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三
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日に日に家にいる時間は増えていった。俺自身としては人魚からできる限り目を離したくないと思っていたので、それこそ大学の用事か、食料の補給くらいしか外に出ることもなくなった。幸か不幸か大学が夏休みに入ったのもあって、かなり長い間、彼女の傍にいられた。
とはいえ、新鮮な魚を求める人魚に応えるべく、一日一回外に出なくてはならないのは変わらない。
今日もまた、渋々といった調子で、明るい陽の下で自転車を走らせていた。工業高校の隣にある下宿からまっすぐ走りだし、飛び出た大通りを左折して直進する。その後、俺を足止めした赤信号が青になるのを待ってから渡る。
対岸に行きついてすぐに、大型スーパーの駐車場前に辿り着く。その出入り口から中へと入り、行き来する車を避けていくと、店の脇にある自転車とバイクがぽつぽつと止めてある駐輪場にいたった。自転車の鍵を閉めると、ポケットに財布が入っているのを確認して歩き出す。
自動ドアを潜ると、体中をクーラーの冷気が覆った。ここ最近、彼女が冷房を嫌がるせいで、いつの間にか、この纏わりつく空気に嫌なものを感じるようになっていた。こうしている間も、家で待っている人魚がお腹を空かせているかもしれない。比較的小食の彼女がそんな風になっているのは少しだけ想像しにくかったものの、早く帰りたいという気持ちが優先され足が動いた。
野菜コーナーと乳製品のコーナーを抜けて、魚介類のコーナーに辿り着く。自分の飯に対するこだわりというものはすっかり消え去っていたものの、彼女の口にするものに関しては、まだまだ研究しなければならなかった。鰯、鰺、鯛、虹鱒などを買ってきては与えたものの、暗がりの中で僅かに光が当たった彼女の顔は、いつも変わりなかった。それでも個人的には十分満足だったものの、別の表情を見てみたいという純粋な興味が湧き起こっていた。そして、その時はできれば笑っていて欲しいとも。
今日はどんな魚がいいか。海魚も川魚も試したし、白身も赤身も青身も試した。じゃあ、そろそろ切り身を試してみる必要があるのか。そんな取り留めのない考えを思い浮かべながら眉に皺を寄せた。
あらあら、真田くんじゃない。
聞き覚えのある声に苗字を呼ばれて振り向くと、そこには少し太めの中年の女性が立っていた。その手元には野菜と肉類がぎっしり詰め込まれた黒いプラスチックの買い物籠がある。
どうも、こんにちは、大家さん。随分、大荷物ですね。
頭を下げながら、これから足止めされることを考え、少しだけ煩わしく思う。
そういう真田君は、随分と荷物が少ないじゃない。だから、そんなにひょろひょろなのよ。
大家さんは口元に手を当てて、何がおかしいのか騒がしい笑い声をあげる。それを耳にしながら、さっさと魚を選んでおけばよかったと後悔した。その間も、おばさんの口は絶えず動いていたので、俺は何度もしきりに首を動かし、曖昧な返事でお茶を濁す。心の中には、早く話が終わって欲しいという気持ちが溢れていた。
そうだ。そういえば、真田君。
今、思い出した、とでもいうように目を瞬かせながら、おばさんは大きな顔を近付けてくる。途端に鼻に飛び込んできた加齢臭に眉を顰めた。大家さんは俺の耳に口元を寄せる。
若いのはいいけど、ほどほどにしなさいよ。
何を言われているのかわからずに呆けていると、大家のおばさんはくすくすと笑いながら、やだわぁ、と更に詰め寄ってくる。その際、生暖かい唾が顔に当たって不快だった。
女の子のことよ、女の子。随分、綺麗な娘じゃない。どこで、捕まえたの、あんな娘。
おばさんの言葉でようやく、ああ、そういうことかと合点がいく。元々、カーテンを開けっぱなしにしている以上、遅かれ早かれそうなるだろうな、とは思っていた。本音としては分厚い遮光カーテンを引いて俺だけしか人魚を見られない状態にしたかったものの、日の光と月明かりを愛する彼女が布きれを嫌がって以来、仕方なしに常に開け放っていた。
彼女が人に見られていることを知り、思わず渋い顔をしそうになったものの、なんとか堪えようと顔面に力を入れる。
さすがにいつ見ても女の子が素っ裸っていうのは、おばさんとしても、風紀の乱れを感じざるを得ないわけよ。せめて、窓際では服くらい着せてあげたらどうなのかしら。
ひそひそ話しているつもりなのだろうが、公衆の面前では口にできない内容に近付くにつれて声のボリュームが大きくなっていくのと、自業自得とはいえ頻繁に部屋内を覗き込まれていたことに対する不快感で、血管の一部が切れそうな気持ちになる。おばさんが一人で楽しそうにしている間に、なんとか心を落ち着けようと一つ息を吐いてから、後ろに下がった。
色々と参考になるご意見、ありがとうございました。彼女にも言い聞かせておきます。本当にありがとうございました。
作り笑顔を浮かべてから大きく頭を下げる。そのままたっぷり数秒静止した後、頭を上げてから、それでは、と一言告げてから踵を返した。何やら後ろから呼び声が聞こえてきた気がしたが、無視して足を急がせる。
唇の端を噛みしめながら、手持ちの半袖のTシャツを彼女に着せようとした時のことを思い出す。人魚は自分の肌の上に何かがある状態をえらく嫌がり、むずがるように体全体を揺らして抵抗した。それから、事あるごとに試してみるものの、何度試しても結果は同じで、終いには俺が服を掴むのを見ただけで、距離を取るようになっていた。
とはいえ、いつまでもこのままでは、警察が家にやってくるかもしれないし、家の前に変質者が張り付いたりする事態もできれば避けたい。
何も買わずにカゴを戻して自動ドアを潜る。そろそろ彼女が違和感なしに着られる服と、日光と月明かりを通し尚且つ外から覗かれない工夫を探そうと決めて、自転車に跨った。
特にあてもなく雑貨屋や服飾店などを彷徨ったものの、人魚にちょうどいい服は見つからず途方に暮れた。暗くなるまで時間を潰した後に、気が付けば一本の緑色のポールの上に乗った灯りに照らされた細道に出ていた。油蝉の鳴き声を聞きながら、既視感を覚える。ついこの前、ここを通った気がした。
それがいつだったか考えている最中、緑色の電灯の下に誰かが座っているのをみつける。麦わら帽子に、ランニング、それに青い半ズボン、それに目の前にある大量の金魚が泳ぐ水槽。
誰かと思えばこの前の兄ちゃんじゃねぇか。
灯りの下にいるそいつが顔を上げ、黄ばんだ並びの悪い歯を見せつけた。その濁った声音を耳にして、相手が誰だったかを思い出す。この前、俺に人魚をくれた男だった。ここにいたってようやく酔っぱらった時に通った道だと思い当たる。
なんだい。汗だくになって目を真ん丸にしちまって。そんなに俺がここにいるのが意外かい。
口元に人の悪い笑みを浮かべ、楽しそうにこっちを見る男に、何とも言えない気持ちを抱く。ばつが悪くなり目を逸らすと、この前と同じように水槽と脇に付いたポンプが見えた。中には何百匹かの金魚が泳ぎ回っていて、心なしかこの前より弱っているようだった。これなら、前回よりも簡単に水槽を空にできるな。ぼんやりとそう思った。
なんだ、なんだ。兄ちゃん、まさかまた、金魚を全攻略しようとしてたりするのか。
上擦った声を聞いて向き直ると、男の不敵な笑みは鳴りを潜め、目を大きく揺らし、こめかみの辺りから脂汗を流している。そう言えば、人魚を手に入れられたのは、金魚をいっぱい掬ったからなんだよな。その後、ずっと彼女にかかりきりになっていたから、そんなどうでもいいことは忘れかけていた。
いやいや、別にそんな気、ちっともないから。そもそも、家にそんな数の金魚を飼える場所なんてないから。
なら、なんで兄ちゃんは、この前はあんなに金魚を掬ったんだ。どうせ、置き場所なんてなかったんだろう。
俺の言葉に男は我を忘れたみたいに詰め寄ってくる。加齢臭とそれに合わさった汗臭さが鼻についた。できるだけ早く離れて欲しくて、口を開く。
いや、何も考えてなかった。なんていうか、ポイを渡されたから、その場のノリで手を動かしたというか。全部取ろうって思ったのも、山があったから登ったみたいな感じで。
俺の台詞を聞いた男は膝を落としてがっくりと項垂れたまま、しばらく動かなくなる。さすがに哀れになり、何か言おうと考えたが、何を口にしても憐みにしかならないことに気付き、些細な言葉一つも捻り出せない。仕方なしに、薄ぼんやりとした光の下にいる男の姿を見守る。心の中には、一刻も早く日光と月明かりが室内にしっかりと入ってくるカーテンと人魚が嫌がらずに袖を通す衣服を発見し、さっさと彼女の横に戻りたいという欲求が絶えずあったものの、さすがにこの男を放置するのはいけないと感じた。
男は動かずに、電灯に寄りかかっている。俺もその場で中腰に座り込んで、金魚と彼の姿を見守る。電灯の真上辺りから蝉のジリジリという鳴き声が響く中、虫刺されのせいか腕と首の節々に痒みを感じはじめる。半日、町を彷徨い汗臭くなった身体は、蚊にとっては恰好の餌だろうと漠然と思いつつ、頭がぼぅっとしてくるのがわかる。そういえば、買い物に出てから水分補給をしていなかったな。足にもかなり疲れが溜まっている。ただただ怠かったが、惰性で視線だけは外さない。
やがて、根負けしたのかそれともただ単純に首が痛くなったのか、男はゆっくりと顔を上げた。
なんだよ。まだ、なんかあるのか。それとももっと、俺を貶めたいのか。扱き下ろしたいのか。その上で笑いたいのかよ。そうかよ、けっ。
不機嫌そうなじと目で、男は警戒心を露わにしていた。
そんなわけないだろ。元々、騙すつもりなんてちっともなかったんだよ。
心の中で、気付かないみたいだから黙っていただけだ、と小さく付け加えつつも、口では男を励ます言葉を継いでいく。
兄ちゃんみたいな素人にコケにされるんだ。俺にこういう商売は向いてないかもしんないな。かといって、他にしっくりと来る職もない。だったら、いっそ、商売から足を洗うだけじゃなくじんせ
いやいや。早まるな早まるな。大丈夫だからさ。
男の後ろ向きな思考を少しでも励まそうと、俺は、金魚の元気さやポイの強さや種類、客引きする場合の相手の選び方、それに何匹すくっても一定数の金魚しか渡さないシステムの話などの、この前から頭の片隅にあった案を今この場で思い付いたように口にし、まだまだ人生捨てたもんじゃないというアピールしていった。
なるほど、そうすればぼろ儲けかもしんねぇな。やるな、兄ちゃん。おかげで人生に希望の火が点った気がするぜ。
説得の末、男はしきりに頷きながら、黄色い歯を剥き出しにて陽気に笑ってみせた。俺はその汚さを不快に感じつつも、わずかばかりの安堵を覚える。そうすると、浮かび上がってきたのは人魚の着るものの問題であり、まだ何も解決していないのを認識し、自然と気分が沈み込む。
そういや、兄ちゃん。さっきから気になってたんだが、もしかしてなんか悩みがあるのか。
怪訝そうに目を瞬かせる男は、すっかり落ち着きを取り戻したらしく、ぶしつけに俺の顔を覗き込んだ。ついさっきまでうじうじしていたくせして、そんな余裕があったのだろうか。そんなことを思いつつも、口を開く。
実は人魚について、いくつか困っていることがあってな。
ああ、あの金魚か。まぁ、ウチでも一番気難しいやつだったしな、あいつは。我儘で困るだろ。
それを聞いて、厄介払いだったのだろうか、と疑いつつ、そうでなければ彼女との出会いはなかったかもしれないと考えると責めることもできず、複雑な気持ちになる。だが、逆に言えば人魚についてこの男ほど頼りになる人間もいないのではないのかと思い当たった。
服を着るのとカーテンを嫌がるんだ。せめて、片方解決できればいいんだけど、今んとこいい策がなくてさ。
そこまで聞いて男は、可笑しそうな声を漏らし、腹を押さえる。
なんだい、兄ちゃん。随分些細なことで悩んでやがるんだな。まぁ、兄ちゃんにとっちゃ笑いごとじゃないのかもしれないが。
薄ぼんやりとした照明に当たる身体を震わせながら、表情を崩さない男は、既に解決策を心得ているようだった。
おっさんは知ってるのか。
まぁまぁ、落ち着けよ、兄ちゃん。
男はそう言ってからもったいぶるように人差し指を振った後、上を向けたまま動作を止めた。
ここからは商談っていうことで頼むぜ。なぁ。
口元を歪めながら、鋭い瞳で睨みつけてくる男からは、先程まであったどこかとぼけた雰囲気が消え去っていた。自然と握り込んだ拳が汗ばんでいくのがわかった。法外な値段を吹っかけられるかもしれない。それは今の貯金はおろか、臓器を売ったりしなくてはならないくらいかもしれない。そう思うと、体中が強張っていく。
瞬間、頭の中に浮かんだのは、水槽の中でゆらゆらと浮かぶ人魚の姿。意志でも持っているみたいに波打つ髪の毛、触っただけで折れてしまいそうな細い肩、触れると面白いように沈み込んでいく二つの大きな膨らみ、宝石のように煌めく鱗、二つに分かれた鋭い尾鰭。なによりも、あの綺麗なガラス玉のような眼。
浮かび上がってきた映像は俺の内にあった渇きのような感覚を思い出させる。
そうだ。そもそも、彼女とともにいられないなどということに耐えられるわけがなかった。ならば、俺に選択の余地など最初からあるはずもなく。
ああ、なんでもする。だから、助けてくれ。
告げるとともに頭を下げる。もっとやりようがあったんじゃないかという考えが過ぎったものの、今はなによりも、他の誰にも邪魔されない彼女との世界が欲しいという想いが全てに勝った。
男の目が怪しく光ったように見えた。やつは愉しげな笑みを浮かべつつこちらを値踏みするように見ていたが、やがて麦わら帽子のつばに手をかけて、深く被り直した。
その言葉、本当だな。
迷いがないといえば嘘になるが、それでも力強く頷いてみせる。願わくば、できるだけ早く家に帰れるようにと祈りながら。
男は濁った声を漏らしながら、先程から立てていた人差し指に中指、更に薬指を足していく。おそらく、対価についてなのだろう。おそらく、三ということだろうが、果たしてそれが何倍に膨れ上がるのか。貯金では足りないだろう覚悟しつつ、男の唇が開くのを待つ。
とりあえず、野口さん、三枚ってとこでどうだ。
最初、それを聞いた時、空耳かと思った。俺の顔を、不満だと勘違いしたのか、男の眉が吊り上る。
なんだい、兄ちゃん。さっき大見得切ったばっかりだっていうのに、払えないっていうのか。そうだとしたら、随分と安っぽい、何でもする、だな。
いや、値段に文句なんてないけど。
大見得切ったからこそ、それだけなのに驚いたんだよ。そう口にしようとしたものの、途中でわざわざ自分で自分を追い込む必要はどこにもないな、と気が付く。
だったら、なんだい。ひょっとして兄ちゃん、野口さんがなくて、夏目さんしか持ち合わせがないとかか。それだったら、そんなの気になんねぇよ。今では貴重になった夏目さんを手放したくないという気持ちはよくわかるが、そこは耳を揃えて払ってもらわないとな。
ピントのずれた話し声が続く中で、俺はほっと胸を撫で下ろした。大学生的にはやや重めの出血、非常時にしては掠り傷といったところだろうか。
それから数分後、帰路に付く。腕の中には男に渡されたカーテンと海藻風のブラがあった。
このカーテンは日光も月光もしっかりと通すからあの金魚も嫌がらないだろうさ。下着に関しても、故郷の記憶を思い出すからもうこれ以上我儘は言わないだろうよ。
やはり、あの人魚は海からやってきたのだろうか。男の言葉を思い出しながら、波間の小島の上に座る彼女の姿を妄想し、夢うつつといった調子で自転車を漕いだ。
そんな調子だったせいか、どんな道を通ったのかも意識しないまま、気が付けば下宿のドアノブを握っていた。
あの男のいた道にはどんな道を使って行ったんだろうか。そんな些細な疑問が頭の中に浮かんでいたものの、彼女との数時間ぶりの再会の方がなによりも重要だったので、開錠するや否や、すぐさまノブを回して手元に引いた。
後ろ手で扉を閉めて、ただいま、と告げようとしたところで、腹に飛び込んできた重みと痛みに息が止まる。力を失った身体は背後の鉄扉と新聞入れの窪みを擦ったあと、コンクリートの床に並べてある替えのスニーカーの上に倒れ込む。その間も、飛び込んできた何者かはしっかりと伸し掛かってくる。
苦しさに悶えそうになりながら、暗がりの中で乗っかってきた相手の正体を見極めようと目を開く。俺がのろのろと対策に乗り出すよりも一足早く、彼女を手に入れようと飛び込んできた不届きものがいたんだろうか。そうだとしたら、まだ、彼女はここにいるんだろうか。外国に売り飛ばされたりしていないのか。まとまらない頭をなんとか落ち着けながら、暗がりに目を慣らしていく。
ふと、すぐ近くから潮の臭いがする。それは人魚が来た時から家に染みついたものだった。これだけならば、いつでもどこでもする香りである以上、彼女がまだここにいる証拠としては弱い。問題は、つい今しがた、俺が意識したということ。上に乗っかっている誰かの方から臭ってきたこと。その他にも身体中に付着した水気と、上にいる誰かの体重の軽さ、胸の辺りまで迫上ってきた柔らかさ。これらが示すのは至極簡単な結論だった。
徐々に目が部屋内の暗さに慣れ、相手の顔がはっきりしていく。整った顔形に揺れる長い髪の毛。これらを目にして、相手が誰であるかを理解する。
なぁ、どいてくれないか。
上から無表情で覗き込んでくる彼女を諭すように語りかけながら、彼女の無事に安堵する。言い聞かせれば、すぐ、普段通りに戻ると思っていた。少なくとも今までは、一部の事項を除いては聞き分けが良かったから。しかし、予想に反して彼女は動かない。微動だにせずに、俺の顔を見下ろしていた。聞こえなかったのかもしれないと思い、念のためもう一度、どいてくれと告げてみるが、彼女は自然摂理に従って一度瞬きした以外は、反応らしい反応を返して来ない。少なくとも、尖った耳に声が入っているのは間違いないと判断する。短い付き合いの中で、簡単な言葉くらいは通じているように感じていたので、理解していないわけではないはずだと判断した。そうなれば、人魚自らの意志で俺の指示を拒んでいることになる。
なにか、彼女の臍を曲げるようなことをしただろうか。そういった疑問を持ち少し考えれば、思い当たる事柄がぽつぽつと浮かび上がった。
一つ目は、彼女がここに来てから、最も長く家を空けていたということ。それこそ、講義で仕方なしに離れた時以外は、数十分で行って帰ってくることがほとんどだったし、ここ最近にいたっては、もっと傍にいるために、日夜時間をケチれないかと考え込んでいたくらいだった。
そして、もう一つ。食料である魚一匹を彼女に渡してから、もう既に一日以上が経過したこと。今までは、時間の調整こそしていたものの、やはり、二十四時間以内に食事を取ってもらっていた。もしかしたら、彼女の小さな胃がひもじぃと悲鳴を上げているのかもしれなかった。
どっちだろうとまとまりきらない考えを巡らせていると、人魚がグイッと顔を寄せてきた。夜闇の中に慣れきった目は、徐々に大きくなっていく輪郭をしっかりと捉えていた。次第にはっきりとしていく容貌と目鼻立ちを目にしながら、頭の奥が痺れるのを感じる。
ここまで顔を寄せあったのは初めてかもしれない。彼女が日向ぼっこする時やお風呂以外の場所で寝た時は、傍にこそいたものの、特別に顔を覗き込みはしなかった。その上、体や顔を寄せ合うのは大抵、月の明かりしかない暗がりの中である。
実のところ、俺は彼女の顔を見るのを恐れていたのかもしれなかった。
なぜかって。そんな決まっている。見てしまったら変わってしまう。今でさえ生活に食い込んでしまっているのに、これ以上、心の中に明確な映像を焼き付けたくはなかった。欲しているはずなのに、ある一定以上、踏み込まないよう踏み込まないよう注意を払っていた。サークルの仲間が酒と煙草を嗜む程度の感覚で、それこそ彼女との交流は火遊び程度に抑え込んでおきたかった。
これ以上彼女のことを見るというのは、なんとなくで続いている俺の歩いている道を踏み外してしまう行為であるように思えた。曖昧な境界線の先は、ただただ溺れていくだけだという予感があった。
反射的に目を瞑ろうとした。引き込まれないようにという、最後の抵抗だった。だが、伸びてきた柔らかい指先が眉の上にちょこんと乗っかるとともに、途端に瞼を閉じるのが億劫になり、むしろ冷っとした感触に身を任せていたい気持ちになっていく。きっとこの人魚が風呂桶の中で浮かんでいる時というのはこういう気持ちなんだろうなと思った。
俺の顔面の上を指先が這うように移動していく。水気を帯びたそれの心地良さに目を細めつつも、近付いてくる小さい輪郭から視線を逸らすことはできない。顔全体が見えなくなると、意識は彼女の眼に吸い寄せられ、頭の中がぼんやりとしていく。そうして、ついには二つの眼すら目に入らなくなったところで、唇の上に水気のあるものが重なる。元々鼻についていた潮の臭いがより強くなる。口の上とは対照的に、体中に干上がっていくような感覚が広がっていき、気だるさが増していく。苦渋と至福の両方の間で揺れながら、ただただ、彼女のすることを受け入れた。
ぼぅっとしている最中、唇の中に蛇のようなものが入り込ん来たかと思うと、俺の舌に巻き付くように絡んでくる。口内に溜まっていた唾液が材料となって奏でられる音楽は、体中に響き渡った。休まず貪るような動きで、彼女は口の中にある液を吸い上げたあと、自分の中で嚥下してから再びこちらの口の中に落とし込む。その間に、体中に塗り込まれた彼女の汗が、じんじんと痛み始める。先程まであった心地良さは消え、痛みが広がっていく。
ああ、そうか。ようやく、遅まきながら今の状況が腑に落ちる。俺は、食べられているのだと。彼女に、捕食されているのだと。
何を捕食されているのかは解らなかったが、そうなのだと理解できた。不思議と恐怖抜け落ちていて、ただただ大声を上げてしまいそうな痛みを噛み殺し、脂汗を垂れ流してフローリングを濡らした。
もっともっと、貪って欲しいという思いが頭の片隅に芽生えていた。この暗い部屋で、彼女に飢えを満たして欲しいと。この身体全てを捧げたい。振りきってはいけない決めていたアクセルは、もう制御できないところまで踏み込んでしまっている。境界線など合ってないようなものなのだ。骨の中から滲みだしてくるような痛みが体中に広がり、舌先をズタズタにされたような気分に襲われる。一秒二秒と、寄り添う時間が長くなればなるほど、彼女は俺を少しずつ取り込んでいく。身体の感覚はもう曖昧になっていて、それでも苦痛とそれを与える蛇みたいに細い舌の感触だけはしつこく残っていた。その間も、すっかりどちらのものかわからなくなった口内の液の往復は終わらない。
ようやく蛇が舌が離れた時、より暗くなった部屋内を目にして、夜がより深くなったのを意識するとともに、今まであった痛みが少しずつ退いていくのがわかった。終わったのか、などと思いながら、身体から力が抜けていく。顎と舌先の痛みに眉を顰めつつも、先程までの凄まじい体験が少しずつではあるが薄れていくのを感じた。それはまるで夢のようで、苦しさが大半を占めていたはずなのに、なぜだか、もう一度味わいたいと思えた。けれど、終わってしまったのだ。幾許かの落胆が心を覆った。
しかし、そんな人間的な思考をできたのも束の間で、彼女は何の感情も浮かんでいない流し眼を送るとともに、俺の股の間に触れた。まるでこの年になってまでお漏らしをしてしまったみたいな気持ち悪さを味わったあと、人魚の細い指先が背筋を震えさせた。それに連動して、ゆっくりとズボンが盛り上がり、膨らんでいく。ジーンズの締め付けをもどかしく思うほどの強く盛り上がったそれを、人魚は布越しに撫で擦る。今は、まだぞわぞわとした感触が広がるだけだった。
想像する。もっとも敏感な部分に先程体中を覆ったものが走ることを。前例から考えれば、耐えられないほどの衝撃が体中に襲いかかるはずだった。だが、俺の頭には避けようという意志はない。むしろ、唾も飲み込まず、頭に思い描いている。
あの衝撃が、この膨らみにやってきたら、どれだけすごいことになるんだろう。
そればかりが頭を離さず、もどかしさとくすぐったさを受け止める。今味わっているものなど、どうせ、束の間で終わるはずだったから。
俺の思いに答えるように、人魚がジーンズの布地を掴むとともに、思い切り引っ張る。それによって下半身の布に覆われている部分が圧迫され、睾丸に鈍い痛みが走る。長引く痛みは求めているものではなかったのもあって、さっさとファスナーを外そうとするが、彼女は手を止めようとせず、細い身体のどこに込められているのかわからないほどの力で自らの手元にジーンズを引き寄せていく。
十数秒後、ジーンズが悲鳴を上げたかと思うと、引き千切れた。縦ストライプ入りのトランクスが露になるとともに、先程まであった締め付けが消える。こういう目的だったのか。今更ながらそう気付かされるのとともに、すーっと息を吐く。
たいした間を置かずに、人魚はその指先をもって下着を易々と破り捨てる。露になった棒が温い風を受けてより固く大きくなっていく。彼女の掌がここを覆おうとしているのを想像するだけで、込み上げてくるものがあった。
やがて水気を帯びた手が棒の真ん中に触れるとともに、竿の先端に彼女の唇が近付いてくる。上で味わったあのナイフに、今度は下半身をズタズタにされるのか。想像するだけでおかしくなりそうだった。
そして、近付いてきた唇が触れて、
とはいえ、新鮮な魚を求める人魚に応えるべく、一日一回外に出なくてはならないのは変わらない。
今日もまた、渋々といった調子で、明るい陽の下で自転車を走らせていた。工業高校の隣にある下宿からまっすぐ走りだし、飛び出た大通りを左折して直進する。その後、俺を足止めした赤信号が青になるのを待ってから渡る。
対岸に行きついてすぐに、大型スーパーの駐車場前に辿り着く。その出入り口から中へと入り、行き来する車を避けていくと、店の脇にある自転車とバイクがぽつぽつと止めてある駐輪場にいたった。自転車の鍵を閉めると、ポケットに財布が入っているのを確認して歩き出す。
自動ドアを潜ると、体中をクーラーの冷気が覆った。ここ最近、彼女が冷房を嫌がるせいで、いつの間にか、この纏わりつく空気に嫌なものを感じるようになっていた。こうしている間も、家で待っている人魚がお腹を空かせているかもしれない。比較的小食の彼女がそんな風になっているのは少しだけ想像しにくかったものの、早く帰りたいという気持ちが優先され足が動いた。
野菜コーナーと乳製品のコーナーを抜けて、魚介類のコーナーに辿り着く。自分の飯に対するこだわりというものはすっかり消え去っていたものの、彼女の口にするものに関しては、まだまだ研究しなければならなかった。鰯、鰺、鯛、虹鱒などを買ってきては与えたものの、暗がりの中で僅かに光が当たった彼女の顔は、いつも変わりなかった。それでも個人的には十分満足だったものの、別の表情を見てみたいという純粋な興味が湧き起こっていた。そして、その時はできれば笑っていて欲しいとも。
今日はどんな魚がいいか。海魚も川魚も試したし、白身も赤身も青身も試した。じゃあ、そろそろ切り身を試してみる必要があるのか。そんな取り留めのない考えを思い浮かべながら眉に皺を寄せた。
あらあら、真田くんじゃない。
聞き覚えのある声に苗字を呼ばれて振り向くと、そこには少し太めの中年の女性が立っていた。その手元には野菜と肉類がぎっしり詰め込まれた黒いプラスチックの買い物籠がある。
どうも、こんにちは、大家さん。随分、大荷物ですね。
頭を下げながら、これから足止めされることを考え、少しだけ煩わしく思う。
そういう真田君は、随分と荷物が少ないじゃない。だから、そんなにひょろひょろなのよ。
大家さんは口元に手を当てて、何がおかしいのか騒がしい笑い声をあげる。それを耳にしながら、さっさと魚を選んでおけばよかったと後悔した。その間も、おばさんの口は絶えず動いていたので、俺は何度もしきりに首を動かし、曖昧な返事でお茶を濁す。心の中には、早く話が終わって欲しいという気持ちが溢れていた。
そうだ。そういえば、真田君。
今、思い出した、とでもいうように目を瞬かせながら、おばさんは大きな顔を近付けてくる。途端に鼻に飛び込んできた加齢臭に眉を顰めた。大家さんは俺の耳に口元を寄せる。
若いのはいいけど、ほどほどにしなさいよ。
何を言われているのかわからずに呆けていると、大家のおばさんはくすくすと笑いながら、やだわぁ、と更に詰め寄ってくる。その際、生暖かい唾が顔に当たって不快だった。
女の子のことよ、女の子。随分、綺麗な娘じゃない。どこで、捕まえたの、あんな娘。
おばさんの言葉でようやく、ああ、そういうことかと合点がいく。元々、カーテンを開けっぱなしにしている以上、遅かれ早かれそうなるだろうな、とは思っていた。本音としては分厚い遮光カーテンを引いて俺だけしか人魚を見られない状態にしたかったものの、日の光と月明かりを愛する彼女が布きれを嫌がって以来、仕方なしに常に開け放っていた。
彼女が人に見られていることを知り、思わず渋い顔をしそうになったものの、なんとか堪えようと顔面に力を入れる。
さすがにいつ見ても女の子が素っ裸っていうのは、おばさんとしても、風紀の乱れを感じざるを得ないわけよ。せめて、窓際では服くらい着せてあげたらどうなのかしら。
ひそひそ話しているつもりなのだろうが、公衆の面前では口にできない内容に近付くにつれて声のボリュームが大きくなっていくのと、自業自得とはいえ頻繁に部屋内を覗き込まれていたことに対する不快感で、血管の一部が切れそうな気持ちになる。おばさんが一人で楽しそうにしている間に、なんとか心を落ち着けようと一つ息を吐いてから、後ろに下がった。
色々と参考になるご意見、ありがとうございました。彼女にも言い聞かせておきます。本当にありがとうございました。
作り笑顔を浮かべてから大きく頭を下げる。そのままたっぷり数秒静止した後、頭を上げてから、それでは、と一言告げてから踵を返した。何やら後ろから呼び声が聞こえてきた気がしたが、無視して足を急がせる。
唇の端を噛みしめながら、手持ちの半袖のTシャツを彼女に着せようとした時のことを思い出す。人魚は自分の肌の上に何かがある状態をえらく嫌がり、むずがるように体全体を揺らして抵抗した。それから、事あるごとに試してみるものの、何度試しても結果は同じで、終いには俺が服を掴むのを見ただけで、距離を取るようになっていた。
とはいえ、いつまでもこのままでは、警察が家にやってくるかもしれないし、家の前に変質者が張り付いたりする事態もできれば避けたい。
何も買わずにカゴを戻して自動ドアを潜る。そろそろ彼女が違和感なしに着られる服と、日光と月明かりを通し尚且つ外から覗かれない工夫を探そうと決めて、自転車に跨った。
特にあてもなく雑貨屋や服飾店などを彷徨ったものの、人魚にちょうどいい服は見つからず途方に暮れた。暗くなるまで時間を潰した後に、気が付けば一本の緑色のポールの上に乗った灯りに照らされた細道に出ていた。油蝉の鳴き声を聞きながら、既視感を覚える。ついこの前、ここを通った気がした。
それがいつだったか考えている最中、緑色の電灯の下に誰かが座っているのをみつける。麦わら帽子に、ランニング、それに青い半ズボン、それに目の前にある大量の金魚が泳ぐ水槽。
誰かと思えばこの前の兄ちゃんじゃねぇか。
灯りの下にいるそいつが顔を上げ、黄ばんだ並びの悪い歯を見せつけた。その濁った声音を耳にして、相手が誰だったかを思い出す。この前、俺に人魚をくれた男だった。ここにいたってようやく酔っぱらった時に通った道だと思い当たる。
なんだい。汗だくになって目を真ん丸にしちまって。そんなに俺がここにいるのが意外かい。
口元に人の悪い笑みを浮かべ、楽しそうにこっちを見る男に、何とも言えない気持ちを抱く。ばつが悪くなり目を逸らすと、この前と同じように水槽と脇に付いたポンプが見えた。中には何百匹かの金魚が泳ぎ回っていて、心なしかこの前より弱っているようだった。これなら、前回よりも簡単に水槽を空にできるな。ぼんやりとそう思った。
なんだ、なんだ。兄ちゃん、まさかまた、金魚を全攻略しようとしてたりするのか。
上擦った声を聞いて向き直ると、男の不敵な笑みは鳴りを潜め、目を大きく揺らし、こめかみの辺りから脂汗を流している。そう言えば、人魚を手に入れられたのは、金魚をいっぱい掬ったからなんだよな。その後、ずっと彼女にかかりきりになっていたから、そんなどうでもいいことは忘れかけていた。
いやいや、別にそんな気、ちっともないから。そもそも、家にそんな数の金魚を飼える場所なんてないから。
なら、なんで兄ちゃんは、この前はあんなに金魚を掬ったんだ。どうせ、置き場所なんてなかったんだろう。
俺の言葉に男は我を忘れたみたいに詰め寄ってくる。加齢臭とそれに合わさった汗臭さが鼻についた。できるだけ早く離れて欲しくて、口を開く。
いや、何も考えてなかった。なんていうか、ポイを渡されたから、その場のノリで手を動かしたというか。全部取ろうって思ったのも、山があったから登ったみたいな感じで。
俺の台詞を聞いた男は膝を落としてがっくりと項垂れたまま、しばらく動かなくなる。さすがに哀れになり、何か言おうと考えたが、何を口にしても憐みにしかならないことに気付き、些細な言葉一つも捻り出せない。仕方なしに、薄ぼんやりとした光の下にいる男の姿を見守る。心の中には、一刻も早く日光と月明かりが室内にしっかりと入ってくるカーテンと人魚が嫌がらずに袖を通す衣服を発見し、さっさと彼女の横に戻りたいという欲求が絶えずあったものの、さすがにこの男を放置するのはいけないと感じた。
男は動かずに、電灯に寄りかかっている。俺もその場で中腰に座り込んで、金魚と彼の姿を見守る。電灯の真上辺りから蝉のジリジリという鳴き声が響く中、虫刺されのせいか腕と首の節々に痒みを感じはじめる。半日、町を彷徨い汗臭くなった身体は、蚊にとっては恰好の餌だろうと漠然と思いつつ、頭がぼぅっとしてくるのがわかる。そういえば、買い物に出てから水分補給をしていなかったな。足にもかなり疲れが溜まっている。ただただ怠かったが、惰性で視線だけは外さない。
やがて、根負けしたのかそれともただ単純に首が痛くなったのか、男はゆっくりと顔を上げた。
なんだよ。まだ、なんかあるのか。それとももっと、俺を貶めたいのか。扱き下ろしたいのか。その上で笑いたいのかよ。そうかよ、けっ。
不機嫌そうなじと目で、男は警戒心を露わにしていた。
そんなわけないだろ。元々、騙すつもりなんてちっともなかったんだよ。
心の中で、気付かないみたいだから黙っていただけだ、と小さく付け加えつつも、口では男を励ます言葉を継いでいく。
兄ちゃんみたいな素人にコケにされるんだ。俺にこういう商売は向いてないかもしんないな。かといって、他にしっくりと来る職もない。だったら、いっそ、商売から足を洗うだけじゃなくじんせ
いやいや。早まるな早まるな。大丈夫だからさ。
男の後ろ向きな思考を少しでも励まそうと、俺は、金魚の元気さやポイの強さや種類、客引きする場合の相手の選び方、それに何匹すくっても一定数の金魚しか渡さないシステムの話などの、この前から頭の片隅にあった案を今この場で思い付いたように口にし、まだまだ人生捨てたもんじゃないというアピールしていった。
なるほど、そうすればぼろ儲けかもしんねぇな。やるな、兄ちゃん。おかげで人生に希望の火が点った気がするぜ。
説得の末、男はしきりに頷きながら、黄色い歯を剥き出しにて陽気に笑ってみせた。俺はその汚さを不快に感じつつも、わずかばかりの安堵を覚える。そうすると、浮かび上がってきたのは人魚の着るものの問題であり、まだ何も解決していないのを認識し、自然と気分が沈み込む。
そういや、兄ちゃん。さっきから気になってたんだが、もしかしてなんか悩みがあるのか。
怪訝そうに目を瞬かせる男は、すっかり落ち着きを取り戻したらしく、ぶしつけに俺の顔を覗き込んだ。ついさっきまでうじうじしていたくせして、そんな余裕があったのだろうか。そんなことを思いつつも、口を開く。
実は人魚について、いくつか困っていることがあってな。
ああ、あの金魚か。まぁ、ウチでも一番気難しいやつだったしな、あいつは。我儘で困るだろ。
それを聞いて、厄介払いだったのだろうか、と疑いつつ、そうでなければ彼女との出会いはなかったかもしれないと考えると責めることもできず、複雑な気持ちになる。だが、逆に言えば人魚についてこの男ほど頼りになる人間もいないのではないのかと思い当たった。
服を着るのとカーテンを嫌がるんだ。せめて、片方解決できればいいんだけど、今んとこいい策がなくてさ。
そこまで聞いて男は、可笑しそうな声を漏らし、腹を押さえる。
なんだい、兄ちゃん。随分些細なことで悩んでやがるんだな。まぁ、兄ちゃんにとっちゃ笑いごとじゃないのかもしれないが。
薄ぼんやりとした照明に当たる身体を震わせながら、表情を崩さない男は、既に解決策を心得ているようだった。
おっさんは知ってるのか。
まぁまぁ、落ち着けよ、兄ちゃん。
男はそう言ってからもったいぶるように人差し指を振った後、上を向けたまま動作を止めた。
ここからは商談っていうことで頼むぜ。なぁ。
口元を歪めながら、鋭い瞳で睨みつけてくる男からは、先程まであったどこかとぼけた雰囲気が消え去っていた。自然と握り込んだ拳が汗ばんでいくのがわかった。法外な値段を吹っかけられるかもしれない。それは今の貯金はおろか、臓器を売ったりしなくてはならないくらいかもしれない。そう思うと、体中が強張っていく。
瞬間、頭の中に浮かんだのは、水槽の中でゆらゆらと浮かぶ人魚の姿。意志でも持っているみたいに波打つ髪の毛、触っただけで折れてしまいそうな細い肩、触れると面白いように沈み込んでいく二つの大きな膨らみ、宝石のように煌めく鱗、二つに分かれた鋭い尾鰭。なによりも、あの綺麗なガラス玉のような眼。
浮かび上がってきた映像は俺の内にあった渇きのような感覚を思い出させる。
そうだ。そもそも、彼女とともにいられないなどということに耐えられるわけがなかった。ならば、俺に選択の余地など最初からあるはずもなく。
ああ、なんでもする。だから、助けてくれ。
告げるとともに頭を下げる。もっとやりようがあったんじゃないかという考えが過ぎったものの、今はなによりも、他の誰にも邪魔されない彼女との世界が欲しいという想いが全てに勝った。
男の目が怪しく光ったように見えた。やつは愉しげな笑みを浮かべつつこちらを値踏みするように見ていたが、やがて麦わら帽子のつばに手をかけて、深く被り直した。
その言葉、本当だな。
迷いがないといえば嘘になるが、それでも力強く頷いてみせる。願わくば、できるだけ早く家に帰れるようにと祈りながら。
男は濁った声を漏らしながら、先程から立てていた人差し指に中指、更に薬指を足していく。おそらく、対価についてなのだろう。おそらく、三ということだろうが、果たしてそれが何倍に膨れ上がるのか。貯金では足りないだろう覚悟しつつ、男の唇が開くのを待つ。
とりあえず、野口さん、三枚ってとこでどうだ。
最初、それを聞いた時、空耳かと思った。俺の顔を、不満だと勘違いしたのか、男の眉が吊り上る。
なんだい、兄ちゃん。さっき大見得切ったばっかりだっていうのに、払えないっていうのか。そうだとしたら、随分と安っぽい、何でもする、だな。
いや、値段に文句なんてないけど。
大見得切ったからこそ、それだけなのに驚いたんだよ。そう口にしようとしたものの、途中でわざわざ自分で自分を追い込む必要はどこにもないな、と気が付く。
だったら、なんだい。ひょっとして兄ちゃん、野口さんがなくて、夏目さんしか持ち合わせがないとかか。それだったら、そんなの気になんねぇよ。今では貴重になった夏目さんを手放したくないという気持ちはよくわかるが、そこは耳を揃えて払ってもらわないとな。
ピントのずれた話し声が続く中で、俺はほっと胸を撫で下ろした。大学生的にはやや重めの出血、非常時にしては掠り傷といったところだろうか。
それから数分後、帰路に付く。腕の中には男に渡されたカーテンと海藻風のブラがあった。
このカーテンは日光も月光もしっかりと通すからあの金魚も嫌がらないだろうさ。下着に関しても、故郷の記憶を思い出すからもうこれ以上我儘は言わないだろうよ。
やはり、あの人魚は海からやってきたのだろうか。男の言葉を思い出しながら、波間の小島の上に座る彼女の姿を妄想し、夢うつつといった調子で自転車を漕いだ。
そんな調子だったせいか、どんな道を通ったのかも意識しないまま、気が付けば下宿のドアノブを握っていた。
あの男のいた道にはどんな道を使って行ったんだろうか。そんな些細な疑問が頭の中に浮かんでいたものの、彼女との数時間ぶりの再会の方がなによりも重要だったので、開錠するや否や、すぐさまノブを回して手元に引いた。
後ろ手で扉を閉めて、ただいま、と告げようとしたところで、腹に飛び込んできた重みと痛みに息が止まる。力を失った身体は背後の鉄扉と新聞入れの窪みを擦ったあと、コンクリートの床に並べてある替えのスニーカーの上に倒れ込む。その間も、飛び込んできた何者かはしっかりと伸し掛かってくる。
苦しさに悶えそうになりながら、暗がりの中で乗っかってきた相手の正体を見極めようと目を開く。俺がのろのろと対策に乗り出すよりも一足早く、彼女を手に入れようと飛び込んできた不届きものがいたんだろうか。そうだとしたら、まだ、彼女はここにいるんだろうか。外国に売り飛ばされたりしていないのか。まとまらない頭をなんとか落ち着けながら、暗がりに目を慣らしていく。
ふと、すぐ近くから潮の臭いがする。それは人魚が来た時から家に染みついたものだった。これだけならば、いつでもどこでもする香りである以上、彼女がまだここにいる証拠としては弱い。問題は、つい今しがた、俺が意識したということ。上に乗っかっている誰かの方から臭ってきたこと。その他にも身体中に付着した水気と、上にいる誰かの体重の軽さ、胸の辺りまで迫上ってきた柔らかさ。これらが示すのは至極簡単な結論だった。
徐々に目が部屋内の暗さに慣れ、相手の顔がはっきりしていく。整った顔形に揺れる長い髪の毛。これらを目にして、相手が誰であるかを理解する。
なぁ、どいてくれないか。
上から無表情で覗き込んでくる彼女を諭すように語りかけながら、彼女の無事に安堵する。言い聞かせれば、すぐ、普段通りに戻ると思っていた。少なくとも今までは、一部の事項を除いては聞き分けが良かったから。しかし、予想に反して彼女は動かない。微動だにせずに、俺の顔を見下ろしていた。聞こえなかったのかもしれないと思い、念のためもう一度、どいてくれと告げてみるが、彼女は自然摂理に従って一度瞬きした以外は、反応らしい反応を返して来ない。少なくとも、尖った耳に声が入っているのは間違いないと判断する。短い付き合いの中で、簡単な言葉くらいは通じているように感じていたので、理解していないわけではないはずだと判断した。そうなれば、人魚自らの意志で俺の指示を拒んでいることになる。
なにか、彼女の臍を曲げるようなことをしただろうか。そういった疑問を持ち少し考えれば、思い当たる事柄がぽつぽつと浮かび上がった。
一つ目は、彼女がここに来てから、最も長く家を空けていたということ。それこそ、講義で仕方なしに離れた時以外は、数十分で行って帰ってくることがほとんどだったし、ここ最近にいたっては、もっと傍にいるために、日夜時間をケチれないかと考え込んでいたくらいだった。
そして、もう一つ。食料である魚一匹を彼女に渡してから、もう既に一日以上が経過したこと。今までは、時間の調整こそしていたものの、やはり、二十四時間以内に食事を取ってもらっていた。もしかしたら、彼女の小さな胃がひもじぃと悲鳴を上げているのかもしれなかった。
どっちだろうとまとまりきらない考えを巡らせていると、人魚がグイッと顔を寄せてきた。夜闇の中に慣れきった目は、徐々に大きくなっていく輪郭をしっかりと捉えていた。次第にはっきりとしていく容貌と目鼻立ちを目にしながら、頭の奥が痺れるのを感じる。
ここまで顔を寄せあったのは初めてかもしれない。彼女が日向ぼっこする時やお風呂以外の場所で寝た時は、傍にこそいたものの、特別に顔を覗き込みはしなかった。その上、体や顔を寄せ合うのは大抵、月の明かりしかない暗がりの中である。
実のところ、俺は彼女の顔を見るのを恐れていたのかもしれなかった。
なぜかって。そんな決まっている。見てしまったら変わってしまう。今でさえ生活に食い込んでしまっているのに、これ以上、心の中に明確な映像を焼き付けたくはなかった。欲しているはずなのに、ある一定以上、踏み込まないよう踏み込まないよう注意を払っていた。サークルの仲間が酒と煙草を嗜む程度の感覚で、それこそ彼女との交流は火遊び程度に抑え込んでおきたかった。
これ以上彼女のことを見るというのは、なんとなくで続いている俺の歩いている道を踏み外してしまう行為であるように思えた。曖昧な境界線の先は、ただただ溺れていくだけだという予感があった。
反射的に目を瞑ろうとした。引き込まれないようにという、最後の抵抗だった。だが、伸びてきた柔らかい指先が眉の上にちょこんと乗っかるとともに、途端に瞼を閉じるのが億劫になり、むしろ冷っとした感触に身を任せていたい気持ちになっていく。きっとこの人魚が風呂桶の中で浮かんでいる時というのはこういう気持ちなんだろうなと思った。
俺の顔面の上を指先が這うように移動していく。水気を帯びたそれの心地良さに目を細めつつも、近付いてくる小さい輪郭から視線を逸らすことはできない。顔全体が見えなくなると、意識は彼女の眼に吸い寄せられ、頭の中がぼんやりとしていく。そうして、ついには二つの眼すら目に入らなくなったところで、唇の上に水気のあるものが重なる。元々鼻についていた潮の臭いがより強くなる。口の上とは対照的に、体中に干上がっていくような感覚が広がっていき、気だるさが増していく。苦渋と至福の両方の間で揺れながら、ただただ、彼女のすることを受け入れた。
ぼぅっとしている最中、唇の中に蛇のようなものが入り込ん来たかと思うと、俺の舌に巻き付くように絡んでくる。口内に溜まっていた唾液が材料となって奏でられる音楽は、体中に響き渡った。休まず貪るような動きで、彼女は口の中にある液を吸い上げたあと、自分の中で嚥下してから再びこちらの口の中に落とし込む。その間に、体中に塗り込まれた彼女の汗が、じんじんと痛み始める。先程まであった心地良さは消え、痛みが広がっていく。
ああ、そうか。ようやく、遅まきながら今の状況が腑に落ちる。俺は、食べられているのだと。彼女に、捕食されているのだと。
何を捕食されているのかは解らなかったが、そうなのだと理解できた。不思議と恐怖抜け落ちていて、ただただ大声を上げてしまいそうな痛みを噛み殺し、脂汗を垂れ流してフローリングを濡らした。
もっともっと、貪って欲しいという思いが頭の片隅に芽生えていた。この暗い部屋で、彼女に飢えを満たして欲しいと。この身体全てを捧げたい。振りきってはいけない決めていたアクセルは、もう制御できないところまで踏み込んでしまっている。境界線など合ってないようなものなのだ。骨の中から滲みだしてくるような痛みが体中に広がり、舌先をズタズタにされたような気分に襲われる。一秒二秒と、寄り添う時間が長くなればなるほど、彼女は俺を少しずつ取り込んでいく。身体の感覚はもう曖昧になっていて、それでも苦痛とそれを与える蛇みたいに細い舌の感触だけはしつこく残っていた。その間も、すっかりどちらのものかわからなくなった口内の液の往復は終わらない。
ようやく蛇が舌が離れた時、より暗くなった部屋内を目にして、夜がより深くなったのを意識するとともに、今まであった痛みが少しずつ退いていくのがわかった。終わったのか、などと思いながら、身体から力が抜けていく。顎と舌先の痛みに眉を顰めつつも、先程までの凄まじい体験が少しずつではあるが薄れていくのを感じた。それはまるで夢のようで、苦しさが大半を占めていたはずなのに、なぜだか、もう一度味わいたいと思えた。けれど、終わってしまったのだ。幾許かの落胆が心を覆った。
しかし、そんな人間的な思考をできたのも束の間で、彼女は何の感情も浮かんでいない流し眼を送るとともに、俺の股の間に触れた。まるでこの年になってまでお漏らしをしてしまったみたいな気持ち悪さを味わったあと、人魚の細い指先が背筋を震えさせた。それに連動して、ゆっくりとズボンが盛り上がり、膨らんでいく。ジーンズの締め付けをもどかしく思うほどの強く盛り上がったそれを、人魚は布越しに撫で擦る。今は、まだぞわぞわとした感触が広がるだけだった。
想像する。もっとも敏感な部分に先程体中を覆ったものが走ることを。前例から考えれば、耐えられないほどの衝撃が体中に襲いかかるはずだった。だが、俺の頭には避けようという意志はない。むしろ、唾も飲み込まず、頭に思い描いている。
あの衝撃が、この膨らみにやってきたら、どれだけすごいことになるんだろう。
そればかりが頭を離さず、もどかしさとくすぐったさを受け止める。今味わっているものなど、どうせ、束の間で終わるはずだったから。
俺の思いに答えるように、人魚がジーンズの布地を掴むとともに、思い切り引っ張る。それによって下半身の布に覆われている部分が圧迫され、睾丸に鈍い痛みが走る。長引く痛みは求めているものではなかったのもあって、さっさとファスナーを外そうとするが、彼女は手を止めようとせず、細い身体のどこに込められているのかわからないほどの力で自らの手元にジーンズを引き寄せていく。
十数秒後、ジーンズが悲鳴を上げたかと思うと、引き千切れた。縦ストライプ入りのトランクスが露になるとともに、先程まであった締め付けが消える。こういう目的だったのか。今更ながらそう気付かされるのとともに、すーっと息を吐く。
たいした間を置かずに、人魚はその指先をもって下着を易々と破り捨てる。露になった棒が温い風を受けてより固く大きくなっていく。彼女の掌がここを覆おうとしているのを想像するだけで、込み上げてくるものがあった。
やがて水気を帯びた手が棒の真ん中に触れるとともに、竿の先端に彼女の唇が近付いてくる。上で味わったあのナイフに、今度は下半身をズタズタにされるのか。想像するだけでおかしくなりそうだった。
そして、近付いてきた唇が触れて、
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