透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

廻る チカラ

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はそうして。この世を、遊んでいるのだろうよ。』

何故だか、ふっと浮かんだシンの言葉。



緩く流れる風の中を、ヒラヒラと舞う幾つもの、羽。


ピンクと紫がグラデーションになった空は、朝でもなく夕でもないこの時間の流れを感じさせない空間に、ピッタリである。


「あーーーーー。」

声を出すというよりは、息を吐くに近い、声。

ゴロリとだらしなく寝転がっているは、いつものあのまじないの畑にある、花の中。

空間を舞う蝶は、どうやら私の抱えて来た「想い」達と、ここで時を待つ者達の変化した様子らしい。


ヒラリと優雅に飛ぶ者、ユラユラと未だ危なっかしい者。

始めは暗い、赤や青、灰や茶が多かった蝶達は、体の側から色が変化し始めて、今ではすっかりグラデーションの美しい蝶に変化した。


これまで植物しか居なかったこの空間に、突如として現れた蝶。

その暗い色に「もしかして」と思った私は、自分の体力を回復させる間に様々な楽しい事を考えたり、やったりしていた。

お弁当を作ってもらって、日がな一日、ダラダラしていたり。

花を観察して絵を描いたり、気の済むまで花弁を眺め、自分の中にその色を取り込んだり。

まじないのポットでハーブティーを持たされた日は、美味しすぎて唸っていた。
勿論、一人で。

時折朝が遊びに来ていたけれど、基本的には入れ替わり立ち替わり、訪ねて来る人がいるだけで、ほぼイストリアとウイントフークに挟まれのんびり三人の生活をしていた、私。

そうしてゆっくりとした私の回復に合わせて、蝶の色も変化していったので、ある。



「送った人たちはどこにいるんだろう」と、少しだけ心配になっていた私はそれを見て安堵した。

「蝶が想いなのか、人なのか」、本当のことは分からないけど。

でも多分、私の色を受け変化し、そうしてまた私の周りを舞うこの子達は。

きっとあの時の「想い」達で間違い無い事は、その気配から導き出した「私の本当」で。


「ああ、今日も綺麗だね。」
「おいで?」

「うん、向こうも。いいね。」

こうして戯れているだけで私も満たされた気持ちになり、また、蝶達も変化するこの空間が。

「うん、間違い、ないよ…。」


そう、私が、思えれば。

「万事、解決………。」




「何を言っている。」

「あ、お帰り。」

影が差し、金色の縁取りに彩られた彼が私を覗き込んでいるのが分かる。


あれから気焔は、神殿にきちんと帰っている。

きっと、また居なかった様にもできるのだろうけど。
今後の事を考えてか、未だネイアのフリをしている彼はこうして私の元へ通っているのである。

私が「お帰り」と言うのは癖みたいなものだ。
深い意味はないのだけれど、きっと向こうへ行っても別々に暮らさなくてはならないであろう私達に残された、束の間のやりとりを楽しんでいるのかもしれないなぁと、思う。



「調子は?どうだ?」

「うん。大分いいよ。」

身体を起こして、そう答える。


「回復次第、移動かな」と言われている私は、ここに来て既に一週間は過ぎていた。

特に急がなくてはならない、理由も無い。

しかし、のんびりし過ぎる訳にもいかないのは、分かる。


「お前次第だ」と言うウイントフーク。

多分、向こうの準備と。
こちらの、後始末、根回し。

そして、私の心の、準備。

それが整い次第、移動になるのだろう。


ゆっくりと舞う、蝶達を眺めながら気焔の報告を聞いていた。


「石については大体、ウェストファリアとアリススプリングスが決定した様だ。お前は名を聞いても分からんだろうと、任せておいたぞ?そんなに数はいない。やはり、あれを持たせる事ができる者自体が、少数だ。」

「そうなの?…………ふぅん。」

「大丈夫そうならば、この後レナと一緒に行くといい。今日来ると言っていた。」

「え?ホント?!やったあ!」

「あまり、…………いや、気を付けろ。」

「はぁい。」

「それで手紙は渡しておいたぞ?また、会えるだろうとは言っておいた。それに、向こうへ戻った時は。宜しくと、言っていた。」

「うん。ありがとう。」


トリル、パミール、ガリアには手紙を書いた。

流石に三人を、ここへ招待するにはまだ早い。
もう少し、上が整ったら。


そう、少しだけこの前旧い神殿に出た時は、殆ど大地に変化は感じなかったけれど。

見た目は、そう変わっていなかった。
「あそこだから」と言うのは、あるかもしれない。

しかし「空」は、開かれていた。

あの回廊から見えていた、切り取られた雲の空。
そこに、まだ所々だけれど加わっていたのは美しい青で。
雲の隙間から時折見える、その青空は私の世界の空にもとてもよく似ていて。

やはり、世界は繋がっているのだと。

思わずには、いられなかったのだ。



「後は何かあるか?」

「うーん………?」

私の代わりに色々と動いてくれている気焔は、なんだか以前とは少し変わったような気も、するけれど。

ポスン、と彼に凭れて座り再び蝶を眺める。

「また、思い付いたら、言うね?」

「ああ。」

そうして再び、二人でただ蝶を眺める。


最近はこうして、何も話さず二人でいる事も、多くて。

何か、話したい事は沢山ある気がするのだけれど、どれも考えると面倒になる内容の話が多いのだ。

婚約者の話然り、移動の話、然り。
姫様の事、シンの、事。

そう、多分「ここでのシン」は、もう消えてしまっているのが何故だか解った私。


分かってた。
解っては、いたんだ。

また、きっと会える。

それも、分かるんだけど…………。


プツリと思考を切って、金の瞳を探す。

目が合うと、ただ頷いてチカラを注いでくれる、金色。

これで、涙が出る事は、無いんだけど。

無いんだけど、…………うん。


「これで、いいのか」なんとなく、不安になった私は「ぐい」とまたその胸を押して。
脱出し、金色の瞳を確かめる。

うん、多分。
そう、だよね?

それなら、いいんだ。


金の瞳に、翳りはない。
それなら。


そうして再び、凭れて、座る。

触れて、いれば。
そこから、染み込んでくる「なにか」が私を満たすから。


そうして暫く、黙って座っていた。

「おーい、ヨル!来たよ!」

遠くで、イストリアが呼んでいる。
多分、レナが来たのだろう。

「はーい!今、行きます…っ。」

急に大きな声を出した私はやはり咽せて、気焔に抱えられ木立へ入る。


ううっ、心配してるっ………。

しかし、レナと二人きりで話したかった私は「なんてことない顔」を貼り付けて、ニッコリと笑っていたのだった。


うん。
多分、二人の方が、いい話に、なる。

何故だか、それは分かっていたのだ。










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