S級魔法師は働かない

せろり。

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3話 学院長

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 「失礼します」


 レイは挨拶の言葉と共に学院長室へ入室する。

 学院長室はそこそこの広さがあり部屋の中央には来客者に応対するようの向かい合ったソファーとテーブルが置かれている。そして奥には学院長室用の大きい執務用の机が鎮座していた。
 部屋には絵画や騎士を象った鎧、様々な芸術品も並んでおり、流石は魔法学院の学院長室といった様な贅沢な部屋であった。

 一通り部屋を見渡したレイはふとあるに気がつく。


 「誰もいない・・・?」


 部屋に居るべきはずの学院長が部屋にはいなかった。
 入室のノックには確かに返事があった。誰も居ないというのはありえない。
 しかし実際部屋には誰も見当たらない。

 レイは不思議に思いながらも部屋の中央まで歩く。
 
 その時、レイは悪寒のようなものを感じた。


 「っ?!」


 レイはとっさに振り返る。
 すると目の前には自分へと迫る飛来物があった。

 (はやい!)

 レイは飛来物へと自身の魔力を解放する。
 身体から放出された魔力はレイの意思に従って事象を改変する。

 『魔弾よ 撃ち落とせ』

 飛来物に対し魔力で生成した魔弾をぶつけ相殺しにかかる。
 とっさであったため、完璧に相殺する事はできなかったがレイの放った魔弾は迫る飛来物のスピードを僅かに減衰させ、方向を逸らした。

 その隙にレイは飛来物を屈むことで躱す。さらに後ろへのバックステップで距離を取り、体勢を立て直した。

 自分に迫る飛来物の正体を確認しようと目を向けると、そこには白いモコモコした物体があった。

 
 「なんだこれ?」

 
 正体不明の物体に思わず戸惑う。
 レイは白いモコモコの正体を確認しようと近づく。
 
 レイが近づくと何と白いモコモコは突如動きだした。

 
 「うわ! 動いた?!」


 白いモコモコはもぞもぞ動く。


 「きゅぴ?」


 白いモコモコの正体はつぶらな瞳を持ったハムスターの様な生物だった。


 「なんだ、お前?」

 「きゅぴぃ」


 レイは思わず白いハムスター?に話しかけるが当然のごとく求める答えは返ってこない。

 混乱するレイに突如声をかける者がいた。

 
 「ふぉっ、中々良い反応じゃな」

 
 声の主はいつの間にか学院長室のドアの前に立っていた。
 その人物は白いローブを身にまとっており、白い髭を無造作に伸ばしている。
如何にも老魔法師といった見た目の好々爺だった。


 「あんた、誰だ?」

 「誰とは失敬な。お主、儂に会いに来たのじゃろう?」

 
 白い老魔法師はそう言いながら部屋の奥の執務用と思われる机に向かい、付属する椅子に腰を下ろした。

 
 「てことは貴方が、」

 「そう。儂がこのアルメリア魔法学院の学院長。サイモン・ナトゥールじゃ」

 
 そう言うとサイモン学院長は表情を緩めた。


 「どうもサイモン学院長。今回依頼を受けました、レイです」


 レイは頭を下げ挨拶をする。
 

 「お主がレイ殿か。今回は無理を言って依頼を受けてもらってすまんかったのぉ」

 「いえ、とんでもないです」


 レイの言葉を聞いたサイモン学院長はかぶりを振る。


 「いや、儂は上に反対したんじゃ。いくら今年の学院対抗戦が記念すべき100回目だと言えども、上があれこれするのはちと変だとな」

 
 レイは黙ってサイモン学院長の話に耳を傾ける。


 「学院対抗戦はあくまで生徒にとってのもの。生徒の自主性に任せ、結果は成り行きに任せるべきなんじゃ。例えそれがどんな結果になろうともな」

 「はぁ」

 「じゃが、上の連中は体裁などという下らんものを気にする。儂の意見は聞き入れてもらえなかった」

 
 サイモン学院長は生徒の自主性を非常に重んじるのが信条のようだった。
 下らない大人のエゴで生徒にとっての憧れである学院対抗戦を穢すべきではない。そう考えているようだ。


 「しかし、どうやら上の作戦はある人物を学院に入学させて優勝を磐石にするというものじゃった。儂はふと気になったんじゃよ。入学させる事によって優勝を磐石にできると上が判断するその人物がな」


 サイモン学院長の話は続く。


 「調べてみると驚いたわい。弱冠15、16のS級魔法師がいるなんて知らんかったからのう。さらにさらに、そのS級魔法師の少年は、のギルドで働いているというオマケ付きじゃった。儂は思った。面白そう。とな」

 「あの女? もしかしてサイモン学院長、うちのギルド長と知り合いなんですか?」

 「もちろんじゃよ、あの魔女とは古くからの知り合いじゃ」

 「なっ?!」

 「あの魔女の厄介になってるS級魔法師の少年、こんな面白そうな人物を放っておくなんてつまらん。儂からも是非にとその作戦を推奨させてもらったよ。どうやら裏ギルドの件を上は知っていたようじゃが、儂の方でそっちは手を出させてもらった。お主らに逃げられては堪らんからのう」


 レイは開いた口が塞がらなかった。
 依頼主であるサイモン学院長はギルド長と知り合いで、国の作戦を推奨していた。
 国は裏ギルドの件を知っていたが、サイモン学院長が手を打っていた事で潰される件は最初から無かった。

 
 「あの女めぇ・・・」


 苛立ちに思わず拳を強く握りしめる。
 
 女ギルド長は最初からギルドに危険が無いことをおそらく知っていたのだろう。知っていてなお、あのような思わせ振りな事を言っていたのだ。

 レイは完全に釣られてしまったのだ。
  
 目の前にいる好々爺に見えたサイモン学院長はまさかの狸ジジイ。
 面白そう。
 そんな些細な事でレイは学院に入学する羽目になってしまったのだ。


 「レイ、お主には期待しておる。もちろん、学院対抗戦以外の事でな。お主の存在はこの学院に新しい風を吹き込むじゃろう」


 レイは一礼し、学院長室の出口へと向かう。
 もう話す事は何もない。と判断したからだ。


 「せっかくの学院での生活じゃ、存分に楽しむといい」


 レイは最後にもう一度礼をし部屋から出て行った。



 「ふむ、やっぱり面白そうな少年じゃ。のうキャピー?」

 「きゅぴぃ?」

 
 サイモン学院長は1人残った部屋で満足そうに笑うのだった。

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