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7の扉 グロッシュラー
ミストラスとまじないの木
しおりを挟む流れているのか、いないのか。
のっぺりとした雲が漂う、天空の門。
ここ、グロッシュラーの空は青は見えないとは言え、雲の表情は多彩な事が多い。
しかし、今日は珍しく。
のっぺりとした、白と灰が塗り込められた空なのである。
あの後、図書室へ行くと丁度、天空の門へ見回りに行くというクテシフォンをゲットできた私。
そのままルンルンと後をついてここへやってきて、その木の大きさに感動していたのである。
そう、結局あの時かなり光は降った様だし雨も降った。
いい祈りが届いて、木は立派な姿になっていたのだ。
でも本当ならば。
木肌を撫でたり、匂いを嗅いだり。
色々と楽しもうと思っていたのに、その木は意外と手の届かない位置に、伸びていた。
そう、触れないのだ。
ぐっと、下を覗き込んでどうなっているのかを恐る恐る確認する。
しかし、こうしてみるとうまい具合に天空の門が影にならない様に、伸びているのが分かる。
「ちゃんと、分かってるんだよね…多分。」
下を見ると、ぐっと曲がった幹が空へと伸びて宙に浮いた様な不思議な木になっているのだ。
「凄くない?ねえ、これって、畑から水を貰っているの?」
少し、離れた位置のその、木は。
多分、私の見立てでは話せるのだと、思う。
だってこの子は、あのお爺さんの枝なのだ。
そういえば、向こう側は見えてなかったな…。
今度の祭祀で、あっちで祈ったら。
きっと、この子と同じ様に伸びるよね………?
考え事をしつつ、背後のクテシフォンを確認しようと振り向く。
多分、私が木と話していても気にしないだろうけど。
一応、内緒の方がいいかもしれない。
しかし。
「あ、あれ?」
近くにいるか、確認しようと振り返ったのだけれど。
その私の目に入ったのは、白いローブではなく銀ローブだった。
「ミストラスさん。久しぶり、ですね?」
いつの間にか、クテシフォンはいなくなっていてミストラスが私の背後にじっと、佇んでいたのだ。
若干、驚いたけれどアラルとアリススプリングスもミストラスに報告に行ったと聞いている。
もしかしたら、確認の為木を見にきたのかもしれないと思い、そのまま天空の門へ上がるよう、手で示した。
ゆっくりとした動きで階段を登りながら、パサリとフードを肩に落とすミストラス。
その様子はなんだか祈りの前の空気に似ている。
この抑揚の無い空と彼の持つ静かな雰囲気が、今日のこの天空の舞台を礼拝堂に近づけていた。
なんなら少し、祈ってみればいいだろうか。
この木の動きが気になって、無理だろうけれど。
しかし、この白かった空間に差し色が入り、私はそれにも気を取られていた。
今日の彼の髪紐は春の祭祀に合わせてか、水色である。
白い中にスッと入ってきたそれは、灰色の髪が外の光で銀髪に見えるのも相まって、この空間との相性が抜群なのだ。
うーん、銀ローブに乗ってるから余計に銀に見えるし、そこに水色………合うな。
今度こんな色の石が欲しいけど、祭祀で空が見えるならイケるかな………?
私がそれに見惚れてぐるぐるしている間に、じっと木を見ていた彼は、いきなり核心をついた。
「あそこに。居たのだろう?君も。」
うん?
あそこ?
って、やっぱり………。
あの時、ですよね………?
「そうだ。」
そのまま、顔に出ていたのだろう。
そう答えたミストラスに、頷くしかなくて首を縦に、振る。
でも、隠さなくていいよね…?
結局、謎に分かり合っていたラガシュ曰く「ミストラスはヨル側」と、大人達の間ではその見解らしいけれど。
私の中で、益々現実味を帯びてきた長に会う、ということ。
ミストラスが言っていた、「彼のために祈る」「この世界を支えている」という、こと。
以前彼は私を自分の後継者にすると、したい、と言っていたけれど。
アラルエティーが「青の少女」と言われている今、彼もまたアラルエティーが神殿に残ると、思っているのだろうか。
でも私が「あの場」に居たか、訊いたという事はまだ「私」がそうだと。
思っている筈だ。
でも…………。
この問題、ちょっと、ややこし過ぎない??
もう、私お手上げなんですけど?
ミストラスさん、結局どうしたいのか、よく分かんないし??
結局もって、長がなんなのか、いい人なのか悪い人なのかもよく、分かんないし神なのかそれとも支えるって要とかなの??
そもそも、どうして絵になってるんだろう?
「不死」って、言われてるから?
それにしたってみんなが祈って、あの人に力を溜めるって、そんな電池じゃないんだから…………。
ん?
あの人に祈る…………。
うん?その、セリフ?
どこ?
どこで、見た………?
「ヨル?」
「あっ?はい?!?」
ふっ、と何かと繋がりそうになった時、丁度呼びかけられて飛び上がった私。
ワタワタとしつつも、その茶の瞳を見上げる。
外で見るミストラスの瞳はやはり赤が勝って、中々美しい紅葉の様な色だ。
あの時の紅茶の色を思い出して、その丸っこい味がまた口の中に思い出される。
そんな、色によっていきなりマッタリモードになっている私を知ってか知らずか、ミストラスはその赤茶の瞳を少し細め意外な話を始めた。
「やはり、ブラッドフォードに取られてしまいましたね。」
「?」
何を?
「色々、話を付けたのは彼だと聞きました。そうなったという事は。あなたはやはりあちらへ行くのだと思いますし、その方が。いいのでしょうね。」
静かにそう、話す彼を見て自分の事を言っているのだと解る。
しかし、その様子をなんだか意外に感じてしまった、私。
だって。
この前は。
熱っぽく、「長について」と「ここで祈りを集めること」について語っていた、ミストラス。
それが、どこがどうなって私が向こうへ行った方が良いという事になったのだろうか。
多分、また丸っと顔に出ていたのだと、思う。
私の顔をじっと見ていた彼は、再び口を開いた。
「その、方が。長の、力になるでしょう。結果的に。」
その、一言で納得がいった。
そうだ、ミストラスは。
長信者だったわ………。
行動の基準が、多分長なのだ。
だから、私があっちに行った方が、いいと。
「ん?え?なんで、知ってるんですか??」
やば。
この、訊き方…………。まずった………??
キラリと光った気がする、赤茶の瞳。
しかし、私の焦りに反して彼が言ったのは、これだけだった。
「私の家は、ここが主になります。向こうが、分家になる。こちらでの、力はありますが向こうではアリススプリングスが一位です。なので。よろしくお願いします、ね?」
真っ直ぐに私の目を見ながら、そう話す。
ゆっくりと、意味深な言い方だ。
…………これ。
何をですか?って、訊かない方がいいよね…?
でも、多分。
彼の事だから。
「長を」よろしくお願いします、という事なのだろう。
結局は、私も彼に会いに行くのだ。
それに、彼は。
あの子の。
大切な、人だから。
とりあえず、何と言っていいのか分からなかった私は「はい。」とだけ、言っておいた。
ミストラスがこの返事でどう、思うのかは分からないけど。
多分。
大丈夫だと、思う。
きっと、祈りが集まれば、いいんだもんね?
そう、「祈りが集まれば」………。
「あ!」
「え?どうしました?」
「あ、いや、えっと、何でも、ない、です。」
全くもって何でもなくない、様子で誤魔化した私。
とりあえずミストラスは私をじっと見た後、言う気が無いのが分かったのだろう。
「そろそろ、交代の様ですね。」
そう言って、チラリと私の後ろに視線を投げた。
少し焦っていた私はその彼の動きを見て、ホッと息を吐く。
多分、背後にいるのは私の金色の筈だ。
違ったら、吃驚するけど。
そう思って一応、振り返ると「どうして違うんだ」という顔の気焔がなんだか面白い。
多分、クテシフォンだと思って迎えに来たのにミストラスになっているからだろう。
それは私だって、訊きたい所だ。
「では、次の祭祀も。期待してますよ。」
ポン、と私の肩を叩いて階段を降りて行ったミストラス。
すれ違い様に何か金色に呟いていた気がしたけれど、気の所為だろうか。
私の位置から内容は聞こえなかったし、金色の様子は変わらなかったから。
きっと、何か言ったとしても大した事じゃ無かったのだろう。
ふっと、緊張の糸が切れて思わず大きく息を吐いた。
さっき、私が気が付いた内容。
あの、白の本の事。
セフィラが長に対して書いたであろう、メッセージなのか、祈りなのか。
あそこにもやはり「祈りが集まる」と彼の助けになる、という様なことが書かれていた筈だ。
だから。
それが、悪いことである筈がないんだ。
さっきは自分の前提がひっくり返ったので思わず大きな声を出してしまったけれど。
うーーーーーーん。
また、こんがらがって、きた。
結局、なに?
これは、向こうに行かなきゃ、分からない?
「何故」、あの絵、いや「長」に祈りを集めるのか。
?
でもラガシュも「生贄」って…………。
ああぁぁぁぁ…………。
とりあえず、後で考えよ。うん。
多分、お腹が空いてきたに違いない。
それに。
折角の天空の門、まだまだ堪能し足りないんだけど?
そう、私は変化したここを楽しもうと、やってきた筈なのである。
なんなら、ついでに癒されたいとも。
思って、来たんだけど…………。
そう思って、くるりとあの木を振り返った。
「ふぅ。それにしても。大きく、なったねぇ君は。」
「あれだけの、力を貰えたらね。そりゃ、大きくもなるさ。」
「ん?」
えっ。
まさか?
やっぱり??
振り向きつつも、木に向かって独り言を言っていた私に返事が、返ってきた。
それはなんと、いつの間にかぐっと目の前に迫っていた、あの木だったのだ。
「キャ!」
「コラ!」
びっくりして尻もちをついた私を見て、木に怒っている気焔。
それが面白くなって、つい笑ってしまった。
「……フフッ、ていうか、なんで??うそでしょ?」
気焔に手を引かれ、立ち上がった私のすぐ側にある、その木。
さっき迄はこの門から少し離れた空間に、あった筈だ。
距離にして2メートルは、離れてたと思うんだけど?
「まぁ、僕は普通の木ではないからね?この灰色の土地に植えられたなら。ここまででは、無かったろうよ。あそこはいい。それに、先日力も沢山貰った。このくらい、わけないさ。」
「………ファンタジー。」
「何を、言っておる。」
おかしい。
枝を揺すりながら、そう話す木を目の前で見て述べた感想に、同意をしてくれる人がいない。
朝は?
どこ?
まぁ、この人も石だからな………。
「おかしな目をするな。」
しかもクレーム付けられましたけど………。
ぶつぶつと文句を言いながらも、「向こう側の木はどうかな?」と動いている木に話し掛ける。
「そうだね、今度向こうでも祈っておくれよ。」
「うん、勿論。どーんと、やっちゃうから。」
「………。」
背後が無言な所がまた怖いけれど、もう振り返るのは止めておこう。
そうして私は一頻り、まじないの木と楽しく森の話や下の畑の話、お爺さんたちの話をしていたのだけど。
そわそわし出した、背後からとうとう声が掛かった。
「依る、そろそろまずい。」
「そっか、目立つ、よね………。じゃあ、また来るね?」
「待ってるよ。」
そう言ってサワサワと枝を振る、まじないの木と別れる。
私が手を振ると、そのままススッと空に戻る所がなんとも不思議で、面白い。
今度、朝と来ようっと。
これはファンタジーだわ………。
階段を下り、振り返ると、もうなんて事ない様子で普通の木のフリをしている。
「フフッ。」
「一人で、来るなよ?」
「朝となら、いい?」
「………できれば吾輩を呼べ?」
うーん。
「はぁい。」
少し、不満気な返事に気付かれていただろうか。
微妙な金色の視線を感じながらも、癒しスポットが見つかったとウキウキしながら神殿へ戻る。
足取りは軽い。
丁度、お腹も鳴った。
「ナイスタイミングだね!」
「何がだ。」
そうしてウキウキのまま、私達は食堂へ向かったのである。
うん。
0
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