【和風ファンタジー小説 あらすじ】帝都浅草探しモノ屋~浅草あきんど、妖怪でもなんでも探します~

郁嵐(いくらん)

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【和風ファンタジー】4話 (2)【あらすじ動画あり】

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【あらすじ動画】 
◆忙しい方のためのショート版(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94

◆完全版(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU
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銀次は小さい頃から、祖父や父親の啖呵を聞いて育った。
そのため、口を開けば自然と台詞ことばが出てくる。

「とはいえ、親父たちと比べたら、まだまだですけどね。表の香具師の中には、もっとスゴい人がいくらでもいますし」
「いや、そうだとしてもだ。お前さんは声が良い。その声、ここで売り出したらさぞや高値がつくだろうに」
「へ? まさか冗談。物と芸は売っても、自分は売らないのが商人です」
「ふふっ、なるほどのぅ」

陵蘭は、扇で口元を隠しながら微笑んだ。
……いつの間に、新しい扇を出したのやら。

銀次も「それならば」と、手にした金扇をさっと懐へとしまい込む。
盗ったんじゃない。借りただけだ。

(まぁ、永遠に返さないけど)
——こうゆう抜け目のなさこそが、エンコで生きていくためのコツなのだ。

「それより、辰っあんは——」
「おいっ! 銀っ!」

そのとき、雑踏の向こうから辰政の声が飛んできた。
銀次は、慌ててそちらへ駆け寄る。

「辰っあん! 大丈夫かっ! 何もされなかった!? 特に陵蘭付きの遊女! あいつらイイ男を見ると指の一本や二本、すぐ喰っちまうって——」
「は? 遊女? そんなのには会ってないぞ」
「へ? じゃぁ、どうやってここが……?」
「や、銀の啖呵が聞こえたから。人も集まってたし」
「へ、へ……!?」

嫌な予感がして、銀次は勢いよく後ろを振り返る。
ニタニタ笑いをする陵蘭と目が合った。

——プチリ。
銀次の頭の中で、短い神経が切れる音がした。

「て、テメェー! また騙しやがったなっ! タダ働きさせやがって! まさか、小奴こやっこは——」
「ほほほ、やっと気づいたか。小奴は店の準備にいかせたわ。お前さんのおかげで、大込みになりそうだったからな」

陵蘭は楽しそうに笑いながら続ける。

「言っておくが、銀坊。お前さんも商人のはしくれなら、口約束など信じずに、ちゃんとした契約を結ぶことだ。それが、この裏町の掟だよ」

高笑いする陵蘭に、銀次はもはや怒る気さえなくなっていた。

いくら遊び人といえども、陵蘭は格式ある大店おおだなの経営者。
たかが十五六のガキが、敵う相手ではない。

悔しさに唇を噛んでいると、辰政が不思議そうな顔を向けてきた。

「銀。この人は——?」

すかさず、陵蘭が手を差し出す。

「お初にお目にかかるのぅ。わてはこの先の遊女屋の店主、陵蘭という。銀坊にとっては、師匠とも言える存在かのぅ」
「師匠……? それは一体、何の?」

辰政が首を傾げながら尋ねると、陵蘭は流し目を通りに送る。

「商売だ。この裏町における」

陵蘭は、扇で口元を隠した。

「この市は特殊でのぅ。さまざまな物と者が、あらゆる時間と空間から集まってくる。未来、現在、過去。彼岸と此岸。果ては異世界からも。ゆえに、ここにないものなど、何ひとつない」
「まさか……本当に何でも?」
「あぁ、もしこの市場にないものでも、渡りの商人に頼めば持ってきてくれる。彼らは様々な時空を旅する放浪者だからのぅ。ただし彼らに頼めば、その分だけ代価は高くつく」
「代価? それは金、ってことですか?」
「いや違う。ここでは表の金は通用しない。裏町の商いは、基本的に物々交換。客は欲しいものと引き替えに、自分の持ち物を差し出す。それを商人が良しとすれば、商談成立。——つまり、ここで何かを得ようとすれば、必ず何かを失わなくてはならない」

陵蘭の目がすっと細まる。

「それが裏町の掟。もし、この掟を破ったり、商談の契約を違えたりした者は——必ず罰を受ける。裏町を永遠に彷徨う乞食となるか、あるいは……商品として、売られたり買われたりするかだ」
「は!?」

辰政は、勢いよく銀次の方を振り向いた。

「銀っ! テメェ、やっぱり危ない仕事じゃねぇか! そもそもお前、いつからこんなところに——!」

胸ぐらを掴まんばかりに詰め寄る辰政に、銀次は思わずポロリと漏らしてしまう。

「えっと……震災のあと、かな……?」
「はぁ!? そんな前から!? なんでお前、俺に言わなかったんだよ!」
「いや、それは、その……」

言いよどむ銀次の間に、陵蘭がのんびりとした声で割って入った。
「まぁまぁ、お二人さん。天下の往来で喧嘩などするもんじゃあないよ」

陵蘭は銀次と辰政の腕を軽く掴み、そのまま露店の裏へと引っ張っていく。
そして、似非臭い笑顔を辰政に向けた。

「お前さんも、あんまり叱ってくれるな。銀坊がここに来たのは必然。裏町は、何か欲しいモノや探したいモノがある者にしか開かれん場所だからのぅ。まぁ、商人と一緒に来た者は別だが」
「……探したい、もの?」

辰政は何かに気づいたように、ハッと銀次を見た。

「……まさか、銀。お前が探しているのって……清一郎さんか?」

ギクリと、銀次の体が強ばる。
言葉なく目をそらすその様子に、辰政は確信を深める。

「やっぱり……清一郎さんを探してるんだな。でも、あの人は十二階から投げ出されて……もう、亡くなったはずだろう?」
「違うっ…! 兄ぃは生きてるんだっ…!」

銀次は、自分でも気づかずに叫んでいた。
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