20 / 80
光の先の世界
20
しおりを挟む
言葉が分かるようになってから数日、比較的穏やかに過ごせていた。アウロンによってこの世界の常識を知ることが出来ているしお腹も満たされている。今日も昼食を運んできたメイドのマロンと軽く挨拶をしていた。
「こんにちは望様、本日も苦手な物がありましたら遠慮なくおっしゃって下さい」
「……ありがとう……助かるよ……」
「ではごゆっくりどうぞ…あ、そうそうアウロン様ですが、本日はとても残念ですが用事がある為こちらに伺えないとのことです」
「あぁはい…それは大丈夫です」
(今日は来ないのか、あの人………。ん?俺、今…若干物足りなさを感じて……無いよな?……怖い怖いっあのキラキラに慣らされてなるものかよ)
「っ熱い………」
「え?大丈夫……ですか?」
「はい、すみません…大丈夫です」
マロンがフラついて持っていた熱いお茶を手にかけてしまったようだった。
「……具合が悪い……んですか?」
「すみません…ちょっと目眩がしただけですので」
「あ、手が赤くなってる」
「はい……後で冷やしますので、大丈夫です」
(火傷はすぐ冷やしたほうが良いはずでは?)
望は3人のメイドの中で唯一笑顔を見せてくれるこのマロンには好印象を持っていた。かなり痛そうな赤くなった手を見て思わず言っていた。
「ここでも冷やせますよ、こっち来てください」
お風呂場のあるドアに向かって歩きながら言う。洗面台があるので直ぐ冷やせるだろうと考えてだ。
「早く、マロンさん……ここ、水出るから」
「え?でも……私などが」
「良いから!ここ、手を出して下さい」
「あ、ありがとうございます…すみません」
望は遠慮気味の痛そうなマロンの手を取ると洗面台の魔石に触れて水を出した。
(冷たく、冷たい水が出ろ……痛そうだな……メイドって手を使う仕事が多そうなのに…治るといいな)
想いを強くすると水の温度が調節できる事を知っていた望は冷たい水、冷たい水、と思っていた。微妙な温度調節がどうやって出来ているが分からなかったが出来てしまいラッキーだと思っていた。分からないものは考えたって頭が混んがるがるだけなので魔力がどのように影響するのか、深く考えないようにしていた。
「あの…望様…あの……大変失礼致しますが…その、水が……冷たすぎて……」
「へ?マジ??悪いっ」
ボヤッと色々考えながら水を出していたら温度を下げ過ぎていたらしい。マロンの手に触れたら氷のように冷たくなっていた。
「悪い……やりすぎたみたい……です。あの、魔力は初心者だから…」
「いえ、ありがとうございます。望様は親切な方だったのですね」
「そー……でしょうか……親切……」
「もう大丈夫です。望様はお食事が冷めてしまいますので、どうかお召し上がり下さい」
「あぁ俺猫舌なんで気にしないで下さい」
「猫舌?」
「えっと……熱いの苦手なので…多少冷めたほうが食べやすいっていうか……大丈夫です」
「ふふ……それでは失礼致します……手、ありがとうございました」
丁寧にお辞儀をして部屋から出ていくマロン。何か良い事をした気分になれた望だった。
この間、謝罪に来た魔術使い見習いゲンコラ・ヤイミュとメイドのリマとは大違いの態度に軽く感動した。アウロンに連れられてきた二人は渋々と臆面もなく謝った。この謝罪は果たして本当に必要なのか、こちらも渋い顔をした望の記憶に新しい出来事だ。
部屋から出たマロンは廊下を歩きながら自分の手を動かしてみた。
(助かったわ、もう痛くないし赤みも消えてる。噂と違うとは思っていたけれど、とても親切で良い人だわ………噂は噂ね。それにしても、本当にもうすっかり痛くない……どこを火傷したか分からないくらい)
マロンは望に感謝しながら自分の仕事に戻った。
一方、望は久しぶりに純粋なお礼の言葉を聞いた気がした。アウロンはちょっとあれなので。
(女の子の手……握っちゃった……あのマロンって子が痛そうにしてるのに遠慮するから……)
望は元の世界の学校で同じクラスで気になっていた子を思い出していた。
(もう…会えないんだよなぁ)
自分より華奢で小さな女の子の手を握って照れていた気持ちから、しんみりした気持ちになってしまった。ここ最近はアウロンがいつでもそばに居てこんな気分になる暇がなかったから、沈んだ気持ちは久しぶりだ。
(アウロンって……わざと俺の気分を上げてくれてたのかな……だとしたら、あんまり邪険にすんじゃなかったかな…)
物思いに耽った望は、そう思った。
┉ ┉ + ┉ ┉ + ┉ ┉ + ┉ ┉
後日、アウロンは会えなかった日の望の様子を聞く為にマロンに話しかけた。
「やぁマロン、望の様子はどうだった?変わりない?どんな些細な事でも報告してほしい」
「アウロン様、望様はお変わりなくお食事も召し上がっています。あと、猫舌?と仰っていまして…熱いものが苦手だそうです。冷める前に召し上がって下さいと申しましたら大丈夫だと、寧ろ少し冷めた方が良い口ぶりでした」
「猫舌……望の世界の言葉は時々可愛らしくて面白いね。そうか、熱いものが苦手なのか…ありがとう。新たな望が知れたよ。他には?何かない?」
「えぇ……特には……あっ……」
「ん?何?」
「あ……えっと……これは……私のミスですが…」
アウロンは望の興味深い話を聞いた。水の温度調節がそこまで出来るようになっていたとは思っていなかった。
(望は俺の想像以上だな…この間初めて魔力を流した割には…氷のような冷たさの水を出せるなんて……しかも俺の予感が当たったならば……これは…大騒ぎになる)
アウロンは天井を見つめ悩ましげなため息を出した。
(あぁ……彼の素晴らしさは俺だけがひっそりと知っていたいが…大勢の人に知ってもらいたい気もする……早く、俺だけの可愛い人になってくれないものか…うぅん……)
「こんにちは望様、本日も苦手な物がありましたら遠慮なくおっしゃって下さい」
「……ありがとう……助かるよ……」
「ではごゆっくりどうぞ…あ、そうそうアウロン様ですが、本日はとても残念ですが用事がある為こちらに伺えないとのことです」
「あぁはい…それは大丈夫です」
(今日は来ないのか、あの人………。ん?俺、今…若干物足りなさを感じて……無いよな?……怖い怖いっあのキラキラに慣らされてなるものかよ)
「っ熱い………」
「え?大丈夫……ですか?」
「はい、すみません…大丈夫です」
マロンがフラついて持っていた熱いお茶を手にかけてしまったようだった。
「……具合が悪い……んですか?」
「すみません…ちょっと目眩がしただけですので」
「あ、手が赤くなってる」
「はい……後で冷やしますので、大丈夫です」
(火傷はすぐ冷やしたほうが良いはずでは?)
望は3人のメイドの中で唯一笑顔を見せてくれるこのマロンには好印象を持っていた。かなり痛そうな赤くなった手を見て思わず言っていた。
「ここでも冷やせますよ、こっち来てください」
お風呂場のあるドアに向かって歩きながら言う。洗面台があるので直ぐ冷やせるだろうと考えてだ。
「早く、マロンさん……ここ、水出るから」
「え?でも……私などが」
「良いから!ここ、手を出して下さい」
「あ、ありがとうございます…すみません」
望は遠慮気味の痛そうなマロンの手を取ると洗面台の魔石に触れて水を出した。
(冷たく、冷たい水が出ろ……痛そうだな……メイドって手を使う仕事が多そうなのに…治るといいな)
想いを強くすると水の温度が調節できる事を知っていた望は冷たい水、冷たい水、と思っていた。微妙な温度調節がどうやって出来ているが分からなかったが出来てしまいラッキーだと思っていた。分からないものは考えたって頭が混んがるがるだけなので魔力がどのように影響するのか、深く考えないようにしていた。
「あの…望様…あの……大変失礼致しますが…その、水が……冷たすぎて……」
「へ?マジ??悪いっ」
ボヤッと色々考えながら水を出していたら温度を下げ過ぎていたらしい。マロンの手に触れたら氷のように冷たくなっていた。
「悪い……やりすぎたみたい……です。あの、魔力は初心者だから…」
「いえ、ありがとうございます。望様は親切な方だったのですね」
「そー……でしょうか……親切……」
「もう大丈夫です。望様はお食事が冷めてしまいますので、どうかお召し上がり下さい」
「あぁ俺猫舌なんで気にしないで下さい」
「猫舌?」
「えっと……熱いの苦手なので…多少冷めたほうが食べやすいっていうか……大丈夫です」
「ふふ……それでは失礼致します……手、ありがとうございました」
丁寧にお辞儀をして部屋から出ていくマロン。何か良い事をした気分になれた望だった。
この間、謝罪に来た魔術使い見習いゲンコラ・ヤイミュとメイドのリマとは大違いの態度に軽く感動した。アウロンに連れられてきた二人は渋々と臆面もなく謝った。この謝罪は果たして本当に必要なのか、こちらも渋い顔をした望の記憶に新しい出来事だ。
部屋から出たマロンは廊下を歩きながら自分の手を動かしてみた。
(助かったわ、もう痛くないし赤みも消えてる。噂と違うとは思っていたけれど、とても親切で良い人だわ………噂は噂ね。それにしても、本当にもうすっかり痛くない……どこを火傷したか分からないくらい)
マロンは望に感謝しながら自分の仕事に戻った。
一方、望は久しぶりに純粋なお礼の言葉を聞いた気がした。アウロンはちょっとあれなので。
(女の子の手……握っちゃった……あのマロンって子が痛そうにしてるのに遠慮するから……)
望は元の世界の学校で同じクラスで気になっていた子を思い出していた。
(もう…会えないんだよなぁ)
自分より華奢で小さな女の子の手を握って照れていた気持ちから、しんみりした気持ちになってしまった。ここ最近はアウロンがいつでもそばに居てこんな気分になる暇がなかったから、沈んだ気持ちは久しぶりだ。
(アウロンって……わざと俺の気分を上げてくれてたのかな……だとしたら、あんまり邪険にすんじゃなかったかな…)
物思いに耽った望は、そう思った。
┉ ┉ + ┉ ┉ + ┉ ┉ + ┉ ┉
後日、アウロンは会えなかった日の望の様子を聞く為にマロンに話しかけた。
「やぁマロン、望の様子はどうだった?変わりない?どんな些細な事でも報告してほしい」
「アウロン様、望様はお変わりなくお食事も召し上がっています。あと、猫舌?と仰っていまして…熱いものが苦手だそうです。冷める前に召し上がって下さいと申しましたら大丈夫だと、寧ろ少し冷めた方が良い口ぶりでした」
「猫舌……望の世界の言葉は時々可愛らしくて面白いね。そうか、熱いものが苦手なのか…ありがとう。新たな望が知れたよ。他には?何かない?」
「えぇ……特には……あっ……」
「ん?何?」
「あ……えっと……これは……私のミスですが…」
アウロンは望の興味深い話を聞いた。水の温度調節がそこまで出来るようになっていたとは思っていなかった。
(望は俺の想像以上だな…この間初めて魔力を流した割には…氷のような冷たさの水を出せるなんて……しかも俺の予感が当たったならば……これは…大騒ぎになる)
アウロンは天井を見つめ悩ましげなため息を出した。
(あぁ……彼の素晴らしさは俺だけがひっそりと知っていたいが…大勢の人に知ってもらいたい気もする……早く、俺だけの可愛い人になってくれないものか…うぅん……)
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
136
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる