15 / 62
緊張のまいにち
《15》
しおりを挟む寮に帰って来た緋縁、ふぅと一息ついて荷物を置く。一瞬止まった後、頭を掻きむしり膝から崩れ落ちベットに上半身だけをダイブさせる。ベットに顔を押し付けて唸る。
「ううう"う"ぅぅ~~~」
(有り得ない……有り得ない!…あーりーえーなーいぃ~~~!…何でだ?何でなんだ!?なんでっ!…くそ~~アイツの執着半端なくない?いや、待て、まだ噂だ。まだ俺の事探してるかどうかは分からない…落ち着け、その他大勢だ…接点なんかない、会うはずもない!)
緋縁は無理矢理自分を落ち着かせ、私服に着替えて学食に向かうことにした。昨日整理したクローゼットを開ける、一番端っこにある服を見る。黒いパーカーだ。そう、あのコウのパーカーだ。逃げ出した時少しでも人目を避けたくて拝借した物だ。袖を通し、外に出てフードを被ってから失敗したと思ったのだ。まるでコウに抱きしめられているかのようにコウの香りで胸がいっぱいになってしまった。家に置きっぱなしにも出来ず、何故か手元に置いておきたい衝動にかられ、持ってきてしまった。
ふいっと視線を逸らす。明る目のパーカーとジーパンというラフな格好に着替える。クローゼットの扉を閉める時スと、目線は黒いパーカーを見詰めてしまう。あのコウの部屋から逃げてきて以来癖になっている習慣だ。本人も気付いているか甚だ微妙な所だか、コウという存在は確かに緋縁の中に息づいてしまっていた。
腹を空かせた新しい友人が待っている食堂に向かう為部屋を出る。
「いや~今日は何を食べようかな~」
佐藤は楽しそうにお昼への期待を膨らます。
「多咲は昨日から寮に入ってるんだよな?じゃあもう使い方大丈夫?」
井上が親切に聞いてくれる。
「あ、うん、なんとか…昨日はキョロキョロしちゃって……まだ慣れないけどね」
この寮の食堂はカフェテリア方式で、最初にトレーを持って好きなメニューの皿を取っていく。定額の料金を払っているので指定された数までなら好きに取れる。不正をしないように職員が目を光らせている。もちろん+αで料金を払って指定の数以上食べることも可能だ。デザート類は数に含まれていないので甘党の緋縁は悩みどころだ。
「高等部の学食も似た感じなの?」
「あーどうだろう…俺らもまだ行ってないんだよね、中等部と校舎違うからさぁ~」
「あ、そっか、そうだよね」
「でも大した説明ないから似たりよったりだろ」
井上のクールな返事が帰ってくる。
昨日食べて知っているが、ここの食事は美味しい、世間一般的な学食のメニューもあるが授業の鐘の音同様、どこか小洒落ているメニューもある。数さえ守れば色んな味を試せるのだ。しかし、別途料金が発生する場合がもう一つある。大盛りとステーキだ、高校生の分際で学食にステーキとは昨日初めて見た緋縁は思わず二度見してしまった。別料金の色分けに置かれた皿はとても手が出なかった。しかも注文を受けてからその場で焼いてくれるのだ、焼き加減まで指定できる。
今日の佐藤の説明で何となく腑に落ちたステーキ皿。見えない階級が確かにあるのだと思った。
「おっれっは~今日は…うどん!」
えらく楽しそうにメニューを決める佐藤。
「佐藤って人生楽しそうだよね…」
底抜けの明るさは今の緋縁にとって羨ましく思えた。
「え、うん。確かに…でもあれは、バカなんじゃないか?」
井上は何処までもクールだった。
各々食事を選び席に着く、佐藤と井上が横に並び佐藤の前に緋縁が座る。緋縁はドリアを選んでいた。
(パンも好きだから悩んだけど、今はチーズが食べたい。お腹は空いてるけどあんまり入ってくれそうもないな…はぁ…)
「多咲それだけ?足りる??」
佐藤は自分のトレーと見比べる。
「うん、まだ本調子じゃないのかも…いっぱい情報詰め込んで胸焼けしそうだし」
マスクを外しながら答える。頭の中はコウ一色で見つかるんじゃないかと不安からとてもじゃないが食欲は湧かなかった。見つかる不安と捕まったら半殺しくらいされるのでないか、といった恐怖があるので食欲はあるはずが無かった。
「多咲くんは佐藤と違って繊細なんだよ」
「俺ふぁって…ずずっ…ハートは…ずずずっ」
「食べるか喋るかどっちかにしろっ汚いなぁ」
うどんをすすりながらも喋る佐藤に更に冷めた視線を送る井上。スポーツ爽やかイケメンはただの体育会系の男子高校生だと心底理解している井上ならではの視線だった。
「ん"ん…俺だってね、ハートはブレイクなのよ」
「は?もう壊れてんの?ガラスのハートって言いたいのか?」
「あ、そんな感じ」
「今の会話でまったく繊細さを感じられんが」
「細かいこと言うなよ~取り敢えず、俺のハートも傷付きやすいから気をつけてね」
「やっぱりバカだ」
「…ぷっ……アハハ…コントみたいっ…ハハッ」
緋縁の目の前で始まった佐藤と井上の気のおけないやり取りを見て、思わず吹き出してしまった。先程まで不安と恐怖に意識を引きずられそうになっていた緋縁だが、一気に高校生活が楽しみになってきていた。
(気分が上がる…俺って単純だなぁ)
「いやいや、笑い事じゃないからね、多咲」
「ふふ…うんうん二人が仲いいのは分かったよ」
「多咲くん…ニュアンスが…受け入れ難いな」
そんな三人のほのぼのランチタイムが過ぎて行こうかという時、食堂が俄にざわめき出す。
12
あなたにおすすめの小説
天啓によると殿下の婚約者ではなくなります
ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。
フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。
●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。
性表現は一切出てきません。
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
※第33話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
大嫌いなこの世界で
十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。
豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。
昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、
母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。
そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる