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第22話 異世界ティータイム、お茶とおしゃべり、そして……
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つややかな黒髪の青年が、優雅な所作でティーカップにそそいでくれたお茶をうけとる。
お茶……といっても、私の知っている紅茶の香りとは異なる。
色は茶色みがかっているけど、紅茶の色とは少しちがう気がする。
いったい何の葉っぱのお茶? ハーブティーなのかな?
でも、とっても――。
「美味しい……」
おもわずこぼれる感想に、黒い髪の男性がはにかんだようにほほえみ、
「ありがとうございます。よろこんでいただけたのなら幸いです」
さっと頭をさげた。
あれ? この人の声、さっき扉が開かれたときは、あわてちゃって気づかなかったけど……。
この、なめらかな言葉の発音のしかたに、私はおぼえがあるような気がする。
でも、まさか、まさか、そんな!
――だけど、この話しかたは、さっき中庭でみかけた九官鳥の……。
「ペピート……さん?」
おそるおそる聞く私に、黒髪の若者はサラリと答える。
「はい、そうですよ。お客様、僕はペピートと申します」
向かいに座っているロエルが私に言う。
「ユイカ、きみはいまごろ彼がペピートだと気づいたのか」
さっきも会ったのに、やっといま気がついたのかと、むしろ私のほうを不思議がっている様子だ。
ティコティスは人と会話することのできるうさぎ。この世界とは別の世界からやってきた。
ペピートは人と会話することのできる九官鳥。
この世界の人は、私とおなじように年齢をかさねていき、私とおなじように「人の言葉を話すうさぎ」がいたら、それは特別なことだと思う感覚を持っている人間――だと思ったんだけど……。私の理解は、まちがっていたのかも。
この世界で「人間」と呼ばれている人たちは、私が認識している「人間」と……もしかしたら、かなりちがうのかもしれない。
とんでもない世界にきてしまったかも――とビビリながらも、私はまず、ペピートに向かって質問してみることにした。
「――つかぬことをうかがいますが、その……あなたは鳥になることのできる人間なのでしょうか。それとも、人間になることのできる鳥なのでしょうか?」
ペピートは静かにほほえみながら、またしてもサラリと答える。
「僕は、正真正銘、ごく普通の人間ですよ。あ、人間に変身できる鳥が、もしもいたら……すごいですね。お客様の発想は、なんというか、その……夢があって大変よろしいと思いますよ」
ロエルもソファに腰をおろしたまま「そうだな」と、おもしろそうに相づちを打つ。
ペピートは「絵本の題材になら、ありそうですね」と、嫌味のない笑顔でつけくわえた。
……うーん、「人間になることのできる鳥」は、夢見がちな想像の産物みたいなあつかいで、人が鳥になれることは、ごく普通って――。
ここ、いったいどういう世界?
だいたい人間が鳥に変身して、言葉も話せる、空もとべる状態が普通なら――。
言葉を話せるうさぎティコティスを、『聖兎』という特別な存在として、神聖視しなくてもいいのでは?
ペピートは、動物が人間に変身するのは本の中だけ、みたいな言いかたをした。
そういえば、ティコティスは人間に変身するそぶりもないまま帰っていったけど――、この国には彼を熱狂的に愛好している人たちがいるんでしょ?
理解が追いつかず、頭の中がゴチャゴチャしてきた。
この国の「普通」と「特別」の基準が、まだ全然わからない。
それに――。人が動物に変身できるなら、うさぎにだってなれちゃうのでは?
私は気になって、ふたりにたずねる。
「あのっ……、普通の人が動物に変身できるなら……うさぎに変身して『自分は聖兎だ』と言いだす人もでてきちゃうんじゃない? そこのところ、どうなってるの」
ふたりは目を点にした。あきれてると言うより、なんでそんな (結果のわかりきった) ことを聞くのか不思議だって感じ。
ロエルは、さっきまでのキリッとした顔をちょっとだけポカン顔にしながら言った。
「人類というものは、基本的に翼のあるものにしか、変身できないだろう」
はいっ!? 私の知ってる人類とちがう!
「うさぎの耳を翼にみたててうさぎを一羽二羽と数える国がはるか遠くにあると聞いたことはありますが……うさぎは鳥ではありませんからね。人はうさぎには変身できませんよ」
ティコティスは耳を羽のようにパタパタさせて浮かんでいたけど、あれはべつに翼の役割をはたしていたわけではなかったみたい。
そうか、この世界の人間は、翼のあるものになら変身できるのか――と、なかばムリにでも自分を納得させようとしたとき。
ふと、ひとつの考えがうかんだ。
(もしかして……ふたりして、私が他の世界からきたことに気づいて、からかっているのでは?)
ロエルは私が別の世界からきた人間だって言いあてることができた。
ペピートはお茶を運ぶときに、偶然私たちの会話を壁ごしに耳にした可能性がある。
九官鳥のペピートと人間のペピートは、おなじ声だけど、九官鳥は人の言葉をマネすることならできる。
中庭にあらわれた九官鳥のペピートとロエルとは、会話をしているように感じたけど、人間のペピートが教えた言葉を九官鳥が声マネしていただけなのかも。
会話が成立しているようにしかみえない人間と九官鳥の動画なら、私がやってきた世界でもみたことあるし。
私がふたりに向かって「この世界の人は鳥に変身できるのね、すごい……!」と言った 途端、
「やーい! ひっかかったー、ひかかった! まったくおばかさんだなぁ、人が鳥に変身できるわけないだろう」
って悪ノリした小学生男子のように騒ぎだすかも。
……でも、わざわざ、そんな幼稚なイタズラをしかけてくるような人たちには、とてもみえないんだけどな。
きっと善意で私を助けてくれたロエルやお茶をいれてくれたペピートを疑うのも、気分がよくない。
あれやこれやと悩みだし、私はうかない顔になっていたのだろうか。
ペピートは、「よろしかったら、おかわりはいかがですか」とお茶をすすめてくれた。
喉の渇きは充分に癒えている。お茶の時間はもうおしまいでいいよね。
私は「もう大丈夫、ありがとう」と答える。
その直後のことだった――。
熱いお茶で体にうっすら汗をかき、飲み終えてしばらくたったから、そのぶん全身が冷えてしまったのか。
それとも、別の何かが原因なのか。
――くしゅんっ……!
私は、くしゃみをしてしまった。
お茶……といっても、私の知っている紅茶の香りとは異なる。
色は茶色みがかっているけど、紅茶の色とは少しちがう気がする。
いったい何の葉っぱのお茶? ハーブティーなのかな?
でも、とっても――。
「美味しい……」
おもわずこぼれる感想に、黒い髪の男性がはにかんだようにほほえみ、
「ありがとうございます。よろこんでいただけたのなら幸いです」
さっと頭をさげた。
あれ? この人の声、さっき扉が開かれたときは、あわてちゃって気づかなかったけど……。
この、なめらかな言葉の発音のしかたに、私はおぼえがあるような気がする。
でも、まさか、まさか、そんな!
――だけど、この話しかたは、さっき中庭でみかけた九官鳥の……。
「ペピート……さん?」
おそるおそる聞く私に、黒髪の若者はサラリと答える。
「はい、そうですよ。お客様、僕はペピートと申します」
向かいに座っているロエルが私に言う。
「ユイカ、きみはいまごろ彼がペピートだと気づいたのか」
さっきも会ったのに、やっといま気がついたのかと、むしろ私のほうを不思議がっている様子だ。
ティコティスは人と会話することのできるうさぎ。この世界とは別の世界からやってきた。
ペピートは人と会話することのできる九官鳥。
この世界の人は、私とおなじように年齢をかさねていき、私とおなじように「人の言葉を話すうさぎ」がいたら、それは特別なことだと思う感覚を持っている人間――だと思ったんだけど……。私の理解は、まちがっていたのかも。
この世界で「人間」と呼ばれている人たちは、私が認識している「人間」と……もしかしたら、かなりちがうのかもしれない。
とんでもない世界にきてしまったかも――とビビリながらも、私はまず、ペピートに向かって質問してみることにした。
「――つかぬことをうかがいますが、その……あなたは鳥になることのできる人間なのでしょうか。それとも、人間になることのできる鳥なのでしょうか?」
ペピートは静かにほほえみながら、またしてもサラリと答える。
「僕は、正真正銘、ごく普通の人間ですよ。あ、人間に変身できる鳥が、もしもいたら……すごいですね。お客様の発想は、なんというか、その……夢があって大変よろしいと思いますよ」
ロエルもソファに腰をおろしたまま「そうだな」と、おもしろそうに相づちを打つ。
ペピートは「絵本の題材になら、ありそうですね」と、嫌味のない笑顔でつけくわえた。
……うーん、「人間になることのできる鳥」は、夢見がちな想像の産物みたいなあつかいで、人が鳥になれることは、ごく普通って――。
ここ、いったいどういう世界?
だいたい人間が鳥に変身して、言葉も話せる、空もとべる状態が普通なら――。
言葉を話せるうさぎティコティスを、『聖兎』という特別な存在として、神聖視しなくてもいいのでは?
ペピートは、動物が人間に変身するのは本の中だけ、みたいな言いかたをした。
そういえば、ティコティスは人間に変身するそぶりもないまま帰っていったけど――、この国には彼を熱狂的に愛好している人たちがいるんでしょ?
理解が追いつかず、頭の中がゴチャゴチャしてきた。
この国の「普通」と「特別」の基準が、まだ全然わからない。
それに――。人が動物に変身できるなら、うさぎにだってなれちゃうのでは?
私は気になって、ふたりにたずねる。
「あのっ……、普通の人が動物に変身できるなら……うさぎに変身して『自分は聖兎だ』と言いだす人もでてきちゃうんじゃない? そこのところ、どうなってるの」
ふたりは目を点にした。あきれてると言うより、なんでそんな (結果のわかりきった) ことを聞くのか不思議だって感じ。
ロエルは、さっきまでのキリッとした顔をちょっとだけポカン顔にしながら言った。
「人類というものは、基本的に翼のあるものにしか、変身できないだろう」
はいっ!? 私の知ってる人類とちがう!
「うさぎの耳を翼にみたててうさぎを一羽二羽と数える国がはるか遠くにあると聞いたことはありますが……うさぎは鳥ではありませんからね。人はうさぎには変身できませんよ」
ティコティスは耳を羽のようにパタパタさせて浮かんでいたけど、あれはべつに翼の役割をはたしていたわけではなかったみたい。
そうか、この世界の人間は、翼のあるものになら変身できるのか――と、なかばムリにでも自分を納得させようとしたとき。
ふと、ひとつの考えがうかんだ。
(もしかして……ふたりして、私が他の世界からきたことに気づいて、からかっているのでは?)
ロエルは私が別の世界からきた人間だって言いあてることができた。
ペピートはお茶を運ぶときに、偶然私たちの会話を壁ごしに耳にした可能性がある。
九官鳥のペピートと人間のペピートは、おなじ声だけど、九官鳥は人の言葉をマネすることならできる。
中庭にあらわれた九官鳥のペピートとロエルとは、会話をしているように感じたけど、人間のペピートが教えた言葉を九官鳥が声マネしていただけなのかも。
会話が成立しているようにしかみえない人間と九官鳥の動画なら、私がやってきた世界でもみたことあるし。
私がふたりに向かって「この世界の人は鳥に変身できるのね、すごい……!」と言った 途端、
「やーい! ひっかかったー、ひかかった! まったくおばかさんだなぁ、人が鳥に変身できるわけないだろう」
って悪ノリした小学生男子のように騒ぎだすかも。
……でも、わざわざ、そんな幼稚なイタズラをしかけてくるような人たちには、とてもみえないんだけどな。
きっと善意で私を助けてくれたロエルやお茶をいれてくれたペピートを疑うのも、気分がよくない。
あれやこれやと悩みだし、私はうかない顔になっていたのだろうか。
ペピートは、「よろしかったら、おかわりはいかがですか」とお茶をすすめてくれた。
喉の渇きは充分に癒えている。お茶の時間はもうおしまいでいいよね。
私は「もう大丈夫、ありがとう」と答える。
その直後のことだった――。
熱いお茶で体にうっすら汗をかき、飲み終えてしばらくたったから、そのぶん全身が冷えてしまったのか。
それとも、別の何かが原因なのか。
――くしゅんっ……!
私は、くしゃみをしてしまった。
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