[完結]兄弟で飛ばされました

猫谷 一禾

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光の先の世界

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 暫く、地面に倒された状態で頭の上で言葉が行き交っている。意味はまったく分からなかったが、雰囲気が望に対して好意的ではないと、それだけは分かった。

(いや、この体勢……俺罪人か何か?)

ザッザッとした足音が地面から響いて来た。
精一杯顔を上げて何が起きたのか見てみる。
さぁっと集まっていた人が避けて望の前に道をつくる。現れたのは、いかにも捕まえる側の風貌。長い槍を持って硬そうな胸当てをして近づく度にガチャガチャと聞こえてきた。

(警察とか、警備の人…騎士団的な…)

揃いの格好の彼らは望に槍を向けて、望を押さえ込んでいるおじさんと話し出した。何度かのやり取りの後、唐突に腕を引っ張られ立たせられた。

(あ……浴衣…ボロボロ……)

手に持っていた下駄はいつの間にか少し離れたところに飛ばされていた。着乱れた浴衣姿で二の腕を強く掴まれている。目の前には槍を突きつけてくる揃いの格好をした怖い顔の数人。

「□◆○○◇●□□■◇!!?」

「……わかんねぇ……」

「◆□▽▲◇□□●○□□!!!」

「だから、何言ってんのかわかんねぇ!!」

ただ座って居ただけでなぜ捕まらないといけないのか理解できなかった。ちょっと違う服装で言葉が違うと捕まえるのか、と頭にきていた。

「なんなんだよ…マジでなんなんだよ!」

食ってかかる言い方をすればグッと二の腕を掴んでいる手に力を入れられた。槍を持っている人達に渡され、後ろでは捕まえていたおじさんが捨て台詞の様な雰囲気で望に言葉を投げかけていた。

(ふざけんなよ…なんだっつーんだよ!)

そのまま両腕を両側から2人の槍を持っている人に掴まれたまま歩き出す。

(あー正に…警察24時とかで見た構図…連行される容疑者が逃げないように~ってやつだ…)

望はあまりの現実味の無さにどこか他人事のような気さえしていた。項垂れて歩く姿は諦めの雰囲気を漂わせていた。

(あ”~足痛ぇ…裸足じゃん俺……つーか腹減った)

一晩中体育座りで石畳の上にいて、祭りのあとから今まで飲まず食わず。ずっと緊張状態でおそらく睡眠時間は数十分程度。望は疲れていた。
大人しくなった望に槍を持っている彼らは少し気が緩んでいた。時折、軽口を叩いて歩いている。歩いていくと前の方にも槍を持っている人達が数人溜まっていた。声を掛けあった彼らは合流するようだ。

「◁◀□□◇○□◆□●□□」

「◆●□○▲▽□□◆□□」

またしても望には理解不能な言語を話し出す。チラリと彼らの顔を見れば、にこやかに話している。いい感じで盛り上がっているようだ。時折、望を指さして話したり身振り手振りで話している。

(っんだよ…俺の事話のダシにしてんじゃねーよ)

ドット盛り上がり笑い合う槍を持った彼ら。

(あれ…手が離れた……)

彼らは話に夢中になり、人数も増えたことで気が大きくなっていたのだ。それに加えて望の大人しくなった姿。完全に気を抜いていた。
望はその隙を見逃さぬほど諦めてはいなかった。

ダッ

無我夢中で逃げ出した。

「ッ!!◆□○●◇▽◀□!!」

一斉に騒ぎ出す彼らは数秒遅れて気が付いた。命からがら必死な望は今までの人生でこれ程必死に走った事など無いのでないかと言う程走った。
とにかく道という道を曲がった、追いかけてくる彼らの目から逃れるために。裏路地から大通りから、とにかく滅茶苦茶に走った。

(この格好は目立つ!……人の目が無いところで)

息が切れて苦しい。足に力が入らなくなって来ている。フラフラと荒い呼吸をしながら壁に手を付き薄暗い裏路地に身を潜ませる。

(く、苦しい…しん…心臓…ぶっ壊れる……)

はぁはぁはぁ

自分の呼吸音が大きく聞こえる。遠くの方では騒いでいる声が聞こえる。
ズルズルと膝から力が抜けたようにその場にしゃがみ込む。

(も、無理だ……シンドイ……)

望は無計画でここまで走ってきた。どうしたら良いかなど、まるで分からなかった。
汚れた浴衣、傷だらけになってしまった足。泣きたくなる気分でつま先を掌で擦る。

「兄ちゃん……」

ポツリと呟いていた。

カチャリ

後ろから音が聞こえた。
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