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咥えることで得た秘密

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 ひと月ほど経ち、グリエルムスの遠征は順調という話が王宮に伝わってきた。東の半島国は小国で、グリエルムスの軍勢に対抗できるほどの兵力はなかった。
 グリエルムスが不在の間、王妃となったマルチリアが政治の実権を握った。マルチリアは監視や密告の制度を強化し、市民であろうと役人であろうと、反抗的な者を次々と取り締まった。教団の勢力が暗躍していると噂された。そして王宮の前の広場には毎日のように処刑された者が晒された。
 師のコルネリウスは元老院の一員でもあり、元老院でセルギウスの処遇改善を訴えたが、マルチリアに目をつけられるのを恐れ、賛同する者はわずかだった。

 セルギウスは銅鏡の前に座り、自身の顔を映していた。傍らには化粧道具などがあった。セルギウスは自分で化粧し身だしなみを整えることを求められ、厳しく指導された結果、すっかり上手になった。幼い頃から真面目だったセルギウスは王子として学問や武芸をよく修めたが、この場合でもその真面目さが発揮されてしまった。
 リベリオニスの儀式の影響かさらに色白になったため、白粉はほとんどつけなかった。セルギウスは鏡を見ながら、慣れた手つきで深緑のアイシャドウを塗った。大きな目が強調され、華やかになった。やや暗い赤の口紅を塗って艶やかに、髪は櫛を通して後ろで結んだ。
 化粧をしながらセルギウスは考え事をしていた。現状を脱するには、まずリベリオニスの儀式について改めてよく知る必要がある。幸い魔術や秘技に関する書物は王宮に保管されていた。問題は書物庫には番人がいることだった。すんなり通してもらえるはずはないが、今の姿を活かせば解決できるかもしれなかった。
 セルギウスは仕上がった自らの姿を銅鏡で確認した。赤の衣をまとった美女がそこにいた。少々胸元が寂しいが、男なら劣情を抱くだろう。それが自分自身というのが悲しいが。

 書物の保管庫は長く薄暗い廊下の突き当たりにあった。扉の横には番人の男が座っていた。
「これはこれは誰かと思えば、王、子、様、ではないか」
 セルギウスが近づくと番人の男は、わざとらしく王子様を強調して言った。
「こんなところに何の用かな?」男は言った。
「保管庫に入れてほしい」セルギウスはよく通る声で言った。
「あなたのような奴隷に用はないはず」
 男は腕組みをした。セルギウスは意を決して、息がかかるほどの距離に近寄った。
「対価は支払います」
 セルギウスは上目遣いにそう言って、男の股間をそっと撫でた。固い感触を感じた。男は腕組みしたまま考え込むように固まっていたが、急にセルギウスに口づけした。
 セルギウスは男に唇を貪られながら、男の腰巻きを緩めて、持ち物を露出させた。手で触って確かめると、それは天にそそり立っていた。他人のそれを触るのは初めてだったが、セルギウスは撫でたりしごいたりしてみた。湿り気があり、先走っているようだった。
「すっかり娼婦だな」
 男は急にセルギウスの肩に両手を置くと、力を込めてセルギウスをひざまずかせた。男の持ち物はちょうどセルギウスの顔の前にあった。次の瞬間、男は持ち物をセルギウスの口に突き入れた。
 セルギウスは小さい口を大きく開けてどうにか咥え込んだ。臭気と塩気を感じた。奥が塞がれて苦しかった。頭を男の両手で押さえられ、激しく前後された。まるで物のように扱われた。どういうわけか己の股間にもじんじんとした熱を感じたが、セルギウスは気にする余裕がなかった。
 しばらくすると、口の中の熱い肉塊が一回り膨らんだ。そしてそれは熱い粘液を噴出した。粘液が口に溜まり、喉に流れ込んだ。セルギウスはむせたが、押さえつけられて自由にならないので、飲み込まざるを得なかった。熱い液体が喉を下って、風味が鼻に抜けた。
 男は唾液でてらてらとした持ち物を抜いてしまい込むと、黙って保管庫の扉を開けた。セルギウスはよろよろと立ち上がり、苦味を残したまま保管庫に踏み入った。

 セルギウスは松明を手に取り、書棚の間を進んだ。書棚には巻物や麻紙の束がびっしりと積んであった。題名を読み取ったところでは、ある程度分野ごとにまとめられているようだった。
 奥に進むと魔術に関する一角があった。その一角の書物を重点的にあらためると、ひときわ古い巻物があった。
「リベリオニスの成立と条件」
 巻物をほどいて確かめると、古い言葉で書かれていた。リベリオニスについて詳しく説明しているように見えたが、読み解くには時間がかかりそうだった。
 セルギウスは巻物を懐にしまった。書棚の間を戻り、扉にたどり着いた。番人はにやにやしていたが、セルギウスは目を合わせずその前を通り抜けた。
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