Reborn(君のおかげ)

かずき

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at 3a.m.

憂鬱な夜明け

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気付いたら俺たちはファミレスにいた。
さっきのことはあまり覚えていないが、俺が提案したんだっけ?
 馬鹿馬鹿しい。なんで自殺を止められたりビンタされたり好き勝手された上に俺が気を使ってファミレスに行こうなんて提案しなきゃならなかったんだ。でも今思えば仕方なかった。あんな不気味で沈黙が続く状況から逃れられるんならこんなブス女と意味もなくファミレスに来る方がまだマシだった。
 『カットオフ』はS大学の近くにある安くてまずいで有名なチープなファミレスだった。客層の治安は悪く、深夜3時にこんなところに集まる奴らなんてのはろくでもない奴らばっかりだった。髪をオレンジやら緑に染めている不良や、やくざのようなやつら。
 さっきまで自殺しようとしていた俺ですらこの中ではまともに見えるだろう。

 俺は水を一口飲んで女の方を見た。相変わらずブスだった。油っぽくバーコードみたいな前髪に老眼鏡みたいなダサい眼鏡、その奥には醜い一重の目がある。鼻は低く豚の鼻のようで、口も厚くてお世辞にも女の唇のようには見えない。
 女はコーヒーを飲みながらぼーっと俺から目を逸らし続けていた。 
 辛い…
 もう限界だ…

 トイレに行くと嘘をつきそのまま店を出た。
 もう一度S大学に向かう。

 奇声のような音が後ろからしたが振り返らずにダッシュした。あの女マジで…やばいぞ。

 『英加』
 すぐ近くで俺の名前を呼ぶ声がして思わず振り向く。
 高校の時の同級生の女の子が呆気にとられていた。
 その女の子の顔は見たことがあるが名前がどうしても思い出せず、『おう、久々』と応えた。
 『ねえ、あの女の人、英加のこと呼んでるんじゃない?』
 咄嗟に振り向く。女が走って向かってきている。
 『やっべぇ。』
 全力でダッシュして逃げる。

 しかし、数秒のうちに追いつかれて腕を掴まれた。俺も女も走るのなんて久々だったのだろう。お互い息が上がってヘトヘトだった。
 しかも女の息は臭かった。まるで生ゴミだ…

 『悪かった。自殺を止めて…ほんと…だから…ちょっと…』
 女の声を初めて聞いた。なにやら俺に伝えたいのだろうが息が上がってお互いそれどころじゃない。

 同級生の女の子が近づいて来た。
 『ねえ、二人とも一回落ち着いたら?』

 最悪だった。こんなブス女と揉めてるところを元クラスメイトに見られるなんて。
 
 でも彼女の言う通りで、数分間俺たちは落ち着くためひたすら呼吸が落ち着くのを待っていた。
 
 夜が明けてきた。迎えるはずのない朝がやってくる。
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