【本編完結:改稿中】水曜日の迷いごと

咲月千日月

文字の大きさ
104 / 110

雲外蒼天の先へ - ②




「…え?」

(自分が…、見たい…?)

「なんだ? その納得していなさそうな顔は?」

 予想外の答えが帰ってきて戸惑いを浮かべる千紘を、一之瀬は苦笑しながら見て聞いてきた。

「俺の反応なんて…そんな見たいほど、楽しいものですか? 俺は…男、ですし…」
「……はぁ。本当に、今さらだな」

 ため息をついた一之瀬の顔が、あきれた表情と千紘への愛おしさが混ざった顔になる。
 何事も真剣にとらえて考えてしまう千紘が、かわいくてしかたないという顔だ。

(…そうか、そうなんだ)

 悩んでいた自分が嘘みたいだ。

「相手の反応を見たいのって、当たり前のことだろう? 千紘だって男なんだから、その本能はあるだろう。だから自分が気持ちよくさせたいって、思うんじゃないか? さっき俺にしてくれたみたいに」
「……」
「自分の手で、イかせたいって」

 千紘の頬を一之瀬は片手で触りながら、親指で唇をなぞる。
 そうされることで否が応でも千紘は、自分が触られている唇を使って一之瀬にしたことを思い出す。
 一之瀬は、それが狙いなのだろう。

「……それって、自分のものであるっていう証明を、相手の反応を見てしているみたいですね」
「あはは! そうだよ。そういうことをする関係なんだって実感したくて、この表情を見れるのは自分だけなんだって、優越感を持ちたいんだよ。男は」

 一之瀬は話ながら千紘の唇を触っていて、とうとう我慢出来なくなったらしい。
 瞳を揺らして唇をみつめ、キスをしたそうな表情をする。
 いつ千紘が誘惑に負けてもおかしくない魅惑的な表情だ。
 でも触れているだけで待てをしているのは、先ほど千紘に言われたひと言が効いていそうだ。

「身体全部に俺を刻みつけたくて、あらゆる手段で感じさせているんだから、千紘の”ここ”だって」

 一之瀬は言葉と共に千紘の腰を掴むと軽く下半身を揺らし、一度突き上げた。

「ん…」

 千紘の口から声が漏れる。 

「俺の形にしたいって思ってるよ。ガンガン突いて、思いっ切り俺のでよがらせて、溺れてる表情を見たいって…思ってる」

 一之瀬は欲望に染まった目で千紘を見る。

「だから…」

 そう言ったあと、一転して目尻にやさしさをにじませて言った。
 
「充分、自分ファーストだから気にするな」
「……はい」

 一之瀬は言葉にすることで抑えが緩くなってきているようだ。
 どんどん固くなってきているのがわかる。
 これは…もう一回戦は、不可避なんだろう。

「こうやってしたいことを言ってくれるのも、心に抱えてるものを話してくれるのも嬉しいな。なんでも話し合える関係になっていきたい」
「はい。俺も水樹さんをもっと知りたいです。……ごっこ遊びしたいなんて、言い出すとは思いませんでしたけど。意外な一面でした」
「はは。ごっこ遊びがしたいわけじゃなくて……。千紘を、知りたかったんだ。今までの千紘を」

 笑いを引っ込めて少し真面目な顔で一之瀬は言った。

「これからの未来だけじゃなくて、過去も埋めていきたいって…思ったんだよな」
「だから、学生時代…」
「うん。”これから”は一緒にいるから、これからの千紘は知れるだろう? ”今”だって一緒にいるから、今の千紘をこうやって話して触れて感じられている。でも、過去はそうじゃない。写真を見ていて思ったよ。時間を共有したかった、千紘を形作ってきたものを知りたかった、成長を…見ていたかったなって」

 一之瀬の言いたいことがなんとなく伝わってきて感動してしまい、込み上げてくるものを振り払って隠すように千紘は笑った。

「……ふふ。親ですか?」
「うーん、違うなぁ…。大人になることを見ていたかったんじゃなくて、心の動きも身体の動きも全部取りこぼしなく見ていたかった、かなぁ。もちろん、千紘の個性も中身も尊重して、だよ」
「…じゃあ、光源氏ですか?」
「ああ…あれはやっぱり、男の理想なんだろうなぁ。凄いよな紫式部、女性なのに。どうしてあんなに、男の気持ちがわかるんだ?」
「ふふっ。…さぁ?」

 少しおどける千紘を真面目な顔になって見ると、一之瀬は言った。

「でも、千紘を俺好みに育てたいとは思っていないよ。千紘が進み歩む道を、後ろからどこへ行きたいんだろう? って見ていたかったんだ」
「……はい…なんとなくわかります」

 一之瀬が千紘をこの上もなく大事に思ってくれていることが、ひしひしと言葉の端々に感じられる。

「うん。ありがとう。…この言い方じゃ、過去まで縛りたいって聞こえるかなぁ」
「そんなことはないですよ」

 千紘の返事に、一之瀬は顔を明るくした。

「そう? よかった。でも俺は…千紘をひとり占めしたいんだよ。要は。…今世も来世も。……重い男で、引く?」

 雨に濡れた捨てられた子犬のように、一之瀬は千紘の瞳をのぞき込むので、千紘は安心させるようにはっきりと言った。

「引きません。それは、俺も同じです。忘れてくれって言われたのに、水樹さんに会いに行きました。こんなにもあなたを求めている俺を、笑いますか?」
「ううん。迎えに来てくれて、嬉しかったよ」

感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

上司と俺のSM関係

雫@23日更新予定
BL
タイトルの通りです。読む前に注意!誤字脱字あり。受けが外面は一人称私ですが、砕けると僕になります。

スウィート・リトル・バタフライ ──恋人のいる親友と唇を重ねる、秘密。

毬村 緋紗子
BL
エブリスタの〈学園BLコンテスト〉佳作受賞作品です。 【 恋人のいる親友と唇を重ねる、秘密── 】 生まれつき口元に、蝶の形の赤いあざのある幸成。 高2になって、クラスメイトになったバスケ部員の松下と親友になるが、いつしか唇を重ねる仲になってしまう。 けれど、松下には、彼女がいて──。 出口の見えない、トライアングル。 気付いた時には、ふたつのそれが絡まり合っていた……。 〈登場人物〉 ・遠野 幸成 (トオノ ユキナリ) 高2 人形めいた顔立ちの、大人しめ男子。 ・松下 涼佑 (マツシタ リョウスケ) 高2 茶色がかった髪の、存在も容貌も派手め男子。 勝ち気な負けず嫌い。 ・緒川 貴宏 (オガワ タカヒロ) 高2 バスケ部副キャプテン。 穏やかで、大人びた性格。 幸成を気にかけているうちに…。 ・中沢 梨絵奈 (ナカザワ リエナ) 高2 松下の彼女。 別クラス。

推される覚悟、できてません!

七咲陸
BL
国宝級イケメン俳優×売れなかった元アイドル “落ちぶれアイドル”を救ったのは“国宝級俳優”の推し宣言!? すれ違いと溺愛が交錯する、芸能界BL 解散した元アイドル・藍沢雫。 夢も仕事も失って実家に引きこもっていたら、テレビから聞こえてきたのは国宝級俳優・蓮波綾人の告白。 『藍沢雫さんです。俺の推し』 全国放送で“推し宣言”されたその日から 平凡な毎日が激変する───

森林の星空少年~あの日のメエメエ

夏目奈緖
BL
包容力ドS×心優しいツンデレ。守るために包み込む。甘々な2人。リアクションが凄くて愛されるコメディ。「聖なる雫の音楽少年~あの日のキミ」の続編です。早瀬悠人(20)は大学三年生。ロックミュージシャンでもある。ネガティブでそそっかしい性格をどうにかしたいと考えているが、早瀬(32)が包容力で包み込んでフォローしている。二人は年の差カップルで、結婚の誓いを済ませたパートナー同士。穏やかな日々に起こる出来事をコメディで綴りました。 (作品時系列) 眠れる森の星空少年→海のそばの音楽少年→回転木馬の音楽少年→聖なる雫の音楽少年→本作

ばぶばぶ保育園 連載版

雫@23日更新予定
BL
性癖全開注意で書いていたばぶばぶ保育園を連載で書くことにしました。内容としては子供から大人までが集まるばぶばぶ保育園。この園ではみんなが赤ちゃんになれる不思議な場所。赤ちゃん時代に戻ろう。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。