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一歩前進、そして暗雲
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クラーが部下のヒタムと学者のガマズを連れて部屋に入ろうとしていた。目の前で繰り広げられている、およそ緊張感の無い内容にため息を吐き出したい心境だった。
「今、どれだけ危機的状況な時か少しお考えを…」
クラーの後ろでヒソヒソと
「アウロンさんに言っても無駄だよな…」
と、ヒタムがガマズに囁いている声が聞こえたが無視をし部屋の中に意識を向ける。
「クラー……そうだね…悪かったよ。私は望の保護者だからね…つい。可愛い弟を持つとね、ムキになってしまった…」
アウロンは何も間違ったことを言っていないと反省も謝罪もする気は無さそうだ。それより彼は今、腸が煮えくり返っていた。
(望の中に誰かがいる?許せるはずもない…あんなに泣かせるような輩……望は私のものだ。何人たりとも渡すものか)
「部屋に入っても?」
「あ、どうぞ…」
「ドアを閉めなさい。まだ誰かに聞かれる訳にはいかない」
「はい。あ、失礼致します…皆さん、事態の急変に混乱されているようで…はは…」
ガマズがさり気なくフォローを入れる。パタンとドアが閉められたことをしっかり確認したクラーは部屋を一瞥し、樹と望とアウロンを見て口を開く。
「よろしいですか?現状は由々しき事態です。まず使い様が黒い靄に倒れ、森から微弱ではありますが今も浄化出来ず黒い靄に覆われております。使い様が黒い靄を浄化出来なかった事など、この国の長い歴史の中でも聞いたことがありません。街への被害が無いことが幸いではありますが…」
クラーは言葉を切り、アウロンと望をじっと見て、また口を開く。
「ところで、そこのおふた方は…何時まで抱き合っているつもりですか?」
「へ?」
今だしっかりと現実味を感じられていない望はアウロンの暖かな腕の中で、彼の服をギュッと掴んでいた。
「望様のお心が安定されていないのだ。安心して頂く為にも当然だが?」
「離れますっ。すみません…」
「望様、周りの言うことなんてお気になさらず」
(すごい……流石アウロンさん…ブレない)
ヒタムは感心してしまった。クラーに至ってはイライラを隠そうともせず眉間のシワがドンドン深くなる。その様子を見ていたガマズは心配していた。
(クラー様…実は…事態がもっともっと深刻な状況だって知ったら卒倒すんじゃないかな…)
「うほん…取り敢えず、治癒者様…お身体は如何でしょうか?目覚められて一同安心致しました」
「望は一晩目覚めなくて…心配したよ」
「一晩!そんな経ってたの…」
「そうですよ。アウロン様は一晩中お傍で付きっきりで……一睡もしてないんじゃないですか?」
「ガマズ、余計なことは言わなくて良い」
「アウロンさん……」
そこまで心配を掛けていたとは、申し訳なくなってくる。望はアウロンからそっと離れ彼の顔をよく見る。麗しの騎士の顔に疲れが見え、目の下には薄らクマが出来ていた。
(アウロンさんには、ずっと心配かけてる)
望は情けなくなり、せめて少しでも元気になってもらおうと治癒の力をこっそり使った。どうせ小言を言われるくらいだろうと思ったからだ。
(あれ?)
寝ぼけているのか、上手く治癒の力が使えない。
(もう一度、ゆっくり…)
再度試してみるが、自分の手にいつもの様な魔力が集まる感覚が無い。
(嘘、おかしい……)
心臓がドキドキしてきた。
(もう一度、もう一度…)
急に黙ってしまった望にアウロンは異変に気付く。
「望様?どうかされましたか?」
「え?…………」
(これ以上問題があるって…言ったら…)
「あ…………」
(どうしよう……)
「望、どうした?気分が悪くなってきたのか?」
樹まで異変に気付き、声をかける。
望はどう答えたら良いか迷ってしまう。その時ガマズが言い出した。
「こういう時…何時もなら…シダ様は……大体アウロン様を心配して、治癒を施して怒られている事が多いですよね…?」
正しくドンピシャな事を言われてしまった。
「治癒者様は尊いお力をいつもいつも…ホイホイ使い過ぎではないでしょうか……本来、騎士に治癒能力をお使いするべき時は余程の怪我をした時のみですよ…」
「望様……私の身を案じて下さったのですか。…………ん?おかしいですね…確かに、ガマズが言った通り…何時もならやった後に私たちから色々言われていますよね。まずやってしまう、それが望様です。調子が悪いんですか?」
「あ…………えと…」
(誤魔化すの下手過ぎだろ俺…。きっと言った方が良いんだよな。分かってるんけど……自分の口から言うのって、怖い……散々要らない能力だとか言ってた癖に…俺って奴は……)
「……出来ない…」
「え?」
「だから!……治癒……何か……出来ない」
空気が固まった気がした。あぁやってしまった、またしても。言ってはいけなかったんだ、と酷く落ち込む。
「ほら、影響を受けている」
樹がアッケラカンと言い放つ。
「望が寝ている間に私達もただ黙って待っていただけでは無いんだよ。色々想定して、最悪の事まで話し合っていたんだよ。きっと望自信が一番困惑している筈だから、大人の私達が年下の望の支えになるのは当たり前だろ?黒い靄がこんな部屋の中で視認されたんだ、あらゆる事を考えなくてはね」
「兄ちゃん……」
いつもの頼れる使い様の姿だ。
「今、どれだけ危機的状況な時か少しお考えを…」
クラーの後ろでヒソヒソと
「アウロンさんに言っても無駄だよな…」
と、ヒタムがガマズに囁いている声が聞こえたが無視をし部屋の中に意識を向ける。
「クラー……そうだね…悪かったよ。私は望の保護者だからね…つい。可愛い弟を持つとね、ムキになってしまった…」
アウロンは何も間違ったことを言っていないと反省も謝罪もする気は無さそうだ。それより彼は今、腸が煮えくり返っていた。
(望の中に誰かがいる?許せるはずもない…あんなに泣かせるような輩……望は私のものだ。何人たりとも渡すものか)
「部屋に入っても?」
「あ、どうぞ…」
「ドアを閉めなさい。まだ誰かに聞かれる訳にはいかない」
「はい。あ、失礼致します…皆さん、事態の急変に混乱されているようで…はは…」
ガマズがさり気なくフォローを入れる。パタンとドアが閉められたことをしっかり確認したクラーは部屋を一瞥し、樹と望とアウロンを見て口を開く。
「よろしいですか?現状は由々しき事態です。まず使い様が黒い靄に倒れ、森から微弱ではありますが今も浄化出来ず黒い靄に覆われております。使い様が黒い靄を浄化出来なかった事など、この国の長い歴史の中でも聞いたことがありません。街への被害が無いことが幸いではありますが…」
クラーは言葉を切り、アウロンと望をじっと見て、また口を開く。
「ところで、そこのおふた方は…何時まで抱き合っているつもりですか?」
「へ?」
今だしっかりと現実味を感じられていない望はアウロンの暖かな腕の中で、彼の服をギュッと掴んでいた。
「望様のお心が安定されていないのだ。安心して頂く為にも当然だが?」
「離れますっ。すみません…」
「望様、周りの言うことなんてお気になさらず」
(すごい……流石アウロンさん…ブレない)
ヒタムは感心してしまった。クラーに至ってはイライラを隠そうともせず眉間のシワがドンドン深くなる。その様子を見ていたガマズは心配していた。
(クラー様…実は…事態がもっともっと深刻な状況だって知ったら卒倒すんじゃないかな…)
「うほん…取り敢えず、治癒者様…お身体は如何でしょうか?目覚められて一同安心致しました」
「望は一晩目覚めなくて…心配したよ」
「一晩!そんな経ってたの…」
「そうですよ。アウロン様は一晩中お傍で付きっきりで……一睡もしてないんじゃないですか?」
「ガマズ、余計なことは言わなくて良い」
「アウロンさん……」
そこまで心配を掛けていたとは、申し訳なくなってくる。望はアウロンからそっと離れ彼の顔をよく見る。麗しの騎士の顔に疲れが見え、目の下には薄らクマが出来ていた。
(アウロンさんには、ずっと心配かけてる)
望は情けなくなり、せめて少しでも元気になってもらおうと治癒の力をこっそり使った。どうせ小言を言われるくらいだろうと思ったからだ。
(あれ?)
寝ぼけているのか、上手く治癒の力が使えない。
(もう一度、ゆっくり…)
再度試してみるが、自分の手にいつもの様な魔力が集まる感覚が無い。
(嘘、おかしい……)
心臓がドキドキしてきた。
(もう一度、もう一度…)
急に黙ってしまった望にアウロンは異変に気付く。
「望様?どうかされましたか?」
「え?…………」
(これ以上問題があるって…言ったら…)
「あ…………」
(どうしよう……)
「望、どうした?気分が悪くなってきたのか?」
樹まで異変に気付き、声をかける。
望はどう答えたら良いか迷ってしまう。その時ガマズが言い出した。
「こういう時…何時もなら…シダ様は……大体アウロン様を心配して、治癒を施して怒られている事が多いですよね…?」
正しくドンピシャな事を言われてしまった。
「治癒者様は尊いお力をいつもいつも…ホイホイ使い過ぎではないでしょうか……本来、騎士に治癒能力をお使いするべき時は余程の怪我をした時のみですよ…」
「望様……私の身を案じて下さったのですか。…………ん?おかしいですね…確かに、ガマズが言った通り…何時もならやった後に私たちから色々言われていますよね。まずやってしまう、それが望様です。調子が悪いんですか?」
「あ…………えと…」
(誤魔化すの下手過ぎだろ俺…。きっと言った方が良いんだよな。分かってるんけど……自分の口から言うのって、怖い……散々要らない能力だとか言ってた癖に…俺って奴は……)
「……出来ない…」
「え?」
「だから!……治癒……何か……出来ない」
空気が固まった気がした。あぁやってしまった、またしても。言ってはいけなかったんだ、と酷く落ち込む。
「ほら、影響を受けている」
樹がアッケラカンと言い放つ。
「望が寝ている間に私達もただ黙って待っていただけでは無いんだよ。色々想定して、最悪の事まで話し合っていたんだよ。きっと望自信が一番困惑している筈だから、大人の私達が年下の望の支えになるのは当たり前だろ?黒い靄がこんな部屋の中で視認されたんだ、あらゆる事を考えなくてはね」
「兄ちゃん……」
いつもの頼れる使い様の姿だ。
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