S級魔法師は働かない

せろり。

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 今日もまた気怠げそうな足取りで少年レイは大通りを歩いていた。

 相変わらず、やる気の無さそうな表情をしているが服装がいつもとは異なっていた。
 いつもなら安いヨレヨレの麻の服を適当に着る程度なのに今日はピシッとしたシワの一つもない黒ローブを身にまとっている。

 大通りのあちこちにはレイと同じくらい、おおよそ15、16程度の年齢の少年少女達が楽しそうに談笑しており、朝なのにも関わらず楽しそうな声でキャピキャピしている。
 レイはそんな達を横目に見ながら深いため息をついた。


「はぁ、働きたくない。お家帰りたい」


 レイがなぜこんなにも気怠げなのか。
 その理由は今から2週間前にあった。


 

 ☆ ☆ ☆




「というわけだレイ。君には王都アルメリアにあるアルメリア魔法学院へと通ってもらう」


 目の前で色っぽく脚を組みながら座る女ギルド長はレイに依頼内容を告げた。


「依頼ですからね。受けるといった以上は仕事の内容にあれこれは言いませんよ。でも魔法学院へ通うのは良いとしても、通って何すればいいんですかね?」


 依頼の肝はここだ。
 魔法学院へ通うというのは取り敢えず置いておいて、『通う』という情報だけでは依頼の意図が分からない。
 依頼人としてはレイが学院に通うに当たって、があるのだろう。

 受ける、と言った以上は完遂するのに全力を注ぐ気概でレイはいたが、具体内容が分からなければ行動の方針が立てられない。


「この国にはアルメリア魔法学院がある。だが他の国にもそれぞれの国が運営する魔法学院がある事は知っているな?」


 レイは黙って首肯する。


「ならば話は早い。魔法学院には4年に一度、大陸中から魔法学院が集まり各校の生徒達の実力を競い合う学院対抗戦がある。これは知っているか?」

「詳しい事までは知らないけど一応は」

「今年もまたこの学院対抗戦が開催されるのだが、今回がなんと開催100回目となる記念回らしい。」

「なるほどねぇ、」


 レイにはだんだんと依頼の意図が読めてきていた。


「国側としては、この記念すべき100回目の魔法学院対抗戦は何としてでも優勝を勝ち取りたいらしい、つまり、」

「つまり俺への依頼は、魔法学院対抗戦にアルメリア魔法学院の代表の1人として出場して優勝しろ、って事ね」


 女ギルド長はパチンと指を鳴らし、レイを指差した。


「そのとおり」

「何ともまぁ、面倒くさい依頼だこと・・・」


 レイはげんなりと肩を落とし落胆する。

 彼にとっては所詮学生レベルでしかない魔法大会で勝つ事など大した問題ではない。

 彼が落胆するから理由はこの依頼を遂行するに当たって要する時間にあった。
 
 彼が今までこなしてきた依頼は難易度が極めて高いものでも時間自体はそこまでかからない物が大半だった。
 魔物討伐でも移動時間によってある程度は前後するが、大体1週間もあれば終了する。
 ダンジョン探索系の依頼でも1ヶ月以上かかった事は今までに1度もない。

 だが今回の依頼は違う。

 今は新年度が始まったばかりの4の月。そして依頼の目標となる学院対抗戦は10の月の終わりにある。
 約5ヶ月半。平たく言えばそれがこの依頼を達成するのにかかる時間だ。
 今までとはレベルが違う長期に渡っての依頼となる。

 それにこの依頼の厄介なところは手間の多さにもある。

 まず当面の目標となる学院対抗戦への参加。
 これは依頼をこなす上での絶対条件だ。代表メンバーに選ばれなければ話にならない。
 しかし学院対抗戦は4年に一度しかない特別な催しだ。そこで活躍する事ができれば、将来は安泰、貴族や王宮からも引く手数多、人生での栄達が約束される。
 当然学院に在籍する生徒の大半が出場を目指すだろう。
 代表に選ばれるにはその競争にも参加しなければならない。

 そして学院に依頼とはいえ在籍する以上、当然勉強をしなければならない。
 これも絶対に避けられない道だ。
 更に勉強のためには毎日学院に登校しなければならない。

 今日は怠いからだらだらしよう、そんな甘い考えは周囲からの不信を招く。当然許されない行為だ。

 このように依頼に臨むにあたって、こなさなければならない過程が多くあり、それを5ヶ月半も継続しなければならない。

 基本面倒くさがりで働きたがらないレイには相当な苦行になるだろう。

 幸い、レイは魔法の腕は超一流だ。
 魔法に関しての事では苦労する事はほとんど無いだろう。

 レイは魔法師としてS級と称される分類にいる。

 この大陸に存在する魔法師は全てその実力や使う魔法の特殊性に応じて階級区分をされている。
 もはや一般人と変わらない程度のF級から最高位のS級までの7階級制だ。
 魔法師は大陸全体で星の数ほどいるが、最高位のS級とされるのは大陸でもレイを含めてわずか10人程度しかいない。

 つまりレイは弱冠15歳にして大陸最高峰の魔法師の一角という訳だ。
 

 「国側としては記念となる今年の学院対抗戦は何としてでも優勝したいらしい。だがあくまで学生向けの大会だ。国がいくら実力者を投入しようにも年齢というハードルがある。そこで白羽の矢がたったのがお前という訳だな」


 確かにレイは捨て子ゆえ正確な年齢こそ分からないが、せいぜい10代半ば程度の年齢だろう。
 ちょうど魔法学院に入学する頃の年齢だ。年齢というハードルはレイには全く問題とならないだろう。
 

 「大丈夫だよ、レイ。君の実力なら同級生に手こずる敵がいるというのは考え難い。依頼とはいえ学生生活を送れるんだ。せっかくの機会だと思って学院生活を満喫してくれば良いさ」
 

 女ギルド長は相変わらず笑みを浮かべながら脚を組んでいる。


 「はぁ、」

 「そうだ、レイ。もし恋人ができたらちゃんと私にも教えるのだぞ? 育ての親としてその女を見てやるからな」


 女ギルド長はそう言ってからからと笑った。

 意味の分からない女ギルド長の言葉にレイは更に肩を落としたのだった。


 
 ☆ ☆ ☆



 そんな訳でレイは今王都アルメリアにいた。
 そして今日は依頼にあったアルメリア魔法学院への初登校日。

 レイがいる大通りは学院への通学路だ。散見する少年少女達は皆、学院の生徒である。
 
 レイは一応、編入という体らしい。
 まだ新年度が始まったばかりとはいえ今までいなかった人物がぱっと教室に現れるのだ。
 ある程度目立つ事にはなるだろう。

 目立つ事もあまり好まないレイとしては少し憂鬱だった。

 大通りを歩き、商業区を抜け、主に貴族達が住む閑静な住居区に入る。大通りの両脇には一般人では何代かかっても住む事はできそうにない貴族の豪邸が林立している。
 アルメリア魔法学院は貴族の住居区を抜けた先にある。

 15分ほど歩いたところで住居区を抜け、レイはアルメリア魔法学院へと到着した。


 「へぇ、ここがアルメリア魔法学院か」


 レイにしては珍しく感情が感じられる物だった。
 
 到着したアルメリア魔法学院のあまりの大きさと凄みのある外観に少し驚いたのだ。

 アルメリア魔法学院は国が直々に運営している、国中から優秀な魔法師の金の卵達が集まる学び舎だ。
 貧相な出来では対外的にもよろしくない。お金をふんだんに使ったかなり豪奢な作りをしていた。
 下手したら同じ王都にある王城と同じくらい立派なのではないかと思えてくる豪華さだった。


 「まぁ、何でもいいか。えーとこの後の予定はと・・・取り敢えず学院長に会いに行けばいいのか」


 そう言うとレイは大きなあくびを1つしてアルメリア魔法学院の敷地へと脚を踏む入れるのだった。



  ☆ ☆ ☆



 「すいません、学院長室ってどこにありますでしょうか?」

 
 アルメリア魔法学院へと脚を踏み入れたレイは取り敢えず適当に歩き回る事にしたが、あまりの広さに目的の学院長室を見つけられないでいた。

 歩き疲れ途方に暮れていたところメガネをかけた若目の学院の教員と思しき人が通りかかったため、声をかけたのだ。


 「学院長室? 君、学院長に何の用があるんだい?」


 突然話しかけられた教員は少し驚きながらも明らかにレイを怪しんでいるような雰囲気だった。


 「私は今日からこの学院に編入する予定となっている者なのですが最初に学院長様にご挨拶しようと思いまして」

 「編入? この時期にかい?」

 「え、ええまぁ。中々にやんごとなき事情がありまして」

 「うーむ」


 教員はかけているメガネをしきりに触りながら考えごとをしている様だ。
 レイを学院長の元に案内するか悩んでいるのだろう。

 このままでは埒があかない、そう考えたレイは少し趣向を変えてみる事にした。


 「私は学院長様からこのアルメリア魔法学院へ通わないかとお誘いを受け編入する事になった次第でして。流石にご挨拶に伺わないというのは礼を欠いているかと思ったのですが・・・」

 「え、学院長から勧誘されたのですか?!」

 「はい」

 「なるほどなるほど」


 さっきまでとは教員の態度が一変した。
 レイは学院長がどんな人物かも知らないが、依頼屋ギルドとして依頼は確かに受けた。
 学院長からお誘いを受けて編入した、というのは一応嘘ではない。


 「あの学院長から直々に勧誘を受けるとは、その若さで大層優秀なのですね。分かりました。私が学院長室まで案内しましょう。着いてきなさい」


 そう言うとメガネの教員はレイを学院長のいる部屋まで案内してくれたのだった。

 学院のあまりの大きさにどう道を進んだのかを覚えきれず混乱したが、10回通路を曲がったところでレイは気にするのを止めた。

 15分ほど歩いたところでメガネの教員はとある扉の前で立ち止まりレイの方にも向き直った。


 「ここが学院長がいらっしゃるお部屋となります」


 どうやら目的の場所に着いたらしい。


 「ここまで案内して下さってありがとうございました」


 レイはここまで案内してくれたメガネ教員に感謝の気持ちを込めて深く礼をする。困っている時に助けて貰ったのだ。最高の敬意を持って礼をするのが道理、レイはそう考える人物だった。


 「いやいや、気にする事はないさ」


 メガネ教員はレイの深い礼に照れからか少し苦笑すると、では、と一言を最後に言い残し去っていった。

 メガネ教員が通路を曲がり、見えなくなるとレイは頭を上げた。


 「はぁ、疲れた」


 あの教員といる間、ずっとレイは気を張っていた。

 だらしの無い、不真面目な生徒だと思われた暁には学院長への案内どころでは無くなると思ったからだ。

 幸いな事にあのメガネ教員はレイについて都合の良いように曲解してくれていた様だったので特に何も起こらなかったが。
 

 「さて、いきますか」


 気をとり直してレイは学院長室のドアをノックする。
 ノックをし、返事が返ってきたのを確認するとレイは学院長の部屋の扉を開ける。
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