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光の先の世界
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トレーの上の食器をよく見る。お粥っぽいものの隣にはデーンと大きな海老が鎮座していた。ホカホカと湯気を立てて赤赤としていた。
(……海老だ……海老……)
望は持っていたスプーンでチョイとその海老をつついて自分から離す。そしてその隣にはサラダのように見るからに野菜があり、またしてもその中には小さな海老が入っていた。
(ここにも海老……)
がっくりと項垂れる望。
(食事……一緒みたいだ……)
すんなりと受け入れられる食事内容に頷くが、如何せん海老、海老祭り。
(拷問だ……)
望は海老アレルギーだった。
(食べられね……マジかよ……)
望の腹からはぐうぐうと聞こえ、目の前には湯気を立てた美味しそうな料理。望は頭を抱えた。唯一まだ手をつけていないスープがあった。慎重に器の中を混ぜて海老が入っていないか確認する。恐る恐る口に運ぶと野菜の味のみだった。
(良かった……やっと食べられる……)
しかし所詮野菜スープだ、直ぐに食べ終わってしまう。1日以上食べていない若者の腹は満たされない。
(メインが全部海老って……どんな嫌がらせだよっふざけんなっ……)
もしも、こちらの世界でも海老が高級な食材という認識ならば、もてなされているのではと思い至る。
(やべぇ……言葉通じないから……これ、ほとんど食べれないの……感じ悪いよな……マジかー…つーか…アレルギーってあるのか?こっちの世界…)
望は段々青ざめてきた。そしてある可能性に気づく。
「兄ちゃんは……無類の海老好きだ……」
┉ ┉ + ┉ ┉ + ┉ ┉ + ┉ ┉
樹は望を残して城を出ることを落ち着かない想いでいた。今から行く教会は城から馬車で10分といった近場だが一度入ったら中々出られない。目的が浄化の力を使いこなす事なので、そう易々と出られないのだ。
(望だって……もう小さな子供な訳じゃないから…大丈夫、だよな?)
樹にとって望は手のかかる可愛い弟で、やんちゃな所があるから心配でもあった。
「樹様、心配ですか?弟君の事が…」
馬車の中で話しかけて来たのは魔術使い高位のクラー・スンナだった。
「クラーさん…はい、心配です。でも…俺にはやるべき事があります。感じるんです…人々の切実たる思いが」
「素晴らしい……流石、使い様です」
この世界に召喚された異世界からやって来た力ある者を神の使い、‹使い様›と呼んでいる。不浄な魔の力が世界に漂い始めると獣が凶暴化し、田畑が痩せ細り、人々の体を蝕んでいく。どんな原因かは分からないが、数百年に一度ある。その時は魔術使い総出で異世界から召喚の儀を執り行う。
異世界からの使い様は元々こちらの世界によく馴染む魂の持ち主が選ばれ、この世界に来ると自然と自分の役割を感じ取れる。それが今までの常だった、そのはずだったが今回に限りイレギュラーと思われる使い様の弟までも召喚されてしまった。
「あの……望は…俺の弟は……その、少し…跳ねっ返りというか……誤解されやすいんです。本当は優しいとてもいい子なんです…俺の、大事な弟なんです。だから……」
「はい、承知しております。失礼のない様にと言ってあります。それと…樹様、私達には敬語は必要ありませんと…」
「あ、はい…いや、うん。分かったよ…つい癖でね…思わず出たら…構わず言って欲しい」
「はい」
優雅な仕草でクラー・スンナは頭を下げた。
(樹様は素晴らしい…が…あの弟は…)
召喚した魔術使い達は自分たちの仕事ぶりに誇りを持っている。その昔から言い伝えられてきた‹使い様›を召喚し、王からもお褒めの言葉を頂戴した。しかもその使い様は容姿端麗、物腰も柔らかく、理解も早い。なんと言っても人格者であった。
(あのように声を荒らげるとは…いやいや樹様の大事な弟君だ…)
クラー・スンナは自分と関わりがあまり無いであろうと、考える事を辞めた。悲しいかな望の評価はあの兄とのやり取りで周りに良い印象を与える事が出来ていなかった。
「まぁ…でも……普通は望の様な態度が当たり前なのかもしれないな。俺は最初こそ驚いたけど、本当にすんなり受け入れてしまったから…それに、君達と話せたからね」
「樹様が、素晴らしいのかと…」
樹に盲目的な魔術使い高位のクラー・スンナだった。
この世界の教会には神に使える聖職者達が働いている。魔術使い達の力も神から分け与えられた力だと信じられているので、樹の力の練習に付いてくるのは当然だった。
教会に着き、樹が馬車から降りると辺りからザワザワと聞こえた。王城使いの馬車が止まり、中から現れたのは白のローブを着た綺麗な男性。城下の人々には召喚の儀を執り行うこと、そしてそれが無事終え使い様を迎えたことが御触れによって知らされていた。樹の姿は正にその使い様そのもので、人々の目に触れられるやいなやすぐに気づかれた。
『使い様だ……』
『あの方が……』
『神々しいお姿だ……』
『あぁ…使い様……』
樹は漏れ聞こえてくる声に答えるように会釈をする。その仕草に感嘆の声が増す。
「樹様、教会の中へ…」
「うん、ありがとう」
教会の中に入ると聖職者トップの白い髭を生やした年老いた男が感動の涙を浮かべて待っていた。
「あ、あぁ……使い様…よくお越しくださいました…私が、私の命あるうちにお目にかかれるとは…この命、いつ終えても一遍の悔いはありません」
「快く引き受けて頂きましてありがとうございます。どうぞこれからも未熟なお…私に、ご指導承りたく、少しでも長く命が続きますように」
ニコリと微笑み、樹は年老いた男の手を取りしっかりと目を合わせて話した。
「樹様、こちら聖職者統括ミラー・ガウ殿です。ミラー殿、こちらが使い様のイツキ・ハヤシダ様です。とても素晴らしい使い様です」
「よろしくお願いします」
(……海老だ……海老……)
望は持っていたスプーンでチョイとその海老をつついて自分から離す。そしてその隣にはサラダのように見るからに野菜があり、またしてもその中には小さな海老が入っていた。
(ここにも海老……)
がっくりと項垂れる望。
(食事……一緒みたいだ……)
すんなりと受け入れられる食事内容に頷くが、如何せん海老、海老祭り。
(拷問だ……)
望は海老アレルギーだった。
(食べられね……マジかよ……)
望の腹からはぐうぐうと聞こえ、目の前には湯気を立てた美味しそうな料理。望は頭を抱えた。唯一まだ手をつけていないスープがあった。慎重に器の中を混ぜて海老が入っていないか確認する。恐る恐る口に運ぶと野菜の味のみだった。
(良かった……やっと食べられる……)
しかし所詮野菜スープだ、直ぐに食べ終わってしまう。1日以上食べていない若者の腹は満たされない。
(メインが全部海老って……どんな嫌がらせだよっふざけんなっ……)
もしも、こちらの世界でも海老が高級な食材という認識ならば、もてなされているのではと思い至る。
(やべぇ……言葉通じないから……これ、ほとんど食べれないの……感じ悪いよな……マジかー…つーか…アレルギーってあるのか?こっちの世界…)
望は段々青ざめてきた。そしてある可能性に気づく。
「兄ちゃんは……無類の海老好きだ……」
┉ ┉ + ┉ ┉ + ┉ ┉ + ┉ ┉
樹は望を残して城を出ることを落ち着かない想いでいた。今から行く教会は城から馬車で10分といった近場だが一度入ったら中々出られない。目的が浄化の力を使いこなす事なので、そう易々と出られないのだ。
(望だって……もう小さな子供な訳じゃないから…大丈夫、だよな?)
樹にとって望は手のかかる可愛い弟で、やんちゃな所があるから心配でもあった。
「樹様、心配ですか?弟君の事が…」
馬車の中で話しかけて来たのは魔術使い高位のクラー・スンナだった。
「クラーさん…はい、心配です。でも…俺にはやるべき事があります。感じるんです…人々の切実たる思いが」
「素晴らしい……流石、使い様です」
この世界に召喚された異世界からやって来た力ある者を神の使い、‹使い様›と呼んでいる。不浄な魔の力が世界に漂い始めると獣が凶暴化し、田畑が痩せ細り、人々の体を蝕んでいく。どんな原因かは分からないが、数百年に一度ある。その時は魔術使い総出で異世界から召喚の儀を執り行う。
異世界からの使い様は元々こちらの世界によく馴染む魂の持ち主が選ばれ、この世界に来ると自然と自分の役割を感じ取れる。それが今までの常だった、そのはずだったが今回に限りイレギュラーと思われる使い様の弟までも召喚されてしまった。
「あの……望は…俺の弟は……その、少し…跳ねっ返りというか……誤解されやすいんです。本当は優しいとてもいい子なんです…俺の、大事な弟なんです。だから……」
「はい、承知しております。失礼のない様にと言ってあります。それと…樹様、私達には敬語は必要ありませんと…」
「あ、はい…いや、うん。分かったよ…つい癖でね…思わず出たら…構わず言って欲しい」
「はい」
優雅な仕草でクラー・スンナは頭を下げた。
(樹様は素晴らしい…が…あの弟は…)
召喚した魔術使い達は自分たちの仕事ぶりに誇りを持っている。その昔から言い伝えられてきた‹使い様›を召喚し、王からもお褒めの言葉を頂戴した。しかもその使い様は容姿端麗、物腰も柔らかく、理解も早い。なんと言っても人格者であった。
(あのように声を荒らげるとは…いやいや樹様の大事な弟君だ…)
クラー・スンナは自分と関わりがあまり無いであろうと、考える事を辞めた。悲しいかな望の評価はあの兄とのやり取りで周りに良い印象を与える事が出来ていなかった。
「まぁ…でも……普通は望の様な態度が当たり前なのかもしれないな。俺は最初こそ驚いたけど、本当にすんなり受け入れてしまったから…それに、君達と話せたからね」
「樹様が、素晴らしいのかと…」
樹に盲目的な魔術使い高位のクラー・スンナだった。
この世界の教会には神に使える聖職者達が働いている。魔術使い達の力も神から分け与えられた力だと信じられているので、樹の力の練習に付いてくるのは当然だった。
教会に着き、樹が馬車から降りると辺りからザワザワと聞こえた。王城使いの馬車が止まり、中から現れたのは白のローブを着た綺麗な男性。城下の人々には召喚の儀を執り行うこと、そしてそれが無事終え使い様を迎えたことが御触れによって知らされていた。樹の姿は正にその使い様そのもので、人々の目に触れられるやいなやすぐに気づかれた。
『使い様だ……』
『あの方が……』
『神々しいお姿だ……』
『あぁ…使い様……』
樹は漏れ聞こえてくる声に答えるように会釈をする。その仕草に感嘆の声が増す。
「樹様、教会の中へ…」
「うん、ありがとう」
教会の中に入ると聖職者トップの白い髭を生やした年老いた男が感動の涙を浮かべて待っていた。
「あ、あぁ……使い様…よくお越しくださいました…私が、私の命あるうちにお目にかかれるとは…この命、いつ終えても一遍の悔いはありません」
「快く引き受けて頂きましてありがとうございます。どうぞこれからも未熟なお…私に、ご指導承りたく、少しでも長く命が続きますように」
ニコリと微笑み、樹は年老いた男の手を取りしっかりと目を合わせて話した。
「樹様、こちら聖職者統括ミラー・ガウ殿です。ミラー殿、こちらが使い様のイツキ・ハヤシダ様です。とても素晴らしい使い様です」
「よろしくお願いします」
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