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第十三夜の闇夜に浮かんだ花火 - ①
しおりを挟むお盆の入りの日、長岡の祭りに続いて長岡空襲の慰霊や平和祈願のために毎年開かれる花火大会はすごい人だった。
思った以上の賑わいだ。有名な山下清のちぎり絵に、人が多く散りばめられているのがわかった気がした。
信濃川の川原が人で埋めつくされている。シート席や板席、テーブル付きのイス席など、スポーツの観覧会場のようでいて、春のお花見のような華やかさもある不思議な雰囲気を醸し出している。夜店も並び、人の歓声も飛び交い、賑やかな夜を彩っていた。
打ち上げ時間が近づいて長岡駅から人混みを泳ぐように、千香は上手にすいすいと歩いて行く。
千紘の方が背が高いから歩幅はあるはずなのに、千紘は前を行く千香を見失いそうで、その背中を追うので必死だった。
(こんな感覚、どこかで体験したような……気がする)
懐かしい記憶が内側から溢れてくる。
子供の頃、やっぱり姉の背中を追って駆けていたころの感覚だ。
いつも姉の背中を自分は追いかけている。
年齢の差もあるだろう。
でも、それだけの差だろうか、他の差もあるんじゃないだろうか……並ぶことはできないのだろうか。年の差は当人達が思う以上に、もしかしたら大きなものなのではないのだろうか。
自分は……姉と同じように、一之瀬にも、追いつくことは自分にはできないのだろうか。
「千紘、ついて来てる?」
千香が振り返る。足には白いスニーカーを履いているが、張り切って浴衣を着てきていた。それなのに、この早さ。
明日の夜は機上の人になる予定なので、日本の夏の夜の風情を思い切っり楽しみたいのだそうだ。
スニーカーに浴衣という自由この上ない姿をしている姉は人生を謳歌しているなあ、と千紘は羨ましくなる。それになぜか、まとめ上げた髪に合ってカッコいいのだ。
そんな風に生きられたら、楽しいだろうに。
「なんとか」
「もう、子供の頃からトロいんだから」
「いや、あの頃は物理的な差だったと思うけど」
「屁理屈はなし。ほら、手を出して」
千香が手を差し出す。
「なに?」
「繋ぐよ」
「それはちょっと…」
「いいじゃん、姉弟なんだから」
「三十代おわりと二十代ですが」
「年齢のことをレディに言うのは失礼よ」
クーラーバックを持ってない方の手を無理やり握られて、引っ張られた。
「年の差カップル位に、みえるんじゃない?」
「こんなに、顔が似てるのに?」
「じゃあ双子」
「無理があるって。顔の皺、見たことある?」
「何を言うのよっ」
千香が怒って、千紘の手を離した。
「手放し作戦、大成功」
「ちーひーろー!」
『バン、ババン!』
大きな音が、頭上で弾けた。
見上げると急に赤や黄色の灯りが、目の前を通り抜けた。
「あー、始まっちゃった!」
千香が大声で叫んだ。
「千紘がグズだから!」
「ひどいなぁ。化粧に時間が掛かりすぎなんだよ」
「そんなに、私に後で生ビールをおごりたいわけね」
「いえ、そんなことは」
「ふーん、何杯でもいいんだ~。じゃあ、とことん飲み倒すぞ!」
「ごめんって」
「つまみもつけてくれるんだ。嬉しいなぁ」
「だから」
「走るよ。もったいないから!」
手首を掴まれて、急に千香が走り出した。千紘は転びそうになりながら後を追う。
姉の後姿を追いかけながら、視線をなんとなく右にずらした。
(……え?)
視線の少し先、そこには見慣れた顔があった。
我が目を疑う。
その顔に花火が反射して色とりどりに変わる。
(まさか……)
「水樹さん」
その名を声に出したら、千紘の足が止まった。
「ちょ、っつ」
千香が転びそうになって、振り向いた。
「なんで急に止まるの!」
「………」
「危ないでしょ!」
「…………」
千紘の目は、一点に集中してそこから動かない。
「どうしたの?」
千紘の様子を不審に思って、千香が顔をのぞき込む。
身体を揺すられて、初めて我に帰った。
「いた……」
「誰が?」
「水樹さん……」
「水樹? ……って、一之瀬さん!?」
「うん、あそこ」
呆然と指を指す。
「なんで?」
「わからない……」
「確かに故郷だって、お父さん言ってたけど」
姉の言葉は、耳に入らなかった。
(捕まえなくちゃ!)
走り出そうとした手首を掴まれた。
(なんだよ! 邪魔だな)
千紘の顔が歪んだ。
「落ち着け、千紘」
掴まれた手首を見た。
なんで千香に手首を掴まれているかわからない。
「落ち着いて。顔が固まってる」
もう一度言われて、今度は両頬を手のひらで包まれた。
「大丈夫」
力強く言われる。紙片を二枚、手のひらに乗せられた。
「これチケット。先に行ってるから、ケリがついたらおいで」
姉が真摯な顔で肯いて見せた。
「うん」
チケットを受け取ってポケットに突っ込むと走り出した。
一目散に。懐かしい顔の元へ。
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