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少年のころ
《4》
里葉は武藤の秘書から色々と説明されたが、正直よく分からなかった。親の財産を里葉が成人するまで預かると言う話で決着した。生活で困ることがあれば何でも言って欲しい、我慢をして欲しくないと言われた。心配はとてもされていて、今までより学校が遠くなってしまったので車で送ってもらうことになった。
「おい、あれ森じゃね?」
「あ、本当だ」
「なんだあれ?車で学校来んのかよ」
「しかも超高そう。親いなくなったから孤児じゃねぇの?なんで金持ちになってんの?」
子供の感想とは直接的で悪意が悪意として認識されにくい。自分自身が中心の考えの子が多く、人の見える部分で全てを判断してしまう。里葉は小さく、目立つ性格でもなく、どちからというとからかいの対象だった。下に見ていた同級生がいきなり高級車で登校してきたのだ。
「おはよ、森くん。大丈夫?」
「凄い車で来てたね!どうしたの?」
「…おはよ……お世話になってる家が遠くなって」
女子という生き物は、中でも自分に自信のある子は時にズケズケと踏み込んでくる。
「え~!引っ越したんだぁ…そうだよねぇ」
「今はお金持ちのお家に住んでるの?」
「え……そう、なのかな……」
「すごーい!」
今までとの扱いの差に面食らってしまう里葉。
「おい、お前車で来るってずりぃよ!」
「しょうがなくね?こいつ今は哀しいんだろ?」
「あー可哀想な子だもんな」
唇を噛み締めて俯く、”辞めなさいよ男子”と出しゃばりの女の子が言い”そーよそーよ”など同調の声も聞こえる、周りの声が煩い。
(所詮、他人事だよな……こんなの)
里葉は周りの声を置き去りにし、歩みを進める。後ろでは里葉の話題から次の口喧嘩の題材に移行していた。今までもけして居心地が良い場所では無かったが、ますます居心地が悪くなる。学校が面倒臭くなってしまう。
(やだなぁ…この場所……)
授業中はまるで腫れ物に触るかのような担任の態度。担任はまだ若く、どう扱ったら良いか困惑しているようだった。あの養護教諭の温かさを求めてしまう。里葉に何も求めず、ただ穏やかな雰囲気で隣に座って居てくれた。お昼休みになったら保健室に行こうと心に決めた里葉だった。
昼休み、他の生徒は食べたあと外で遊ぶ者が多い。
「失礼します」
「あら?君は……どうかした?」
やはりほっとする雰囲気を持っている養護教諭だ。
「あの……僕……」
体調不良や怪我ではない、ただ先生に会いに来たと言っても良いものか躊躇する。
「入ってらっしゃい、お昼は食べた?」
「はい。食べたました」
「今日のハンバーグ美味しかったわね」
「え……はい。そうですね……」
「ほらここ、座って。森くんよね?」
「そうです」
「森くんは何が好き?給食で」
「え……えと……そう、ですね…揚げパンとか」
「あれは美味しいわよね~きな粉とかね。先生はフレンチトーストも好きだわ」
「はい、美味しいです」
そんなとりとめのない話をしていたら予鈴がなった。戻るのかとため息が漏れていた。
「森くんはどうする?5時間目」
「え?戻り…ます」
「そう、大丈夫?」
「え……」
「また、いつでもいらっしゃい。先生はここにいるからね」
「っ…………はい」
それから度々保健室に行くようになった。それは回数が増えて滞在時間も増えていった。
「森ってやっぱ狡くね?」
「あぁ……確かに…授業いないこと結構あるよな」
「あれだろ?心の病気。親死んだから」
教室の前にたまたま居合わせてしまった。すぐに立ち去れば良いのに足は動いてくれない。頭の片隅では分かっている、傍から見た自分の姿が。里葉は自分を幼少期から客観視できる子供だった。大多数の人が右にならえと、普通では無い者は異端と決めつける。異端は受け入れてもらえにくい。他者の想いや立場を汲み取れる小学生は少ない、特にここのクラスにはいない。攻撃することが一番楽だし安易な考えだ。
(だよな……)
分かっているが、耳に直接聞こえてしまうとショックだった。温もりを求めて何が悪い、車の送迎は無下に出来ない立場だ、里葉はそっとその場を離れいつもの保健室に向かった。
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