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しおりを挟むなんの歌だ……?
「セノ! 気がついたのですね」
異国の歌が止み、金髪の少女が上から覗き込んでくる。ゆっくりと数回瞬きして、ようやく頭が回りだした。
「ルタ……」
彼女は、ルタだ。安堵の色が濃い顔を見上げ、緩やかに周囲を確認する。ペットルームに備え付けられている、でかい浴場の手前ーー脱衣所だった。ルタは瀬野の肩から上を自身の膝の上に乗せるように抱き、座り込んでいた。瀬野に残った凌辱の跡を拭ってくれたのだろう、様々な液体で汚れたバスタオルが丸めて隅に寄せられている。
「身体、洗いましょう。立てますか?」
「……ああ」
清らかな少女の手に手を引かれ、洗い場のバスチェアに腰を下ろす。
ひどく、疲れていた。
身体を洗うために腕をあげるのすら億劫で、背中を丸めて座り込んだまま、ぼんやりする。
「お湯、かけますね」
シャワーの温度を確かめたルタが、そうするのが当然といったように、瀬野を洗い始めた。
「知ってますか、セノ」
頭を濡らし、髪をシャンプーでわしわし泡立てながら、ルタは明るい声音で喋りだす。
「この世界には、警察という組織があるそうです。正義のヒーローだそうです。悪い奴らを、捕まえてくれるそうです」
されるがまま、項垂れて頭を差し出す瀬野を洗う手つきは、優しいが遠慮がなく、心地よかった。
「私の世界にも私が知らないだけで、警察という組織があったのかもしれません。警察という名称ではなくても、似たような組織があったのかもしれません。私の村はとても田舎で、私達少数民族のみ暮らしていました。だから、私達の村に、そのような組織はありませんでした。私達の中で悪いことをすれば、私達の長が、罰を与える。これが、私達の決まりでした」
シャンプーを洗い流され、ハンドタオルで濡れた顔を拭われる。ルタが、両手で瀬野のほおを挟んで、まっすぐ見つめてきた。真剣で真摯な眼差しに、射抜かれる。
「セノ、助けはきます」
凛とした声だった。
信じて、疑わない強さ。
「助けがくるのは、」
重い口を開く。
「助けが必要だと気づいてもらえた奴の所にだけだ」
身内も友人も同僚もいない、頼れる相手のいない異界の地で、一体誰が気づいてくれる?
「セノ」
少女は、殊更優しく微笑んだ。
「私、セノのことを知りたいです。もっと、もっと、個人的なことです。セノは家族はいますか? 恋人は? どんな仕事をしていましたか? 故郷に、帰りたいと思いますか?」
濁った目に、純真な心は眩しかった。
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