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第十話 碧い宝石
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「乗っていた馬車が事故に遭い、川に落ちてしまいました」
「事故……だと?」
「はい。従者も荷物も全て流されてしまいました……」
「!…………」
それを聞いて、俺は一気に頭へ血が上り人形を睨みつけた。人形がティアナを川へ突き落す光景が脳裏に浮かんだのだ。
ティアナがおらず、ティアナの振りをするコイツがここに居る。俺がした最悪な想像は現実と一致しているのだろう。
────殺してやる。
腰の短剣に手を伸ばしかけた時、俺はふと思い出したのだった。自分はこの人形を知っていると。
(コイツ、魔女の館に置かれていたあの人形なのか……?)
動いているので印象が違ったが、奴の瞳部分に埋め込まれた碧い宝石に見覚えが有った。悲しそうに、寂しそうに輝く一対の光。
力の有る魔法使いは命を持たない物をも動かせると聞いた。泥の人形ゴーレムが有名だ。コイツもその手の類いなのだろう。
(俺が討伐した魔女の仇討ちに来たか。花嫁の振りをして、初夜の床で俺を殺害するつもりか? 何ておぞましい)
人形の知能はあまり高くないようだ。木製のその身で、人間の女とすり替わろうと考えるなど愚の骨頂だ。
いいだろう、乗ってやる。おまえを妻として一旦扱い、それから現実を見せて絶望の淵に叩き込んでやろう。若くして死んだ可哀想なティアナの仇だ。
「……タオル、それとおまえ達の服をこいつに貸してやってくれ」
「えっ!? ですが旦那様!」
俺から指示を出されたメイドは狼狽え、人形と俺を何度も交互に見ていた。当然だな。こんな化け物を受け入れてやるなんて正気の沙汰じゃない。
「妻の為に用意した部屋まで持ってこい。……いいな?」
強引に話を切り上げ、俺は二階への階段を昇った。後ろを人形がヒョコヒョコ無様な歩き方で付いてくる。昇降は苦手なのか?
いや、違うな。脚部分の木にヒビが入っている。相当に身体を酷使してここまで来たようだ。ご苦労だったな。それもすぐに終わるさ。
俺はティアナが使うはずだった部屋へ人形を通した。
壁紙すら単調で殺風景だが、それでもティアナに快適に過ごして欲しいと願って準備した部屋だ。メイド達も掃除を頑張ってくれた。
「ありがとうございます、旦那様」
おまえの為じゃない。だのに人形がいちいち礼を言いやがる。メイドに持ってきてもらったタオルで嬉しそうに身体を拭く。
そういえば木製であるコイツは水に濡れても平気なのか? そんなこと俺が心配してやる義理は無いが。
「今夜はここに泊めてやる。だが────」
人形を見据えて俺は宣言した。
「明日、おまえを殺す」
人形の両眼が光を無くした。ざまぁみろ。
おまえと同衾してやるつもりも殺されてやるつもりも無い。絶望の中で一晩を過ごせばいいんだ。……俺のようにな。
俺の周りの人間は次々に死ぬ。戦地へ赴いた父は戻らず、疎開先でも戦乱の渦に呑まれて母と親戚が敵兵に殺された。
そして今度は妻となる女と彼女の従者が死んだ。まるで俺は死神だ。
部屋から出てすぐに扉を閉め、ガウンの紐を使いドアノブを固定した。これで内側からは回せないはずだ。
そして耳を澄ませて部屋の中の様子を窺った。人形が暴れるようなら一晩待つまでもなく今すぐ始末しようと思っていた。
案の定、固定したノブがガチッと音を立てた。人形は俺を追いかけようとしたのだ。
扉は開けられない。さぁどうする? イスでも使って破壊するか?
「……………………」
しばし待ったが室内は静かなままだった。
そればかりかボソボソと祈りの言葉らしきものが聞こえてきた。
「神よ、見殺しにした私の罪を赦したまえ。彼らの魂を救いたまえ」
これは誰に対するものだ? 彼らとはティアナ達のことなのか?
────まさかな。人形は邪悪な魔女の僕なんだ。
「事故……だと?」
「はい。従者も荷物も全て流されてしまいました……」
「!…………」
それを聞いて、俺は一気に頭へ血が上り人形を睨みつけた。人形がティアナを川へ突き落す光景が脳裏に浮かんだのだ。
ティアナがおらず、ティアナの振りをするコイツがここに居る。俺がした最悪な想像は現実と一致しているのだろう。
────殺してやる。
腰の短剣に手を伸ばしかけた時、俺はふと思い出したのだった。自分はこの人形を知っていると。
(コイツ、魔女の館に置かれていたあの人形なのか……?)
動いているので印象が違ったが、奴の瞳部分に埋め込まれた碧い宝石に見覚えが有った。悲しそうに、寂しそうに輝く一対の光。
力の有る魔法使いは命を持たない物をも動かせると聞いた。泥の人形ゴーレムが有名だ。コイツもその手の類いなのだろう。
(俺が討伐した魔女の仇討ちに来たか。花嫁の振りをして、初夜の床で俺を殺害するつもりか? 何ておぞましい)
人形の知能はあまり高くないようだ。木製のその身で、人間の女とすり替わろうと考えるなど愚の骨頂だ。
いいだろう、乗ってやる。おまえを妻として一旦扱い、それから現実を見せて絶望の淵に叩き込んでやろう。若くして死んだ可哀想なティアナの仇だ。
「……タオル、それとおまえ達の服をこいつに貸してやってくれ」
「えっ!? ですが旦那様!」
俺から指示を出されたメイドは狼狽え、人形と俺を何度も交互に見ていた。当然だな。こんな化け物を受け入れてやるなんて正気の沙汰じゃない。
「妻の為に用意した部屋まで持ってこい。……いいな?」
強引に話を切り上げ、俺は二階への階段を昇った。後ろを人形がヒョコヒョコ無様な歩き方で付いてくる。昇降は苦手なのか?
いや、違うな。脚部分の木にヒビが入っている。相当に身体を酷使してここまで来たようだ。ご苦労だったな。それもすぐに終わるさ。
俺はティアナが使うはずだった部屋へ人形を通した。
壁紙すら単調で殺風景だが、それでもティアナに快適に過ごして欲しいと願って準備した部屋だ。メイド達も掃除を頑張ってくれた。
「ありがとうございます、旦那様」
おまえの為じゃない。だのに人形がいちいち礼を言いやがる。メイドに持ってきてもらったタオルで嬉しそうに身体を拭く。
そういえば木製であるコイツは水に濡れても平気なのか? そんなこと俺が心配してやる義理は無いが。
「今夜はここに泊めてやる。だが────」
人形を見据えて俺は宣言した。
「明日、おまえを殺す」
人形の両眼が光を無くした。ざまぁみろ。
おまえと同衾してやるつもりも殺されてやるつもりも無い。絶望の中で一晩を過ごせばいいんだ。……俺のようにな。
俺の周りの人間は次々に死ぬ。戦地へ赴いた父は戻らず、疎開先でも戦乱の渦に呑まれて母と親戚が敵兵に殺された。
そして今度は妻となる女と彼女の従者が死んだ。まるで俺は死神だ。
部屋から出てすぐに扉を閉め、ガウンの紐を使いドアノブを固定した。これで内側からは回せないはずだ。
そして耳を澄ませて部屋の中の様子を窺った。人形が暴れるようなら一晩待つまでもなく今すぐ始末しようと思っていた。
案の定、固定したノブがガチッと音を立てた。人形は俺を追いかけようとしたのだ。
扉は開けられない。さぁどうする? イスでも使って破壊するか?
「……………………」
しばし待ったが室内は静かなままだった。
そればかりかボソボソと祈りの言葉らしきものが聞こえてきた。
「神よ、見殺しにした私の罪を赦したまえ。彼らの魂を救いたまえ」
これは誰に対するものだ? 彼らとはティアナ達のことなのか?
────まさかな。人形は邪悪な魔女の僕なんだ。
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