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第二章 騎士学園編
025「全力を試そう!」
しおりを挟む——次の日
俺は馬車である場所へと向かっていた。
「お客さんも物好きだね~。『グラン・キャンバス大渓谷』なんかに何しに行くんですかい?」
「僕、田舎から王都にやってきたばかりなので、いろんなところを見に行きたくて⋯⋯」
「ああ、観光がてらですか。でも、あそこはその名の通り、渓谷と岩だらけの大地だけで何もないですよ?」
「で、でも、僕の田舎にはない景色なので一度見てみたいと思っていたんです!」
「はー⋯⋯そういうもんですかね~」
そんな感じで馬車の御者さんと話しながら目的地である『グラン・キャンバス大渓谷』に着いた。
「じゃあ、気をつけて。日中であれば魔獣は出ないと思うので暗くなる前に王都へ戻ってくださいね」
「ありがとうございます! 暗くなる前には王都に戻ります!」
そう言って、馬車は去って行った。
「さて⋯⋯と着いたな」
——『グラン・キャンバス大渓谷』
幾年もの間、風雨にさらされ自然の彫刻で削られできた大渓谷。周囲には岩山や岩盤の大地しかない。
「地球でいうところの⋯⋯グランドキャニオンといったところか」
さて、こんな辺鄙な場所にやってきたのには目的があり、その目的こそ一週間早く学園へとやってきた理由でもある。それは、
「今の俺の魔法の全力を試してみたいなりーっ!(ふんす!)」
ところで、この場所は以前本で読んだときに見つけた場所で、ここには人も住んでいないし、生物も存在していないという魔法を試すには打って付けの場所だった。ちなみに、王都から遠く離れてはいるが馬車で日帰りできる距離にある。
「それにしても、王都周辺にこんな『死の大地』みたいな場所があるとはね⋯⋯」
*********************
『自分の魔法の全力を試してみたい』
一体、どうしてそんなことになったのか。具体的な経緯を説明しよう。
俺は転生前、神様から『魔力膨大』というチート能力を貰った。
どんな能力か神様に聞いたが詳しくは教えてもらえなかったので(003「俺のチート能力」参照)、とりあえず能力名から「なんか魔力がいっぱいあるんだろう⋯⋯」ぐらいな適当な解釈をしていた。
実際、それは間違っていなかったようで、その膨大な魔力のおかげで生後六ヶ月から魔法を使うことができたのだが最近になって俺はあることに気づいた。
「魔力量⋯⋯⋯⋯異常に増えてない?」
まあ一応、魔力というのは成長するにつれて増えることもあるし、魔法を使い続けるなどしても増えていくものではある。ただ、その増加量が⋯⋯⋯⋯尋常ではないのだ。
それを実感したのが、去年⋯⋯九歳のときにシュタイナー領内の森の奥で魔獣と戦ったときのこと。
その時の魔獣はAランクの魔獣で巨大な蜘蛛型の魔獣『ヒュージ・スパイダー』。しかも群れ。
ちなみに、その場所は五歳の頃、Bランク魔獣のダーク・ケルベロスをはじめとする他のBランク魔獣が巣食っていた場所だった。そんな場所に今度はAランクのヒュージ・スパイダーが巣食っていたのだ。
俺は、そこで一気に殲滅しようと超級魔法『極致炎壊』を使った。
もちろん、前回魔力切れを経験していたので今回は魔力切れを起こしても大丈夫なように、自作の魔力回復薬⋯⋯『マジックポーション』を持っていた。
結果、俺は極致炎壊を発動し、ヒュージ・スパイダーの群れを一瞬で殲滅できた⋯⋯⋯⋯その時だった。
「あれ? 魔力⋯⋯全然、余裕なんですけど?」
そう。俺は以前極致炎壊を強制停止したときは魔力切れを起こしたが、今回はまだ魔力量にかなり余裕があった。
「もう一発打てるかも? あ、待てよ⋯⋯どうせなら⋯⋯」
どうせなら前回やったことを再現しようと、今度は極致炎壊を強引に強制停止してみた。
「あ、あれ? まだ、余力⋯⋯あるぞ」
その後、極致炎壊を二回発動。合計三発と一回の発動強制停止までできた。
「ま、魔力⋯⋯めっちゃ増えてない?」
そう思った俺は屋敷に戻った後、魔力の成長について調べた。すると、
「通常、魔法を使えば使うほど魔力は成長するが増加量は生涯でだいたい⋯⋯⋯⋯三倍程度」
そう書いてあった。
しかし、俺の肌感覚では自分の魔力量の増加は今の時点で少なくとも『十倍くらい』には増えていた。
そこで、俺は自分の能力名をもう一度思い出してみた。
「魔力膨大⋯⋯」
よくよく考えると『インフレーション』は『増加』を意味する単語だ⋯⋯⋯⋯地球の『英語』と同義であれば。
で、実際⋯⋯俺がいるこの異世界でも地球と同じ表記が使われている⋯⋯⋯⋯いわゆる『異世界ご都合謎システム』だ(距離とか言葉とかいくつかの単位とかな!)。
それはいい。むしろいい。なぜならわかりやすいから。で、そうなるとだ⋯⋯。
「インフレーションが増加という意味なら、この俺のチート能力は『魔力がいっぱいある』だけじゃなく、『魔力がどんどん増加する』という能力も内包しているんじゃないかっ!」
ということで、その後、Bランクの魔獣を見つけては何匹か倒して試してみた。
「やっぱり、魔力が増加している⋯⋯っ!」
どれくらいのスピードで増加しているかはわからないが、少なくとも去年の時点で超級魔法『極致炎壊』を十発は撃てるようになっていた。
*********************
「ということで⋯⋯早速、試してみるか」
俺は去年試してから、一度も確認はしていない。
理由は、領内の森で試すと森が消滅しかねなかったからだ。
「ここなら、生き物もいないし、人も住んでいない。試すには丁度いいだろう⋯⋯」
ということで、まずは今、使用できる初級、中級魔法そしてジェーンから習得した上級魔法⋯⋯すべてを試しみた。
ドーン! ドーン! ドーン! ドーン! ドーン!⋯⋯。
とりあえず、目の前の地形が変わっていた。
「いやー、それにしても初級や中級魔法も前に比べてさらに威力が増しているな~。ジェーンから習得した上級魔法に至ってはもはや超級魔法に近い威力になってないか? これも、おそらく魔力膨大の恩恵なんだろうな~」
そんな感じで俺は、自分の魔法の威力に驚いていた。
「しかし、これだけ発動しても魔力量は三分の一程度しか減ってないな⋯⋯」
ということで、今度は超級魔法『極致炎壊』を連続で放ち、限界に挑んでみた。
ズゴーン! ズゴーン! ズゴーン! ズゴーン! ズゴーン!⋯⋯。
なんか、目の前の大地に巨大隕石が落下したような巨大クレーターがいくつも出来上がっていた。あと、地響きもすごい。
「うーん⋯⋯想像以上に超級魔法の威力も上がってたか。これは人相手には使えんな⋯⋯」
結局、今の全力では俺は極致炎壊は最大で二十回は撃てるくらいに魔力が増えていた。
「うむ。これで、ますます俺の『異世界チート転生道』が捗るな」
満足した俺は帰路についた。
*********************
——同日同時刻、騎士団本部
「団長! アルフレッド団長! 間違いありません! 今の数十発の大きな爆発音と地震の揺れはグラン・キャンバス大渓谷が震源地となっていますっ!」
「わかった! お前たちは至急現地へ迎え! 私は国王へ報告に行く! 急げっ!!!!」
——十分後、クラリオン王国王城 王の間
「ラディット国王! ただいまの爆発音とそれに伴う地震についてですが、現在、震源地がグラン・キャンバス大渓谷であることが判明しました。現在、先遣隊を現地に向かわせました!」
「よりにもよって、あのグラン・キャンバス大渓谷か⋯⋯。他国による攻撃、または、魔獣の大群暴走やもしれん! 至急、現地にて調査し報告せよっ!」
「かしこまりましたっ!!!!」
どうやら俺は、意図せずやらかしたようだったが、そんなことはその時点では知る由もなかった。
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