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8の扉 デヴァイ
訪問者
しおりを挟むどんなに、モヤモヤしても。
どうしようもないことだと、おまじないの様に言い聞かせても。
一人、罪悪感を抱えていても。
迷いの森に、深く踏み込んでいたと、しても。
お腹は鳴るし、朝だって来る。
時間というものに、情は無いのだろうか。
私に、彷徨う時間は。
くれないのだ、ろうか。
「ほら、起きなさい。朝よ。いや、私じゃなくて、本当の、朝。」
「なに、言ってるの………。」
朝から謎の冗談を聞かされつつ、心地良い踏まれ具合にまだ微睡の中から出たくなかった私。
ベッドの中で、またうつらうつらしていると何故朝が起こしに来たのか理由を言った。
そう、いつもならば私が自分で目が覚めるか、足元のフワフワに起こされるか。
最近はフォーレストが来るか、なんだけど………?
「お客さん、来てるわよ。」
「ふーん。…………っえっ?私、に?」
「そうよ。曲がりなりにもあんた店をやってるんだから、一応客だって来るでしょうよ。」
「えっ?そっち??」
「そっちとかどっちとかどうでもいいけど、起きなさいな。」
「えーー?てか、今何時?寝坊した………。」
「いや、その人が来るのが早いのよ。見た目に合わず、面白そうだわ。じゃ、起こしたからね。」
「えぇ~………。」
見た目?
誰?
て言うか、ブラッドか誰か、パミールとかガリアじゃ、なくて??
私に会いに来る人は、そういない。
そもそも出歩く様になって、「狙われる」とは言われている私達だが基本的には珍獣扱いだ。
でも?
店?
そっち??
て言うか、宣伝してないのに、よく来たね??
頭の中に疑問符は舞っているが、あまり待たせる訳にもいかない。
多分、本当に時間はまだ早いのだろう。
お腹の具合で、判る。
「いや、とりあえず着替えだ。」
そうしてとりあえず着替えをすると。
髪型も適当に、櫛を置き部屋を出たのだ。
「この前、会ったのか?」
「む?んん?」
急いで朝食を掻っ込んでいる私に、そう言ったのはウイントフークだ。
お茶を飲み、パンを急いで流し込むと嫌な目をしている。
いや、食べてる時話しかけたのあなたでしょうが。
そう思いつつも、何の事だか分からずに訊いた。
「何がですか?」
「いや、いいんだ。」
ちょ、また?
そのパターン?
知らないならいい、とばかりにお茶を飲んでいるウイントフーク。
気にはなるが、私は人を待たせている。
とりあえず、問題ではない様なので「ごちそうさま!」と席を立った。
お客さんは応接室で待たせていると聞いている。
ウイントフークに構っている場合では、無いのだ。
そうして食堂を出た私は、ホールへ向かい応接室への通路へ入る。
応接室は私達の居住空間外にあるのだ。
なんとなく、私の力も薄いこちら側はきっと他の人も過ごしやすいと思う。
千里曰く、「あっちは濃いからな」と言うのだけれど何が濃いのかは訊くのをやめておいた。
なんだか、おかしな言葉で返ってきそうだったからだ。
殆どの通路は修復したが、使っているのは魔女部屋への道と、この応接室の通路、それとスピリット達の空間のみである。
私達の扉の隣にあるその通路を進むと、すぐに扉がある。
そこが応接室だ。
て言うか、ホントにこんな朝っぱらから来る人って?
誰だろうか。
一応、ゆっくりとノックをして扉に手を掛ける。
「失礼します。お待たせしました。」
そう言って、部屋へ入った私が見たものは。
テーブルに積み上がる本、その、膝の上にも一冊。
えっ。なに?
待ってる間に、あんなに読んだってこと??
て言うか、知らない人だけど??
いや、でも?
「どの」、お客様………??
その、人は。
物凄く、綺麗な女の人なのだが髪の色がピンクががった灰色である。
この世界では、初めて見た。
私の世界では、カラーリングならばあり得る色だけれどこれは地毛なのだろうか。
なにしろ色々な部分が不思議なその人は、私を見るなり立ち上がりこう言った。
「ヨルですね!会いたかったです!」
えっ。
て言うか、ホントに誰~?
本を置き、私に駆け寄ったその人にギュッとハグされる。
この距離感で接される事のないこの世界では、些か驚いたがある意味私もいつもレナにしている様な行動だ。
そう、思い至ってとりあえずその腕を外し始めた。
メディナに言われた事を覚えていない訳ではなかったが、その人からは警戒する様な匂いが全くしなかったからだ。
「あ、の………?」
腕の中から逃れ、質問した私をニコニコしながら見ているその人は多分二十代半ばか、そんなところだろう。
「何しに来たんですか」とも、訊けない私は向こうから用件を言ってくる事を期待しつつ、そのキラキラした瞳を見つめていた。
「いや、師匠が言ってた通りですね!」
「へっ?師匠?」
予想外の言葉に、間抜けな返事をしてしまった。
「そうです。確かに素晴らしく歌い出しそうな色ですね…これならいいものが出来るでしょうね?」
「?」
全く、意味が分からない。
しかし、私のそのハテナ顔を見てやっとその人は気が付いた様だった。
「ああ!申し訳ありません。私はフリジアの弟子のメルリナイトです。」
弟子???
私が混乱しているうちに、話しは進んで行く。
「師匠が一度連れて来いと。えー、ヨルは虹なんですよね?乗ってみたかったんですよ………多分「アレなら二人でも大丈夫」って師匠が言ってましたけどどうですかね?えっと、まずこれを。」
ペラペラと捲し立てたメルリナイトは私に一枚のカードを差し出した。
反射的に、受け取る。
すると。
あの時の様に、しかし今度はカードからフワフワと虹が湧き出て、きて。
足元を覆ってゆく多色の光、それはキラキラと揺らめいて私のまじないの色に近く、なってきた。
「わぁ。素晴らしいですね!これに乗っていけるのか…あ、ヨル掴まって下さい、私一人で飛ばされるのは嫌ですよ………」
何が何やら分からないうちに、私達は靄の様な光に包まれお互いが見えなくなってきた。
確かにこれは危険だ。
パッとメルリナイトの手を掴み、反射的に目を、瞑った。
あ。
そうしてグラリと揺れた様な気がした、次の瞬間には。
グッと身体に入っていた力が抜けて、ヘタリとその場に座り込んでいた。
「思ったより、大丈夫そうだね?」
あれ?
「師匠!やっぱり、凄いですよ!!私の力なんで微々たるもの。しかしヒョイ、と飛んで来ました!」
私が口を開く前に、元気に跳ね回っている人がいる。
いや、跳ね回るとは語弊があるか。
しかしメルリナイトはその美しい外見に似合わず、小さな子供の様に嬉々としてフリジアの周りを回っている。
ここにも、こんな人っているんだ………。
なんだか可笑しくなってきた私は、クスクスと笑いながら挨拶をした。
「お久しぶり?です。お邪魔します、フリジアさん。」
「ああ、よく来たね。しかしこれが、五月蠅かったろう。」
「いえ、楽しかったです………?」
いや、面白かった、だろうか。
応接室での出来事を思い出しながら、しかし私は本題を訊く事を忘れていなかった。
「あの、今日って?」
私の質問を勿論、分かっているフリジアは何かを用意しながらこう言った。
「お前さん、カードでも、何でもいいんだが。何か、作る気はないかい?」
「えっ。作る?」
「そうさね。私らが作っている「もの」は。ちょっと特殊な、意味もあるんだ。」
そう言ったフリジアは私に椅子を指し示すと。
その、不思議な話は始まったのだ。
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