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プロローグ
《1》
しおりを挟む4月、入学シーズンに真新しい制服に身を包んだ新入生達は皆、どことなくこざっぱりとした容姿をしている
が、ここに一人見事なまでにボサボサ髪の新入生がいる多咲 緋縁(たさき ひより)だ。
軽やかな栗色の髪はサラリと風になびいて綺麗なのに目の下辺りまで伸び放題で大きめのマスクをしていて顔があまり見えない。
治りかけの風邪なのか時折コンコンと咳をしている。華奢で小柄な彼は身にまとっている制服が少し大きめだが、足取りはしっかりと武通学園(むつがくえん)の校門まで進めている。しかし、そのしっかりとした足取りに迷いが見え、ゆっくりとしたスピードになり、終いには止まってしまった。
アタフタと焦りが見えたかと思ったら近くの茂みに身を隠した。
「ど、どど…どうして!?」
思わず声が出てしまったという風に呟いた。
ぐしゃぐしゃっと髪をかきむしったかと思えばピタリと動きを止めて暫くそのままフリーズしてしまった。
(何で?何で?何で何で…ア、アイツがいるんだ!?…え?ちょっ…ちょっと待って…え…)
頭の中はすっかりパニックになっていた。
(マズイ…ヤバイ…どうしよう…あぁっ…
あ、そういえば…)
そして、急に鞄の中をあさり始め
(あ、あったあった)
取り出した眼鏡をスチャッとかけた。
(よし、これで行けるはず!顔を隠すには眼鏡に限る!ブルーライトカット用だけど…あの小さくたって頭脳は…な探偵も眼鏡してるし!大丈夫!…たぶん…平気なはずだ!…よし、い、行くぞ……考えたって今この状況からは逃げられない…行くからなっ)
自分自身に勇気を送り進みたがらない足に力をいれる。
そう、もうすぐ入学式が始まる、既に入寮も昨日済ませた、逃げられる道はない。
ここ、武通学園は中学・高校一貫教育の全寮制だ。繁華街からもそう遠くない場所にあり、先進的な方針で人気がある。生徒に自主性を持つことに重きを置き、学力も低くはない。そんなところに魅力を感じ、品のある学校だと知って、ここだ!と緋縁はこの学校に高校から進学を決めたのだ。第一にアイツがいないであろう学校に…その一心で決めたのに、有ろう事かそのアイツが校門に立っているではないか、心機一転、新しい門出に、アイツから逃げて忘れようと思っていた矢先に…
威圧的にズラッと並ぶ上級生であろう生徒たちの中にアイツはいる。
「新入生はこちらでーす」
と声かけしている人たちもいる、案内係だろう。そんな中、アイツは腕を胸の前で組み微動だにせずまるで睨んでいるように立っている、仁王立ちだ。
悔しいくらいにキリッと整った顔、高い背、長い脚、堂々たる雰囲気、そして印象的な漆黒の髪と瞳、人の上に立つのがさも当然かとにじみ出ている。
どうか他人の空似であってくれと願う緋縁であったが、悲しいかな間違いようなくアイツだ…
『あ、あれ会長様だっ』
『やった、ラッキー生徒会の皆様が並んで立ってらっしゃる~』
周りからザワリザワリと聞こえてくる声…
キャッキャッと黄色い声も聞こえてくる
(ん?ここって男子校…だよな…ん?会長様って??)
緋縁は俯き加減で早歩きをし、アイツからなるべく離れて前を通り過ぎ様としていたが、そんな声が聞こえてきて思わずチラリとアイツを見てしまう。
バチっと目があった気がした。
(ひっっっ!!!)
バッと目をそらし、地面を見る。
(お、落ち着けオレ…変な行動はするな…オレはその他大勢だ…目立っちゃダメだ…平常心、平常心…)
もう一度チラリと自然と目が向いてしまう。
やはりこっちを見ている、ジトッと音が聞こえてきそうな見方である。
(な、何でだよ…こっち見んなよ…バレたわけじゃないよな?)
そそくさと自分の教室へと急ぐ。
その時、仁王立ちの人物が
「髪の色が…似ている…」
と、呟いているとは緋縁は思いもしないのであった。
1年A組の教室へと入って行く。
寮室の割振りと同時にクラス分けも一緒に知らされていた。必死な受験勉強の成果により緋縁は、成績順のクラス分けでA組と比較的高いクラスになっていた。
トップのS組があり、次いでA組・B組・C組・D組と続いている。S組は少人数の上、容姿・家柄も考慮される別格なクラスである。その次点のA組なのだから優秀であろう。
(多咲…たさき…た、た…あ、あった)
五十音順の席を探して席に着く。
ホッと一息着く、緊張からやっと解放された気がする。想像もしていなかったアイツがいるなんて…元々目立たない様にしようとしていたけど、ますますひっそりと過ごさねば、と固く心に決めた緋縁だった。
教室に人が集まりだしている。緋縁はキョロリと目だけを動かして周りの様子を伺う。中等部からの持ち上がり組だろうか、既に楽しそうにワイワイと盛り上がっている。
(ヤバイ…これ、入れない雰囲気じゃん…
ど、どうしよう。でも、高等部からの人って居るはずだよな、俺みたいにボッチしてる奴はどこだ?)
人見知りの緋縁がそんな事を考えていると
「なぁなぁ、お前って外部入学?」
緋縁の机の前に人が立っていた。
ぱっと顔をあげて話しかけてきた人を見る。
「あ、え…うん…そ、そう高校から」
咄嗟に言葉が出てこないのは人見知り特有のことである。
(やばっせっかく話し掛けてくれたのに、上手く返せない…)
しかし、話しかけてきた生徒は気にする素振りも見せず
「だと思ったー見た事無いなぁ~って思ってさ、それ何?風邪?花粉?」
「あ、か、風邪!やっと治ってきたんだけど咳が出るしまだ喉が痛くって…」
ヘラリと笑ってみる
「でも良かったなー入学式に出れてさ、あ、俺は佐藤っての宜しくな」
「あ、俺は多咲、よ、よろしく…」
(きゅ、救世主じゃん!)
「外部からって頭良いのな~試験大変なんだろ?あ、あとさ朝の校門、ビックリしなかった?」
佐藤と名乗った生徒は息付く暇もなく喋り倒してきた。
「朝の…校門…」
一瞬にして、緋縁の頭はアイツの事でいっぱいになってしまった。
(え…校門ってあの…アイツのこと…?
い、いやいやあの事を知ってる人なんてここにいる訳ないし…お、落ち着けって俺…)
「あー…上級生?いっぱい並んでた…こぅズラっと威圧的な感じで?」
「そうそう、この学校てさ比較的新しくて色んなとこに顔きくから良いんだけどさ~ちょっと特殊でさ~って…知ってる?」
(え"…なにその情報…初耳なんですけど)
「あれ?マジで知らない?結構有名かと思ってたけど、やっぱ閉鎖的な感じ方なんだな~」
「え、ちょっと待って、何?普通の学校じゃないの?」
カラーンカラーン
小洒落た鐘の音が聞こえて時間を知らせてきた
「おーいそろそろ体育館に移動だぞー席順のまま並んで行けよー」
教師が廊下から各教室に声を掛けている
「移動だってさ、行こうか」
(ちょいちょい!何その中途半端な情報チラつかせた感じっ。モ、モヤモヤするじゃんかぁ
後さ…顔がきくってどこに?何その言い方、引っかかるんですけど…え?俺まさか間違えたの?学校選び…)
ショックを受けている緋縁を他所に新入生達はゾロゾロと移動を開始している。
そこはかとなくゾクリと来るものを感じながら緋縁も他の生徒に続く。
体育館に着くと椅子が用意されていて各々座る。タイミングよく放送が流れてきて
『これから入学式を開始します。生徒会の皆様宜しくお願いします』
(ん?
腕章をつけた生徒達がステージ前に並ぶ。
1人がマイクの前に立ち
「第6回入学式を執り行います。司会進行を務めます、生徒会副会長村上です。宜しくお願いします」
わーっと盛大な拍手が起きる。
ビクッと緋縁は面食らうが高校とはこういう物なのかと自分を納得させた。その時、
『生徒会、素敵ですー!』
『キイチ様~~』『きゃー』
(…は、はぁ!?
え、マジで!?これって本気でやってんの?
何かの余興とかでなく??)
マスクで見えないが、緋縁は思わず口を開けて、目を大きく見開いていた。
「静粛に、それでは開式のことば…」
続いて国歌・校歌斉唱、校長・来賓のことばが終わり…
「歓迎のことば、生徒会長、日高皇輝(ひだかこうき)宜しくお願いします」
ザワリザワリと会場全体が沸き立つ。
トン、トン、ゆったりとステージに上がる。
その姿はトップに君臨するそのままである。
壇上のマイクの前に立つとシンッと張り詰めた空気になった。
「ご入学おめでとうございます。これから…」
緋縁は固まった、言葉のままに固まった。
目線を動かせず、ピクリとも出来ず、息をも止めていた。
アイツが何か喋っている…しかし、頭に全然入ってこない。極限の緊張状態だと、人は呆然としてしまうらしい。
間違いようが無い、アイツだ…現実逃避を仕様にも目の前で堂々と話しているのだ。
緋縁は頭が真っ白になるという人生初体験をしていた。
(あ…あれ…何か苦しい…)
「っはぁ…ケホケホ…」
当然だ、息を止めていたからである。
涙目で俯く緋縁はそれから会長のことばが終わるまで顔を上げることが出来なかった。
じっと見つめられていたとは、知らずに…
(…何か気になる…あの髪の色がそうさせるのか?サキ、どこに行った?二度と離したくない…)
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