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第53話『呪いの勇者は、〜かもしれない事態に備える』

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 「今のところは、増援が無さそうだな」

 きっちりと、古代神器エンジェル・ブラストの無力化に成功した俺とマリエルは、女神様やエリクシア達が待つ、拝堂まで戻ることにした。

 戻ったのは良いけれど、敵の進軍に関してはこれといって動きが無い。まぁ、そうあって欲しいんだけどね。俺とマリエルの働きにより、かなりの圧力を聖堂教会側にかけただろうし、簡単には手出しなんか出来ないだろう。

 このまま無事に、何事も無く聖堂教会側が引いてくれればいいんだけど、アイツらは根っからの外道だし、何らかしらの対策をして俺達の前に現れてくる筈だ。

 時間もありそうだし、エリクシアやマリエル、アリアドネにアテネ様、そしてブレッドと完全集結した後、今後の対策について話し合うことにした。また、おふざけになりそうで怖いけど、さっき戦闘になったばかりだから大丈夫だよな? 不安でしかないんだが。

 「このお茶美味しいでしょ? この茶葉は、私が丹精込めて作ったんです~。気に入って頂けましたか?」

 「女神様のお手製なんてなんて神々しいのでしょう。私、感激致しました!」

 「美味しいなんてものじゃないですよ! 売ってお金儲けしましょう!」

 「熱い……。飲めないよ……。飲んでよカケル」

 「呑気すぎるだろーがよー! 一応、ここ戦場なんですよ。束の間の休憩みたいなことしてる場合か! 俺達、全滅してしまうわー!」

 案の定、平然とお茶会を開いておりました。危機感って物は、うちのパーティには無いらしい。確かに、暇ではあるんだけど、今は気を抜いていい時じゃ無いだろう。ここは、心を鬼にして、皆んなを説得するしかないよな。

 ここに居る分からずや全員に、会議の重要性について真剣に語らねばと、意を決して訴えかけることにした。

 「えーと、ですね。神器の無力化が成功したからって決して浮かれてはいけませんよ? もしかしたら、特攻覚悟で敵軍が今から攻めてくるかもしれないだとか、痺れを切らした聖堂教会の幹部が、急に乗り込んで神域を制圧するかもしれないだとか、そういうかもしれない事態に備えて……」

 ーードンッ!!

 遠くで、隕石でも落ちたかのような爆発音がした。当然、ここは天界にある神域だ。隕石なんて落ちる訳ない。まさか、そんな訳ないよな。しっかり圧力をかけたんだし、聖堂教会な訳ないよ、多分だけどね。

 気になって仕方ない俺は、マリエルに爆発音がした方の状況を確認してもらった。頼んだ理由は、現実逃避したかったからだ。薄々はもう分かってたけど、それを俺はどうしても受け入れられないんだよ。

 「ど、どうだ、マリエルちゃん。ただの隕石か何かだったろ? 全く、嫌になるよなー! タイミングが良過ぎるぜ!」

 「本当にタイミングがいいですよ。人間が二人、空から降って来たらしいです。一人は、天の使いでもう一人は……。あれ? なんか、前に戦ったベズルって奴と服装が似てますよ。しかも、紋章付きのローブ……。間違いありません! あれは、教会幹部です!」
 
 (おいぃー! かもしれない事態が起きたんですけどー!)

 もう最悪だ。教会側だって重々状況は理解している筈なのに、ここに現れたってことは、俺達を本気で排除しに来てるってことだろう。

 戦闘する以外に、この場を乗り切る手段はもう無いんだろうな。まともな作戦も考えてないってのに、いきなり強敵が現れるなんて運が悪いとしか思えない。泣いてもいいだろうか。

 聖堂教会の魔人が、ジリジリと拝堂まで歩み始めたの見て、戦って護るしかないのだと、面倒だけど自分を奮い立たせることしか出来なかった。


 
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