[完結]兄弟で飛ばされました

猫谷 一禾

文字の大きさ
31 / 80
新たな事実

31

しおりを挟む
「…………にほんご……ですか?……それは…治癒者様の世界の言葉…でしょうか……」

「そう、俺の国の言葉。めちゃ読める……しかも、これ…こんなとこに保管されてるような感じの文章じゃ無い」

「歴代のどなたかの使い様が書き記した物でしょうか?……何故ここにあるのでしょう……おかしいですね」

「え?貴重なものだからここに有るんじゃないんですか?」

「まさか!使い様関連の物は全て使い様専用の場に厳重に保管されていますよ!ちょっと頼めば見せてもらえるという事など、有り得ません!」

「じゃあ、なんでこれはここに有るんだよ」

「だから……おかしいんです…」

「だって、これ……これさ」

望はオロオロと視線を彷徨かせてから口を閉じてしまった。

「治癒者様、私には読めません。ここに来た目的のためにも内容を教えて頂けないでしょうか?」

「これ?……え、いいのかな…何か罪悪感が…」

「大丈夫です!」

根拠のない返事に少々怯む望だったが意を決して内容をガマズに伝えた。

「あのさ、何か見ちゃいけない気がするんだけど、俺一人の判断じゃあれだから……えーと…」

「治癒者様、お早く!まどろっこしいです」

「はいはい、えーと。つまり……なんて言うか……凄く悪い言い方の……」

「はい!何ですか!?」

「愚痴」

「ん?」

「だから、愚痴だって。人の日記盗み見してる感覚?ってのかな……その、言い回しが、口汚いって言うか……これ、書いた人……使い様?なのかな」

「例えば?」

「んーと……“とにかく奴ら全員死ね”……とか…“呪ってやる”……とか…後はー“ふざけんな、地獄に落ちやがれクソジジイ”…とかですね」

「お、おおお…それは、確かに口汚いと……歴代の使い様は今代の使い様同様、物腰柔らかい方というのが共同認識にあるのですよ。使い様という存在は神にも近しい、素晴らしい人格者である、と」

「まさに兄ちゃんだ」

「はい、なので治癒者様のお噂には少々驚いた事も事実ですが…私なんかは恐れ多くも親しみを感じてしまいました。同じ人間であるな~と」

「……良い意味だと思っておきます」

「あの…失礼ながら、今仰った言葉は……つまり…治癒者様に通じるというか…」

「俺が言いそうだよな、うん。自分でも分かる」

「どなたが書いたものか……」

「しかもさ、これ殴り書きって…分かります?」

「はい。言おうとしていることは分かります。斜めに乱雑に書かれていますね」

「そうなんですよ。相当ムカつきながら書いたっぽくて、恨みも深そうっていうか…あ、ちょっと待って……え?」

「何ですか?」

「ガマズさん、歴代の使い様の中に王城を追放された方っていますか?」

「使い様を追放!?そんな馬鹿なっ!」

「でも、ページをめくってみてここに“アイツら遂にやりやがる気だ、俺を城から放り出す気だ”って書いてあります。それから……“ここに残していく、この世界の奴らはクソだ。絶対に許さない。後悔させてやる“だって。うへー怖いな……」

望の隣でガマズがブルブルと震え出した。

「え?ガマズさん?ちょっと大丈夫ですか?」

「ち、ちちち治癒者様……は、大丈夫……なのですか?……わた、私は……足元から……這い上がる、ような……恐怖が……身体が……震えて……」

「え!?そんなに怖いですか?」

「ちが……その、しょ、書物から……何か」

「……これ?これから?」

望は日本語で書かれた小ぶりの本を手に取って表紙と裏表紙と何度か往復して見てみる。

「…えー……特に何とも無いですけど……何か出てますか?魔力的な何かとか?」

まだブルブルと震えるガマズに首を傾げながら望は試しに魔力を本に流してみた。

「あっ!治癒者様っ!!そんな無謀なことっ」

望が本に魔力を流した途端に持っている手から何かが入り込んで全身に広がった感覚がした。それは一瞬の出来事で温かいような冷たいような空気が全身を走った気がした。

「おわっ……何だ?これ」

「あ、あ、貴方という方は!!何をされているのですか!!」

(えーめっちゃ怒ってるじゃん)

「不用意に怪しげなものに、魔力を流すなんて!!死ぬ気ですかっ!」

「し、死ぬ?え?そんなこと?」

「アウロン様から教わりませんでしたか!?魔力を流すと言うことは、そのものと繋がるということだと!邪悪なものと繋がってしまったかもしれないのですよ!不浄な魔力が治癒者様に入り込んだりしたらどうするのですかっ!」

「あー言ってた……かも?」

望は何となくやった事で、言うなれば蛇口を捻って水を出す感覚だった。たかだかの自分何ぞが魔力を無機質な本にチラッと流したからといって何か起こるはずがないと思っていた。
よく分からない引き出しを取り敢えず引きてみる、そんな感じだった。

「何か!?変わったところは!?お身体は??」

「ガマズさん、震え止まりましたね」

「呑気に言ってる場合ではありません!これはアウロン様に要報告です!まさか治癒者様がこんなに無防備だとはっ!このガマズ、不覚です!治癒者様のことを甘くみすぎていました!成る程!!アウロン様も過保護になる訳です!!」

「随分な言われようっすね、俺。何とも無いですよ?大丈夫だったんじゃないですか?」

「キーーー!分かっていませんね!そうか、これが異世界から来た方の感覚かっ!魔力を恐ろしいと分かっていない!」

ガマズが地団駄を踏んで頭を掻きむしる。この世界の常識が異世界から来た望達にすぐ順応しろというのは土台無理な話なのだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

処理中です...