記憶のない冒険者が最後の希望になるようです

パクリ田盗作

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第二章:双子の小人亭殺人事件

第11話 ブータニアスの依頼

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「猫が……喋った……」

「吾輩は正式には猫ではなく夜明けを見守る猫族ガヴィーナスである。まあ、そこは今回置いといてだ、ナリアが持っていた水晶が殺人事件後、偽物とすり替えられていた。本物を取り戻してほしい」


 ブータニアスと名乗った猫はナリアが持っていた水晶が偽物とすり替わっており、それを取り戻してほしいと依頼してくる。


「偽物に? なぜそれが分かったのかな」

「うむ、本物の水晶は魔法の道具だ。だが、事件後荷物を調べると水晶がただのガラス球に代わっていた」


 チャンスがなぜナリアが持っている水晶が偽物とわかったか問うと、ブータニアスは本物の水晶が魔法の道具であることを告げる。



「魔法の道具? 取り戻してほしいぐらいだから、何かすごい力でもあるの?」

「知らん」


 マトイが興味津々に水晶に何か特別な力があるのか聞くとブータニアスは短く知らないと告げ、マトイはずっこけそうになる。


「吾輩の役目は親友の娘ナリアの護衛だ。あの水晶には何らかの力があるのは知っていたが、ナリアの害にならないなら別にどうでもいい」

「ちょっと話変わるけど、水晶が狙われた理由は? ノルドという人物に面識は?」

「あの水晶は魔法の道具であるから売却価値か、水晶の能力が盗んだ相手には必要だったのだろう。狙われた理由は知らない」


 チャンスが今回の殺人事件と水晶について質問すれば、ブータニアスは水晶が狙われた理由は全く知らないようだ。


「あの水晶は冒険者が美術品としてナリアの両親の店に売りにきて、両親が買い取って、ナリアが気に入って両親がプレゼントしただけだ。ナリア達はあれが魔法の道具であることすら知らない」

「魔法の道具の市場価値は最低でも金貨100枚相当。ご両親もその水晶が魔法の道具と知っていたならとてもじゃないですがプレゼントはしないでしょう」


 ブータニアスの話を聞いてダーヴィスが魔法の道具の価値について語る。


「ノルドについては初対面だ。正体についてはそちらのほうが詳しいだろう? ノルドが狙ったのはナリアの命、理由は祖父の遺産相続だと思われる。ただ、それに水晶がどう絡むのかは吾輩にもわからん」


 ブータニアスは器用に腕を胸の前で組んでため息をつきながら暗殺対象がナリアだと告げる。


「……これは推理というより都合のいい妄想かもしれないけど……暗殺と水晶窃盗は別々の事件かもしれない」

「どういうこと、チャンス?」


 チャンスがベッドに腰かけて手で顎を支えながら呟く。マトイが興味深そうにチャンスの顔を覗き込み、続きを促す。


「ノルドはナリアを暗殺しようと部屋の枕に針を仕掛けた。死体の位置から仕掛け終えて部屋を出ようとして……水晶を盗もうとした犯人と遭遇。お互い目撃者を殺そうとして水晶を盗もうとした犯人がノルドを殺害後、水晶を盗み、偽物にすり替えて出て行った」

「ふむ……考えられなくはない状況ですね」


 チャンスの推理を聞いてダーヴィスが納得したようにうなずく。


「ともかく、あの水晶はナリアのお気に入り物だ。どうか取り戻してほしい」

「わかりました。僕達でよければ協りょ―――ふぐっ!?」


 チャンスが協力すると言おうとするとマトイがチャンスの口を塞ぐ。


「僕たちは冒険者だ。依頼をするなら報酬が必要だよ」

「……チッ……ゴホン、吾輩がはめているこの金の首輪を報酬として支払おう。それなりの価値はするはずだ」


 マトイが報酬を要求するとブータニアスは小さく舌打ちした後咳払いして、自分の首にはめてある金の首輪を報酬にすると約束する。


「マトイ……」

「チャンスはお人よしすぎる。ちゃんと払える人からは貰えるもの貰わないと、都合のいいように利用されるだけだよ。メッ!」

「チャンスさんの優しさは美徳ですが、今回はマトイさんが正しいですよ。ちゃんと正当な対価を請求し、支払わないと歪んでしまいます」


 チャンスが何か言いたげにマトイを見るが、マトイはまるで小さな子供の悪戯を叱るような口調で注意する。

 ダーヴィスもマトイの擁護につくとチャンスは両手を上げて降参のジェスチャーをした。


「それじゃあ、よろしく頼んだよ」


 ブータニアスは最後にそう告げると二足歩行でドアの外に出て、貴族の礼儀作法で退室の挨拶をした後、四足歩行でナリア達の元へと帰っていった。


「……夢でも見ていた気分です。猫が喋るなんて……」


 御者のリマスがブータニアスの後姿を見ながらぼそりと呟いた。



「お客様! お客様起きてください! ちょっとお話したいことがございます!!」


 翌朝、ドアを叩く音と宿屋の主人ドーレスの声にチャンス達は起こされる。


「はいはい……こんな朝早くからどうしたんですか?」

「朝起きて朝食の準備をしようとしたら、調理場にこんな手紙がっ!」


 御者のリマスが応対に出ると、ドーレスが一通の羊皮紙を手渡してくる。

 羊皮紙は丸められて封蝋で止められており差出人は不明、表に『警備兵代理殿』と共通語で書かれていた。


 チャンスが封蝋を割り、羊皮紙を広げると逆手で文字を書いたような汚い文字で『事件について有益な情報を売る。三時課の鐘が鳴る頃、事件現場で待つ。他言無用』と書かれていた。


「これは……」

「悪戯にしては手が込んでるよね」


 羊皮紙の手紙を見た一行は手紙の内容に困惑する。


「今は一時課の鐘が鳴り終えたばかりですからまだ時間がありますがどうします?」

「行くだけ行ってみていいかと。今の状況だと進展らしい進展もないですし」


 御者のリマスが一時課の鐘が先ほど鳴り終えたばかりだと告げ、チャンスはこの手紙の主に会うことを決める。


「とにかくまずは朝食をとりませんか? 三時課の鐘までまだ時間はありますし」


 ダーヴィスの提案でチャンス達は朝食を取りに一階の酒場へと向かう。


「ん? チャンス、ちょっとあれ見て」

「あれは……カーテスとシャノンさん?」


 二階の渡り廊下を歩いている時、マトイが廊下の窓を指さす。チャンス達が窓の外を覗くと中庭のクルミの木の下でカーテスとナリアの護衛の一人、シャノンが話し合っている姿が見えた。

 声は聞こえないが、二人の身振りからシャノンがカーテスを激しく詰問しているように見えた。


「チャンス!」

「わかってる。すいません、ちょっと行ってきます」


 チャンスとマトイは駆け出し、シャノンとカーテスの二人がいる中庭へと向かう。

 シャノンはチャンス達の姿に気づいていないのか、カーテスに詰問を続け、ノルドとの関係をしつこく問い続けている。


「何かトラブルですか? 今ノルドについて話し合っていたようですが」

「えっ……はぁ……トラブルと言ったら、トラブルね」


 チャンスが声をかけるとシャノンは観念したようにため息をついてトラブルだと答える。


「私とカーテスは昔は冒険者仲間で……恋人同士だった。だったということで察して頂戴」

「今ノルドについて話し合っていたみたいですけど……彼が仕掛けた針か盗まれた水晶についての話ですか?」


 仕掛けた針という言葉でカーテスはぎょっとした顔をし、シャノンはカーテスを睨む。


「……全て話したほうがいいな。俺とノルドは暗殺者だ。ギルドからの依頼でナリアという子供を殺せと言われた。といっても、子供殺すのに躊躇するような失格者だがな」

「カーテスっ!!」


 カーテスも観念したように自分の正体を明かし、自嘲気味に笑う。


「シャノンと再会して、ナリアがまだ幼い子供だと知って俺は殺すのを躊躇した。廊下でノルドとの口論は暗殺を中止しようとした俺をノルドが罵倒していたんだ」

「あなたがノルドを殺したんですか? 水晶をすり替えてどこに持っていく予定で?」


 カーテスが大まかな真相を告白する。チャンスがノルド殺害と水晶の行方を聞くとカーテスは何を言っているんだという顔をする。


「俺がためらってるのを見てノルドは単独で動いていた。ナリア達が散歩に出かけるのを見てノルドが仕掛けると思って妨害しようと部屋に向かったら殺されていた。水晶については知らない。部屋が荒らされていたんだ、ノルドを殺した奴が盗んだのでは?」

「ちょっとまって、貴方達も荷物確認するの見ていたでしょう?荒らされてはいたけど何も盗まれず、水晶もあったじゃない」


 カーテスが殺害現場にいた理由はノルドを止めようとしたらもう殺されていたと証言する。

 水晶についてはカーテスは本当に知らないのか、ノルドを殺した犯人が持ち去ったのではと述べ、シャノンは荷物を確認したときに水晶があったことを述べる。


「偽物とすり替えられてたようです」

「なんで……あれはお嬢様が持ち歩いてた玩具で……」

「協力者の証言でね、すり替えられる前の水晶は魔法の道具だったらしいよ」


 マトイがすり替えられる前の水晶が魔法の道具であることを述べるとシャノンは絶句する。


「カーテスさんはノルドを殺した犯人に心当たりありませんか?」

「……確証はないが……ハモンドが怪しい。俺とノルドがナリアを監視していた時、ハモンドも別口で監視していた素振りがあった」


 チャンスがノルド殺しの犯人に心当たりがないかと聞くとカーテスはハモンドが怪しいと告げる。


「殺人事件後はハモンドはナリア達に関心を失っていた。最初は俺の気のせいかと思っていたが……ハモンドが水晶を狙っていて、ノルドを殺して水晶を奪ったのなら、あの態度も納得できる」


 カーテスは殺人事件後のハモンドの態度を思い返して一人納得している。


「きゃああああああ!! 人が死んでるうううう!!!!」


 チャンスがさらに聞き込みをしようとする前に宿から女性の悲鳴が響き渡った。
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