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しおりを挟む「反対です!」
ルタは食卓に手のひらごとスプーンを叩きつけた。衝撃でテーブルが揺れ、夕食の野菜たっぷりスープが皿から溢れ散る。
「この世界で人間が働くということは、つまり身体を売るということです! 私達は生活に困っていますか!?」
「いや」
「セノは性的に触られること、嫌がってたはずです。違いますか!?」
「違わない」
「なら、なぜ……!」
淡々と答える瀬野に、ルタは悲壮な顔をした。
「嫌なことを、自らすすんでやる必要がありますか……!?」
「だがもう、俺の身体は定期的に抱かれねえと不調をきたす。今だって、本当は……座っているのも、つらいんだ」
そう言えば、ルタは何も言い返せないとわかっていた。わかっていて、口にした。案の定、彼女は泣きそうな顔で唇を噛む。
「私がだく、たりない?」
ルタから縋るように目を向けられたユルシィが、静かに、問うてくる。
瀬野は、「苦しい」と返した。
喉奥から、無理矢理絞り出したような声だった。
「……苦しい」
抱かれ足りないから苦しいのか、そもそも抱かれるから苦しいのか、瀬野にだってわからなかった。
3人で暮らす家でぽつんと独り、詮無いことを悶々と考える極寒の時間を、少しでも削りたかった。
そのために働きに出て、ついでに身体の調子も整うのなら。
すでに、さんざん手垢のついた身体だ。
精液に塗れた、使い込まれている穴だ。
今更、これ以上犯されたとして、何か変わるわけもなし。
「やくそく、する、して」
ユルシィは指を1本1本立ててみせて、ひとつずつ約束事を並べた。
ひとつ、酷いことをされたり、怪我をしたら、必ずユルシィとルタ2人に言うこと。
ひとつ、職場への行き帰りは、必ずユルシィに送り迎えさせること。
ひとつ、客から与えられたものは飲み物でも食べ物でも一切口にしないこと。
ひとつ、やっぱりもう嫌ってなったら、絶対に我慢せずすぐに辞めること。
ひとつ、自分を粗末にしないこと。
「まもる、できる?」
うなずいた瀬野に、ユルシィは会員制の風俗店の名刺を差し出した。
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