃ水が使えないわ…」
街の人たちの大事な生活用水だろうに。
異様な光景に怯んで両腕をさすった。
少しの間立ち竦むように変色した川を見ていたら、いきなりキラキラと輝く光のヴェールのようなものが川の表面を走った。
その神秘的な現象と同時に、川の色がゆっくり元の透明さを取り戻していく。
「今のは一体…神の御業か?」
「奇跡だ……」
「なんでもいい!川が戻ったんだ!」
わっと歓喜の声を上げる人々。
お互い抱き合って涙する人、手を合わせて拝んでる人、飛び上がって喜ぶ人もいる。
「きっと聖女様と勇者様が聖地に力を注いだんですね」
感動に震えるサーニャさんの言葉がくぐもって耳に届く。
あたしは口の中の飴を噛み砕いた。
人間は誰しも多かれ少なかれ魔力を持っているんだとか。
生まれた土地や血筋によってどの属性の精霊に気に入られるか決まっており、火の精霊に気に入られていれば火の魔法が、水の精霊に気に入られていれば水の魔法が使える。
なので血筋を重んじる貴族には魔力が強い人間が多い。
使える魔法の属性は精霊から受けている加護に依存するため一つのみ。
訓練すれば、例えば火だったら壁のように一面を覆ったり火の玉にして飛ばしたりはできるが、火が出来る事以上の能力は使えない。
それは水属性だろうが地属性であろうが同じ。
けど中には特殊な魔法を使える人も居て、あたしがそれに該当する。
あたしが使えるようになった魔法は変わり種で、人に魔力を分けることができるというものだ。
更に相手の限界値を越え分けることができ、体に対しての負担やリスクも無い極めて珍しい魔法らしい。
しかし使えるのはその魔法一つのみという汎用性の無さが欠点。
ちなみに大地の属性だと聞いてるけど、三か月――うち三週間は薬の影響でダウンしてた――で急いで詰め込んだ知識だから、所々怪しいしよく理解できない部分もある。
「それじゃあ行って来る」
「アンヌ、もし外出するなら必ず誰かと一緒にね。明るいからって油断しちゃ駄目よ」
「うん気を付ける。いってらっしゃい」
あたしの使える魔法は自分の魔力を譲渡すること。だから勇者様と女神さまに魔力を十分に渡すためにしっかり休憩を取らなければならない。
加えて剣は使えないし魔法で攻撃ができる訳でもないあたしが、魔物の出現している聖地にまで一緒に行くことはできない。ただの足手まといもいいとこである。
そうなればもう、あたしに出来る事は留守番だけ。
ジグとマリン様が出掛けるのを、無力感に苛まれながら見送る。
「あの、なにか手伝えることあります?」
ただ二人を待つのも苦痛で侍女の人たちに聞いてみても、
「いえそんな!アンヌ様は大役を担っておいでなのですから、勇者様と聖女様のためにもゆっくり休息ください」
「そうですよ。次に周る聖地も遠いですし。あ、よろしければ紅茶とお菓子をご用意しましょうか?」
「この宿場湯あみができるみたいです。良ければお手伝いを…」
「いやいやいやお菓子も湯あみも大丈夫です!仕事中にごめんなさい!あ、じゃ、じゃあ買い物にでも行って来ようかなー!?」
この調子でとことんあたしを休憩させようとするのだ。
譲渡するための魔力を溜めておけばそれだけ二人のためになるのは確かだけど、下手したら重病人くらい過保護にされそうになるから困るのよね。
今にもティータイムとお風呂の準備をしそうな侍女さんたちから逃げて、あたしの部屋の前を見張ってくれてる女騎士のサーニャに買い物に付いて来て欲しいと頼む。
「何かお目当てのものがおありで?」
「ううん…始めて来た街なのにただ休んでるだけだと勿体ないから、ちょっとぶらぶらしたかっただけなんです」
「左様ですか。ではあちらに川沿い歩ける場所があるようなのでご案内しましょう」
「わあ、ありがとうサーニャさん!」
どこもかしこも舗装されている、大きな街。
王都が近いのに山村からの流通も盛んなためこんなに発展してると聞いた。
サーニャさんと綺麗に整備された道を歩きながら、さっき露店で買った飴を一つ口に入れる。
「あ、あれ…」
「アンヌ様、危険です。あまり近付かないように」
川の一部が不気味な紫色に変色している。
いや、変色しているだけじゃない。沸騰させた水のようにこぽこぽと泡が湧いて、嫌な匂いが漂ってくる。
「あれって聖地から力が無くなってる影響なの?」
「おそらくは」
「こんなに酷い状態になるなんて…あれじゃ水が使えないわ…」
街の人たちの大事な生活用水だろうに。
異様な光景に怯んで両腕をさすった。
少しの間立ち竦むように変色した川を見ていたら、いきなりキラキラと輝く光のヴェールのようなものが川の表面を走った。
その神秘的な現象と同時に、川の色がゆっくり元の透明さを取り戻していく。
「今のは一体…神の御業か?」
「奇跡だ……」
「なんでもいい!川が戻ったんだ!」
わっと歓喜の声を上げる人々。
お互い抱き合って涙する人、手を合わせて拝んでる人、飛び上がって喜ぶ人もいる。
「きっと聖女様と勇者様が聖地に力を注いだんですね」
感動に震えるサーニャさんの言葉がくぐもって耳に届く。
あたしは口の中の飴を噛み砕いた。
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