誰よりも美しい花を捧ぐ。

三川

文字の大きさ
7 / 21

07.願い【護衛騎士アングリフ】


アングリフの主シドイェスカは、銀髪銀目の目も当てられない醜男である。
神はそんなにもシドイェスカが憎いのか。絶望的なまでに醜い彼に、神は神人として誰よりも強力な祈りの力を与えた。
神人として優れているということは、それだけ精力絶倫であるということで、彼は王命により1日置きに花を抱かねばならない。
しかし、この世は醜い者に厳しい。
世界一の醜男と言っても過言ではないシドイェスカに抱かれることは、気を違えるほどの苦痛と嫌悪をもたらすものであるらしい。シドイェスカに捧げられた花達は、ことごとく嫌がり抵抗し暴れ抱かれるくらいならばと舌を噛む者もいた。シドイェスカだってそこまで嫌がる相手を抱きたくなんてないだろう。だが彼は世界を存続させるために嫌でもやらねばならないのである。
徹底的に顔を見せないようにして事務的に事を済ませ、さっさと立ち去る。
そうやってなんとかおつとめをこなしても、好奇心に負けるのか最中に振り向いて絶望した花が発狂するのを、無理やり押さえつけて犯すことも日常茶飯事だった。






アングリフは自分がシドイェスカの護衛騎士に選ばれた理由が、アングリフもまた醜男であるからだとわかっている。
シドイェスカの護衛騎士も側仕えも、皆そろって醜男ばかり集められているのだ。察するに決まっている。
似た者同士、安心するのだろう。仲間意識だ。
だが昨日、そこに亀裂を入れるような衝撃の事態が降って湧いた。シドイェスカに捧げられた花ーーテオエルが、アングリフのことをイケメンだと言ったのである!
テオエルの美醜感覚は全くもって理解できないが、それでも、それでも!
容姿を褒められるなんて、生まれて初めてのことだった。
謀っているのではないかと疑ったが、そこそこな醜男のナーサラーを美少女と形容するし、なかなかの醜男であるマックナルを平凡とする。何をもってしてそう判断しているのかは謎だ。だが、テオエルは彼の中で明確に線引きされた美醜の基準によって、アングリフのことを美しいと判断したのである。

「随分機嫌がいいな」

シドイェスカの護衛騎士仲間であるヒストーナーが、訝しげな顔でこそこそ話しかけてきた。
薄茶色の髪と目でちょっぴり醜男な彼の容姿は、テオエルの目にはどう映るのだろう。

「何にやにやしてんだよ」
「実は昨日、容姿を褒められまして」
「はあ!?」

ヒストーナーは絶対に騙されていると騒いだ。

「絵画とか買わされてないか!?」
「やかましい」

テオエルを抱いている真っ最中のシドイェスカから咎められ、揃って口をつぐむ。
ここはテオエルの寝室で、護衛騎士二人が室内でひっそり待機しているのはいつものことだった。発狂した花がシドイェスカを害する素振りを見せたら、いつでもその命を摘めるようにだ。
今まで、何人斬り捨てたかわからない。
できれば、テオエルは殺したくない。だから、どうか、どうか、おとなしく、従順に、振り向くことなく抱かれていてほしい。でも同時に、振り向くことを期待してもいる。アングリフをイケメンと言い切ったテオエルなら、シドイェスカのことも、受け入れてくれるのではないか。美しいとまではいかずとも、マックナルのように平凡な容姿だと判断し、嫌悪なく抱かれてくれないだろうか。
振り向いて、シドイェスカの容姿を視界に入れたテオエルを想像する。
その美しい黒の瞳に、絶望を浮かべるだろうか。
なんの感情の揺れもなく、しずしずと受け入れるだろうか。
受け入れてほしい。アングリフは自分が容姿によって選ばれた護衛騎士だとわかっているが、それでも主としてシドイェスカのことを慕い忠誠を誓っていた。
度し難い醜男に抱かれる絶望に泣きながら発狂する花を、無理やり押さえつけて犯さねばならないシドイェスカこそ、酷く辛く泣きそうな顔をしていたことを、アングリフは知っている。

振り向くな。
振り向いてほしい。
振り向いてはならない。
振り向いてくれ。

揺れる。揺れる。
行ったり来たりする感情に振り回されながら、アングリフが願ったのは、ただただテオエルにシドイェスカを受け入れてほしいということだった。
感想 1

あなたにおすすめの小説

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

【完結。一気読みできます!】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する

スノウマン(ユッキー)
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。 そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

王子様の愛が重たくて頭が痛い。

しろみ
BL
「家族が穏やかに暮らせて、平穏な日常が送れるのなら何でもいい」 前世の記憶が断片的に残ってる遼には“王子様”のような幼馴染がいる。花のような美少年である幼馴染は遼にとって悩みの種だった。幼馴染にべったりされ過ぎて恋人ができても長続きしないのだ。次こそは!と意気込んだ日のことだったーー 距離感がバグってる男の子たちのお話。