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5日目 鬼滅の刃のコンセプトカフェのデザイナー 前編

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こんこんと雪が降るホワイトクリスマスの午後2時。

ヤンさん 男性 年齢不詳 20代後半~30代前半
中国天津在住 デザイナー

ヤンさんの第一印象
長髪で中性的な雰囲気 声はすごく若いというか、学生の様な感じ

パソコンの調子が悪くて5分レッスン開始時間が遅れる...

「ヤンさん、こんにちは」

「こんにちは」

「遅くなってすみません。パソコンの調子が悪くて...」

「いえいえ、大丈夫です」

「講師のエリと申します。宜しくお願いします」

「はい。宜しくお願いします。あ、自己紹介します」

「はい、よろしくお願いします」

「ヤンと申します。中国天津出身です。そして、大学はアメリカのニューヨークの大学を卒業しました。専攻はクラシックデザインでした。だから...芸術関係の学科です。僕は少年時代から日本の文化やアニメなどに親しんできました。それで日本が大好きです。中学生の頃から日本に旅行に行くようになり、それと同時に日本語の勉強を始めました」

「中学生の時から日本語を勉強してるんですね~」

「はい。それと去年、京都の総合芸術大学に交換留学をしました」

「へー、そうなんですね」

「はい。そして今は大学を卒業して就活をしています」

「あ、今は就職活動してるんですね」

「そうです」

「なるほど。わかりました。じゃあ次私が簡単に自己紹介しますね」

「はい、お願いします」

「〇〇(会社名)で日本語講師をしているエリです。日本語を教えて半年目です。私は大学では日本文学を専攻していました。宜しくお願いします」

「はい。宜しくお願いします」

「ヤンさんはニューヨークでデザインを学んだんですね。昔からデザインに興味があったんですか?」

「そうですね。僕は小さい時から絵を描くのが好きでした。しかし、中学生になり、周りと比べて自分に絵を描く才能がない事に気付きました...。しかし、それでもどうしてもデザインを学びたくて、それに将来絵を描く仕事がしたいと思い、大学でデザインを学んでいました」

なんだか熱いな。私にはこんなにも熱中できるものなんてなかったからすごく羨ましい。でも何かに向かって全力で努力するのって楽しいだけじゃなくてすごく大変な事なんだ。

「素敵ですね。そういうものがあって」

「いえいえ」

「私は絵を見たり、漫画を読んだりするのは好きですが、自分で描いてみたことはないです」

「あー、そうですか」

「ヤンさんは具体的にどのような絵を描くのが好きですか?」

「最も興味があるのが、ブランドのロゴのデザインです。厳密に言うと、ロゴだけではなく、ブランディングをする上で必要なさまざまなデザインに興味を持っています」

「そうなんですね。それは商品やパッケージのデザインなども含めるんですか?」

「はい、そうです」

「そっかあ、でもそれって凄いことですよね。ブランドのロゴとかってすごく重要で、企業がずっと使っていくシンボルですものね。それをデザインするのって凄くやりがいがありそうですね」

「そうですね。しかし、有名な会社のロゴをデザインする場合は、長年腕を磨いて有名にならないとなかなか難しいです」

「そうでしょうね~」

「デザイナーはスタジオや会社に属して、クライアントの会社から依頼を受けて仕事をしていく感じです」

「そうですよね。依頼や受注を受ける形が一般的ですよね」

「はい」

「ヤンさんはニューヨークにはどれくらいの期間留学していたのですか?」

「大学の4年間です。しかし、半年間は交換留学で京都に行きました」

「なるほど。ニューヨークの大学の在学中に京都に交換留学したんですね」

「そうです」

「えー、凄いですねそれ笑 留学先からまた異国に留学するわけですもんね笑」

笑っているヤンさん。

「はい笑 なんだか変ですよね」

「いえいえ、変ではないですよ。ただ私が少しこんがらがっただけです笑」

「でも、ヤンさんはデザインにしても、日本語学習にしても、自分のやりたいことできているから良いなぁ、と思ってしまいます笑」

「ありがとうございます笑」

「じゃあ、ヤンさんは母国の中国から最初にアメリカに行って、その後日本でも生活してみてどうでしたか?なんていうか、異国の印象というか、思い出というか。どちらの国も中国とは全然違いますか?文化とか暮らしとか」

「はい。やはり凄く違います。中国と日本に関しては、地理的に距離も近いので、似ている点、文化が多いです。しかし、アメリカと比べたら違う点が多いですね。特に考え方ですね。しかし、僕が1番好きな国はやはり日本ですね」

「えー、そうなんですか」

「はい。日本文化では、人と人の間でリスペクト(尊敬)がある。それが素敵です」

「人を敬い、礼儀を持って接するような感じですね」

「はい」

「うーん、確かにそうかもしれないですね」

「はい、日本って...あの、僕は確かに中国人でアメリカ、他にもいくつかの国に行った事があり、多文化の中で生活してきましたが、やはり、人と人の"距離感"というか、接し方が心地いい、と感じたのは日本でしたね」

「なるほど...それは面白いですね。人との距離感がヤンさんにとって丁度いいんですね」

「はい、そういう感じです」

「なるほど。でも、ヤンさんみたく日本人の人と人との距離感とか、接し方が丁度良い、或いは心地いいと感じる人がいる一方で、外国人、日本人問わずその距離感が詰めづらい、とか日本人の態度は冷たい、とか感じている人がいるのも事実です。そこらへんはどう思いますか?」

「そうですね。少なからず日本に対してそのような印象を抱いている人がいるのも事実ですよね」

「うーん...」

「それでも私にとって日本の文化は心地よくて、日本の文化が好きだし、日本の人々とのコミュニケーションは楽しいです」

日本人の接し方、と言っても十人十色だが、ヤンさんのようにそれが心地よく感じる人がいるように、日本人は外国人に対して冷たい、とか距離感をとるのが難しいと感じる人がいるのも事実だ。基本的に、日本語を学ぶために私の授業を受けてくれる外国人生徒達は親日な場合が殆どだが、日本文化に溶け込めずに悩んでしまう人の例も数多く見てきた。

「そうですか。ちなみにヤンさんは日本のどんなところが好きなんですか?先ほどアニメが好き、というのは言っていましたが、食べ物や場所などで印象に残っているものなどはあるんですか?」

ヤンさんとの会話は興味深いものが多くて、思わず色々と質問してしまう。

「はい。やはり子供の時はアニメを見ていたので、私にとって日本の印象はアニメから得ることが多かったのですが、小学校を卒業して初めて日本に行った時に見た日本の自然や景観などに心を奪われました」

「なるほど」

「はい。あとは日本の人は些細な事にも細部まで気を配りますよね。建物や製品など。そしてそれは人と人とのコミュニケーションにも同じ事が言えます...うまく言えませんが」

「ヤンさんが言いたいことはわかりますよ。細かいところまで拘ってものづくりする、という事ですね。あとはコミュニケーションにおいても相手の気持ちや心情を察する、というか、気遣いながらコミュニケーションをとる傾向がある、という感じですかね?」

「はい、そんな感じです。それが、私が1番日本が好きな理由です」

「そうなんですか。確かに外国文化と比べたらそのような魅力が見えてくるものなのかもしれませんね」

「あと、最近特にお気に入りなのは、日本の田舎の風景です」

「田舎...ですか」

「はい。僕は何度か日本に旅行しに行く中で、最初は東京や大阪などの大都市にしか行った事がありませんでした。しかし、3年前からですね...九州北部に旅行に行きました。その時に、ほかの大都市では味わえない田舎の魅力に気づいたんです。なんて言うか、日本の田舎の雰囲気はほかの国とは全く違うんです」

「そうなんですね。具体的にはどのように違うんですか?」

「ほかの国、例えば中国やアメリカで田舎といえば畑ばっかりで生活も不便、というイメージが強いですよね。そして、風景も殺風景なものが多いです。しかし日本の田舎は綺麗な風景がいっぱいある。それにゆったりとした生活ではあるけど便利で、何不自由なく暮らせると感じました」

「なるほど。確かにそうかもしれませんね。都市部と田舎の格差が激しい中国などの外国が多いのに比べて、日本では基本的にはどこでもインフラが整っていて、田舎に住んでいてもある程度は便利な生活ができるというのは事実かもしれません」

「そうですね。そして神社とか、お寺とかが多いです。そういう場所に訪れるのも好きです」

「いいですね」

ヤンさんとの話はとても興味深くてあっという間に25分が過ぎてしまった。

レッスンの終わりの時間。

「ヤンさん、せっかく話が盛り上がっていたところですが、今日はもう時間なので終わりましょうか」

「あ、はい。時間を忘れて話してしまいました笑」

「大丈夫ですよ。また、お話ししましょう笑」

「はい、また予約するので宜しくお願いします」

「はーい、じゃあまたお話し聞かせてください」

ヤンさんと話した感想
デザイナーを目指していて、自分の好きな事に一生懸命なヤンさん。日本愛にも満ちていて、ヤンさんと話していると自国の日本について色々と気付かされることがあった。

後日のレッスンで、デザイナーを目指して就活をしているヤンさんから驚きの知らせを聞かされることになるとは、この時の私には思いもよらなかった。





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