君と僕のガラクタだった今日に虹をかけよう

神楽耶 夏輝

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復讐。その先に

未来は変わる

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 Side-芙美

 泉君が措定した店、GlowDeckグロウデックは、繁華街から少し入り込んだ裏通りに面した5階建てのビルの1階にあった。

 バーというよりは夜カフェ。
 白と赤を基調としたインテリアが強烈だ。

 ファストフード店とバーが入り混じったような造りで、雰囲気としては、クリスマスイブの恋人とのデートには相応しくない。

 なぜ、彼は梨々花とのデートに、この店を選んだのだろうか?

 店内は騒がしい。
 酒に毒された若者たちは、テーブルの境目がわからないほどの大騒ぎ。
 大きすぎるBGMがかき消されるほどだ。

 入口を入ったところで、少し店内に目を泳がせたら、カウンターに座る泉君の背中が目に留まった。

 彼は、こちらに気付かず店員としきりに何か話をしている。
 その隣で赤いニットワンピースを着ている梨々花が、しきりにスマホを操作している。
 華奢な背中にかかる長い髪はライトに照らされてきれいなグラデーションを描く。
 細い腰が印象的だ。
 伊藤もすぐに彼らの姿を察知したのか、迷わずカウンターの方に歩み寄った。

「よお!」
 泉君の背を叩いた。
 弾かれたように振り返った彼は、少し引きつった笑顔で伊藤と拳を合わせた。

 何事かと、驚いた顔で二人の顔を交互に見る梨々花。
 伊藤は彼女にも、パーにした手を上げる。彼女はその手に戸惑いながらタッチした。

 伊藤は何も疑った様子はなく、私に手招きをしている。
 笑顔を貼り付けて、伊藤の隣に座った。

 席順は一番右端に泉君、その隣に梨々花、伊藤、私という順だ。

 泉君と店員はしきりに何かを話しているが上手く聞き取れない。

 彼は梨々花を通り越して、伊藤の耳元で何か話している。

 伊藤伝手で私はその内容を知った。

「ボックス席に移動させてもらえるらしい」

 人数が増えた事で、店員が気を利かせてくれたのだろう。
 私たちは、少しだけ静かな半個室に案内された。

 泉君のグラスはロックグラス。
 丸い氷を覆う透明な琥珀色の液体は、かなり強いアルコールなのではないか? と余計な心配が脳裏を過る。

 伊藤はジンライム、梨々花はノンアルのカシスオレンジを。
 私はシャングリラを注文。
 伊藤と泉君はお互いの近況を報告し合っているが、ほぼ伊藤の独壇場。
 

「ちょっとお化粧直して来る」
 伊藤に耳打ちして席を立った。

 今の所、泉君はそつなく熟しているように見えるが、時々会話が噛み合わずハラハラする。

 トイレの鏡で化粧を直し、鏡に向かって自分に言い聞かせる。

 ――大丈夫。大丈夫よ。


 外に出て、思わず声を上げた。

「ひゃっ!! なにやってるの?」

 目の前に泉君が立っていた。

「別に。僕もトイレに来ただけだよ」

「酔ってる?」

「全然」

「本当?」

「本当だよ」

「何飲んでたの?」

「ウーロン茶」

「え?」

 泉君はおかしそうに笑った。

「あのバーテン、うちの店のお客さんなんだ。彼女の前でかっこ悪いとこ見せられないから、バーボンロックって言ったら、ロックグラスでウーロン茶出してって頼んでおいたの」

 その作戦に思わず吹き出してしまった。
 だから、この店にしたのね。

「あのノートに書いてあったんだ。起きる出来事を回避する事はできない。道筋は違っても必ず起きる事は起きるんだ。あの競馬のように」

「競馬?」

「元々、あのレースでは大穴が来る予定だったんだ。出走馬が変わっても」

「どういう事?」

「未来の僕は、あのレースで大穴の万馬券が出る事を知っていた。けどレース直前でその馬が出走停止になったんだ」

「大牙は、勝つ事を知っていたの?」

「あれ? 知らなかった? それ目当てで競馬に行ったんだ。でも目当てのカグヤスプリンターは出走停止になっただろ? それでも、大穴で億を手に入れた。たまたまだと思う?」

「……どういう事?」

「だから! 道筋は変わっても、起きる事は形を変えてでも起きる。未来の僕は、カグヤスプリンターじゃなくても勝てたんだ。つまり、僕が彼女として梨々花を紹介した今日、二人は浮気する。年代は違っても、このタイミングは二人にとってのターニングポイントになるはずだと、僕は思うんだ」

「そう」

「僕たちの結婚も回避できない。道筋と相手を変えるんだ」

 半信半疑だが、これまでにない自信に満ち溢れた泉君の物言いに、妙な説得力を感じた。

 ノートを何度も読み返し、何かを学習したのかもしれない。
 これまでとは違う。彼の眼光に、剛腕経営者と呼ばれた大牙の片鱗が見えた。

「とっとと、伊藤と梨々花をくっ付けるよ」

 そう言って、彼は私の腰に手を回した。

「そして、僕たちが結婚すれば未来は変わる」

 そう言った瞬間、同極同士の磁石が触れ合ったように、彼は私の体を弾いた。
 彼の目線は私の背後。

 振り返ると、伊藤がいた。

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