君と僕のガラクタだった今日に虹をかけよう

神楽耶 夏輝

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復讐。その先に

復讐完了

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 Side-芙美

 2015年6月某日

 あれから半年が過ぎた。
 私は、あの時の計画通り、伊藤農園で畑を手伝っている。

 朝5時から夕刻5時まで。日当5000円という過酷な労働条件だが畑仕事は楽しかった。

 自分が手掛けた野菜が立派に育ち、収穫して商品棚に並ぶのは、感慨深い物がある。
 アチラの方も、十分過ぎるほどの収穫があった。

 伊藤とはもちろん恋人同士だ。
 相変わらず、体は一切男を受け付けないが、伊藤には私より育て甲斐のある女がいるのだから、問題ないらしい。

 夜な夜な母親の目を盗んで、自室に連れ込んでは逢瀬を重ねていた。
 あの時15歳だった梨々花は、16歳になった。覚えたてのセックスが楽しくて仕方がないようだ。
 こっそり見た彼のスマホには、二人がシている最中の写真もたくさん保存されていた。

「芙美ちゃーん。3時よー。今日はもう上がって、お茶にしなさい」

 義母が畑の縁から手招きをしている。

「はーい。ここまで草取ったら行きます」

「いいのいいの。もう明日すればいいんだから。今日は大事な日だから」

 今日は大事な日。

 そう。
 今夜は、私と伊藤の、正式な婚約披露パーティだ。

 せっかちな義母の催促もあり、3年後と言っていた結婚を1年後と短縮し、バタバタと席を整えた。
 結婚式は、さすがにもうやらないが、今年の12月24日に入籍する事に決めた。

 これから婚約披露パーティというお披露目会はこの家で行われる。
 伊藤の姉たちや親せきも集まるため、私は体裁よくお化粧をして、見栄えのいい服に着替える必要があるのだ。

 結納もなし。
 全て割愛して、お嫁に行く準備がこれから始まる。

 と、皆思っている。

 手袋を外しながら、汗をぬぐい、仕事を切り上げた。

 家に上がり、シャワーを借りて帰途に着くのがいつもの日課だ。

 居間から続き間になっている座敷は3部屋。
 襖は外され、長テーブルがずらりと並んでいる。
 そこらの公民館よりも、広々とした大広間が出来上がっていた。
 この机に、これから配達されたお寿司やオードブルが並ぶのだ。

 縁側に繋がるガラス戸からは、広々としたパノラマの農園が広がっている。


 シャワーを済ませ、義母に愛想よく挨拶をする。

「お義母さん、私、一旦帰って着替えてきますので。5時には伺いますね」

 義母は台所でお茶を飲みながら、嬉しそうに微笑んで
「ああ、待ってるよ」と。


 泉君はというと、もちろん梨々花との交際が続いている。
 サロン内でも公認の恋人同士なのだとか。
 今年の春からモデルとしてデビューした梨々花の担当スタイリストからは、残念ながら外されてしまったらしい。

 スタイリストになるべくテストを通過してきたのは、未来の大牙なのだから仕方がない。
 泉君は、毎日遅くまでレッスンでクタクタになっている。
 そのせいで、梨々花のフラストレーションは自然と伊藤に向いたのだった。


 ――17時。

 念入りに化粧をして、薄いグレーのフォーマルなワンピースに着替えた。ホルダーネックにノースリーブ。
 サラっとした質感のロング丈。
 一世一代の勝負服は通販だが5万円もした。
 体に纏わり付く薄い布は肌触りがよくてテンションが上がる。
 新しく服を新調したのは何年振りだろう?

 伊藤の家に着くと既に車が数台敷地に停めてあって、玄関でスーツ姿の伊藤が私を出迎えた。

「いよいよだな」
 感慨深そうな顔を作ってこちらに手を伸ばす。
 迷いなど見せずにその手を掴み、彼の胸に頬を寄せた。

「いつも大事にしてくれてありがとう。私、とっても幸せよ」
 それは嘘ではなかった。
 人が変わったように暴力もなくなり、いつも労いの言葉を忘れない。
 
 彼は私の腰に手を回して抱き寄せた。

「絶対幸せにするから」
 伊藤はそう言って、涙ぐんだ。

 家に上がると、既に伊藤家の人々は集まっていて、口々に私を歓迎した。

「芙美さんがお嫁に来てくれて本当によかった」
「これで伊藤農園も安泰ね」
「よく出来たお嫁さんなのよ」
 義母も今日はいつになく上機嫌だ。

 因みにうちの母親は、この結婚には猛反対で、保坂家からは誰もこの会に参加しない。

 無理もない。
 結婚式で私のあんな体を目の当たりにしたのだから。

 テーブルには豪勢な料理と酒が並び、私と伊藤はテーブルの一番端っこの主役の席に並んで座った。
 差し向かいで瓶ビールを注ぎ合い、「乾杯」と威勢のいい声が響き渡った。

 忙しくお酌をして回る参列者たち。
 私もお雛様のように座っているわけにはいかない。

 ビールを持って、お酌に回る。

 一時間ほど宴が進んだ頃だ。

 酔いも回り、皆、上機嫌。
 手拍子が始まり、祝いの歌を親戚のおじさんが歌い始めた。

 その時だ。

 縁側に続くガラス戸がバンっと音を立てて開いた。
 湿気を帯びた生ぬるい風が室内に流れ込む。

 険しい顔を作った男と、泣きながら引きずられるようにやって来た若すぎる女の子の姿に、会場は一瞬静まり返る。

 顔面を蒼白にしたのは伊藤だ。

「い、い、泉……」

 サロンの制服姿で、鼻息荒く登場したのはもちろん泉君だ。

「伊藤! 貴様ーーーー!!!」

 若干、迫力に欠けるが「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣き叫ぶ梨々花の声が、会場を緊迫させた。

 泉君は律儀に靴を脱ぎ、部屋に梨々花を引きずりながら上がり込んだ。

「梨々花。何があったか言えよ!」

 そう言って、会場のど真ん中に彼女を投げ出した。
 梨々花は顔を覆って泣きじゃくっている。

「泉君? どうしたの? 何があったの?」
 私はおろおろとして見せる。

 その私の目の前に、泉君はスマホを掲げた。

「SNSに出回ってた動画と画像だ。伊藤と、僕の彼女。まだ15歳だった梨々花は、去年の12月から体の関係があったんだ。今も続いてるんだろう? そうなんだろう? 梨々花!」

「はい。昨日もエッチしました。ごめんなさい」

 今だ!!

「どういう事?」
 私は金切り声を出して、ワナワナと立ち上がった。

 打ち合わせ通り、泉君が差し出したスマホを見て、拳をぶるぶると震わせる。

「なに? なんなの? これ?」

「芙美。違うんだ、これには……」
 立ち上がり、私を宥めようと近づいた伊藤の頬に思いきりビンタした。

 バッチーーーーーン!!!

「言い訳なんて聞きたくないわ。騙してたのね。こんな子供とそんな関係になるなんて、信じられない。彼女、まだ16歳よ」

「優作! 一体どういう事なんだい? お前って子は……」

 義母がずかずかとこちらにやってきて、バチバチと伊藤を平手で叩いた。

「痛い痛い。母さんやめて」

「私、二人が結婚するなんて知らなかったの。伊藤さんは芙美さんと別れるって言ってたから。18歳になったら結婚しようって、いってくれてたから」

 梨々花は畳の上に両手を突いて、過呼吸になるんじゃないかと思うほど泣きじゃくった。

「いいわ。浮気するような男、私はごめんよ。あなたにあげる。どうぞクズ同士、お幸せに」

「保坂さん、行こう」
 泉君の言葉を合図に、廊下に向かった。

 ざわざわとどよめく伊藤家の人々を後に、家を出た。

「芙美ちゃん、芙美ちゃーーん。ちょっと、ちょっと待って」

 蒼白になった義母が息を切らしながら追いかけて来る。

 一応、立ち止まり、振り返ってあげる。

 義母は玉砂利の上に膝をついて、地面に額をこすりつけた。

「息子が、息子が大変な事をして、本当に……ごめんなさい。どうか、もう一度、考え直してはもらえないだろうか? あなたがいなかったら、農園は……」

 私は義母の目線に屈んだ。

「お義母さん、顔を上げてください。彼女は私より5つも若いんです。私よりもいい労働力になりますよ」

 額を地面にこすりつけたまま、義母は顔を上げようとしない。

「それじゃあ。あ、慰謝料はいりませんので」
 弁護士立てて、長々と裁判なんてめんどくさい。とっとと縁をきりたいので。

「今月分のお給料は、働いた分きっちり振り込んでくださいね。では、さようなら」

 泉君の車に乗り込んで、勢いよく伊藤家の敷地を後にした。
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