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16.世界から色が消える【神人シドイェスカ】
「初恋おめでとう、シドイェスカ」
ミシュナンドールは鷹揚に微笑んだ。
「急に呼び出したと思ったら……余計な口は挟まぬのではなかったのですか」
「余計な手足は出るかもしれんと言ったであろう」
「出ているのは口ではありませんか」
「まあそう邪険にするな。座れ」
執務室のソファをさされ、シドイェスカは嫌嫌腰かける。
背後に護衛騎士のオットリアとアングリフが並んで立った。
向かいに座ったミシュナンドールの後ろにも、同じように彼の護衛騎士が立つ。
「食事の約束があるので手短にお願いしたい」
「テオエルか?」
この男はわかっていて聞いているのだ。
「んんん……そうか、だがなあ……」
「なんですか、用件ははっきりおっしゃってください」
「今日は無理かもしれぬなあ」
「……何かあったのですか」
「あるかもしれぬし、ないかもしれぬ……ーー入れ」
はっきりしないことを言っていたミシュナンドールが、ノックの音に入室を許可する。
「お呼びでしょうか」
騎士の礼をして入ってきたのは、シドイェスカのもう一人の護衛騎士であるヒストーナーだった。今日はテオエルについていたはずだ。
「ヒストーナーまで呼ばなければならない案件なのですか」
「そうさな……ヒストーナーは重要人物かもしれぬな」
「えっ」
ヒストーナーは心当たりがないか必死に視線を泳がせている。
「オットリアも深刻な顔をしておる。心当たりがあるのではないか?」
「オットリアのこれは腹が減っている顔です」
「昼食前だものな」
ミシュナンドールの視線は、次いでアングリフをとらえた。柔和な微笑みに緊張が走る。
「ミシュナンドール様!」
いつまで経っても用件を話さない相手に痺れを切らし、強く名前を呼んだ。
「よせ、よせ。そなたの強い言葉は、そなたの意思に関係なく強制力を持たせることがある」
「…………申し訳ありません」
「よい」
それからも、ミシュナンドールはのらりくらりと本題を躱し、どうでもいいことを喋り続けた。
シドイェスカはイライラしていた。食事の約束をしているテオエルが待ちくたびれているかもしれない。さっさと切り上げて席を立ちたいが、相手はこんなんでもシュルテルマイヤーの若き君主。見目の良さに妬ましい思いをすることはあれど、シドイェスカを容姿に関係なく気にかけてくれる気の良い男でもある。誰かに告げたことはないが、慕っているし、信頼もしている。しかし時々、余計な口も手も足も出る悪いところがあるのも事実だ。今回は一体何をやらかしたのか。
「入れ」
ノックの音に、ミシュナンドールが入室を許可する。騎士の礼をして入ってきた男は、時折顔を見かける、アングリフの同期だったはずだ。醜男のアングリフを蔑むことなく付き合ってくれる、数少ない友人の一人だったと記憶している。
「報告を」
「はっ!」
君主より報告を求められたアングリフの同期は、信じられないことを口にした。
「神人シドイェスカ様の花テオエルが、神人ブデリナ様によって手折られたとのことです」
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