【本編完結:改稿中】水曜日の迷いごと

咲月千日月

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雲外蒼天の先へ - ③




「俺にも…ひとり占めさせてください。水樹さんを」

 今度は千紘が、一之瀬の頬を両手でそっと挟んだ。
 千紘の瞳は、真っ直ぐに一之瀬を見つめる。

 一之瀬はふふふと、千紘の目を見つめ返して嬉しそうに笑う。

「もちろん。…嬉しいよ。…お互いに、相性バツグンなのかもな。俺たち」
「ふふっ…。…そうかもですね」

 千紘は手を外すと、一緒になって笑った。

「重い同士、とっても合ってるのかもしれませんね」
「そこは、もっとロマンチックに表現しようよ」
「水樹さんから、聞いてきたのに?」

 一之瀬が、グッと息を飲み動作を止める。

「……千紘。イジりも、成長してきてるぞ」
「そこは切り返しがうまくなったとか、遠慮がなくなったとか、表現を工夫してください」

 それを聞いて一之瀬が、ため息をついた。

「あぁ…はぁ…。そのうち、俺が勝てなくなりそう…だな。なぁ…、千紘」

 腰から強く引き寄せ千紘を抱き締めて、一之瀬は強い瞳で言った。

「……いつまでも、かわいい千紘でいてくれ」

 一之瀬に懇願されて、千紘も満更ではない。
 自分が成長したと言われれば、やはり嬉しい。

「ええ。そのつもりですよ。かわいく? は、わかりませんが、ずっと、喜んでくれる水樹さんの好みのままではいたいと思っています。だからもっと、俺に教え込んで…仕込んで、ください」

 千紘のその言葉を聞いた途端に、一之瀬がさらに大きく膨らむ。

「……あっ」

 圧迫されて、千紘は思わず声を出した。

 勢いよく抱き締めていた身体を一之瀬は離して、千紘の顔をのぞき込んだ。

「……正気なのか? 千紘」

 もう完全にノックアウトされたという顔をして、一之瀬は千紘に確認を求めてきた。

「調教…されてもいいって……、聞こえるぞ」
「いいですよ」

 普通なら躊躇ためらうべきところを、千紘は即座に答える。

「水樹さんになら。なにをされてもいいって…、言いませんでしたっけ?」
「……聞いた。聞いたけど…。本当に調教の意味、千紘はわかってるのか?」

 心配顔の一之瀬に、千紘はコクリと頷く。

「はい。わかっているつもりです。……ご自由に、どうぞ」
 
 そんなことは千紘にとって自明の理だ。
 求められれば応えたい。
 一之瀬のものになる覚悟は、もうとっくにできている。
 思い通りに好きにさせることも。

「水樹さんがどんな性癖をお持ちだろうと、合わせてみせます」

 自分から乞うて会いに行ったのだから、一之瀬の要求はなんでも飲むつもりだったし、なんでも叶えるつもりだったし、聞くつもりだった。
 それ程に、いつの間にかこの男を深く愛してしまっていたのだ。

「いや…! そんなもの、俺にはないけれども!」

 慌てふためいて、一之瀬は否定する。

「軽々しくそんなことを言っては、駄目だろう」
「どうしてですか? 好きな人の好みを知りたい、合わせたいって、普通は思うんじゃないですか」

 千紘は真っ正面から立ち向かう。

「それだって、人間の本能ではないのでしょうか?」
「いや、…そうだけど。確かにそうだけれども……ちゃんと自分の意思を持って、嫌なときはイヤって言わないと」

 諭すような言い方で、一之瀬は一生懸命話す。
 こういうときは、おもしろいほど常識人に戻るんだなぁと、千紘は冷静に一之瀬を観察した。
 
「そんなときは、俺にはないですよ」
「相手の言うことを簡単に聞いちゃ、駄目だよ。そういうことを気にする仕事に就くってわかってる?」
「はははっ! 俺はそんなに子供じゃありませんし、単純でもありませんよ。ちゃんと人も観て、話しますし、簡単に要求は聞きません」

 千紘はめずらしく、不敵な感じを出して笑った。

「…水樹さん限定、ですよ」
「俺…限定……。はぁっ…。安心した。…千紘のことになると、俺は見えなくなるんだなぁ、やっぱり」

 一之瀬はため息をつきながら言った。

「ふふっ。…いつもなら、調教しがいがあるなぁ…くらい、言いますよね? 水樹さんなら」
「千紘…」

 一之瀬は少し拗ねる素振りを見せる。
 本当に拗ねているわけではない。
 こんな一面も好きで仕方がない。
 深くつながらないと知らなかった一之瀬だ。

「ねぇ…水樹さん」

 この大好きという気持ちを、なにか伝える術はないだろうかと千紘は考える。

「……ん?」

 一之瀬はなんだろう? と続きを待ってくれる。

「俺は、"迎えに来てくれた"…って、自然とそう言ってくれる水樹さんが、…大好きですよ」

 なぜか少し泣きたい気分だ。

「俺は……すごく不安だったんです。…会いに行ったとき」

 あの日の朝を思い出す。
 懸命に気負いすぎないようにいつものルーティンをこなし、無心で出掛ける準備をした。

「長岡の花火大会で会った時に、水樹さんに言われましたよね。待つな、って。忘れて欲しいとか、何回も否定的なことを伝えられていたのに……時間が欲しいとも言われていたのに、待ちきれずに…ご実家へ押しかけてしまって」

 一之瀬は固唾をのんで千紘の話に聞き入っている。

「ただ…会いに行く、……つもりだったんです。自分の気持ちは全部、ぶつけるつもりではいましたけど。でもそれを水樹さんは、ちゃんとした”お迎え”に昇華させてくれました。プロポーズまでしてくれて」
「……うん」
「水樹さんは、プラスに変えていく力が強い人ですよね。だから、側にいたい。そのためになら、なんだってします」

 千紘は、一之瀬の胸に手を置いて首を伸ばし、唇を狙ってキスをした。

「……ん」
「……千紘」
「あっ……また…大きく…」

 おあずけはもうできないようだった。

 千紘からキスをされたことで、待てを解除された一之瀬は我慢しきれなくなったように深く舌を入れて来た。
 
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