この気持ちに気づくまで

猫谷 一禾

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すべてのはじまり

《3》

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   そう、それは半年前まで遡る。まだ暑い夏の7日間の出来事。


   緋縁がまだ中学3年生の時、それは起こった。
両親が共働きで家に不在がちで、家に居るのもつまらない、少し遊びたい気持ちもあり、夜の街にちょくちょく出かけていた。

「ヨリー!来てたーえへへ」
「イチ~約束だったじゃーん」

ヨリと呼ばれのは緋縁。[ひより]のヨリ、イチと呼ばれのは唯一[ゆいち]のイチ。2人はよくゲームセンターで遊んでいた。唯一は好きなキャラクターを取る目的で来ていた。周りに同じ学校の人達がいて、バカにされるのが嫌だとフードを被り大きめのメガネをしていた。何やら今日からはアイテムが増えていて、金髪が覗いている。

「イチ、髪染めたの?受験前に?」
「違うよーこれウィッグ。絶対バレたくないから、こんなの僕のキャラじゃないからわざとしてみた。お姉ちゃんが貸してくれたんだ」

唯一は可愛い。大きな目と小さな口とスっと通った鼻筋、コロコロと変わる表情、柔らかそうな頬、明るい笑顔。緋縁は自分が守らねば、と思っていた。
唯一と緋縁はゲームセンターで出会い、同じような雰囲気で自然と友達になっていた。緋縁もフードを目深に被り周囲から顔を見えなくしていた。幼顔を晒すと良いカモにされかねない。黒いフードのコンビはよくこの界隈のゲームセンターで見かけられていて、本人達は知らなかったが、夜にたむろするようなグループには知られていた。顔を隠していようとも、チラリと除く肌や華奢だと分かる背格好、大きめのパーカーがより庇護欲を掻き立てていた。

「夜のゲームセンターは危ないからね、イチは一人で来たらダメだよ。俺と一緒じゃないとね」
「…ねぇヨリ…僕さぁ聞いちゃったんだよ…ヨリが喧嘩してたって…フードの子が喧嘩してたって!」
「え!?あー…あれはー…」
「ヨリ!ヨリだって十分気を付けないと!直ぐに変な人に声かけられるじゃん」

緋縁も透き通るような肌とアーモンド型の瞳、ふっくらした唇、可愛いというより綺麗な顔をしていた。緋縁は自分でもある程度は自覚をしていた。自分の容姿が人目を引くと、それは面倒臭い分類の人から絡まれたり、誘われたりした事があり経験上気を付けていた。しかし、その危機感は周りで見ているものからすると危ういもので、十分に理解しているとは思えなかった。

「なんか、お母さんみたいだなイチってば」
「ヨーリ~……もぅ……」
「たまたま、たまたまだったの、本当に、歩いてたら何故か喧嘩に巻き込まれて、痛いのヤダからちょっとだけ、ほんのちょっとだよ?自分の身を守るために…ちょっとだよ」
「さっき、あっちの方で話してた人達はね、ヨリが<ガード>ってチームに入ったって話してたよ」
「え!えぇ!?ウソー!入ってないよ!!」
「黒いフードのサキって言ってた…それってヨリのことでしょ!?」
「えー……た、確かにサキって名乗ったことは有るよ…でもチームには入ってないよ~喧嘩の後、入らない?って聞かれてチャント断ったよー俺ぇ」
「んー何でだろう?入って欲しくて噂流してるのかなぁ??…だから危ない事しちゃダメだよって言ってるのに…僕とここでキャラ取ってゲームしてるだけだったら変なことには余り巻き込まれないと思うけどな~ヨリくん」
「こ、怖いなぁイチくん…」
「ゲームの名前入れる時とかサキって入れてるもんねヨリは」
「んー本名が嫌な時とか、面倒臭い時とか入れちゃう、癖になってんのかなー」
「たさき、だからサキ?安直~じゃあ僕なら…河村<かわむら>だからムラだ!」
「いや、間をとってワム!それかムラムラ!」
「クリスマスソングじゃん…ユイのままでいいや…性別わからない方が安心するもん」

身元がバレるのを嫌う2人は、夜の街で遊んでいるのは普段の自分とは違う、と一線を引きたい思いでやっている。
何かトラブルに巻き込まれた時の対処法でもある。自分たちが子供で非力だと自覚しているからだ。

「でもね、ガートってチームの人達は話したけど怖くなかったよ、何か色んな特徴があるんだってさチームには」
「へぇ…入りたくないけどね、まぁちょっとカッコイイなぁって思う時はあるよね、歩いてるの見かけたりすると」
「有名な所だとガート、黒龍、ハク…位かなぁ…あんまり詳しくないしね」
「僕達の情報ってゲーセンでのチラホラ聞こえてくる話盗み聞きするくらいだもんね~」

唯一がアッケラカンと言う。

「俺、黒龍ってとこの総長見たことあるけど、めっちゃイケメンで覇者って感じでカッコよかったよ~」
「あぁヨリ、ダメだよ憧れちゃ!」
「違うって、憧れってか…もう少し男らしい顔が良かったなぁ…とか、もう少し背ぇが伸びたらなぁ…とか…でさ…」

(いや、だからそれが憧れちゃってるじゃん)

唯一は呆れ顔で緋縁を見ていたが、仕方な…とブツブツ呟くに留めておいたのだった。

 ひとしきり遊んでソロソロ帰ることにした。彼らはまだ中学生、しかも3年生ともなれば受験が目前である。9時頃になると本格的に危険度が増す、塾帰りの子達もいるこの時間帯にいつも帰るようにしていた。頻繁に会うことが少なくなって来た彼らは、多少テンションが上がっていた。

「んじゃあねーまた連絡するよ~」
「おーバイバーイ家に入るまで油断するなよ」
「ヨリはお父さんみたいじゃん…バイバイ」

唯一と別れて帰路につく。
少し前までは頻繁に会っていたイチと久しぶりにゆっくりと遊んで話して、満足した足取りの緋縁は鼻歌交じりで歩いていた。

「おい」

後ろからいきなり声を掛けられたかと思ったら肩を強い力で掴まれた。

「うっわ…びっくりした…な、何ですか…」

明らかに柄の悪そうな男達だった。

(うわぁ変なのに絡まれたかも…カツアゲとかだったらヤダなぁ…)

声をかけてきた男の後ろから背の高い男が姿を現す。

(あ、この人…黒龍の総長、コウだ…)

「コウさんが、お前に話あんだってさ、こっち来いよ」

緋縁の返事を待たずにグイグイと裏路地の方へ引っ張って連れて行かれる。

(うわぁ~ウソウソ…マジでマジで~ヤバくないか俺…フルボッコとかマジで勘弁なんだけどぉ~)

少し奥まった所まで来るとぱっと手を離される。

「お前が最近ガードに入ったサキか?」

落ち着いているが、絶対君主のような逆らえない、圧が強い声で問いかけてきた。

「あ、えと…お、俺がサキですが…」

(チームに入ってないって言わなきゃ!でもっ)

圧倒された緋縁は喉をギュッとしたみたいに声が上手く出てこなかった。

「ふーん近くで見るとちっこいな、面見せろ」

ピクリと肩が揺れるだけで身動きが取れない緋縁りに業を煮やした控えていた男がフードをばっと取った。そして、髪に手をやりグイッと掴まれ顔が上に向くように引っ張られた。

「いつっ…」

髪を引っ張られて痛む、しかしそれ以上に背の高い男に覗き込まれ髪を掴まれた状況が怖くてたまらない。
ガツっと前から覗き込んでくる男、コウが顎をとる。

「…この後の予定は?ガートのたまり場に行くのか?あ、お前手ぇ離せ」
「は、はい!」

ひゅっと髪を掴んでいた後ろの男の喉が鳴った気がした。さっと踵を返し、男は後ろに下がり距離をとる。

「サキって言ったな……どこに行く予定とか関係ねぇ…俺と来い」

(ぎぃやぁぁぁ~~~!ま、まま、マジでぇ?)

「や、あの…か、かえ…」
「来るよな?つかどこにも行かせねぇけど」

(マズイ、これはマズイ…何故か分からないけど、きっと死ぬ、俺殺られる。逃げなきゃ)

バッと後ろを振り返り、後先考えずにとにかく走ろうとする、が、前に進まない。

「いい度胸してるな、いいねぇ。…逃がさねぇよ」

コウの手が緋縁の腕を掴んでいた。パニックになっていたらしい、掴まれている感覚が無かった。

「ひっ…ヤ、ヤダ…か、かえ…」

緋縁は正に半泣きで目に涙が浮かび上がってきていた。

「何?俺が怖い?そんな怖いのに逃げようとした訳?……っふ…可愛いな…その泣きそうな顔ゾクゾクする…」

緋縁は思考が停止している。さっきまで動いていた足も今は地面に縫い付けられたかのように動かない。蛇に睨まれたカエル状態である。人生で最大のピンチを迎えているが一向に腕を振り払えないでいた。

「ちょっと面倒臭い、悪いな」

ちっとも悪いと思っていなさそうな声が聞こえたら、またもやグイッと引っ張られて首に腕が巻きついてきた。何かと思いアタフタしている間にグッ締められ、意識が遠のくのが分かる。

(あ、これ落とされる…ヤバい……どう、なっちゃう…ん…だ…ろ……)

そのまま緋縁は暗闇に落ちた。首に腕を巻き付けていたコウは上機嫌でニヤリとした…。

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