[完結]兄弟で飛ばされました

猫谷 一禾

文字の大きさ
11 / 80
光の先の世界

11

しおりを挟む
トレーの上の食器をよく見る。お粥っぽいものの隣にはデーンと大きな海老が鎮座していた。ホカホカと湯気を立てて赤赤としていた。

(……海老だ……海老……)

望は持っていたスプーンでチョイとその海老をつついて自分から離す。そしてその隣にはサラダのように見るからに野菜があり、またしてもその中には小さな海老が入っていた。

(ここにも海老……)

がっくりと項垂れる望。

(食事……一緒みたいだ……)

すんなりと受け入れられる食事内容に頷くが、如何せん海老、海老祭り。

(拷問だ……)

望は海老アレルギーだった。

(食べられね……マジかよ……)

望の腹からはぐうぐうと聞こえ、目の前には湯気を立てた美味しそうな料理。望は頭を抱えた。唯一まだ手をつけていないスープがあった。慎重に器の中を混ぜて海老が入っていないか確認する。恐る恐る口に運ぶと野菜の味のみだった。

(良かった……やっと食べられる……)

しかし所詮野菜スープだ、直ぐに食べ終わってしまう。1日以上食べていない若者の腹は満たされない。

(メインが全部海老って……どんな嫌がらせだよっふざけんなっ……)

もしも、こちらの世界でも海老が高級な食材という認識ならば、もてなされているのではと思い至る。

(やべぇ……言葉通じないから……これ、ほとんど食べれないの……感じ悪いよな……マジかー…つーか…アレルギーってあるのか?こっちの世界…)

望は段々青ざめてきた。そしてある可能性に気づく。

「兄ちゃんは……無類の海老好きだ……」



 ┉  ┉ + ┉  ┉ + ┉  ┉ + ┉  ┉ 



樹は望を残して城を出ることを落ち着かない想いでいた。今から行く教会は城から馬車で10分といった近場だが一度入ったら中々出られない。目的が浄化の力を使いこなす事なので、そう易々と出られないのだ。

(望だって……もう小さな子供な訳じゃないから…大丈夫、だよな?)

樹にとって望は手のかかる可愛い弟で、やんちゃな所があるから心配でもあった。

「樹様、心配ですか?弟君おとうとぎみの事が…」

馬車の中で話しかけて来たのは魔術使い高位のクラー・スンナだった。

「クラーさん…はい、心配です。でも…俺にはやるべき事があります。感じるんです…人々の切実たる思いが」

「素晴らしい……流石、使い様つかいさまです」

この世界に召喚された異世界からやって来た力ある者を神の使い、‹使い様›と呼んでいる。不浄な魔の力が世界に漂い始めると獣が凶暴化し、田畑が痩せ細り、人々の体を蝕んでいく。どんな原因かは分からないが、数百年に一度ある。その時は魔術使い総出で異世界から召喚の儀を執り行う。
異世界からの使い様は元々こちらの世界によく馴染む魂の持ち主が選ばれ、この世界に来ると自然と自分の役割を感じ取れる。それが今までの常だった、そのはずだったが今回に限りイレギュラーと思われる使い様の弟までも召喚されてしまった。

「あの……望は…俺の弟は……その、少し…跳ねっ返りというか……誤解されやすいんです。本当は優しいとてもいい子なんです…俺の、大事な弟なんです。だから……」

「はい、承知しております。失礼のない様にと言ってあります。それと…樹様、私達には敬語は必要ありませんと…」

「あ、はい…いや、うん。分かったよ…つい癖でね…思わず出たら…構わず言って欲しい」

「はい」

優雅な仕草でクラー・スンナは頭を下げた。

(樹様は素晴らしい…が…あの弟は…)

召喚した魔術使い達は自分たちの仕事ぶりに誇りを持っている。その昔から言い伝えられてきた‹使い様›を召喚し、王からもお褒めの言葉を頂戴した。しかもその使い様は容姿端麗、物腰も柔らかく、理解も早い。なんと言っても人格者であった。

(あのように声を荒らげるとは…いやいや樹様の大事な弟君だ…)

クラー・スンナは自分と関わりがあまり無いであろうと、考える事を辞めた。悲しいかな望の評価はあの兄とのやり取りで周りに良い印象を与える事が出来ていなかった。

「まぁ…でも……普通は望の様な態度が当たり前なのかもしれないな。俺は最初こそ驚いたけど、本当にすんなり受け入れてしまったから…それに、君達と話せたからね」

「樹様が、素晴らしいのかと…」

樹に盲目的な魔術使い高位のクラー・スンナだった。

この世界の教会には神に使える聖職者達が働いている。魔術使い達の力も神から分け与えられた力だと信じられているので、樹の力の練習に付いてくるのは当然だった。
教会に着き、樹が馬車から降りると辺りからザワザワと聞こえた。王城使いの馬車が止まり、中から現れたのは白のローブを着た綺麗な男性。城下の人々には召喚の儀を執り行うこと、そしてそれが無事終え使い様を迎えたことが御触れによって知らされていた。樹の姿は正にその使い様そのもので、人々の目に触れられるやいなやすぐに気づかれた。

『使い様だ……』
『あの方が……』
『神々しいお姿だ……』
『あぁ…使い様……』

樹は漏れ聞こえてくる声に答えるように会釈をする。その仕草に感嘆の声が増す。

「樹様、教会の中へ…」

「うん、ありがとう」

教会の中に入ると聖職者トップの白い髭を生やした年老いた男が感動の涙を浮かべて待っていた。

「あ、あぁ……使い様…よくお越しくださいました…私が、私の命あるうちにお目にかかれるとは…この命、いつ終えても一遍の悔いはありません」

「快く引き受けて頂きましてありがとうございます。どうぞこれからも未熟なお…私に、ご指導承りたく、少しでも長く命が続きますように」

ニコリと微笑み、樹は年老いた男の手を取りしっかりと目を合わせて話した。

「樹様、こちら聖職者統括ミラー・ガウ殿です。ミラー殿、こちらが使い様のイツキ・ハヤシダ様です。とても素晴らしい使い様です」

「よろしくお願いします」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。 男前受け

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

処理中です...