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復讐。その先に
君の横顔
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Side-梨々花
体の芯までじりじりと焦がすような大人のキスに、頭が変になりそうだった。
何度も何度も伊藤さんに吸われた唇がヒリヒリと熱を持つ。
太ももを硬いナニかがこする。
その正体が知りたい。
爪の先でそっと撫でた。
伊藤さんはその手をぎゅっと掴むと、その硬いナニかに押し付ける。
「俺とやりたい?」
熱い息が耳を覆った。
Side-大牙
なんだか気まずい雰囲気を携えて、伊藤と梨々花が席に戻って来た。
時刻は21時過ぎ。
「さて、未成年は帰る時間だ」
僕は椅子にかけてあった彼女のコートを取った。
「帰ろうか。送るよ」
梨々花は不満そうに頬を膨らませる。
「あー、泉。俺も明日早いんだ。お先するわ。彼女、俺がタクシーで送ろうか。成城だよな? 方向、同じだから」
来た!
僕は心の中で拳を引いた。
これは、絶対ナニかあったな。
お化粧直しした割に、梨々花の口紅は色を失くしている。
今にもにやけそうな頬に力を入れる。
「そう? けど、保坂さんは……」
「私は大丈夫よ。もう少し飲んで帰ろうかな」
伊藤はふっと頬を緩めた。
「悪いな、芙美」
「ううん、いいのよ。後で電話するわ」
「ああ、じゃあ、またな」
伊藤は財布を取り出そうとする。
「ああ、ここはいいよ。僕が払っておくよ。ボーナスが入ったし。彼女、送ってもらうわけだし」
「そっか。悪いな。じゃあ、ごちそうさん」
伊藤は、梨々花の背中を押しながら、そそくさと店を出て行った。
二人の姿が消えるのを見届けて――。
「よっしゃーーーーー!!!」
と雄たけびを上げて、保坂さんに向かって両手を広げた。
彼女も同じテンションで僕の胸に飛び込んだ。
「きゃあーーー!! やったわね」
「爆速だったね」
どさくさに紛れて、何度も彼女を抱きしめた。
どれだけ僕たちが大声で騒ごうと、こちらに目を向ける者はいない。
それ以上に店内は大騒ぎなんだ。
「ちょっと待ってて」
僕は予め仕込んでおいたスマホを回収しに、トイレの前に向かった。
大きな観葉植物の幹に立てかけて置いたスマホには、ここで何があったのか、一部始終が動画で収められているはずだ。
録画をストップさせて、保坂さんの待つ席へと戻った。
まるで戦利品のように、僕は彼女に向かってスマホを掲げた。
「なに?」
「隠し撮りしといたんだ」
彼女の顔色が変わった。
「いつから?」
「僕がトイレに行った時から。この店のあの場所はフロアから全くの死角になるだろ。よく男女がイケナイ事してるのを見かけてたんだ。無駄骨になるかも知れなかったけどね」
そう言いながら、動画を再生しようとした僕の手を、彼女は制止した。
「え?」
唇は震え、顔は色を失っている。
「いや」
「何が?」
伊藤と梨々花の浮気現場を見るのはやっぱり辛いのかな?
面白くない気持ちがふつふつと沸き上がる。
「やっぱり、まだ伊藤の事が好きなの?」
「そんなわけないでしょう」
「じゃあ、何?」
彼女は何度も瞬きをして、ゆらゆらと視線を泳がせる。
口元に当てた指は小刻みに震えていて、何かに怯えているようだった。
「あなたに……見られたくないの」
「え?」
「私、伊藤に……無理やり」
そう言って、両手で顔を覆った。
ようやく察した。
僕はなんてバカだったんだ。
梨々花と伊藤にばかり気を取られていて、彼女のピンチに気付けなかったなんて。
未来の僕ならきっと、彼女をこんな辛い目には遭わせなかっただろう。
「ごめん」
僕はスマホを差し出した。
「見られたくない部分、消しなよ」
必死で涙を堪えながら、彼女はそれを受け取った。
「どうやるの?」
「カメラのアイコンのアプリがあるだろう? それで編集できるから」
「うん」と頷き、スマホを操作する。
「どう? ちゃんと映ってる?」
「うん。ばっちり」
操作を終えて、彼女はこちらにスマホを戻す。
僕は残された動画を確認する。
「うわっ、すげー、う、うわぁー、マジか。パンツの中に手入ってるよね? これ。伊藤、フル勃起じゃん」
そんな声が自然と漏れ出すような動画だった。
保坂さんは、興味なさ気にシャングリラを飲み干した。
「これからどうする? 僕んちで飲み直さない?」
「うん。いいわ」
会計を済ませて外に出る。
途中、コンビニで酒やおつまみを買い込んで、アパートにたどり着いた。
正直、悶々としていた。
彼女は伊藤と、どんな事をしたのだろうか?
事実を知る術がない以上、妄想は膨らむばかり。
見たら見たで、結局僕は傷ついて立ち直れないほどのダメージを受けるのだろう。
「どうぞ」
先に彼女を上がらせた。
「お邪魔します」
彼女はたたまれた布団によりかかるように、足を伸ばして座った。
まるでそこが自分の席であるかのように。
僕はローテーブルに買い物してきた酒やつまみを並べる。
「どれがいい?」
と訊ねると
「ピーチ」
と彼女は言った。
アルコール度数の低いピーチの酎ハイを差し出して、僕はマスカットの酎ハイのタブを上げた。
彼女に倣うように僕も布団に背中を預けて座った。
「乾杯」
と缶をぶつけて、一口喉に流し込む。
彼女は勢いよく口元で缶を傾け、ゴクゴクと喉を鳴らした。
艶めかしく反った喉元を甘い液体が通過する。
彼女の唇を濡らしながら体内へと流れ込んでいく。
「はぁーーー。おいしい」
「勝利の味だね」
「まだよ。最後の仕上げが残ってる」
彼女はそう言って立ち上がると、窓辺に立って外を見た。
高層ビルに挟まれた陳腐な夜景。
空さえまともに見えない景色を。
僕は缶を持ったまま、彼女の隣に立った。
中学の頃から眺めていた横顔。
この横顔が、僕に笑いかける事は一度もなかったんだ。
「ねぇ、保坂さん」
「なに?」
彼女はナチュラルに振り向いた。
「キスしてもいい?」
彼女の唇が僅かに動いた。
黙り込んだ後、こう言った。
「ごめんなさい。もう少し、待って」
「わかった」
僕は爆速で応えた。
せめてもう少し一緒にいたかったから。
逃げるように帰る背中を見るのは、嫌だったんだ。
体の芯までじりじりと焦がすような大人のキスに、頭が変になりそうだった。
何度も何度も伊藤さんに吸われた唇がヒリヒリと熱を持つ。
太ももを硬いナニかがこする。
その正体が知りたい。
爪の先でそっと撫でた。
伊藤さんはその手をぎゅっと掴むと、その硬いナニかに押し付ける。
「俺とやりたい?」
熱い息が耳を覆った。
Side-大牙
なんだか気まずい雰囲気を携えて、伊藤と梨々花が席に戻って来た。
時刻は21時過ぎ。
「さて、未成年は帰る時間だ」
僕は椅子にかけてあった彼女のコートを取った。
「帰ろうか。送るよ」
梨々花は不満そうに頬を膨らませる。
「あー、泉。俺も明日早いんだ。お先するわ。彼女、俺がタクシーで送ろうか。成城だよな? 方向、同じだから」
来た!
僕は心の中で拳を引いた。
これは、絶対ナニかあったな。
お化粧直しした割に、梨々花の口紅は色を失くしている。
今にもにやけそうな頬に力を入れる。
「そう? けど、保坂さんは……」
「私は大丈夫よ。もう少し飲んで帰ろうかな」
伊藤はふっと頬を緩めた。
「悪いな、芙美」
「ううん、いいのよ。後で電話するわ」
「ああ、じゃあ、またな」
伊藤は財布を取り出そうとする。
「ああ、ここはいいよ。僕が払っておくよ。ボーナスが入ったし。彼女、送ってもらうわけだし」
「そっか。悪いな。じゃあ、ごちそうさん」
伊藤は、梨々花の背中を押しながら、そそくさと店を出て行った。
二人の姿が消えるのを見届けて――。
「よっしゃーーーーー!!!」
と雄たけびを上げて、保坂さんに向かって両手を広げた。
彼女も同じテンションで僕の胸に飛び込んだ。
「きゃあーーー!! やったわね」
「爆速だったね」
どさくさに紛れて、何度も彼女を抱きしめた。
どれだけ僕たちが大声で騒ごうと、こちらに目を向ける者はいない。
それ以上に店内は大騒ぎなんだ。
「ちょっと待ってて」
僕は予め仕込んでおいたスマホを回収しに、トイレの前に向かった。
大きな観葉植物の幹に立てかけて置いたスマホには、ここで何があったのか、一部始終が動画で収められているはずだ。
録画をストップさせて、保坂さんの待つ席へと戻った。
まるで戦利品のように、僕は彼女に向かってスマホを掲げた。
「なに?」
「隠し撮りしといたんだ」
彼女の顔色が変わった。
「いつから?」
「僕がトイレに行った時から。この店のあの場所はフロアから全くの死角になるだろ。よく男女がイケナイ事してるのを見かけてたんだ。無駄骨になるかも知れなかったけどね」
そう言いながら、動画を再生しようとした僕の手を、彼女は制止した。
「え?」
唇は震え、顔は色を失っている。
「いや」
「何が?」
伊藤と梨々花の浮気現場を見るのはやっぱり辛いのかな?
面白くない気持ちがふつふつと沸き上がる。
「やっぱり、まだ伊藤の事が好きなの?」
「そんなわけないでしょう」
「じゃあ、何?」
彼女は何度も瞬きをして、ゆらゆらと視線を泳がせる。
口元に当てた指は小刻みに震えていて、何かに怯えているようだった。
「あなたに……見られたくないの」
「え?」
「私、伊藤に……無理やり」
そう言って、両手で顔を覆った。
ようやく察した。
僕はなんてバカだったんだ。
梨々花と伊藤にばかり気を取られていて、彼女のピンチに気付けなかったなんて。
未来の僕ならきっと、彼女をこんな辛い目には遭わせなかっただろう。
「ごめん」
僕はスマホを差し出した。
「見られたくない部分、消しなよ」
必死で涙を堪えながら、彼女はそれを受け取った。
「どうやるの?」
「カメラのアイコンのアプリがあるだろう? それで編集できるから」
「うん」と頷き、スマホを操作する。
「どう? ちゃんと映ってる?」
「うん。ばっちり」
操作を終えて、彼女はこちらにスマホを戻す。
僕は残された動画を確認する。
「うわっ、すげー、う、うわぁー、マジか。パンツの中に手入ってるよね? これ。伊藤、フル勃起じゃん」
そんな声が自然と漏れ出すような動画だった。
保坂さんは、興味なさ気にシャングリラを飲み干した。
「これからどうする? 僕んちで飲み直さない?」
「うん。いいわ」
会計を済ませて外に出る。
途中、コンビニで酒やおつまみを買い込んで、アパートにたどり着いた。
正直、悶々としていた。
彼女は伊藤と、どんな事をしたのだろうか?
事実を知る術がない以上、妄想は膨らむばかり。
見たら見たで、結局僕は傷ついて立ち直れないほどのダメージを受けるのだろう。
「どうぞ」
先に彼女を上がらせた。
「お邪魔します」
彼女はたたまれた布団によりかかるように、足を伸ばして座った。
まるでそこが自分の席であるかのように。
僕はローテーブルに買い物してきた酒やつまみを並べる。
「どれがいい?」
と訊ねると
「ピーチ」
と彼女は言った。
アルコール度数の低いピーチの酎ハイを差し出して、僕はマスカットの酎ハイのタブを上げた。
彼女に倣うように僕も布団に背中を預けて座った。
「乾杯」
と缶をぶつけて、一口喉に流し込む。
彼女は勢いよく口元で缶を傾け、ゴクゴクと喉を鳴らした。
艶めかしく反った喉元を甘い液体が通過する。
彼女の唇を濡らしながら体内へと流れ込んでいく。
「はぁーーー。おいしい」
「勝利の味だね」
「まだよ。最後の仕上げが残ってる」
彼女はそう言って立ち上がると、窓辺に立って外を見た。
高層ビルに挟まれた陳腐な夜景。
空さえまともに見えない景色を。
僕は缶を持ったまま、彼女の隣に立った。
中学の頃から眺めていた横顔。
この横顔が、僕に笑いかける事は一度もなかったんだ。
「ねぇ、保坂さん」
「なに?」
彼女はナチュラルに振り向いた。
「キスしてもいい?」
彼女の唇が僅かに動いた。
黙り込んだ後、こう言った。
「ごめんなさい。もう少し、待って」
「わかった」
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せめてもう少し一緒にいたかったから。
逃げるように帰る背中を見るのは、嫌だったんだ。
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