[完結]兄弟で飛ばされました

猫谷 一禾

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一歩前進、そして暗雲

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 馬車酔いを克服し、魔力の使い方もこ慣れてきた望は訪れた街に着いた日に病院を回れるようになっていた。樹の言葉通りに、目の前で助けを求めてくる人がいて、自分には助けられる力がある。そんな時は知らん振りなど出来ない。思わず、言われるがまま助けてしまう。しかも望には心強い見方である仮面を着けている。顔を知られないと思うと本当に気が楽だった。
ただ、心配なこともあった。アウロンが、望が寝付くまで隣に待機している事だ。夜中も心配なようで時々様子を見に来ているらしい。いつ休んでるんですか?という様な働きぶりだ。そんな感じでこの旅が終わるまで持つのだろうか…と治癒能力を使うと怒られる。“余計な気を回さなくて良い、自分の身体を第一に考えろ”と言われてしまうのだ。
ならいっその事一緒に休んでしまえば良いのでは?と言いかけたが、それはそれで別の意味に取られて望の身が危険に晒されてしまう。
そんな訳で望は今ウームと困っているのだ。

「今度の街は少し大きいですね」

ガマズも大分旅に慣れてきて、雰囲気も柔らかくなった様に思う。

「そうですね。当初の予定とは違う街で心配しましたが…こちらの街でも良かったですね」

魔術使いのヒタム・ユーもいつもの少し良い加減な雰囲気である。

「でも、元々いくはずだった街は大丈夫なんですか?浄化とか、治癒する人とか…」

「望様からそのようなお言葉が出る日がくるとは……」

感動しているアウロンはやはり望の頭を撫でてくる。

「大きくなられましたね。シダ様」

大きく頷くガマズ達。

「うるさいなっ!」

(思春期真っ盛りの男子高校生にそんな事言うんじゃ無いよ!)

「道が塞がれていたので、この人数では通れなかったのです。仕方がありません。しかし、報告によると緊急性は無いようなのでご心配には及びませんよ」

「なら、良かったんじゃないですか」

親戚一同に大人になった大きくなった、と捏ねくり回された気分の望は居心地が悪かった。

「でも……この街って……今まで寄った街と…似てますよね……」

「そうですね。この国にある街は建物が似ているのでそう感じるかも知れませんが、何か気になりますか?」

「いや、来たことあるような感じがしただけ。あ、ここが病院?中入って変装しないと」

手順にも慣れて来て、いつものように何事も無く無事に治癒タイムを終える。一息着こうという時に、何となく街を歩いてみたいと言った望の為にアウロンと連れ立って街を散策する。

「アウロンさん、休んでなくて良いんですか?ちゃんと寝れてますか?あれから俺、殆ど夢も見ないし…大丈夫だと思うんですけど……」

「……騎士の訓練の方が余程厳しい状況ですので私は大丈夫です。それに、慢心で後悔をしたくありません」

「そう…ですか……。あれ?あっちは林?森みたいですね…ここから急に建物が少なくなりますね…」

「あんたら!!」

背後から大きな声で呼び止められた。
スッと望の前に出るアウロンは声の主に警戒しながら応える。

「はい、何か御用ですか?」

「そっちは駄目だ!入っちゃいかん」

呼び止めた声の主は白い髭の生えた老人だった。

「昔からここに伝わる、人が立ち入らず森じゃ不幸を呼び寄せ、呪われるぞっ!」

「呪い?」

「ヤバいじゃ無いですか。アウロンさん、戻りましょう」

「そうじゃ、戻れ戻れ。王都から来るような奴ら、戻れば良いのじゃ」

「そうですね、万が一が有りますし。わざわざ危険に近付くもんじゃありませんね」

「ふん、分かれば良いんじゃ。まったくこれだから……大体、王都から来るような奴は碌なもんじゃ無い。わしの爺さんが言っていた通りじゃ。呪いを持ち込むんじゃ」

「……何か、凄い言われ様ですね……怖いわぁ」

「ちょっと、その呪いのお話…もう少し詳しくお聞かせ願いませんか?」

「アウロンさん?」

「王都から呪いがやって来るなんて…少し引っ掛かりませんか?」

アウロンに言われて、確かにと納得する望だったが、この森は駄目だと思う。森の奥を見つめていると背中がゾワゾワして来るのだ。

「何じゃ!そんな事も知らんのか王都の奴らは。この森は濁った魔の力が充満しておるんじゃ、遥か昔から。なのに一度も浄化された事がない。不幸を呼び寄せるのじゃ、この森は。一度でも足を踏み入れたら魔の力に侵され、狂うんじゃ。何人も狂ったそうじゃ。この辺じゃ常識じゃわい!今更ノコノコきおって……狂いたければ入ってみると良いんじゃ、わしは十分話した。これ以上は話す事なぞ無いわい!しっしっ」

手をプラプラと振り、忌々しそうにあっちへ行けと追いやられた。

(リアルにしっしって、された…)

「最後に一つだけ、不幸を呼び寄せるとは?」

「知らん!そう言われているだけじゃ。森に入った奴だけじゃなく周りまで狂うからじゃないのか」

「そうですか。有難うございました」

「ふん、下げる頭はあるんじゃな」

そう捨て台詞を吐いて老人は行ってしまった。

「アウロンさん、俺たちもここから離れましょうよ……この森、気味悪いですよ」

「そうですね。使い様がいらっしゃったのでそれも解決されるでしょうが…」

アウロンは何か考えながら森を一瞥し、望の背に手を添えてその場を離れることにした。

(後で使い様とお話をしなければ……)

一度も浄化のされたことのない地。異例だらけの今代の召喚。何かが動き出し始めていた。
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