[完結]兄弟で飛ばされました

猫谷 一禾

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一歩前進、そして暗雲

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 黒く濁った魔の力である黒い靄が溢れ出た森を目指す一行。騎士を先頭にクラー、ヒタム、ゲンコラと魔術使いが3人ゾロゾロと歩いていた。

「チャカチャカ歩かんかいっ。使い様のご様子を逐一確認したいのだ!サッと行ってサッと帰るぞ。あれから変わりは無いのだろう?」

「そうなんですが…私達だけで判断して良いのか…前代未聞の事態じゃないですか。怖いですよ、高位魔術使いの方の意見を聞きませんと…」

「責任を全て押し付けられても困ります。見習いですし…」

部下2人からワーワーせっつかれるクラー。

「えぇい!だからこうして泣く泣くやって来たのではないか!使い様の責任問題なんて事になったら大変だからな」

森の様子は一時の爆発的に黒い靄がかかった状態から少し改善されていた。森全体に靄はかかってはいるが、薄くなっている。

「誰か常駐して見張ってた方がいいんじゃないですか?」

「そうだな。では頼んだぞ」

「は?僕ですか?僕がここに残るんですか?」

「自分で言ったではないか、己の言葉には責任を持て。この騎士と一緒にここに留まり、変化が無いか見張っていろ。2人いれば何かあった時に連絡係として走って知らせることが出来るだろ?曲がりなりにもお前は魔術使い見習いだ。黒い靄から身を守れるだろ?」

魔術使い達には初歩的魔術として黒い靄からの身の守り方が必修だった。視認出来るので、風で散らすか、靄との間に壁を作って遮るかだ。
要は靄に触らなければ良いのだ。

「そんなぁ~本当に大丈夫何でしょうね!?使い様があんな感じだったんですよ??怖いですよ!」

「大丈夫だよゲンコラ。クラーさんも平気じゃないか、街にまで黒い靄が来たらそれこそ大変だからね」

良い笑顔を見せた先輩ヒタムは、余計な事言わなくて良かったと胸をなで下ろしていた。

「せ、先輩!他人事だと思って!」

「1人じゃないから良いだろ?この騎士の方なんて、まるきりトバッチリなんだからね。これからはもう少し考えて言葉を発することをオススメするよ」



 ┉  ┉ + ┉  ┉ + ┉  ┉ + ┉  ┉ 



 一方、宿の部屋の中では深刻な話が続いていた。

「使い様…私共も…お話しなければいけない事が…」

困惑している望を片手で抱き締めながら話し出すアウロンは当然の顔をしている。

「……何故、君が望を抱き締めるの?」

「失礼ながら…使い様と望様の接触は…危険と推測致します。なので私が」

「それにしたって……まぁ…今は言い争う暇はないか…いいよ、続けて」

ガマズは秘密共有仲間であるが、今回は壁に張り付き空気に徹していた。

「望様とあそこに控えている学者のガマズは王城で蔵書館に行きました。そこで原則秘蔵書が保管されている結界内の立ち入りを許可され中に入ったのです」

「話には聞いたことがあるけど…凄いね…それで?」

「はい。2人はそこである書物を発見したそうです。ガマズ?」

「ひゃい!」

空気に徹していたはずが、いきなり呼ばれて心臓がひっくり返った。

「説明を」

「は、ははい。せん越ながらこのガマズ・エネムが引き続き説明致します。こほん、えーその書物とは、シダ様が仰るには日本語で書かれた本だと」

「え?日本語??蔵書館に?」

「はい。使い様関連の物、全ての保管場所は蔵書館ではありません。なのですが!あったのです」

「それは……おかしいね…でも、それだけでは報告すればいいんじゃ…」

「はい、内容が……にわかには信じがたい内容でして…。シダ様曰く、よろしくない言葉遣いの文句が書かれている、との事です」

「望……話せる?」

「え……あぁ……何か……よく分かんなくて……あ、ごめ……手、叩いた」

「いいよ。大丈夫?休む?」

「大丈夫………あれは……日記。行き場の無い気持ちをぶつけた日記。日付の無い日記だよ」

望は大人しくアウロンの腕の中でボンヤリしていた。

「日記、日本語の日記か…何故そんなものが…」

「あの、内容なんですが…まず、異世界から来た人物が書いた書物で間違いないと思います。それで、その…異世界から来た人物は、酷くお怒りで…その……王城を追い出される、と……書いてありました」

「え、えぇ!?追い出される!?」

「はい。なので……私もシダ様も驚きまして…そして、私はその書物から只らぬ恐怖を感じたのですが…」

チラリと望を見て言葉を控えてしまう。その続きを話し出したのはアウロンだ。

「事もあろうに、望様はその書物に魔力をお流しになられたのです」

「…………はぁ??」

呆気に取られた樹は自分の身体が辛いにも関わらずガバリと立ち上がろうとした。

「使い様、冷静に…冷静に…」

ガマズが壁の近くで慌てている。

「そこまでバカなのか…私の弟は…」

「う~~~それはもぅ反省したし…あぁ~頭痛くなって来た…」

望がアウロンの胸に頭を付けてグリグリしている。ピシリと固まったのはアウロンだ。望のこんな可愛いく甘える姿を見たのは初めてだった。

「の、望様?どうされ…頭が痛いですか?ベッドに行きましょう」

「アウロン、君、落ち着いてね。望の様子ちゃんと見て。黒い靄の影響を受けているはずだ。何だか嬉しそうだけど…油断出来ないからね」

樹が急に冷たい視線でアウロンを見た。樹は使い様だが、お兄ちゃんなのだ。

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